三枚の依頼書
この世界では金貨、銀貨、銅貨がお金の役割を果たしている。前の世界と物価が違うからおおよそだが、金貨一枚が一万円位の価値だろうか。
朝早くギルドに行くとすでに多くの冒険者たちが我先にと壁に張り出された依頼書を奪い合っていた。冒険者ってもっと落ち着いた奴らかとおもっていたのだが。
俺とフレインがあっけにとられていると「カイルさん」と後ろから声をかけられた。振り向くとギルドの受付係の女性が笑顔で立っていた。
「すごいでしょう。みなさん報酬の高い依頼をお望みなんです。だから毎朝こうなんですよ」
と教えてくれる。「それより」と受付係の女性は声を落として訊ねてきた。
「カイルさんたちってもしかして元貴族ですか?」
え、どうしてそれを……。フレインはともかく俺は至って普通の目立たない格好をしているのに。
「やっぱり!」
途端に声が大きくなる。
「あ、すみません。でもやっぱりそうだったんですね。あの難しい依頼は魔法なしでは無理だったでしょうから」
ああ、そういうことか。
ふと受付係の女性の奥に目をやると、何人かの冒険者らしき人たちがこっちを見ている。騒がしかったかな。
「ああ、あそこにいるのはゴールドランクの冒険者さんたちですよ。えーとゴールドランクというのはですね……」
と話は五分ほど続いた。要するに冒険者のランクは上からゴールド、シルバー、ブロンズとわかれていて上のランクほどベテランの実力者揃いだということだそうだ。ちなみに俺たちはもちろんブロンズで、上に行くには難しい依頼をいくつもこなしてギルドに認められればいいらしい。ゴールドになるとギルドから直に依頼を受けることもあるという。
「……幽霊退治の件もあって今カイルさんたちは密かに有名人なんですよ。あっ、あちらすいてきましたよ」
と壁の方を指差して教えてくれた。お礼を言ってから壁の張り紙を見に行く。
「……三枚だけですか」
フレインが不満をこぼす。沢山あったはずの依頼書は今はたったの三枚しか残っていない。
一つ目は飼い猫探しの依頼。依頼書を読むと、いなくなった飼い猫を探してほしいというもので報酬は銀貨一枚だった。誰も手を出さなかった理由がわかる。面倒な依頼の割に報酬が極端に少ないからだ。銀貨一枚っていうと千円くらいだろ。これはパスだな。
二つ目の依頼は、遥か遠方のトキワ村の近くにしか自生していないヨクネレ草という植物の花を採ってきてほしいというもの。ヨクネレ草の花は摘み取っても枯れることはないのだという。トキワ村までは馬車を使っても往復で四週間はかかる。仮に俺が魔法で空を飛んでいったとしても数日はかかるだろう。それで報酬が金貨五枚じゃ割に合わないな。
残る三つ目は――。
「おおっ!」
俺は依頼書を手に取ってフレインに見せた。
「家庭教師ですか? でしたらわたくしもお役に立てそうです」
三つ目の依頼書の内容とは有名貴族ナジャ家の一人息子の家庭教師。報酬はなんと金貨十五枚。詳細は応相談というものだった。なぜこんな好物件が誰にも取られず残っていたのかはわからないが俺たちはさっそく受付係の女性に登録してもらうとギルドをあとにした。




