10.正義感に身を任せて突っ込むと自爆しますよ?
神崎さんとリリンと模擬戦をした後朝比奈さんにプログラミングを教えて貰う。少し寄り道してから帰る。もうすぐ八時か…ん?この気配、那由他が家に来ているな。
「ただいま。」
「お帰り!遅かったじゃないか!愛!何をしていたんだ?」
「お帰り。」
「友達と遊んでいたの。あと、いらっしゃい、那由他。」
「あの後少し考えてな…一応幻石について説明しておこうと思って来たんだ。」
「だからやめろって!愛はそんな事知らなくてもいいから!」
「その話をする前に晩御飯用意するよ。那由他も食べてってよ。」
「いいのか?じゃあ頼んだ。」
簡単に晩御飯を作って皆で食べた。今は幻石以外にも聞きたい事があるんだけどな…
「幻石についてなら今日リリンから聞いたよ。」
「手遅れだったか…」
「で、信じるのか?幻石の事。」
「うん。嘘はついてないと思う…隠し事はあると思うけど。」
「じゃあ教えられた事について聞いてもいいか?足りない部分があったら付け加えるよ。」
「わかった。まず幻石を使える人は限られている事、幻石を使った人は特別な力を持ち、幻石能力者と呼ばれている事。この世界にはまだ使用されていない幻石含めて二十一人の幻石能力者がいる事。幻石能力者の能力は色んな種類に分けられていて、強さも人によって異なる事…他になんかある?」
「いや、特にないな。そのまま教えてくれたのか?」
「これ以上隠し事を増やして私が更に捻くれたら困るからってさ。」
「「…」」
二人が凄く納得した顔をした。
「それも一理あるな…愛がこれ以上捻くれたら…想像もしたくない…」
「確かに愛はもっと素直でもいいと思うよ。」
「…二人共私の性格に文句あるのかな?」
「い…いや…ないから…人それぞれだよな…うん。」
「愛は家族なんだ。家族がどんなに捻くれた性格をしようと僕は受け入れてみせるよ!」
無言でトランプを一枚乱の頬に掠る様に調整して投げた。トランプが地面に刺さる。
「なんか言った?」
「なんでもありませんすみませんでした。」
「…」
「で、那由他は仕事の話をしに来たんだよね?」
「あぁ、そうだ。いつ時間が空いている?」
「この土曜日は水の幻石を盗むって予告状にあったから、日曜日にまず箱舟の人攫いの調査を手伝おうかな。」
「美術館の火事泥棒は月曜日に学校休んで手伝うよ。そしてこの政府に送られた脅迫状は実行にもう少し期間があると思うんだ。」
「…まず、その脅迫状の内容は本当に実行されるのか?」
「たぶんそうだよ。放置したらこれ以上の被害が出るだろうね。」
那由他が立ち上がって家から出ようとした。
「そんな急いで調べても何も出てこないよ。」
「なんか酷く慌てているみたいだけど、一体どんな内容なんだい?」
「これだ。」
那由他は鞄に入っているファイルから写真を取り出した。内容は確か…
やっほー!皆大好き邪神ちゃんでーす!二週間後に日本中の幾つかの町に生物兵器を投入したいと思いまーす!楽しみにしていてね?
…と書いてあったな。
「…」
これにはさすがの乱も顔を引き攣った。これが本気だったら洒落にならないからね…でも本気なんだろうな。さり気なく私の名目で犯罪声明されるのもやだな…犯人の目星はついている、私を邪神だと知っている奴だ。明らかに誘ってるし、罠なのもわかるけど…流石に無視する訳にもいかないしな。
「愛はなんでこの事件を引き受ける気になったんだい?」
「確かにこんな危ない事件関わっちゃ駄目だろうけどさ、解決できずにこの町に生物兵器なんて投げ込まれたらそれこそ困るからね…今回はリリンにも手伝ってもらうよ。」
まぁ、生物兵器如きで私もリリンも死なないけどね。
「なんでこの脅迫状の内容が確実に実行されると思うんだ?」
「前外国で似たような物を書いた犯行があったよね?聖神ちゃんと名乗って暇なので聖戦を始めますって言ってアメリカのニューヨークの人間を堕としたってコマーシャルで流した奴。」
「…結局暫くしても何もなかったしただの愉快犯だったじゃないか。」
「あれの捜査はやめておけって言ったのは犯人が何もしないと思ったんじゃじゃなくて、そのコマーシャルが流れた時点で手遅れだったんだよ。」
「…何を言ってるんだ?」
「そのコマーシャルを見た人は皆洗脳されたんだよ。本人達は気付いてないみたいだけど、何時でも犯人の気分次第で操り人形にされるよ?」
早速胸倉を掴まれた。知ってた。
「なんで言わなかった!」
「君の上司で一人その事件の視聴捜査をしていた人がいたでしょ?結局調査対象に殺されちゃったってあなたが言ってたじゃない。」
「…それがなんだって言うんだ?」
「君の上司は視聴者と話している間に視聴者が洗脳されていたのに気付いたんだよ。そして視聴者の洗脳を解こうとして殺された。これが何を意味しているかわかる?」
「…洗脳を解こうとしたら殺されるのか?」
「そうだよ。それにコマーシャルを見た人が何処にいるかなんてもう那由他が私に言った時点で既に分からなくなったでしょ?」
「…」
那由他はそっと私を離した。
「まぁ、そのコマーシャルを流した人自体を追っても黒幕じゃないと思うし、もう黒幕に殺されているんじゃないかな…でも、今回の脅迫状とその事件の黒幕は同じだと思うよ?」
「なんでおまえがそこまで知っているんだ?」
「心当たりがあるんだよ。でも追い詰めたら取り返しが付かない事になりそうなんだよね。追い詰めたいんだったらちゃんとした準備と覚悟がいると思う。」
「…そんな奴を捕まえられたら何だってするし、覚悟も国際警察になった時点でできている。」
「那由他は気合はありそうだけどさ…そもそも捕らえた後どうする気?まさか牢獄に入れるの?」
「違うのか?」
「無理無理、前見た時は数百人の家を鉄屑に変えて片手で纏めて投げてたんだよ?絶対鉄格子なんかで閉じ込められないって。」
「…お前よく生き残ったな。」
「遠目で見ただけだからね。それに、洗脳も出来るっぽいし、正義感のみで那由他が突っ込んで行って洗脳されたら私だって困っちゃうよ。」
「その話、本当なんだよな?」
「この前も言った筈だけど、私は今理由があって噓がつけないの。話を逸らしたり言い方を変えたりできるけどこの二年間嘘を付いていないのは確かなんだよ?」
「じゃあ何処でどうやってそんな場面を見たんだ?」
「どうせ行ったら調べに行くんでしょ?教える訳ないじゃん。それよりも…乱。」
「!…」
「何してるのかな?」
テーブルの下で蹲っている乱に話し掛けてた。
「べ…別に怖かったからとかじゃ…」
「今の話に怖がる要素なんてあった?」
「え?」
「まぁいいや。服、自分で洗ってよね。」
「えぇ!それは酷くないかい!怖がっている兄をもっと労わってくれたっていいんだよ?」
「今日は家まで送るよ、那由他と乱には聞かれたくない事について話したいんだ。」
「…あぁ、あいつの事か。いいよ、帰りに話そう。」
「え?ちょ!なんなんだい!僕に聞かれたくないって!」
「じゃ、行こっか。」
「あぁ。そういう事でもう帰るよ、じゃあな、乱。」
喚く乱を置いて那由他と家を出た。




