最先が不安になったんですが?
飯食うのに時間が掛かりました(すっとぼけ)
エタってはいないですよ(たぶん)
15
詰所から出て門を潜った先には異国情緒溢れる町並みが広がっていた。
いや、まぁ外国なんて実際に行ったことはないんだけど……
それでも、レンガや木造の建物ばかりが並び、多数の人間が普通に生活している場所にも関わらず、コンクリートやアスファルトが一切視界に入らない景色なんて日本ではまずありえないだろう。
外国でもそれは同じか?
異国情緒と言うよりも異世界情緒と言った方が正しいかも知れない。
それはさておき、一悶着はあったが無事に街へと入れたわけだ。
さすがは異世界と言えど国の中心足る王都と言うべきか人通りは多い。
まぁさすがに都心のラッシュアワーなんかとは比べものにならないが……
具体的に言うと祭りの準備で行き交う人ぐらいのレベルで人通りがある。
むしろわかりにくくなった気がするが、まぁいい。
重要なのは無事に門をくぐることが出来たって事なのだ。
「…………」
詰め所でもそうだったが、武蔵は門前でのやり取りを最後に口を開こうとしない。
別に無口キャラって訳でもないのにどうしたんだろうか?
「とりあえず、無事に街に入れたな。ここまで連れてきてくれてありがとう」
「…………構わないわ」
沈黙がなんとなく居心地が悪かったので、感謝の気持ちを伝えられる無難な話題を振ったけども、無視されたりしなくて良かった。
でも、なんで笑みを浮かべてるんですかね?
「なんで笑ってんの?」
考えていても答えが出るわけでもないので、素直に聞いてみる。
武蔵の性格ならば、聞かれたことは変にはぐらかしたりせず答えるはずだ。
「彼女……」
「彼女?」
彼女って、さっきのジーナさんのことか?
武蔵がこの世界で出会った女性は彼女以外にいないから間違いないだろう。
「なかなかやるわよ」
「………………は?」
なかなかやる。
武蔵がジーナさんのことをそう評価して俺は愕然とした。
あんな、何を言っても人の言葉を鵜呑みにして信じてしまうチョロい性格をしているような人間が、そんなに強いわけがない――などと言った方向での驚きではない。
そもそも、武蔵の発言で受けた衝撃は驚きなんてレベルのものではない。
驚愕だ。
「なかなかやる」という評価は、普通に考えれば悪いとは言わないまでもそこまで良い評価とは言えないだろう。
だが、その評価を下した人物が武蔵であったならば、話は変わってくる。
武蔵の評価において「なかなかやる」は最大級の褒め言葉なのだ。
そもそもが神すらも圧倒するほどに最強である武蔵にとって、自分以外の他者はその全てが格下である。
そうであるからこそ、自分には及ばないもののなかなかやる。という評価は自分以外の他者にとっては圧倒的な強者であることを示すのだ。
実際、武蔵が登場する物語の『侍学園』において、武蔵がそう評したのはわずか2人しかいない。
その内の1人は主人公にとって格上のライバルであり、越えるべき壁、ラスボス的なポジションにいた佐々木小次郎。
彼女の場合は、主人公のライバルであり、その強さを際立たせるための演出として武蔵が彼女の強さを認めているという演出だったという意見が主流だが、それでも作中において武蔵を除いた人類では最強という強さを誇る。
それだけであるならば、ここまでの衝撃を受けることはない。
問題となるのは、作中で武蔵に「なかなかやる」という評価を受けたもう1人……というか、もう1柱だ。
八百万の神々ですら倒すことが出来ず、古の時代に封印された(という設定の)八百万の神々で最強の邪神【禍津日神】が、武蔵に「なかなかやる」と評されている。
ネット界隈では、演出として評価された小次郎とは違い、この禍津日神こそが本当の意味で武蔵が「なかなかやる」という評価を与える基準であるというのが主流だ。
この禍津日神はどれほどの者かと言えば、前述した通り、八百万の神々が総出で掛かっても勝てないどころか、日本の神と北欧神話の神、ギリシャ、エジプト神話の神を同時に相手取っても圧倒し、ただ1柱の力で世界を滅ぼせる最強の敵として登場した一種の裏ボスだ。
僕の考えた最強のキャラクターを地で行くキャラだと考えれば、そのぶっ飛び具合も分かると思う。
しかし、そんな禍津日神も武蔵はほとんど一方的に切り伏せるのだから、その強さがどれだけ異常なものなのかは想像に難くないだろう。
あまりにも自分がぼこぼこにされるものだから禍津日神は、要約すると「なんで自分がこんなにボコボコにされるんだ。お前はどれだけ強いんだ!? それとも私が弱いとでも言うのか!?」といったことを武蔵に問いかけたのだ。
そこで武蔵は禍津日神に対し「それほど弱くはないわよ。なかなかやると思うわ。そうね……私を倒そうと思うなら今の50倍強くなるか、あなたと同等の実力者50人で囲めば勝てるでしょうね」と答えている。
単純計算で「僕の考えた最強のキャラクター」の50倍強いのが武蔵である。
いや、50倍で武蔵に勝てるなら武蔵自身は49倍か?
どちらにしろ、武蔵に「なかなかやる」と認められる実力を持った人間が50人ほど集まれば武蔵を打倒し得るのだ。
それだけの実力を持った人外も人外、禍津日神と同等の実力がある人間にいきなり会ってしまった。
その事実に驚くなと言う方が無理な話だろう。
特に問題なのは、たかが不審者の取り調べにそれだけの実力を持った人間が現れたということだ。
近衛の隊長だとかと名乗っていたが、下っ端のような仕事をさせることができるのだから、替えの効く程度の人間の可能性が高い。
もしかしたら、この国の兵士の中でも上位に位置づけられる実力があるのかもしれないが、まさか最強とかトップ3とかに入る実力者だってことはないだろう。
けっこうな広さがあるこの王都を見れば、この国の抱える兵士が100や200どころでないのは簡単に分かる。
何が言いたいかといえば、この国が総力を挙げれば武蔵を倒すことが出来る可能性が非常に高い。
隣の国のカクトー王国だって、同じぐらいの実力がある可能性も非常に高い。
これは、クラスメイトを救うのは、けっこう難しいかも知れないな……
「何をしているの? さっさと魔石とやらを売りに行くんじゃないの?」
「え? あ、あぁ……」
俺がこれからのことに不安を感じつつあることなど露とも知らず、武蔵に急かされて俺は止めていた足を動かし始める。
情報を集めるには金が必要だ。
しかし、ゴブリンの魔石がほとんどなので、そこまで大金になるとは思えない。
少なくとも飯を食ったり宿に泊まる分だけにでもなるといいんだが……