トラブルに次ぐトラブルなんですが?
滑り込みセーフ。
ところで、読者の皆様は三日坊主って言葉をご存知ですか?
17
俺がなんとか誤魔化そうと頭をひねらせて必死にどう言うべきか考えて言葉を濁していると、周りにいる誰もが声を上げて笑い出した。
何で周りが突然笑い出したのか理解できずに俺が目を丸くしていると、先ほど大声でオーガの大きさを周りに広めたスキンヘッドの男が目尻にためた涙をぬぐいながら語りかけてきた。
「お、お前らが15メートルのオーガを倒したのか? その細い腕でどうやったんだよ」
どうやら、彼らが笑い出したのはどう見ても責任者みたいな人が来たのに俺たちが大物を倒したという作り話を続けようとしていることに耐えられなくなったようだ。
こっちは本当の話――とも言えないけど少なくともオーガを倒した事実を話しているだけなんだけど、周りの人たちは信じられないんだろう。
「なぁ姉ちゃん、ギルドに虚偽の報告をするのは重罪だぜ?」
「そこの馬鹿の巻き添え食らうことねえよ。あっちに行って俺たちと一緒に飲もうぜ?」
「そうそう、夜も楽しませてやるからさ」
そんなことを宣いながら酔っ払いたちが武蔵に近づいてくる。
「あ……馬鹿っ! 辞めろ! 武蔵の肩に手を回すな!」
思わずそう叫んだ俺を周りは、愛しの彼女を奪われまいと虚勢を張っていると思っているのだろう。
俺を嘲るような視線を向ける者もいるし、武蔵に絡んでいる酔っぱらい達は優越感に浸るような表情を浮かべている。
だが違う。
俺が心配しているのは武蔵を奪われるとかそんなことではなく、お前達の方だ。
ボトリとそれなりに大きな物が床に落ちたような音がした。
「は?」
酔っ払いの間抜けな声が嫌に大きく聞こえた。
「ぎ、ぎゃぁぁぁっ!!! 腕、俺の腕がぁぁっ!!!」
武蔵の肩に回していた腕が丸ごと消失した男が絶叫しながら倒れ込む。
「不快だわ。汚い手で触らないでくれる?」
「武蔵さん、言う前に行動に移すのはどうかと思います……」
血をまき散らしながら床を転げ回る男を心底冷めた目で見ながら吐き捨てた武蔵に思わず突っ込んでしまったが、俺は悪くないだろう。
けんもほろろに袖にするとかそんな次元ではなく、二重の意味で文字通りバッサりいったわけだ。
いくら見るからに酔っ払いだった彼らが相手でも、警告もなしにいきなり腕を切り落とすのはちょっとばかりやり過ぎだろう。
それにしてもいきなり刃傷沙汰を起こすなんて……
チラリと周りに目を向けるとあまりにも突然のことに状況が飲み込めていない者もいれば、状況は理解できているが、どうしてそうなったのか理解できずに混乱している者もいる。
これってどう考えてもヤバいよな?
いきなり捕まるようなことは勘弁して欲しい。
「武蔵……あの、大丈夫なんだよな?」
「何がかしら?」
俺が何を心配しているのか理解しているだろうと言うのに武蔵はクスクスと笑みを浮かべた。
「捕まるのは拙いって。情報だってまだ集めてないのに」
「仕方がないわね」
武蔵はため息をこぼすと腕、腕と叫びながら床を転げ回っていた男の頭を蹴り上げた。
「腕がどうかしたのかしら?」
「へ? あ、ある! 俺の腕がある!」
「腕をなくした幻でも見たの? お酒の飲み過ぎじゃないかしら?」
「ひっ」
ニッコリと微笑みを浮かべる武蔵を見て男は短く悲鳴を上げるとそそくさと逃げ出した。
目の奥が笑ってないから凄味があるあの微笑みを見てしまっては、逃げ出すのも致し方ないだろう。
そもそも手品のように見事な手並みだったけど、男が転げ回っていた床には血溜りがはっきりと残っているのだから幻扱いするのは無理がある。
「おい、どうなってるんだ?」
「回復魔法か?」
「いや、魔法だってあんな一瞬で治せるわけがないだろ」
周りの人間は何がどうして男の腕が元に戻ったのか不思議がっているが、俺も武蔵の実力を知らなければ同じような反応をしただろう。
武蔵がやったことを簡単に言えば、戻し斬りというやつを行ったのだ。
野菜などを繊維などは一切傷つけずにすっぱりと切断して元の位置に戻すとくっつくという超人的な技である。
達人が名刀を用いることで理論上は可能だと言われているが、実質的には不可能と言える技術だが、そこは超人の武蔵である。
さすがは物語のキャラクターと言うべきか、野菜をすぐにくっつけるどころか、人体ですらそれを可能とするのだからやっぱり超人だ。
「………………」
「あ……」
すっかり忘れていたが、話の途中だったな。
しかし、責任者さん(仮)もあまりにも常識外れな事態に呆然としているようだ。
「あの……」
「っは……悪いね。少し取り乱していたようだ」
「い、いえ……」
「…………君らの実力と魔石の実物を見れば、違法な方法でこれを入手したわけではないことはわかったよ。だが、問題はそこではないとわかっているかな?」
「あ、はい……いや、そうじゃなくて……」
「悪いが、少し気分が悪い。今日はとりあえず代金だけ受け取って、話は後日でも構わないかね?」
「あ、はい」
早口で捲し立てられて、頷くことしか出来ない。
いや、こっちは武蔵がやらかしたことが問題にならないのか確認したいんですけど……まぁ、指摘されてないし、傷は治っている。
証拠は床の血溜りぐらいだし大丈夫だろう……いや、大丈夫か?
指摘されたらその時に考えよう。
とりあえず情報さえ集められれば、この街から逃げてもいいんだ。
お姉さんからお金の入った袋を受け取り、ギルドを後にする。
出来ることならギルドでも情報を集めたかったところだけど、どんな顔をしてギルドに残ればいいのか分からなかったのだ。
武蔵も何も言わずについてきたし、異論はないのだろう。
「彼……」
「彼?」
「さっきの眼鏡の彼よ」
「あぁ……あの責任者さん?」
「彼もなかなかやるわね」
「………………」
マジかよ……
早速2人目の実力者の登場ですか……
武蔵1人で大丈夫か?
武蔵ほど詳しくはないけど、他にも漫画やアニメのキャラクターなら強い人物に当てがある。
できるだけ早急に3人目が召喚できるように訓練する必要があるかも知れないな……
そんなことを考えながら歩いていたから、路地から突然飛び出してきた影に反応できなかった。
「うわっと」
「きゃっ」
なんとか尻餅をつくのは回避したが、飛び出してきた方はそうではなかったらしい。
「大丈夫ですか?」
そう言いながら手を差し出すと、尻餅をついていた彼女と目が合う。
彼女、そう女の子だ。
歳は俺と同じ高校生くらいだろうか?
少しウェーブがかった金色の髪は地面につくほど長い。
くりっとした瞳は深い海のような青で、透き通るように白い肌をした美少女である。
「だ、大丈夫ですか?」
美少女の美少女具合に驚き、思わず問い直してしまった。
美少女の方は事態が飲み込めていないのか、ぼんやりと俺の手を眺めている。
「あっ……た、助けてください」
「へ?」
美少女は俺の手を掴んだかと思えば、すがるように身を寄せてきた。
今度は俺の方が状況が飲み込めなくなってしまう。
なにがどうなっているのか。
彼女は慌てて飛び出してきたようだし、誰かから逃げていたのか?
「居たぞ!」
「こっちだ!」
俺の予想は当たっていたようで、いかにもな台詞が聞こえてきた。
声のした方に視線を向けると…………
あれ?
あの……
あの人達って騎士さんじゃないですか?
岸さんじゃなくて、騎士だ。
兜こそかぶっていないものの白銀のフルプレートの鎧に身を包んでいる。
もしかしてこの美少女は、悪党から追われている美少女なんじゃなくて、警察みたいなものに追われている悪党な美少女なんじゃないだろうか?
俺がその考えに至ったところでヒンヤリとした感触が首に触れる。
「来ないで! 来たらこの人の首をかっ切るわよ!」
どうやらこの予想も正解だったらしい。
推挙不足により後ほど修正が入る可能性が高いです。
内容に変更はありません。