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自分でもビックリするフェイントもあるんですが?

09

 光が収まった時に現れたのは俺のよく知るキャラクターのムサたん――ではなく、まるで浮世絵がそのまま人の形を成したかのような姿の宮本武蔵であった。

 つまり、練兵場で召喚した武蔵と何も変わらない。

 それはそうだよな。

 現実と物語フィクションは違う。

 主人公が絶体絶命のピンチに陥れば能力が覚醒してそのピンチを切り抜けることができるだろうが、現実の物事がそんなに都合よく進むわけもない。


「ちくしょう……武蔵! 俺を守れ!」


 こうなれば無駄な抵抗だと分かっていても武蔵を突撃させるしかない。

 武蔵が突撃している間に板垣さんを量産して、最後には俺も特攻するしかないだろう。

 武蔵は俺の指示通り、オーガに近づいていく。

 一歩、二歩、前に進む動き方は練兵場の時と同じく左右にゆらゆらと上体が揺れていて、見た目だけは達人のようだ。

 近づいてくる武蔵を敵だと認識したのか、オーガは抱える木を武蔵に向かって振り下ろす。

 押しつぶされた武蔵は、あの言葉を残すことなく光の粒子となって消えるだろうと思えたが、驚くべき事に手に持ったで木を受け止めた。


「あ……れ?」


 剣、そう剣だ。

 練兵場で召喚した武蔵は、教科書で見たことがある肖像画のように大小の刀を手にしていたはずだ。

 しかし、今の武蔵が持っているのは、片刃ではあるものの刀というには刀身が広く、現実リアルのものというよりもデザインを重視したフィクションの武器といった見た目をしている。

 そう、あれは宮本武蔵が――侍学園のムサたんが持つ愛刀【双黒刃そうこくじん烏丸からすまる】だ。


「ゴアァァァァッ!」


 オーガは武蔵を押しつぶせなかったことに腹を立てているのか、木を振り上げては叩き付けるの動作を繰り返す。

 怒濤の連撃ラッシュだ。

 板垣さんなら一撃で押しつぶされるだろうし、俺なんかだったら一瞬でミンチにされてしまうだろう。

 そんな連撃を武蔵は手に持つ剣で見事に防いで見せている。

 ドシンドシンと大地が揺れる度に恐ろしい力で木が振り下ろされているのがよく分かる。

 しかし、武蔵はそんな攻撃を受けても微動だにしない。

 いや……


「なんだ……あれ?」


 オーガが木を振り下ろす度に武蔵の身体に罅が入っている。

 衝撃を受ける度にパラリパラリと固まった絵の具が剥がれ落ちるように欠片が地面に落ちていくように見える。

 小さな罅が衝撃で大きくなり、指先から、顔から、衣服に至るまでことごとくに罅が伸びていく。


「ガァァァッ!」


 苛立っているのか、一際大きく振り上げた木をオーガが振り下ろした時、罅は全身に広がり、まるで卵が割れるように中から彼女が姿を現した。

 燃えるような赤いツインテール、黒を基調としたホットパンツとベアミドリフから露出した肌は月光を受けて陶器のように白く輝いている。

 公式で173センチと女子にしては高い身長、モデルのようにスラッとした手足だが、出るとこは出ていて女性らしい体つきをした、世の男性の理想が詰まった彼女こそ――


「ムサたん?」


 漫画からアニメ、映画、ゲームにもなった侍学園で人気ダントツナンバー1にして、作中最強、神すらも斬ってみせた宮本武蔵その人であった。

 何が何だか分からない。

 なぜ歴史上の人物を召喚するはずの俺の能力で彼女が召喚できてしまったのか。

 そもそも、最初は浮世絵のような見た目だったはずだ。

 どうしてその中から彼女が現れるというのか。

 何が何だかまるで意味が分からない。

 俺は夢でも見ているのだろうか?

 しかし、これが現実だというのなら、英霊召喚の特性と相俟って彼女は少なくとも作中と同等の能力ぐらいならば有しているはずだ。

 なにせ、俺は彼女のことならば作中で描かれたことだけではなく、キャラクター設定集の情報から作者のホームページに描かれた裏情報に作中で描かれなかった活躍の設定まで全部網羅している。

 そして、その彼女であれば、神すらも斬った彼女であれば、オーガなんて雑魚もいいところだ。


「ガ……アアァァァ……」


 ムサたんがその姿を現してからは一度も視線をそらさず、ずっと見ていたはずだが気がついたら何をしたのか分からないうちにオーガは血を吹き出しながら崩れ落ちた。

 一瞬。

 そう、一瞬だ。

 50人もの板垣さんを一方的に虐殺したオーガが一瞬で倒されてしまった。


「すげぇ……」


 思わずそんな言葉が漏れてしまう。

 これならこんなところでちまちまとレベル上げをする必要はない。

 こんなところで1人レベル上げをしているそもそもの理由は、今の俺ではお姫様の役に立てないから急いで3人目を召喚できるようにする必要があったからだ。

 ムサたんがいるなら俺はお姫様の役に立てる。

 3人目がいたら便利だろうが、急ぐ必要はなくなった。


「やった……やった!」


 俺は全力疾走直後で疲れているのも忘れて駆け出した。

 ズキリと痛む頭痛を無視して、心に渦巻く感動のままムサたんをこの手で抱きしめる。

 これで全部上手くいく。

 お姫様を助けて、この世界を救える。

 俺は役立たずじゃないし、最強の力むさたんがいれば俺が最強だ。


「あなた……」

「へ?」

「気持ち悪いわね」


 話せるの?

 え?

 あれ?

 板垣さんとか浮世絵武蔵みたいに名言以外口に出来ない人形じゃなくて、自由意志があるの?

 やばくね?

 俺は何をした? いや、何をしている?

 ムサたんに抱きついているな。

 ムサたんは主人公いおり以外に触れられることを嫌っている。

 その彼女に俺は何をしている?

 抱きついてるな。

 柔らかい。

 いい匂いがする。

 ムサたんは振り上げた剣を勢いよく振り下ろした。


 あ、死んだわ。


え? 前回の次回予告で言ってたみたいに驚かなかったし、この展開は予想できた?

そんなあなたはさすがの明智くん。

だけど、しっかり(?)つけてたから、あれが事実だとは一言も言っていないのだよ。


次回予告(?)

助かったと思ったところに振り下ろされる凶刃。

葉太は武蔵によって両断され、ユーハへの忠誠とこの世界を救う志が閉ざされる。

次回「精神操作をされていたらしいんですが?」

刮目して待て!




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