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いざ、王都突入 !

 東の地平線から、まだ太陽が半分ほどしか顔を出していない早朝に、ナフィーサは目を覚ましてしまった。再び寝ようと思ったが、目を閉じると胸の内に渦巻く嫌な気持ちを鮮明に感じてしまい、結局再び寝ることは諦めた。

 はぁっと溜息を吐く。ベットから起き、朝日が注ぐテラスに出ようと歩き始めたところで、声を掛けられた。


「おはようございます。ナフィーサ」


 声の方に振り返ると、ロゼッタが部屋の隅に控えていた。ナフィーサがにこやかに、おはようと返す。

 挨拶を交わしつつ、ロゼッタがナフィーサの方に寄って来た。


「テラスへ?」

「ええ」

「そうですか……」

「駄目かしら?」


 テラスには出て欲しくないといった感じで、ロゼッタの声の調子に難色が示された。外に出るのは狙撃などの危険があるためだ。

 ただ、反対はしなかった。


「私と一緒に出てくれるなら」

「ありがとう、ロゼッタ」


 ガラス張りの扉を開けて、テラスに出ると、すっと涼しい風がナフィーサの頬を撫でる。現れ始めた太陽の光に、目下の街並、遠くの自然が普段とは違う幻想的な色を帯びて美しく見えた。


「綺麗ですね」

「そうね……」


 その美しい光景にも、ナフィーサの心は弾まない。彼女の心に圧し掛かる重苦しさが。そうさせないのだ。


「シアのことですよね?」


 突然、ロゼッタに核心を言われ、はっとして彼女を見た。


「今まで自分だけが持っていると思っていた地脈装置を封印する力を、シアも持っていた……悔しかったんですよね?」

「……」


 ロゼッタを見つめて、しばし黙り込む。ナフィーサの顏は、今にも泣き出しそうな悲痛な表情だった。

 彼女は少しして、顔を朝日の方に戻し、口を開いた。


「……悔しかった……そうね、それもあるけど、自分の浅はかさと醜さが許せなくって。私は特別な力があることに優越感を感じていたの。そして、それに酔っていたのよ。私にしか出来ないことってところが、おとぎ話に出てくる英雄みたいって」


 言葉が自嘲の色を帯びていた。


「王宮にいた時から、シアのことは知っていたわ。自分と同じ顔をしてるのに、私が持っていないものをたくさん持っていて、キラキラと輝いている彼女は憧れだった。

 自由で、人気があって、何より自分でしたいと思うことで成功している。彼女しか出来ないことを全うしていて、世の中に必要とされている。

 でも、私だけが授かったはずの力まで、彼女は持っていた……」


 ナフィーサは、その後のことが言い辛いのか、覚悟を決める様に、ふぅっと息を吐いてから、言葉を続けた。


「だから、彼女を妬んだ。妬んで、彼女がこの作戦に参加させない理由を探した。彼女が浮ついた理由で、参加したいと言っているのではと疑って……浮ついていたのは自分なのに」

「でも、同行を許したじゃないですか」

「彼女の覚悟が本物だったから。私以上に、本物に見えたの。眩しいぐらい……英雄は彼女なんだって感じたわ。そして、覚悟まで“特別”を持っているなんて、ずるいって余計に黒い感情が渦巻いて……私って最低ね」


 俯いて視線を落とすナフィーサを見て、ロゼッタは思った。目の前の王女は、生まれて初めて人を妬ましく思い、その感情に戸惑い、罪悪感に苦しんでいるのだと。

 他人に暗い感情を抱くことが辛いとは、なんとも王女らしく、世間知らずで温室育ちではある。しかし、それはナフィーサが清らかで優しい心の持ち主だということでもあった。


「ナフィーサ。誰でも人のことを羨んで、妬むもんですよ。私だって、病気だった時は健康な人を妬んだし、この身体になっても、同じ歳ぐらいの女の子が、お洒落して、美味しい物食べて、恋をして、そんな光景を見る度に、羨んだり、妬んだりすることもあります」

「ロゼッタ……」

「だから、気に病む必要はないんです。

 それに、妬んでもあなたは、腐るわけでもなく、自分がすべきことをちゃんとやるんですから、もっとその姿勢を誇っていいと思います。国を救いたいという気持ちは、ナフィーサだって本物ですよね? 一国を救う王女なんて、私からしたら、十分に英雄に見えます!」


 ロゼッタの一生懸命励ましてくれる気持ちが、痛いほど伝わる。ナフィーサの心はすっと軽くなった気がした。

 一時の妬みの感情に囚われようとも、結局は無い物ねだりで、その感情を消すのは、自分がやれること、やるべきことをするしかないのだ。

 そう考えることが出来き、ナフィーサに自然と笑みが零れていた。


「ふふ、ありがとうロゼッタ。私はいい友達を持ったわね」

「えへへ。さ、朝の作戦会議まで、まだ時間があります。もう少し寝ましょう」


 テラスを去る2人の声には、いつもの明るさが戻っていた。

 その声を隣の部屋の窓際で、同じく目を覚ましてしまったシアが聞いていたことは、この時、ナフィーサ達は気付いていなかった。



 ♦  ♦  ♦



「皆、準備はいいか?」


 メリッサが、全員を見て言った。

 すでに王都に入ることは出来た。今は、王都郊外ある墓地にいる。

 なぜ墓地なのかというと、そこに王族が使う脱出用の地下通路があるからである。

 墓石の1つを横にずらしたその下に覗いている地下への階段が、地下通路への入口で、メリッサたちはそこから、今まさに出撃しようとしているところだった。


「少し待てくれ」


 そう言ってサイードが、呪文を詠唱し始めた。その聞いたことのない言葉による詠唱は、すぐに終わり、サイードの手が淡いオレンジ色の光が覆った。


「お守りみたいなもんだ。魔法に対して多少、抵抗力が上がる。全員、じっとしていてくれ」


 サイードは、光を帯びた手で、全員の額に文字を書く様な仕草をしていく。仕草だけで、額には何も残らなかったし、体にも何も変化はなかったが、そういう魔法なのだろう。

 メリッサたちは、魔法を施し終わったサイードに礼を言うと、地下道へと降りて行った。




 マリアに消音の魔法を施してもらい、石畳みの地面を足音を立てずに皆で進む。


「脱出用の地下道って、やっぱ王族は持ってるんだなぁ」


 石で舗装された壁を触りながら、アルレッキーノが感心したように言った。

 ホテルで作戦を決めたメリッサ達は、1日を王都への移動に費やし、その後、シアのスタッフに紛れて資材運搬のトラックで王都に侵入した。

 意外と王都の警備の緩く、簡単に入ることが出来た。そして、今は王都の地下を進んでいる。

 この地下道は、離宮に続く道で、王族が緊急時に外部に脱出するためのものである。それを使って離宮の真ん中に、一気に出るという算段だ。


「数百年前に造られたものだ。脆くなってるだろうから、気をつけろ」

「お、おう」


 サイードの言葉に、アルレッキーノが慌てて壁に当てた手を離した。


「数百年の歴史があっても、実際に使ったのは我々が初めてだ。使い方は脱出ではないが」


 先頭を行くサイードが、急に手をさっと出し、停止する様にサインを示した。


「敵か。やはり地下道にも……」


 メリッサが囁いた。


「大臣なら地下道の存在を知っていて当然のこと。会議でも言ったが、想定の範囲内だ」


 クロードの言う通り、作戦会議の段階でこの地下道を使うとなった時、大臣の一派が待ち受けていることも考えられた。

 ただ、だからといって建国記念日の警戒態勢にある王都の中を、武装した状態で離宮まで進むのは難しい。そのため、結局地下道と使うことにしたのである。


「幸いこちらにはまだ気付いていないが、ここで戦闘になれば、地上にも気付かれる。そこからは、作戦どおり一気に突破するぞ。準備はいいな」


 サイードの言葉に、みなが頷き、戦闘態勢に入った。

 まず、メリッサとクロードが通路の左右に立ち、マリアから身体強化の魔法を受ける。


「行くぞ、クロード」

「ふん」


 そのまままっすぐ先行して走り出した。


「敵だ!」 


 高速で接近する2人に、敵兵も気付き声を上げた。だが、その瞬間、その兵士の頭をヴァルの狙撃が打ち抜き、剣を構える間もなく事切れた。

 その狙撃と同時に、メリッサたちが通路を抜け、兵士たちの詰める少し広い空間に躍り出た。そこにいた4人の兵士全員を視界に捕らえる。

 機先を制して、敵が完全に構える前に、メリッサが一撃のもとに1人切り倒し、もう1人と刃を交えた。

 暗い地下道に火花が鮮やかに散る。

 一方のクロードも、兵士1人に一太刀浴びせ、動けなくさせると、もう1人と鍔迫り合いに入った。

 そこにサイードの双剣、メリッサとクロードが切り結ぶ相手の心臓に、背中から突き刺さる。2人の兵士が同時にがくりと崩れ落ちた。


「よし、この真ん中の道を真っ直ぐだ。急ぐぞ」


 道が3つ分かれている。敵に刺さった剣を抜きながら、サイードが正解の道を指し示した。


「うっ……」

「分かっていても実際に見るときついね……」


 後ろからは、やって来ていたナフィーサとシアが血にまみれた死体を見て眉を潜めた。シアはすぐに視線を背けたが、ナフィーサは死体に向かって敬礼を捧げた。


「危ない!」


 突然、マリアが叫んだ。

 その直後、倒れていた兵士を中心に爆発が起こり、兵士もろとも一帯を吹き飛ばした。


「きゃあぁぁ!」


 ナフィーサは、悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。


「大丈夫ですか?」


 マリアの声に、目をゆっくり開けると、自分が一切怪我をしていないことに気付く。目の前には光の壁が見えた。

 爆発の瞬間、マリアが障壁を張って、爆発から皆を守ったのだった。

 ナフィーサは、顔が真っ青になり震えていた。

 目の前で兵士が自爆した。自分が死にそうになったことと、人が爆ぜたという事実が、彼女の心に戦いへの恐怖を植え付けた。

 爆発の跡に、視線がふらりと向きそうになったが、見てはいけないとマリアに強く止められた。それが余計に、悲惨な状態なのだらうと恐怖を駆り立てる。

 それでも、なんとか恐怖を飲み下して、ナフィーサはゆっくりと立ち上がった。

 サイードが、ナフィーサに怪我が無いことを確かめている横で、メリッサは顔をしかめながら爆心地を眺めた。


「自爆までしてくるなんて……」

「それほど奴らも後がないということだ」

「そうだな。しかし、今の爆発で、通路が……」


 クロードの言葉に頷きつつ、彼女の視線の先では、分かれ道の幾つかが爆発の衝撃で崩れ、瓦礫に埋もれてしまっていた。その中には、離宮の中心に抜ける道も含まれている。


「こっちだ」


 どうしたものかと思案していると、サイードが先陣を切って、埋まっていない右の道へ、進み出した。


「この道なら、離宮の庭の東側に出る。ただ、今の爆発で敵も我々に気付いただろう。急ぐぞ」


 進みながらサイードが言った。

 敵との遭遇を警戒しつつ、メリッサたちは地下通通路を急いぐ。その道中、幾つか道が分かれたが、サイードによって迷うことなく進み、また、何度か戦闘もあったが、即座に敵を切り伏せていった。

 そして、通路の終着点らしい袋小路に辿り着いた。


「ここの上だ」


 サイードが首を軽く上に向けて言った。

 昇降用の梯子が壁に掛かっており、上に出口があるのは間違いないようだが、梯子の最上段の先には外の通じる様な穴はない。

 するとサイードが、出口を開けるには梯子の横にあるレバーを引く必要がある、と教えてくれた。


「出口の開閉レバーは私が引こう。アル、例のものを準備してくれ」


 当然、外では敵が待ち構えているはず。メリッサは、出口の周りを制圧する様に指示を出した。


「了解ですぜ、お嬢!」

「アルの支援に合わせて、ロゼッタとヴァルは先行し、出口付近を制圧」

「はい!」

「はーい」


 メリッサは、梯子の横にあるレバーに手を掛けた。その横では、アルレッキーノが手に持っていたグレネードランチャーに、自作の弾を装填し終えて、メリッサに頷いて見せた。


「じゃあ、ヴァルちゃんいくよ」

「うひひ、くすぐったい」


 ロゼッタの機械の手が、ヴァルのか細いウエストを掴んだ。腰を掴まれて、くすぐったさに一瞬身を捩って笑ったが、すぐに真剣な表情になって両手の銃を強く握った。

 出口の真下には、グレネードランチャーを出口に向かって構えるアルレッキーノが、その後ろにヴァルを抱えたロゼッタが配置に着き、メリッサの合図を待った。


「では行くぞ!」


 メリッサが勢いよくレバーを下に引いた。すると、ゴゴゴと音を立てて、梯子の先の天井が開き、日光が差し込んだ。


「喰らえ!」


 アルレッキーノの声と同時に、彼の銃が火を噴く。その銃から放たれた弾は、真っ直ぐ地下から飛び出し、空中で炸裂した。

 次の瞬間、瞬く閃光と強烈な騒音。

 出入口の周りに待ち構えていた敵は、その音と光に目と耳をやられて悶絶した。そこに間髪入れずに、ヴァルを抱えたロゼッタが地上に飛び出し、宙でくるりと旋回すると、ヴァルの二丁拳銃が周囲の敵を一掃した。


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