冒険者になるんですが?
30
異世界生活も4日目になった。
今日はお城ではなくて、魔石を売ったギルドを訪れている。
武蔵はおらず、護衛として昨日武蔵と試合をしたスティングさんが同行してくれている。
武蔵がクロノスナイツと呼ばれるこの国でも有数の使い手の1人であるスティングさんと試合ってから大変だったので、昨日のことはあまり思い出したくない。
武蔵の力を見せるだけで良かったのだ。
彼女の力ならば、ほんの一端を見せるだけでその異常な強さがわかるだろうから、その点はあまり心配していなかった。
武蔵が「なかなかやる」という評価を下す人間がこの国に来てすぐに2人も現れたが、武蔵が最強だと言うことを俺は疑っていないからだ。
まぁ、試合のことはいい。
問題はその後である。
王様達も反武蔵派の人間も武蔵の実力に疑問を挟む余地はないと理解したので、協力関係を築くことについては特に問題は起きなかった。
有事の際には武蔵が戦力としてこの国に力を貸し、この国は俺がクラスメイトを救出し、元の世界に戻ることに手を貸す。
基本方針はそのような形でまとめられ、細かい条件などはこれからゆっくりと詰めていくことになる。
いくら召喚された勇者であろうともすぐにその力を十全に扱えるわけではない。
クラスメイト達がカクトー王国の戦力となるまでにはまだ猶予があるため、事を急ぐことはないという王様達の判断だ。
出来ることなら速く行動に移したいところだけども、俺はこの世界のこともわからないし、クラスメイトを救うために必要なことも分からない。
どうにももどかしい思いはあったが、そこはあくまでも俺が焦っているだけだから問題とも言えない。
では何が問題だったのか、だ。
武蔵は、試合をするためにたくさんの兵士達が訓練する練兵場にいたのだ。
試合をするからと言って練兵場の人払いをすることはなく、むしろ訓練中だった兵士の多くが2人の試合を観戦していた。
試合が終わってからは、兵士達も自分の訓練に戻っていったわけだが、そこで武蔵の心に火がついてしまったらしいのだ。
武蔵は強くなることについて貪欲だ。
侍学園という作品で最強のキャラクターでありながら、さらなる強さを求めて様々な手法を用いている。
その中の一つが、自ら好敵手を育成することであり、武蔵は自分だけでなく他人を強くすることにも貪欲だった。
つまりどういうことかと言えば、兵士達の訓練に口と手を出し始めてしまったのだ。
王様達も武蔵ほどの強さに少しでも近づく一助となればとそれを認めてしまい、兵士達の地獄が始まってしまった。
武蔵ズブートキャンプの開幕である。
それだけならまだよかった。
俺には何の被害もないし、苦労するのは兵士達だけだ。
そう思っていた。
なんで俺も参加させられたんでしょうか?
常日頃から訓練している兵士の皆さんですら、訓練の途中でバッタバッタと倒れていくような地獄の訓練である。
最終的には参加者524人で、昼が過ぎた時点で残りが16人となり、それから1時間後に立っていたものは0だ。
俺? 俺は開始30分で倒れたはずなのに何故か気づいたら立ち上がって訓練を続けてたよ?
それからマタ30分後に倒れたかけたハズなのにどういうワケか倒れることすら出来ナクテ訓練を続けてタヨ?
ソレカラサラニ30分ガ過ギテ意識ヲ失ッタハズナノニドンナ魔法ナノカ剣ヲ振リ続ケテタヨ?
ソレカラ サンジュップンノ ジカンガ タッタハズ ダケド ・・・
「っは!? 俺はいったい!?」
何か恐ろしい思いをした気がする。
思い出したくないなにかを……
思わず自分を抱きしめるように身を縮こまらせて周囲を警戒するように見る。
なぜか武蔵に会いたくない。
「おう坊主、どうかしたのか?」
突然俺が怯えたように周囲を見回し始めたことで、スティングさんは腰に佩いた剣の柄に手をかける。
さすがに昨日の試合で使ったような大斧を街中で持ち歩くわけにはいかないらしい。
「あ、いえ……なんでもないです。なんだか急に寒気がした気がして……」
「そうか、なにか気づいたら遠慮なく言えよ」
「ありがとうございます」
このスティングさんは、スキンヘッドに厳い顔つきと熊のような巨漢というどちらかと言えば悪役よりな見た目に反して、話してみると気さくないい人だ。
本人は、昨日武蔵に負けたばかりで訓練をしたいと言っていたが、ダメージらしいダメージを受けていなくても念のために今日は訓練を禁止され、気分転換でもするようにと言うオランさんの配慮で俺の護衛につくことになった。
俺なんかの護衛につくことは本意ではないだろうと言うのに、俺には嫌な顔1つ見せない。
それどころか、途中で串焼きを奢ってくれたり、俺が気になったものを懇切丁寧に説明してくれるほどのジェントルメンである。
彼が護衛につくと言われた時、内心で「どうせ護衛がつくなら美人さんとかの方がいいです」とか思ってごめんなさい。
「お待たせしたね」
応接室の扉を開けて入ってきたのは、一昨日ギルドでトラブった時にもいた責任者さんだ。
彼は、ギルドの買い取り担当の責任者などではなく、このギルドのマスターらしい。
「それで、ギルドに登録したいということでいいんだね?」
「はい」
そう、今日ギルドを訪れたのは、先日のトラブルや魔石の話などではなくギルドに登録するためなのである。
そもそも、トラブルは被害届が出されておらず、訴える人間がいない。
魔石の話もお城から話が通されているので、もう済んでいる。
それなのにギルドに来たのは、ギルドに登録して自分を鍛えるためである。
いくら武蔵がいるとは言え、彼女はいつかいなくなってしまう可能性もあるし、俺自身ある程度は1人でもこの世界で生き残れる手段が必要だ。
どうせなら武蔵が鍛えてくれればいいとも思ったが――アレ? アタマガ イタイ……
と、とにかく、武蔵は兵士の訓練で忙しい。
俺では兵士の訓練に着いていくのは難しいだろうから、どうせならギルドで訓練をさせるのはどうかと青い顔をした王様達が提案したので、俺はギルドに来たのだ。
「初等科で問題ないかな?」
「はい、それでお願いします」
ギルドでは冒険者を育成する様々な制度があり、初等科というのもその1つだ。
別名は、初心者コースとも呼ばれ、体力作りとそのやり方、冒険者として必要になる知識の座学、基本的な武器の扱い方と手入れの仕方など様々なことを教わる。
それだけではなく中堅冒険者同行の下、実際に魔物と戦う実技訓練なども行われるんだそうだ。
冒険者育成では基礎中の基礎コースである。
俺はこの世界に来てまだ4日目の初心者なので、そのことに異議はないし、教わるなら基礎から教わるべきだ。
そして、初心者コース卒業の暁には、俺も数多の物語に登場する冒険者の仲間入りだ。
ちょっとワクワクしてしまうのは、仕方ないと思っておこう。
正確にはまだ冒険者になっていない件。
ちなみに、わかるとは思いますが、主人公が倒れても訓練を続けたのは武蔵が無理矢理立ち上がらせて、意識を覚醒させ続けたからです。
そのため、鍛えられた兵士が全滅しても主人公だけが延々と訓練を続けさせられてました。
超人武蔵は完全に意識を失った主人公に武蔵式の針治療を施したため、朝になって目覚めた主人公の体力は全回復して筋肉痛も残っていないというマジック。
そう言えば、さりげなく昨日で連続投稿が2週間に達しました。
記念に評価やブクマしてもいいんですよ |ω・`)ちら




