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fire after fire

 その後も幾多のトラップがヴァルを待ち受けていたが、彼女に傷一つ付けることは叶わなかった。

 すでに最上階。階段を上ったそばから気配を感じる。


 ――ここにいる。

 

 ドアの外れた入り口を通り、メインフロアへと入って行く。ゆっくりと踏み締める様に、堂々と。

 そのフロアには何もなかった。あるのは左右にずらりと並ぶ四角い柱だけ。あとは一面コンクリートで、ガラクタも転がっていない。


「やはり罠なんかでは、あなたを埃で汚すくらいにしかならなかったですね」


 柱の陰から、あの暗殺者がすっと歩み出てきた。ヴァルが来るのは予想していた口ぶりだ。

 暗殺者は悠然と歩いて、フロアの真ん中で止まった。ヴァルも、フロアの中心へと歩を進める。

 対峙する2人。


「……ねえ、"れっちゃん"なんでしょ?」

 

 暫しの沈黙の後、ヴァルが問い掛けた。すると暗殺者は黙って、ターバンとマフラー外した。

 しゅっと引き締まった輪郭に、整った顔立ちの素顔が現れる。

 艶やかで滑らかなストレートの黒髪を備え、すらりとしていて、ヴァルより断然大人びて見える美しい女性だった。


「やっぱり、れっちゃん――」

「そんな風に呼ばないでください」


 ヴァルの言葉は、強い口調で冷たく遮ぎられた。


「確かに私はあなたの知るレラジェですが、あなたにそんな風に気安く呼ばれたくありませんし、その筋合いもありません」

「え……」

「そして、お喋りをするつもりもありません。することは1つ……バルバトス、あなたを殺します!」


 そう言うと同時に、いつの間にかレラジェの両手に握られていた拳銃が火を吹いた。


「っ!」


 ヴァルは、瞬時に横に走った。

 その動きを追って、レラジェの二丁拳銃が絶え間なく弾丸を連射する。

 幾つもの弾が掠める中、ヴァルは柱の陰に駆け込んだ。

 なおも猛烈な連射が柱の表面を削ってゆく。


(どうして、れっちゃん……)


 銃口を向ける彼女の目が、頭の中に蘇る。

 冷たく殺意に満ちた目だった。初めて見た彼女の厳しい目付きに、ヴァルは胸が苦しくなった


「どうして私があなたを殺そうとするのか、なんて考えているんでしょ?」


 銃を連射しながら、レラジェが吠える様に言った。


「そんなの私が暗殺者で、あなたが暗殺対象の護衛だからで十分でしょう! あなたが邪魔だから消す、それだけです!」


 彼女の言葉にはっとするヴァル。


(この戦いにはシアの命も掛かっているんだ。今はシアを守らなきゃ!)


 沈みかけた心に闘志の炎が灯った。

 ちょうどその瞬間、銃弾の雨が止んだ。弾が切れたのだ。

 ヴァルは、弾切れの隙を突いて柱から横に飛び出ると、自身の拳銃の引き金を引いた。

 先ほどとは逆に、レラジェが柱の裏へと逃げ走る。


 しかし、その動きは途轍もなく速く、ヴァルに照準を絞らせない程の俊敏な動き――ヴァルと同等のスピードだった。

 柱の裏に隠れ、足を止めるかと思ったが、姿が柱の後ろに見えなくなった途端、すぐに姿を現した。

 その手に握られていたのは、拳銃ではない別の大きな銃。


 それを見たヴァルは、初弾が発射される前に走り出していた。レラジェの武器を見た一瞬で、留まって撃ち合うことの危険性を理解したからだ。


 ズガンッ


 先ほどの拳銃よりも大きな発砲音が響く。

 レラジェの手に握られていたのは、散弾を撃ち出す大口径の銃――ショットガンだった。


 即座に動いたヴァルの判断は正しかった。

 ショットガンの1発で、コンクリートで出来た柱の3分の1が粉々に吹き飛んだ。

 コンクリートが劣化して脆くなっているのもあるが、使っている弾も特殊な硬質弾である。もし、柱の後ろに留まって撃ち合っていたら、数発で柱ごと体を吹き飛ばされていただろう。


 ヴァルは、並ぶ柱を盾にしながらレラジェと距離を取る様に走り続けた。

 彼女が柱の裏を通り過ぎる度に、それを追いかける様に柱が砕かれてゆく。

 3本目の柱を過ぎたところで、ヴァルはスピードに乗ったままぐるっと柱を旋回し、レラジェの真正面に走り出た。


(もう決めないと……)


 この時、ヴァルの残り弾数は少なかった。

 加えて、今の距離――近接戦闘なら、面攻撃が出来るショットガン相手では分が悪い。

 勝機をどこに見出すか。




 それは、超近接戦闘。




 ヴァルは、猛スピードでレラジェに向かって疾駆した。

 当然、向かってくるヴァルに対して、容赦なくレラジェのショットガンが火を噴く。

 それに対して、ヴァルはトップスピードのままジグザグと走り、強烈な銃撃を躱して接近してゆく。


 ズガンッ


 左に躱す。

 逸れた弾が後方の柱を砕いた。


 ズガンッ


 右に躱す。

 弾が左肩を掠めた。服が割け、肉が抉られた。


 ズガンッ


 左に躱し、一気に踏み込んだ。


「くっ!」


 レラジェの顏が焦りに歪んだ。急いで次弾を装填し、低い姿勢で懐に入ってきたヴァルに銃口を向ける。

 しかし、ヴァルは拳銃のグリップの底で、向けられかけたショットガンを斜めに弾き上げた。

 弾かれたショットガンが明後日の方向に発砲し、その轟音と同時に、もう1発の銃声。

 もはや0距離だ。長物のショットガンよりも、取り回しのいい拳銃の方が、この超近接戦闘においては圧倒的に有利だった。

 弾いたのとは逆、右手の拳銃がレラジェの肩を撃ち抜いていた。


「うぐっ!」


 レラジェの小さい呻き声が漏れ、ショットガンが床に落ちた。彼女は撃たれた右腕をだらりと垂らし、もう一方の手で撃たれた肩を抑えた。

 そんな彼女に、ヴァルは銃口を向けたまま言った。


「れっちゃん……ヴァルの勝ちだよ……」

「くっ、止めを刺さないなんて、どこまで私を馬鹿にするつもりですか?」

「……ねぇ、どうして? どうしてれっちゃんは、そんな風にヴァルを狙うの? なんか恨まれるようなことしちゃったのかな?」


 ヴァルは疑問をぶつけた。

 知りたかった……レラジェがヴァルを狙う本当の理由を。


「……ふふ、ふふふ……身に覚えがないですって?」


 レラジェが瞑目して不敵に笑った。が、突然、かっとその目を見開いた。


「あなたは……あなたは絶対に私が殺します!」 


 険しい顔で吠える。

 その表情にあるのは憎悪、そして微かな悲しみだった。

 レラジェの気迫に圧されて、いつの間にか彼女の片手にスイッチが握られていることに、ヴァルは気付かなかった。


 そのスイッチが押された次の瞬間、爆発音が轟いた。音は1階からだった。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴ


 直後、建物が大きく揺れた。

 その突然の揺れに、ヴァルの注意が一瞬反れたのをレラジェは見逃さず、遁走の後に窓から外に飛び出た。その背中に、ヴァルが叫ぶ。


「れっちゃん!」


 その後、けたたましい音を上げて廃墟は崩れ去った。

 ヴァルも完全に崩れる寸前で外に飛び出したが、もうその時には、レラジェの姿はどこにもなかった。

 瓦礫の山を背に、シアのところへ戻りながら、ヴァルは空を見上げた。


「れっちゃん……どうして……」


 レラジェが去ったであろう方角の空を見上げて、物憂げに彼女の名前を呟くのだった。



「れっちゃん」ことレラジェ登場!


能力は、別空間にしまっておいた武器を自由に取り出せます。

どっかの黒髪の魔法少女見たいですね。

個体の戦闘能力も高いです。


次回、ヴァルの過去が明らかに

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