勝ちの一手
(何かくるっ!)
何かに勘づいたヴァルは、さっと横に跳躍した。次の瞬間、足元を掠める光が目に入る。正確には光線だ。その光線が当たった地面が黒く焦げている。
さらに、光線が2発、3発と撃ち込まれ、それに合わせて、後方に数度跳躍して距離を取った。再び、離れるヴァルとレラジェ。
光線が止んで、離れた場所からその出どころを探ると、頭上に妙な機械が浮いていることに気付く。
手のひら大の丸みを帯びた機械が4機浮いているのが視認出来た。
「この武器は、貴方も知らないでしょう」
レラジェが、にやりと口元を綻ばせて言った。
「確かに、知らないね……でも、そんなおもちゃには負けないよ」
ヴァルは、じっと彼女を睨む。
交錯する視線。2人の間に再び緊張が高まってゆく。
かっとレラジェが目を見開いた刹那、光線が雨あられと降り注いできた。宙を浮かぶ機械それぞれが光線を放ちながら、空中を縦横無尽に高速で動き回る。四方八方から光線が注ぐ。
「ぐっ!」
一筋の光線が、ヴァルの腿をかすった。
服が破れ、血が滲む。
苦痛に顔を歪めながらも、動き続けた。
その後も、ヴァルは光の雨を俊敏な身のこなしでなんとか躱し続けた。
だが全てを避けきることはできず、肩や腕、脚など、傷を増やしてゆく。辺りには肉が焦げる嫌な臭いが漂った。
「さて、いつまでそうやって躱し続けられますかね」
ヴァルも避けながら反撃をするが、浮遊する機械にも、それを操るレラジェにも当たらず、じわじわと追い詰められてゆく。ヴァルの顔には、焦燥の色が濃くなっていった。
一方のレラジェは、勝ち誇った笑みを湛える。もはや傍から見ても一方的な光景だった。
「あのレラジェって子、とんでもないわね……」
2人の戦いを固唾を呑んで見ていたマリアがこぼした。
「え? あの子そんなに? ヴァルちゃん一回勝ってるのに?」
横にいたシアが驚いて、マリアに顔を向ける。
「ええ。あれはスクエアっていう、最近開発された魔術師を援護する装置なんだけど、扱いが難しくて、一機を操るのがやっとの代物よ」
「そ、それじゃ4機も操ってるのって……」
「はっきり言って化け物ね」
「でも、ヴァルちゃんなら撃ち落としちゃえば――」
「さっきからヴァルが銃口を向けた瞬間、その射線上からスクエアを動かしてるの。あんな高速かつ精密に4機も扱えるのが化け物なのよ」
「それじゃあ、ヴァルちゃんは負けちゃうの?」
シアの表情が曇ったところで、ヘルマンが口を挟んだ。
「いや、安心しな。ヴァルも十分に化け物だからな。あいつは、あの状況でも勝ちの一手を本能的に見つけるぜ」
自信ありげなヘルマンの様子に、シアの表情が少し晴れる。そして再び、戦うヴァルに熱い視線を戻した。
「ヘルマン、今、化け物って言ったのヴァルに言いつけるわよ」
「……やめろ」
ヘルマンの言う通り、ヴァルは光線を紙一重で躱し続ける中で、“勝ちの一手”に取り掛かり始めた。
一瞬の光線の合間を縫って、腰のベルトに付けた小型の筒を銃口に取り付けると、天井に向けて引き金を引いた。
すると、銃声と同時に筒は勢いよく打ち上げられた。そして、筒は天井から突き出している装飾にぶつかり、爆発を起こした。
ヴァルが打ち上げたのは、アタッチメント型のグレネード弾であった。その爆発により、崩れた天井の装飾が大きな瓦礫となって、レラジェの頭上に降り注ぐ。
「ふん、こんな子供だましの攻撃。あなたの考えは読めてますよ!」
レラジェは落下地点から飛び退いて、瓦礫を軽々と回避する。障壁を使って守ることもできたが、障壁を上に向ければヴァルの銃撃を受ける。それを読んで後方に跳んだのだった。
直後、けたたましく音をたてて、レラジェのいた場所に、落下した瓦礫が叩きつけられて四散した。
瓦礫を避けながらも、レラジェは攻撃の手を休めることはなく、光線と片手の銃でヴァルへの猛攻を続ける。
それでもヴァルは再び、グレネードを銃に装填した。
「またそれですか」
先ほどと同じように、天井を打つと思えたが、今度はレラジェ自身に向かって、ヴァルは装填したグレネードを放った。
予想が外れたレラジェは、多少、意表を突かれた顔をしつつも、咄嗟に障壁でこれを防ぐ。
弾はレラジェの障壁に当たって弾け、爆炎によって彼女の視界を塞いだ。
その瞬間、ヴァルが攻勢――“勝ちの一手”に打って出た
爆炎と煙が残る間に、彼女はレラジェに向かって一気に走り、高く跳躍した。相手を飛び越える程に高く跳んだ空中で、床に散らばる瓦礫に向かって銃が連続で火を噴いた。
放たれた銃弾は5発。
それらは複雑に角度の付いた瓦礫に当たり、跳弾となってスクエアを全て撃ち抜いた。
「上!?」
一瞬、爆炎で見えなくなったが、上から響いた銃声でヴァルの動きを察知したレラジェが、咄嗟にワンドを上に向けた。
しかし、上に向けた途端、ワンドが手から弾き飛ばされた。
「なっ!?」
1発の銃弾――5発放ったうちの1発――が上に向いてしまったワンドを横から撃ち抜いていたのだった。
驚愕すべきヴァルの銃撃。
しかし、レラジェに状況を理解してる時間はなかった。
ワンドが破壊され、動揺したところに、着地寸前のヴァルからもう1発の弾丸が放たれ、今度は拳銃が弾き飛ばされた。
「……ヴァルの勝ちだね」
ヴァルが、レラジェの真横に着地すると同時に、彼女に銃口を向け、勝ち名乗りをあげた。
――やはりこの人には勝てない……
今向けられているのは、いつも見ていた、戦いの中で見せる鋭くも凛々しいあの視線――昔のままの眼差しだ。
その眼を見つめ返し、レラジェは己の負けを悟った。勝負に負けたという以上に、このバルバトスという存在に負けたのだと。
「……私の負けです」
レラジェは、がくりとその場に膝から崩れ落ち、項垂れて小さく言った。
相変わらずのヴァルちゃんTueee!




