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すぐに戻るというのは愚策なんですが?

書く時間もあまりとれない上にこの話自体が先のことを考えたりしてけっこう難産だったために時間がかかりました。

お待たせして申し訳ありません。

11

「私が私の人生を決めるまでは、創造主たるあなたに付き合ってあげるわ。私を剣として上手く使いなさい」

「あ、はい……ありがとうございます」


 ありがたいけど……

 やっぱりムサたんはムサたんである。

 自分の意志を持っている以上、俺の言うことに唯々諾々と従ってくれるとは思わなかったが、いつかは出て行くと明言されるのはなんか……もう、なんか……

 いや、それでも面倒見がいい彼女のことだからきっと俺のことを助けてくれると期待していたんだ。

 そして一緒に過ごすうちにお互い惹かれあってムフフ(死語)な展開が待っているなんて甘い夢を見てもいた。

 それがいつかは出て行くって……

 まぁいい。

 とりあえず、ムサたんという戦力を手に入れることが出来たことを素直に喜ぼう。


「それで、これからどうするつもりなのかしら?」

「ああ……どうしようか?」


 ムサたんが精神操作を破壊してくれなければ、一も二もなく城へ戻っていただろう。

 だが、そんな選択は取りたくない。

 俺たちを世界を救うための駒扱いするあの腐れ阿婆擦れなんかの役に立ちたいとは思わない。

 それに本当のところがどうなっているのかも分かったもんじゃない。

 精神を操作するなんて汚いことを平気でやるような腐れ阿婆擦れのことだから、実は魔族は何も悪くないなんて可能性もあるし、もしかしたら単純に自分たちが世界の覇権を得るためなんて理由で俺たちを召喚した可能性だってある。

 本当のところを調べるべきだろうが、問題はクラスメイトたちだ。

 クラスメイト達も俺と同様に精神操作がされているはずだ。

 そんな状態で魔族との戦いに駆り出されればどんな被害が出るのか分かったものじゃない。

 自分の命すら厭わずにこの世界を、お姫様を救うために戦うことだろう。

 それを見捨てて自分だけ生きていくのはちょっとばかり気が引ける。

 なんとか自分の安全を図りつつ、クラスメイトを救って元の世界に変える方法を探す。

 当面の目標はこれにしよう。

 さて、この目標を達成するにはどうするべきか、だな。


「なにかしら?」

「なんでもないです」


 どうしたものかと考え、俺が動かせる最大戦力であるムサたんに目を向けるとムサたんは首を傾げて問いかけてくる。

 作中の能力を全て使えるとすれば、ムサたんは最強だ。

 だが、それは侍学園という作品の中の話であって、この世界でも最強と言えるとは限らない。

 俺はこの世界のことをまともに知らないのだ。

 まずは、この世界を知る事から始めよう。

 幸いにもこの世界には冒険者のシステムはあるらしいので、魔物を狩って生活することは難しくないはずだ。


「ムサた……えぇ……宮本さん? よろしいでしょうか?」

「武蔵でいいわよ。ムサたんはやめて欲しいわね」

「あ、はい。では、武蔵さん、今後の方針について話したいのですがよろしいでしょうか?」

「ええ、いいわよ。そうかしこまらなくていいわよ。さっきまでみたいに普通に話せばいいじゃない」


 いや、いつかは出て行く発言されたから、少しでも下手に出て庇護下にありたいだけです。

 でもまぁ、ムサたん――武蔵の性格的にかしこまらないでいいと言ったのにかしこまった態度を取るのは逆効果だ。

 名前で呼ぶことを許してくれるあたり、少なくとも嫌われてはいないらしい。


「じゃあ、武蔵。まず第一の目標は、クラスメイトの救出。次に元の世界に帰ること。この2つを最終的な目標にしていこうと思っている」

「いいんじゃないの? クラスメイトはすぐに助けに行くのかしら?」


 武蔵の言葉に俺は首を横に振る。


「いや、この世界のことは最低限教わったけど、本当に最低限のことだけだ。この世界の人間の能力がどの程度なのかとか情報が全然足りない。武蔵の力はよく知っているから大丈夫だとは思うけど、万が一を考えたら慎重を期す必要があると思うんだ。今すぐクラスメイトたちが危機的状況に陥るなんてことはないだろうし、まずは情報収集から始めるべきだと思う」


 昼間にも行ったが、戦いに出るならばアビリティの習熟は必要なはずだ。

 それにどれくらいの時間がかかるのかはわからないが、1日や2日で終わるようなことはないだろう。

 そうであるならば、情報を集めるぐらいの時間はある……あるはずだ……あるよな? ……あるといいなぁ……


「そう。孫子ね」

「そんし?」

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず。彼を知らずして己を知れば一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば戦う毎に必ず殆し。聞いたことないかしら?」

「なにそれ?」

「敵の情報と自分の情報をしっかりと把握していれば100回戦っても負けない。敵のことを知らずに自分のことだけ理解していれば勝ったり負けたりを繰り返す。そして、敵のことも自分のこともわかっていなければ必ず負ける。そういう意味の言葉よ」

「へぇ~」


 そんな言葉があるんだね。

 それがなんでそんし・・・なんて言葉になるんだろうか?

 略すとしても頭の言葉は「そ」でも「ん」でも「し」でもないよな?

 まぁいいや。


「情報を集めるなら人から聞く必要があるわね。どこに向かうの?」

「最寄りの街は、俺が逃げてきたお城があるからやめておいた方がいいよな? 道を探して、別の街に向かおう」


 ん?

 武蔵さんや、その顔はなんですか?

 なんかすごく意外そうな感じですよね?


「そう。とりあえず行きましょうか」

「あい。俺はぜんぜん戦えないから、守ってください」

「ええ。まかせておきなさい」


 微笑みを浮かべる武蔵は漫画やアニメで見た姿そのまま、月明かりに照らされこれ以上ないほどに綺麗だ。

 この目で彼女を見ることが出来たのだから、この世界に召喚されたことも悪いことばかりではないかな?

 まぁ、すぐにクラスメイトを助けて、元の世界に帰ることになるだろうけど、それまでは役得と思って彼女との旅を楽しもう。


 2、3日ほど情報を集め、クラスメイトを救出する。

 この時の俺はそう考えていたのだが、思いの外、長い旅になるなんてこの時の俺は微塵も思ってもみなかったのだった。


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