力を求めし者への鎮魂歌
「シャイニング・チェーン!!」
突如、浮遊する岩の前に現れた魔法陣から、2本の金色に光輝く巨大な鎖が伸び、両蛇の頭に巻き付いた。
「はあぁぁぁぁ!」
男の雄叫びに合わせ、鎖がぐっと引かれ、蛇の頭が下へと向けられた。
突然の魔法発動に、何者かとメリッサが振り返る。そして、その姿を認識して、彼の名前を叫んだ。
「ジャファド!!」
ヴァル達の窮地を救ったのは、ジャファドだった。
片目を失い、体中に包帯を巻いた満身創痍な状態で、何とか立っているといった感じだが、肩で息をしながら必死の形相を浮かべて、大蛇を引き付ける。
その状況に、上空のヴァルもレラジェも、「鎖はどこから」とはその時は考えず、再び見えた標的に、訪れた勝機に意識を集中した。
「ふっ……」
息を短く吐いて、止めた。撃ち抜く目標だけを見つめ、冷静に、無心に――
2人は、極限まで引き絞った弓から、聖なる槍を放った。
「キシャアアァァァァァ!!」
光輝く槍が2匹の大蛇の急所に突き刺さると、大蛇たちは叫びをあげて、苦しそうにのたうった。
その光景を見てジャファドは、ふっと小さく笑う。力を使い果たし、体が傾き始める中、意識が途切れる最後に呟いた。
「サイード、これが……一族の……意地……だ……」
槍の力に苦しみ奇声を上げる2匹の蛇を見て、クロードが、歌を! とナフィーサとシアに声を上げた。
頷く2人。
すっと息を吸い、口を開く。そして、歌が響き出した。
槍に聖なる力を宿したあの歌だ。幻想的で、力強くも優しい歌が、サーディール国の大地に響き渡った。
すると蛇の苦しみ方が更にひどくなった。が、それ以上の変化があった。
頭の先から石に変わっていったのである。
石への変化はみるみると、蛇の体を侵食し、アジル・ダガッハ本体の方へと進んで行った。
『やめろっ! その耳障りな歌を! やっと復活出来たのだ! 封印などされてたまるか!』
アジル・ダガッハが大きく“口”を開いた。
“口”、クロードたちからはそう見えた。岩石に掘られた髑髏の様な顔の、顎に当たる部分が開いたのだ。
その“口”の前に、赤い光が集まって玉が出来き、それが徐々に大きくなっていく。
全力の攻撃が来る。遺跡もとろも聖歌の乙女を焼き払うつもりだと、誰も分かった。もはや防ぐ手立てはない。
マリアも一人で5発の光線を凌ぎ、もはや立っているのが限界だった。
『ファドゥンも! 歌の巫女どもも! 奴の作った国も、全て、すべて、全て!破壊してやる!』
支離滅裂な言葉をならべ、怒声を上げるアジル・ダガッハ。
その様子を、不敵な笑みを浮かべて眺めるクロードだったが、突然、横にいたメリッサを抱き寄せた。
メリッサが、突然のことに驚いているとクロードが、大きくないが、はっきりと聞こえる声で言った。
「しっかり掴まっていろ」
「え?」
そして、叫んだ。
「砲弾放てえぇぇぇ!」
彼の合図で巨大な砲台が火を噴いた。
撃ち出された砲弾は、アジル・ダガッハの左胸に向けて、一直線に飛んで行く。
その発射の轟音を聞いた瞬間、クロードとメリッサの体が消えた。消えて、2人が次に姿を現したのは、まさかの場所――今まさにアジル・ダガッハに向かってゆく“砲弾の上”だった。
「うあぁぁぁ!」
砲弾には、クロードがアブドルに言って、転移先を設定する術式が施してあったのだった。
しかし、そんな前置きもなく、いきなりとんでもない所に転移したメリッサはパニックになり、思いきりクロードにしがみ付いた。
「くっ、落ち着け! ゆくぞ!」
しがみ付かれて、若干苦しそうにしながらも、クロードは、メリッサから魔力を吸引した。
体の中が沸騰する様な感覚に、しがみ付いていたメリッサも、魔力が吸われたことに気付く。
それにはっとして、叫んだ。
「クロード! ダメだ! まだ魔法を放てるほど回復していないだろ! 今度こそ死んでしまうぞ!」
「なに、魔力を込めることぐらいは出来る」
そう言った彼の手には、いつの間にか見たことのある“手袋”がしてあった。
『全て消え去れえぇぇぇ!!』
ついにアジル・ダガッハが、最大出力の光線を放った。轟音と閃光が迸り、光の筋がまっすぐに伸びる。
それは射線上にいるクロード達に真っ先に押し寄せた。
しかし、クロードはそれを待っていたとばかりに、両手を前にかざして魔力を集中させた。
「はあぁぁぁぁ!」
クロードの咆哮と同時に、前方の空間に穴が開いた。ドラフトが開けた様な小さなものではなく、とてつもなく巨大な穴である。
その穴に、アジル・ダガッハの光線が呑み込まれてゆく。
『な、なに!?』
驚愕するアジル・ダガッハだったが、次の瞬間、さらに彼を驚かせることが起った。
光線を完全に呑み込んだ穴から、まったく同じ光線が返ってきたのである。
跳ね返して狙う先は、アジル・ダガッハの左胸。
クロードは、空間に開けたトンネルに角度をつけ、アジル・ダガッハの左胸に向かって光線を跳ね返したのだ。
『グアアァァァ!!』
全力の一撃が目の前で跳ね返され、成す術なく直撃を受けたアジル・ダガッハは、苦痛に叫んだ。
光線は、彼の分厚い肉を抉り、心臓を剥き出しにさせるには十分な威力を持っていた。
「最期に自分の“力”がどれほど強いか知れて、良かったな」
にやりと笑いながらそう言うと、クロードはメリッサと伴に砲弾の上から、遺跡へと転移した。
『おのれぇぇぇ!! おのれえぇぇぇぇぇ!!』
無人になった砲弾は、怨嗟の叫びを上げるアジル・ダガッハの心臓に、深々と突き刺さった。
その瞬間、叫びは断末魔のものへと変わり、空と大地を揺すらんばかりに轟いた後、アジル・ダガッハの巨躯と伴にこの世から消え失せたのだった。




