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炎と水と義姉の背中

 飛んでくる石が少なくなった一瞬をついて、まず、ライラが飛び出した。障壁はメリア一人になるが、少しの時間なら持つ計算だ。

 巨人にある程度接近したライラは、アルレッキーノから受け取った2つの手榴弾を、巨人の鼻先と腰辺りに目掛けて投げ放った。手榴弾は空中で弾け、大量の煙が噴出し、巨人の頭から足までを完全に覆う。


「煙幕なんて張ったところで!」


 後方で巨人を操るリーサが、苛ついた声で吠えた。彼女の視界からも、巨人の視界からも、ヴァルやライラたちの姿は煙幕で隠れていた。

 無駄な時間稼ぎを、といったリーサの怒りを体現する様に、巨人ががむしゃらに暴れだした。その動きによって生まれた風が、煙を払い退けていく。だが、視界が回復するまでに要した時間は、ライラが詠唱を完了させるには十分な長さだった。


「一なる業火は、十の腕、百の弓、千の矢。万物を穿ち、無へと還せ、サウザンドブレイズ!」


 ライラの頭上に幾つもの魔方陣が浮かび上がり、そこから何百何千という火の玉が巨人に向かって打ち出された。

 激しい光、けたたましい音、衝撃が部屋中に荒れ狂う。

 まるで重火器による一斉射撃の様な攻撃は、巨人の全身を余すことなく抉ってゆく。

 魔法が止んだ時には、巨人は至るところが欠け落ち、窪みだらけになっていた。

 その光景にアルレッキーノの考えは、憶測から確信に変わった。


「やっぱりそうか」

「アル君の言ったとおりだったね」


 アルレッキーノの言葉に、彼と同様に巨人を注視したままシアが答える。

 ライラとメリアに、彼が伝えた打開策は、ある憶測を前提としていた。

 それは、巨人には石で体を形成するための核となるものがあり、その核が唯一の弱点となるということだった。


「俺の思った通り、あいつ核は左胸、心臓の位置だ。そして、核の数は1つだけ」


 きっかけはヴァルの放った弾丸だった。巨人の左胸に当たったその弾は、石の体を抉ることなく弾かれたのである。他の部位に当たった時は、その部位を抉るのに、左胸の時だけは、硬質な物に当たった様に弾かれたのだ。

 そして今、全身にライラの魔法を食らった巨人は、左胸だけが無傷であった。


「体を構成する無数の石は、魔力でくっついてるんだ。そんで、左胸だけ、より強い魔力で石を高密度に密集させて硬質化させてる。つまり、絶対に傷つけちゃ不味いものがあるのさ。それをライラちゃんの魔法で確信できた。あとは、メリアちゃんがうまくやってくれれば」


 打開策は、弱点の場所を確定させることが一段階目だとすれば、このとき既に二段階目が進行していた。正確には、ライラの魔法より前に、二段階目の布石が、既に打たれていたのである。


「……ねぇアル君、本当にこれって気づかれないよね?」

「……大丈夫だよ、多分。あの子の使う幻術は相当なもんだって、マリアちゃんが言ってたから……」


 戦闘が繰り広げられる部屋の隅で、アルレッキーノとシアは、しゃがみこんで出来るだけ動かない様にしていた。実のところ、今、彼らを守っている人間は誰もいないのだ。

 巨人を操るリーサたちからは、シアたちがメリアによって守られている様に見えていた。しかし、それは煙幕が張られた瞬間、メリアが発動させた幻術であった。

 実際には、シアもアルレッキーノも、もといた場所とは違う場所に移動していて、メリアも彼らを守ってはいない。つまり、虚像を、リーサたちは見させられているのである。


「ライラ、どういうつもりですか? 私はシアを守っている様に言ったはずですが?」


 戦いの中、レラジェがライラに詰問する。ライラたちの意図を理解していないレラジェには、ライラの行動が独断先行に映り、声が厳しいものとなる。


「ねえ様、ごめんなさい。でも、あいつの弱点を見つけて、チャンスを作りますから。わたしとメリアで! だから、お願いします、私達を信じて!」

「え? でもメリアは……」


 レラジェも虚像のメリアを、ちらりと見た。彼女もこの時はまだ、幻術の発動を認識していなかった。

 一方、幻術を使ったメリア自身は、今、巨人の足元やや後方で、息を潜ませながら別の魔法を駆使していた。

 地面に手を付け、魔法で生み出した水を、巨人の体を構成する石と石の隙間に流し込んでゆく。彼女に操られた水は生き物の様に動き、少しずつ隙間を縫って巨人の体を上へと登っていった。


 これが、作戦の完遂――巨人を葬る為に必要な下準備なのである。


 ヴァルやレラジェ、ライラの攻撃が続く中、メリアは幻術を使いながら、相手に気付かれないように繊細な動きで水を操る。

 普通の魔術師では難しい高等技を駆使する彼女の額には、汗が浮かぶ。


「あと……少し」


 メリアの額から、汗がしたたり落ちた。

 あと少し……あと少しで操る水が巨人の左胸に届く。


 ――ガラガラッ!


 完遂を目の前にしたところで、攻撃を受け、巨人の体から弾かれた岩石が、地面のメリア目掛けて落下した。


 でも、今、術を解除して離れるわけには行かない!

 体の骨が砕けても地面につけたこの手を離さなければ、水は操れる……姉様のために絶対にチャンスを作る。

 メリアは 直撃を覚悟して、身を強張らせた。

 直後、ズンと石が当たる重い音が鳴った。


「あ……」


 岩は、メリアに当たることなく、砕けて彼女の周りに散らばつて落ちていた。

 そして、見上げるメリアの視界には、頭上にワンドで障壁張る人影が映っていた――頼もしく、憧れ続ける背中。


「チャンスを作ってくれるのでしょ? やり遂げてみせなさい」


 一瞬、状況が掴めず、ぼおっとしてしまったメリアに、レラジェが顔を振り向かせて微笑んだ。

 敬愛する義姉の優しくも頼もしい姿に、はい! と力強く返事をし、再び術に集中した。


「ライラ!」


 メリアが叫ぶ。ついに水は巨人の胸部に張り巡らされ、全ての準備が整ったのである。


「よし、任せて!」


 応えたライラが、巨人の左胸に向かって炎の魔法を放った。直撃した炎が、石の間にしみ込んだ水を蒸発させ、水蒸気が昇る。


「何をしてたか知らないけど、そんなちんけな攻撃で――」


 リーサが怒鳴る目の前で、巨人に変化が現れた。それは左胸に集まっていた石がボロボロと落ち出したのである。

 それはリーサの意思に反してのことであり、修復される様子もない。


「ヴァルちゃん! 今だ! 左胸に集中砲火!」

「くっらえぇぇぇ!!」


 アルレッキーノの叫び声に、ヴァルがライフルを構え、ありったけの弾を連射した。

 弾丸は、弾かれることなく突き抜け、十数発分の穴は繋がって、巨人の左胸に大穴を穿った。

 完全に静止する巨躯。

 その後、核を撃ち抜かれたことによって、全身の石が崩れ落ち、地面に石の山をつくったが、その石自体も光の粒子になって消えた。


「や、やった! 勝ったぁ!」


 嬉しさを爆発させたヴァルが、アルレッキーノに向かって走り寄り、抱き着いた。


「やったな! ヴァルちゃん!」

「アルの作戦だったんでしょ?」

「まぁね! あ、ヴァルちゃんちょっと離れてね。今度は俺の核が、レラジェちゃんに撃ち抜かれそうだから」


 レラジェからの凄まじい殺気に籠った視線に気づき、アルレッキーノは慌ててヴァルを引きはがした。


「ちぇっ。でも、なんで急に脆くなったの?」

「 “アンチマジックマテリアル(AMA)”を使ったんだ」

「ああ、あの魔法を弱める粉ね。よくアルが花火を破裂させて撒くやつ」

「そう、あれで巨人の核を守ってる石の結合を緩めたんだ」


 メリアの魔法で、巨人の体の隙間に水を流し込んだ水には、アルレッキーノが炸裂弾を分解して取り出したAMAを溶かし込んでいた。

 AMAは高熱に反応してその効果を発揮することから、巨人の左胸にAMAを含んだ水が行き渡った段階で、ライラの火炎魔法で高熱を与え、魔力を弱める効果を発揮させたのだった。


「リーサ!」


 アルレッキーノが得意に話す中、その隣をすり抜けて、声を上げてシアが走り出した。彼女の向かう先では、リーサたち白装束が石柱の上から地面に向かって落下するところだった。

 人形の様に力なく、まっすぐに落ちてゆくリーサに向かって、シアは必死に走った。

 しかし距離があり、受け止めることは出来なかった。

 どさりと床に転がるリーサの体。

 そこに駆け寄って、彼女を抱き起した。


「リーサ! しっかりして! リー……サ……」


 すぐに腕の中を覗き、大声でリーサに呼び掛ける。しかしこの時、シアは全くリーサの重みを感じなかった。それは彼女が無我夢中だったからではなく、呼びかける中で彼女自身もその理由に気付き、絶句した。

 リーサの腹より下、それに両腕も――無くなっていた。

 彼女の体は石灰化し、陶器の様に砕けて崩れていたのである。

 シアが抱き留め、唯一残った部分も徐々に真っ白に変わり、今にも崩れてしまいそうだった。

 その石灰化したリーサの顏に、シアの涙がぽたり、ぽたりと落ちる。

 その時、リーサの口元が一瞬、微笑を湛えた。幸せそうな安らかな表情を造り、そしてシアの腕の中で砂へと還って行った


次回はクロード対サイード!

こうご期待!

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