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何かトラブルになりそうなんですが?

まさか2日連続投稿するとは思わなかっただろう。

俺もだ。

16

 一先ずは心配も不安も置いておこう。

 クラスメイトの救出も魔石の値段も実際に情報を集めて、やってみないことにはどうなるかなんて分からない。

 少なくとも、魔石の方はすぐに結果が出る。


「そう言えば……」

「どうかしたの?」

「いや、どこで魔石を売れるのか知らないんだけど……」


 俺の言葉に武蔵は心底呆れたような表情を浮かべた。

 そんな馬鹿を見るような目で見ないで欲しい。

 俺が馬鹿なことは否定できないけど、そんな視線を向けられて喜ぶような特殊な趣味は持ち合わせていないんだ。


「あなたは馬鹿なの? いえ、馬鹿なのね」


 面と向かって言うのはもっと勘弁して欲しい。

 武蔵はそんな俺の内心を知ってか知らずか、ため息を1つ吐くと近くにあった海外の商店街――バザールって言えばいいのか?

 まぁ、屋根だけのテントの下で箱に入れた野菜や果物を並べた屋台のような店の主人に声をかける。


「ちょっといいかしら? その美味しそうな果物を買いたいのだけれど、生憎私たちお金がないの。魔石を売るには、どこに行けばいいのか教えてもらえる?」

「なんだい姉ちゃん、魔石なんてギルドに行けばいいだろ? ああ、見ない顔だし王都に来たのは初めてなのか? ギルドは2つ向こうの通りだ。裏道は危ないから、遠回りになるけど城まで行って道を変えた方が安全だぜ」

「そう。ありがとう」


 短く店主に礼を言った武蔵は言われた通り、来た道から見て正面に見える城へ向かって歩き出した。


「あ、と!?」


 武蔵はこちらに何一つ言わずに歩き出してしまったので、大慌てで置いてかないでと口に出すより先に追いかける。

 都心のラッシュとは比べるべくもない程度ではあるが、それでもそれなりの人通りがある道を武蔵はすいすいと歩いて行くが、慌てているのもあって俺はなかなか武蔵に追いつけない。


「ねぇ」

「ん?」


 俺がなんとか追いつくと気配だけでそれを察したのか、武蔵は足を止めることも振り返ることもなく問いかけてきた。


「私はこの世界の文字が読めないのだけれど、あなたは読めるの?」

「あぁ、うん。召喚した時になんか細工をしたらしくて、文字は読めるよ」

「そう」


 それだけ言って頷いたけど、急にどうしたんだろう……あぁ、なるほど。

 さっきの店主は2つ向こうの通りとは言ったが、どんな建物なのかとか正確な位置を言ってはいなかった。

 いくら武蔵でも文字も分からなければ正確な場所を知らない場所にはたどり着けないか……

 それから俺たちはしばらく無言のまま歩き続けた。

 城の前にある広場を通って、教えられた2つ先の通りに入る。


「ここね。さ、入りましょ」

「…………は?」


 無言で歩いていた武蔵は、不意に立ち止まったかと思えば、そう言って迷った様子もなく建物の中に入っていった。

 あの……武蔵さん?

 あなた文字分からないんじゃないの?

 武蔵が入った建物の看板には確かにギルドという文字があり、彼女は間違えることなく正解に辿り着いている。

 納得いかない。


「あ、ちょっ!?」


 再び置いて行かれかけ、またも慌てて武蔵の後を追って建物の中へ入る。

 ギルドに入った俺は、目の前に広がる光景に思わず足を止めた。

 漫画やラノベのような物語で描かれるギルドにそっくりだ。

 入ってすぐの左側には、何枚もの紙が貼られた掲示板がある。

 あれが依頼書なんだろう。それぞれに金額や討伐、採取などの文字が並んでいる。

 掲示板とは反対の右側は、酒場スペースとでも呼べばいいのかテーブルと椅子が並び、昼間から飲んだくれている荒くれ者たちの姿があった。

 そして、入り口から真っ直ぐ向かった先には銀行や郵便局のような受付カウンターがある。

 何人かがその前に列を作っているが、荒くれ者に見える彼らも皆が揃って行儀良く並んでいた。


「あら、来たわね。買い取りはあっちだそうよ」


 俺がギルド内の様子を見ていると、すでにテキトーな人間から話を聞いていたらしい武蔵がそう言ってカウンターの一角を指し示した。

 武蔵の行動の速さに舌を巻きつつ、示された列に並ぶ。

 武蔵が美人なせいか、俺の黒髪が珍しいのか――おそらく前者が主な理由だろうけど酒場スペースの方からジロジロと見られている気がする。


「これの買い取りをお願いします」


 順番が来たので、そう言いながら袋から取り出した魔石をカウンターの上に並べる。

 ちなみにこの袋は武蔵のものだ。

 普段から持ち歩いている設定があった袋とは言え、設定だけでほとんど出番のなかった小物まで再現できるとは我ながら驚きである。


「はい、小魔石が……30個ですね。あとは……これはっ!?」


 小魔石――おそらくはゴブリンの魔石のことだろう。

 オーガに比べて非常に小さく、ラムネに入っているビー玉ぐらいの大きさしかない。

 受付のお姉さんは、最後に取り出したオーガの魔石を見て思わずと言った具合に声を上げた。

 オーガは身体が大きかっただけあって、ゴブリンの魔石とは比べものにならないほど大きい。

 具体的に言うと握り拳よりも一回りほど大きい。


「これは、何の魔石ですか?」

「あぁ……と、たぶんオーガですかね? 15メートルくらいあるゴツい角の生えた鬼みたいなやつでした」

「じゅ、じゅうごぉっ!? しょ、少々お待ちください」


 お姉さんはオーガの魔石を引っ掴むと大慌てで奥へと引っ込んでいってしまった。

 何か問題があったんだろうか?


「っくっくっく」

「おい、笑ってやるなよ」

「?」


 お姉さんの慌てた様子に少しばかり不安になっているところで、後ろからかみ殺すような笑い声が聞こえてくる。

 振り返るといかにも冒険者といった感じの2人組がいた。

 歴戦の戦士を彷彿させる装備に身を包んだ角刈りとスキンヘッドの男で、どちらもプロレスラーのような筋骨隆々とした大男だ。


「だってよぉ、15メートルのオーガだぜ?」

「15メートル?」

「マジかよ」


 スキンヘッドが馬鹿にしたように大声で話すおかげで周りにまで嘲笑するような空気が広がっていく。 

 何がおかしいんだろう?


「……あぁ、なるほど」


 これはあれだ。

 物語でよくある展開なんじゃないだろうか?

 お前達みたいな弱そうなやつらにそんな大物が倒せるわけがないとかそんな感じの。

 幸か不幸か、買い取りのカウンターは横や後ろから売ろうとしている物が見えないようになっている。

 実物はお姉さんが持って行ってしまったし、彼らは俺達が手柄を大げさに見せようと何か細工をしてお姉さんを騙そうとしていると思っているのかも知れない。

 俺はどう見てもひ弱な男だろうし、武蔵だって見た目はただの美女だ。

 と言うか、左右の腰に烏丸を佩いているとは言え、見た目で彼女の圧倒的な力を察しろという方が無理な話だろう。


「キミ達がこの魔石を持ち込んだのかね?」


 俺が頭の中で状況を理解し頷いていたところ、縁なしの細眼鏡にアッシュブロンドの髪をオールバックにしたいかにも出来る男と言った様子の男性がカウンターの向こうから声をかけてきた。


「はい、そうです」

「この魔石はどこで入手したのかね?」

「えっと……どこと言われましても……」


 素性を隠したいというのに馬鹿正直に話すわけにもいかず、言い淀んでしまう。

 どうしたものか……


「えっと、森でなんとか倒して、そこから迷いに迷ってなんとか森を抜けた先の道を歩いてきたので、どこってのはわからないです」


 これで誤魔化されてくれるだろうか?

 まぁ、無理だろうなぁ……


前回の後書きに書き忘れましたが、この作品において最強なのは間違いなく武蔵です。

詳細は2、3話ぐらい後に語られますが、少なくとも主人公達が召喚された世界の人間が何十人いようと武蔵が苦戦することすらありません。

武蔵の「なかなかやる」という評価は、絶対評価ではなく相対評価です。

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