初心者コースが始まるんですが?
気持ち短め
31
異世界生活も5日目になった。
冒険者ギルドに登録すること自体は昨日の時点で完了したが、初心者コースが始まるのは今日からということで昨日は結局ギルドのシステムなどの話を教わるだけで終わった。
どうせならすぐにでもと思ったが、初心者コースは週初め――地球で言うところの月曜日から開始されるそうで、運良いのか悪いのかそれが今日である。
あぁ、ちなみにギルドのシステムはありきたりだ。
10級から1級まであり、数が小さいほどランクが高い。
ランクによって受けられる依頼に制限があり、高ランクの依頼ほど報酬もいいが危険も増える。
ランクを上げるためには依頼を規定数成功させる必要があり、7級から上は試験に合格する必要もある。
そんな感じだ。
そんなことよりも驚きなのは、嘔吐で……ではなく、王都で冒険者になる人間が俺以外にもいることだろう。
なんか、王都っていうと冒険者でも高ランクばかりで初心者お断りなイメージがあるのは俺だけじゃないだろう。
だが、話を聞いたら納得した。
そもそも、王都は人口が多い。
人口が多いと言うことは生活する人間が多いと言うことであり、人の営みがあれば子どもも生まれる。
親の仕事を継ぐ者もいるが、そう何人も人を雇えない小さな店の子どもは他の仕事に就くしかないのだ。
職業選択の自由はあるが、冒険者はけっこうな人気職らしい。
新規登録者が増えるのは農繁期が終わる月――地球で言うところの10月くらいがシーズンらしいが、それ以外の月にもそれなりの人間が登録するんだそうだ。
そんなわけで、昨日聞いた話では今回の初心者コースも俺以外に3人の人間が登録しているらしいんだが……来ないな。
時計を見るとあと5分ほどで開始時刻なんだが、俺以外の登録者が一向に現れない。
学校の教室みたいな部屋に1人でいるのはかなり寂しい……
気合い入れて30分も前に来たのにずっと時計の針を眺めているのは悲しい……
せっかくだから同期になる人間と授業が始まる前にコミュニケーションを取ろうと思ってたのに、俺は唯一人ぼんやりと時計を眺めている。
あと1分だ。
ここまで来ると俺の入った部屋が間違っているんじゃないかと不安に襲われるが、部屋の名前は3回確認したし間違いって事はないだろう。
「来ない……」
残り時間は0になった。
それでも誰も扉を開けない。
そのまま1分が過ぎ、2分が過ぎ、そろそろ10分になる。
と言うか、同期どころか教官さえ来ないってどういうことだ?
そんな疑問が新たに浮かんだところで、ようやく扉が開かれた。
時間は10分過ぎているので、まぁ教官だろうと思ったら女の子が2人。
「こんな日に寝坊するなんてほんと勘弁してよ。アタシまで遅刻しちゃったじゃない!」
「ごめぇんリンちゃん」
そんな姦しいやり取りをしながら入ってきたのは、中学生ぐらいの女の子達だ。
ショートカットでつり目の女の子がお下げ髪で垂れ目の女の子にプリプリと怒っている。
まだ2回しか冒険者ギルドには来たことがないけど、受付さん以外で女性の冒険者を見たことがなかったので正直けっこう驚いた。
「あ。あなたも初心者コースですかぁ?」
「あ、はい」
「今日から1週間よろしくお願いしますねぇ」
「うん。よ、よろしく」
お下げ髪の子は何というかおっとりした子である。
微妙に語尾が伸びてる気がするのは俺の勘違いだろうか?
お下げの子が差し出した手を握りながらそんなことを考えているとショートの子が睨むような目つきで顔を寄せてきた。
って、近い。近いよ。
「あんたいくつ?」
「え? じゅ、16」
「へ~」
俺が答えると品定めするように俺の顔を凝視していたショートの子の顔が離れていく。
それだけ?
え? なんで俺は歳聞かれたの?
「教官まだ来てないの? 遅くない? ほんと男って時間にルーズよねぇ」
「あ、あぁ……そうだね」
お前が言うなという言葉が喉まで出かかったが、部屋に入ってくる時のやり取りを聞いた限りでは、この子はお下げの子の巻き添えで遅刻してしまったようなので、まぁ資格がないとは言い切れない。
だが、男だから時間にルーズだという固定観念はいかがなものだろうか?
少なくとも俺は、30分も前に来ていた。
そもそも教官が男だとも限らないな。
まぁ、十中八九男だろうけど。
ショートの子が不満たらたらで呟いてすぐに再び扉が開かれた。
皮鎧をつけ、厳い体つきをしたカストロ髭の男だ。
おぉ、さすがは教官だな。
威厳あるというか、歴戦の戦士感が半端ない。
「教官、今日からよろしくお願いします!」
先ほどの不満はどこへやら。
ショートの子は席から立つと一目散に教官の前に駆けていき、元気よく頭を下げた。
うわぁ……これが女の子の演技ってやつなのか?
フィクションでは裏表のある女の子も見たことあるけど、実物を見たのは初めてだ。
正直、引くけど、それと同時にすごいとも思う。
俺が教官の立場なら、この子はすごいやる気があるんだなって騙されるに違いない。
「…………俺も新規の登録者だ」
カストロ髭の男――同期というにはいささか年の離れた彼は困ったようにそう言った。
初心者コースが始まっていない件。




