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銃声の円舞曲

 事件が起きたのは、無事にライブが終わり、シアが控室に戻った時だった。

 暗殺者に狙われたハザイの街から別の街に移動して、気分も一新、シアは元気の溢れる最高のパフォーマンスをライブで見せた。

 ライブを終え、彼女自身も最高の気分で控室に戻ってきた。が、充足感に満ち、笑顔だった彼女の顏は、控室の“それ”を見て、血の気が引いて青ざめた。彼女の表情を一変させたのは、壁に突き立てれたナイフが留めていた紙とそれに書かれた内容であった。


「ど……どうしよう……どうしよう! ヴァルちゃん! リーサが! リーサが!」

「お、おおちついて!」


 その紙にはこう書いてあった。


『マネージャーの女は預かった。街の東にある廃寺院にて待つ。バルバトスとシアの両名が来い。来ない場合は、女の命はない』


「落ち着け2人とも」


 パニック状態の彼女たちを、ヘルマンが宥める。


「ヴァル、お前も指名ってことは、この前の街で仕掛けてきた奴か?」

「……うん、れっちゃんだね」


 今回のリーサ誘拐の件に、自分のせいだと責任を感じ、ヴァルはすまなそうな、しょげた表情をシアに向けた。

 シア自身もリーサを攫われてショックを受けていたが、そんなヴァルの表情から彼女の気持ちを察して、明るく声を掛ける。


「行こう! ヴァルちゃん」

「……でも、標的になってるシアをわざわざ連れてくのは……」


 シアの前向きな言葉にも、ヴァルは警護する対象を危険にさらすことになると及び腰になる。が、彼女はさらにヴァルを鼓舞する。


「何言ってるの、私だって指名されてるんだから。それにリーサを助けたいし。ヴァルちゃんもレラジェちゃんと仲直り出来るチャンスだよ!」

「…………うん、分かった! 行こう!」


 ヴァルの声に力が戻った。


「話は決まったな。装備を整えるぞ」

「え? ヘルマンたちも来てくれるの?」


 きょとんとした表情のヴァルに、マリアが、ふふっと悪戯な笑みを浮かべて言った。


「両名“だけ”とは書いていないわ。ヴァルの話から考えて、そのレラジェって子とヴァルの決闘を邪魔しなければいいって感じよね」


 そう言った後、彼女の悪戯な笑みが、黒い微笑に変わってゆく。


「それに、この前の2人組の子たちもいるわよね……あの子たち教育の途中で逃げちゃったから、今度はちゃんと、お姉さんが最後まで礼儀ってものを教えてあげなきゃね、ふふふ……」

「歴史的価値のある寺院だ。頼むから破壊するなよ……」


 マリアの目が笑っていない。

 ヘルマンは眉間を抑えながら、深くため息をついた。

 こうしてヴァル達は、途中で弾薬等の装備を整えつつ、夜の街を抜け、レラジェの待ち受ける廃寺院へと向かった。



 ♦ ♦ ♦



 指定された廃寺院の荘厳な構えの入口を潜ると、石で囲まれた通路が続く。壁にはミミズがのとくった様な模様が描かれている。歴史を感じさせる雰囲気があるが、今は、それを気に留めている暇はない。

 罠を警戒しながら、石の回廊を真っ直ぐに急いだ。

 すぐに開けた場所に出た。その寺院がどんな宗教のどんな行事で使われたのか分からないが、その広間は、おそらくは礼拝堂といった場所なのだろう。かなりの広さがある。


「やっと来ましたか、バルバトス」


 レラジェが、入って来たヴァル達を見据えて言った。壁や柱に掛けられた松明によって緋色に照らされ、広間の真ん中に佇んでいる。


「リーサは?」

「あちらにいます」


 レラジェが首を横に振って指し示す。その方向を見ると、石柱に縛られているリーサがいた。リーサもヴァル達が来たことに気付いていて、視線が合った。


「リーサ! 今助けてあげるからね!」


 リーサが生きていることが確認出来て、シアが嬉しそうに叫んだ。叫んでそのまま、彼女の元に走り出そうとするが、いきなり刃物が彼女の首元に突き付けられるのを見て、ぴたりと足を止めた。


「そうそう、こっちに来ないでね」

「大人しくしていてください」


 リーサの横に立つ2人の少女が、妖しく微笑んで言った。2人の内の赤髪の少女の方が、リーサに刃物を突き付けている。シアに忠告する少女たちは、2人ともシアとさして変わらない年齢に見えるが、その雰囲気は裏世界の住人のそれである。


「シアとバルバトス、2人に来るように書き記しましたが、そこの2人は――」


 レラジェが、ヴァルの背後にいるヘルマンとマリアに向く。


「ヘルマンとマリアは付き添ってくれただけ、れっちゃんとの決闘には手出ししないよ」

「……ならいいですが」

「あと、決闘を受けるのに条件があるよ」

「ふっ、そんなことが言える立場だと思ってるんですか?」


 レラジェの冷たい視線が向けられるが、それに構わず、ヴァルは言葉を続けた。


「ヴァルが勝ったら、れっちゃんがヴァルを恨んでる理由を教えて!」

「…………いいでしょう」


 彼女は一瞬沈黙の後、にやりと笑って呟いた。


「結局、私に殺されるんですから、関係ないですけどね」


 その時の彼女の笑みは、獣が獲物を前にして舌なめずりをする様な、ぞわりとする恐ろしさを感じさた。


「さて、ではさっそく始めましょうか、武器を取ってください」


 ヴァルは無言で、腰のホルスターから2丁の拳銃を抜くと、1人広間の中央に向かって歩き出した。一方のレラジェも、空中に出現させた魔法陣に両手を突っ込み、別の空間から武器を引き抜いた。

 彼女が手に掴んでいるのは、拳銃とワンドと呼ばれる先に球体の付いた杖である。

 ヴァルが歩を止め、両者は十数メートルの距離で対峙した。


「メリア、コインを投げてください」


 リーサの近くに立つ青髪の少女が、はい、とレラジェの注文に返事をすると、ポケットからコインを取り出して宙高く投げた。


「あれが落ちた時が開始の合図です」


 コインは、緩やかに回転しながら落ちてゆく。それはまるで星の様に、松明の光を反射して、キラリ、キラリと回転に合わせて瞬いて、地面へと引き寄せられる。

 対峙する2人は、目の前の相手から視線を外さず、微動だにしない。


 ――両者を包む張り詰めた空気。


 くるり くるり……



 ――凍てついた沈黙。



 くるり……



 そして――決戦の開始を告げる音が鳴り響いた。

 静寂から一転、銃声の嵐が吹き荒れる。発砲音を響かせつつ、2人は同時に横へ、同じ方向に走り出した。平行の移動に2人の距離は変わらず、走りながら攻撃を繰り返す。


 人智を越えた至近距離の銃撃戦。

 レラジェが右手の拳銃を撃てば、ヴァルは左手の拳銃で全て撃ち落とす。一方で、ヴァルの右の手の拳銃が火を噴けば、飛んだ弾丸は、レラジェの左手に持ったワンドが作る障壁に弾かれていく。


 ぶつかり合う弾丸が空中で火花を散らす。

 すぐに部屋隅まで走り着き、ヴァルは石柱の後ろに身を隠すと、即座に銃弾を込めた。

 その間も柱にレラジェの弾は撃ち込まれ続ける。

 ふぅっと一息短く吐くと、発砲の隙をついてヴァルは再び走り出した。柱から飛び出して大きく回り込む様に疾走する。


「っ!」


 ヴァルの目が、銃口を向けるレラジェを捉えた。

 今度は接近戦に持ち込もうと、レラジェを中心に渦巻き状に、距離を詰める。走りながら放たれるヴァルの銃弾は、レラジェの手に持つワンドの障壁で弾かれ続ける。が、接近戦の目的はそのワンドにあった。


(あのワンドなら……)


 ワンドを見た時、その性能についてヴァルは理解していた。

 目の前のワンドは、小型ながらかなりの出力を持つ反面、盾の様に正面にしか障壁を張れないものである。その為、距離を置いて撃ち合うより、自慢のスピードを活かして背後を取り、ワンドの破壊もしくは直接攻撃しようと考えた。


 戦いの中、ふと昔の思い出が脳裏を過り、ヴァルの胸がちくりと痛んだ。

 そのワンドは、昔、レラジェと組んでいた時に、彼女が何度も自分を守ってくれたものだったからだった。


 一方で、ヴァルの接近はレラジェも読んでいた。巧みに、距離を詰めさせない様にステップを踏みつつ、ヴァルが正面に来るように立ち回る。

 膠着状態にも思えた最中、ヴァルの銃撃が数発、頭上に放たれた。


「くっ」


 その異変に気付くレラジェ。即座にワンドを真上に向ける。すると、障壁が上から降って来た弾丸を弾いた。

 天井を使った跳弾である。

 その瞬間、上に向いた障壁を見逃さず、ヴァルが一直線にレラジェに突っ込んだ。


 ――捉えた!


 ヴァルがそう確信した瞬間、レラジェの目が怪しく光った。


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