0 「終焉」
世界に残された時間はあと僅かだ。なのに、世界で暮らす全ての生き物はそれを知らないまま唐突に終わりを迎えてしまう。
なぜ俺だけがそれを知っているのか、いつから知っていたのかは分からない。
散歩のついでに通り掛かった河川敷で腰を下ろして座り込んだ時、ふと今日という日が終わると世界は終わりを迎える、と「思い出した」のだ。
夜空をゆっくりと見上げ、浮かぶ綺麗な星々を眺める。眺めていると、「世界の終わり」が嘘であるかのように思えてくる。
しかし、過ぎていく時間は止まらない。その時は前触れもなく訪れた。突然ブレーカーが飛んだようにパッと辺り全てが深い黒に塗りつぶされ、落ちていく感覚に襲われたのだ。速度が増していき、意識がだんだんと遠く薄くなっていく。
世界は終わりを迎えた。
ーーーだ。
薄れた意識の中、音を聞いた。
ーーーーーたくないーーー。
途切れ途切れでなんの意味にもならない音。その音が透けていく意識の端から絵の具のように染み渡り頭の中で形になっていく。
まだだ、まだ終わらせない!世界はまだ終わってないーー!
黒く塗りつぶされた世界に、柱時計の音が鳴り響いた。