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ぶつかる想い

「おっしゃあぁぁぁ! 直ったぜ!!」


 アルレッキーノとカシムによって砂嵐発生装置が回復すると、その連絡は遺跡を守る者たちへと伝えられ、全員がシェルターへと避難した。

 その後、砂嵐が遺跡を囲うように発生すると、アスワドを駆るアスタロトが遺跡の上空へと戻り、逆巻く砂嵐に向かって全力で両翼を羽ばたかせた。

 アスタロトとアスワド、そして砂嵐発生装置の合体技――ギガンティック・ヴェノム・ストームが発動された。


 遺跡を囲うほどの大きな砂嵐は、その大きさと風速を上げ、集まってきた数万のアポリウスの群れを風の渦へと吸い込んでいった。

 逃げることを許さない絶大な吸引力。それによって取り込まれたアポリオスたちは、アスタロトの作り出す猛毒と特大の竜巻による無数の風刃によって、一瞬で毒され細切れにされた。


 西からの群れも、北東からの群れもこのギガンティック・ヴェノム・ストームによって全て討伐された。

 その後、アスタロトが毒の中和剤を撒き、砂嵐を止めると、シェルターに隠れていた人々は、外に出てお互いの無事を確かめあった。そして、苦難を乗り越えたことに沸き立ったのだった。



 ♦  ♦  ♦ 



「どうしてだよ!? なんでダメなんだ!?」


 遺跡の一室に、アルレッキーノの怒りの籠った声が響く。


 アポリオスの襲撃が終結する頃には、日が完全に暮れ、夜になっていた。盗賊たちから晩餐の歓待を受けたメリッサたちは、そこでお互いの健闘を労った。そしてその晩餐も終わり、今は、与えられた一室にて、明日からの行動について話し合っていた。

 その話し合いの中で、アルレッキーノは感情的な声を上げていた。目の前の椅子に座るナフィーサを相手にである。


「今も述べました通り、私達には時間がありません。いつ大臣のアクバルが、ダガフを復活させるか分からないのです」


 ナフィーサも、厳しい顔でアルレッキーノに向かい合う。部屋に険悪な空気が流れる。


「ロゼッタを治しに行く時間もねぇのかよ!」

「その様に申しているのです」

「あんなに……あんなにボロボロになって、必死に俺たちを守ってくれたロゼッタを、置いていくつもりか!?」


 先ほどから二人が意見をぶつけ合っているのは、次の目的地についてだった。

 ロゼッタの完全に直すためには、砂漠を北西に越えた先にある機械産業の街、ギアラーンに行く必要があった。

 しかし、ギアラーンはこの国の端にあり、ここに向かえば他の地脈装置のある場所からは遠く離れてしまう。その為、ギアラーンに向かうことを、ナフィーサは頑なに反対しているのだった。


「残念ですが、そうです。私には絶対に失敗できない使命があります。ロゼッタさんには、使命が終わるまでここに残ってもらって――」

「俺には妹の方が大事なんだよ。そこまで姫さんのわがままに付き合うつもりはねぇ!」


 アルレッキーノの言葉に、ナフィーサは彼のことをきっと睨んだ。


「あなた方は、私の使命達成への協力という依頼に対して、契約したのでしょう? 私の依頼が優先され、例え負傷などで離脱者が出たとしても、依頼の達成に最善を尽くすはずでは?」

「最善が妹を使い捨てるってのか!?」

「あなたもプロなら、プロらしい思考をしてくださいと言っているんです!」

「なんだと!?」


 憤慨したアルレッキーノが、ナフィーサに詰め寄ろうとすると、彼の前にサイードが立ちふさがった。 睨み合う両者。


「落ち着け、アルレッキーノ」


 メリッサが2人の間に入り、アルレッキーノの肩を掴んで諭す。しかし、アルレッキーノの怒りは収まらない様子で、メリッサにも吠え付いた。


「お嬢! お嬢は、ロゼッタを置いてゆくことが最善だって言うんですかい!?」

「そんなことは……」

「我は最善だと思うがな」


 言い淀んだメリッサの後ろから、クロードが口を開いた。


「何だと!? クロードてめぇ!」

「やめるんだ! アルレッキーノ! クロードも!」


 クロードに掴みかかりそうになるアルレッキーノをメリッサが止める。制止するその手には、ぐっと力が入いっていた。


「ちっ……」


 そこに彼女の感情の機微を見たアルレッキーノは、クロードを睨み付けながらも大人しく下がった。


「あの、ナフィーサ様」


 メリッサは、サイードとその後ろにいるナフィーサを真っ直ぐ見つめて言った。


「どうかもう一度、再考していただけませんか?」

「考えは変えません。それにロゼッタさんは、ゴーレムなのでしょ? でしたらパーツがあれば直るのですから、そんなに急ぐことではないでしょう。しかしダガフの起動阻止は、急務なのです」


 ナフィーサの口から出た言葉が、その場を凍り付かせた。


「申し訳ありませんが、ロゼッタの離脱により依頼の達成が困難になると判断し、契約破棄をさせていただかなければなりません」


 そう答えるメリッサの表情と声が厳しいものへと変わった。それに対してサイードが割って入ってきた。


「莫大な違約金が発生してもか?」

「はい」


 その問いに、メリッサはまっすぐ見つめたまま答えると、サイードは彼女の視線に表情を変えることなく、さらに言葉を続けた。


「白銀の腕手、第四回収班……万年Dクラスのお前たちが、ソロモン王が封印したとされるダガフなんて大物を見逃していいのか?」

「なぜそれを!?」

「私も親衛隊の隊長だ、独自の情報網ぐらいある」


 秘密組織であるはずの白銀の腕手の存在だけでなく、自分達のことまでばれている。サイードの目は本気だった。この時メリッサは、アジーナ村で見た彼の不審な動きの理由に合点がいった。


「そして、この国に他の回収班が拠点を置いていることも調べはついている。お前たちがこの件から降りると言うなら、その回収班に繋ぎをとるだけだが……手柄が欲しいのだろう?」


 そこまで見透かされている。メリッサの眉間に皺が寄った。

 メリッサが言葉に詰まっていると、そこにロゼッタが言葉を発した。


「お嬢様、それにお兄ちゃん。私は大丈夫だから、気にせず行ってください。この国の一大事なんだし、第四回収班にも大きな仕事です。わたし、みんなの脚を引っ張りたくないです」


 あり合わせのパーツで、継ぎはぎだらけのロゼッタが発する言葉に、メリッサもアルレッキーノも胸が締め付けられた。


「当の本人もこう言うのです。もう議論はいいでしょう。明朝には、地脈装置のある次の街に向けて出立します。話はこれで終わりです」


 ナフィーサは、無理やり話を終わらせると、席を立って自分の部屋へ戻ろうとした。

 その態度にアルレッキーノが、彼女の背中に敵意を込めた言葉を投げた。


「あんた言ってたじぇねえか、『目的の為に人の命を奪うのは、大臣と変わらないと思う』って。あれは何だったんだよ! 例え命が掛かってなくても、自分の目的の為には、犠牲も厭わず、顧みもしないなんて、それだってアクバルと変わらねぇよ!」


 ナフィーサは、何も答えることなく部屋を出て行き、サイードも彼女に続いた。

 ばたりと閉まる扉の音だけが、静かな部屋に響いた。




「……サイード、少し一人にさせてください」


 通路を歩くナフィーサが、後ろに続くサイードに言った。


「しかし……いえ、かしこまりました」

「ありがとう……」


 彼女の声に感じ入るものがあったサイードは、そこで立ち止まり、歩いてゆくナフィーサを見送った。

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