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決死のメカニック

 作業部屋で、ロゼッタの修復を行っていたアルレッキーノのもとに迎えが来たのは、アスタロトの指示から数分後のことだった。

 砂嵐を発生させる装置の修理について、迎えの男から話を聞いて、アルレッキーノは悩んだ。

 男は切羽詰まった様子から事態が緊急であることは分かったが、自分には妹の修理がある。なにより、木傷ついた妹を1人にしたくなかったのだった。


「行ってきて、お兄ちゃん」

「……ロゼッタ」

「私のことは気にしないで、それに、まずはここを守らないと、私の修復も何もないでしょ?」


 アルレッキーノは、ロゼッタをじっと見つめた。そして、ふと笑って言った。


「分かった! この天才のお兄ちゃんが、ちょっくらみんなを救ってくるよ!」

「うん!」


 出口へと歩いてゆく兄の背中は、頼もしく、大好きな背中だった。

 人の体だった頃は、この背中を見るのが嫌いだったのに……

 兄の背中を見る時、それは自分の傍から兄が去る時で、独りぼっちに戻る合図だったから。

 しかし、ゴーレムの体なって白銀の腕手に入ってからは、兄が何かに真剣に取り組んでいる時に、後ろからその背中を見るようになった。そんな時の兄の背中は、頼もしくて格好いい。

 だから今は、自分の傍を離れる時でも、その時見える兄の背中が好きだった。


「行ってくる。すぐに終わらせてくるからな!」


 そう言い残し、アルレッキーノは、作業部屋の扉をしっかり閉めた。

 男から渡されたガスマスクを着用し、案内されながら迷路のような遺跡内を走って裏口へと向かう。

 裏口に着くと、装甲車が止まっているのが見えた。ドドドと重いエンジン音を慣らして待機している。アルレッキーノは案内されるままに、装甲車の後部座席に搭乗する。


「ほっほっほ、また会ったのぉ、アル」


 隣には知っている顏。ニコニコと笑うカシムが座っていた。


「カシムの爺さん、あんた大丈夫か?」

「なに、手は動かんが、サポートは出来るぞ。なんせ、砂嵐の壁のシステムは、わしが作ったんだからのぉ」

「本当か!? いやいや、そうじゃなくてだな――」


 アルレッキーノが言いかけた所で、装甲車が一気に走り出した。急激な加速に、ぐんっと思い切り後ろに引っ張られる。

 装甲車が波打つ砂の上を跳ねながら進むので、車内のアルレッキーノも上下に激しく揺れた。軽いカシムなどは、何度も浮いたり落ちたりしている。


「うわあぁぁぁぁ!」

「ほっほっほ」


 車内に2人の対照的な声が響いた。

 砂嵐の発生装置は、遺跡の外をぐるっと囲む様に、地下に設置されている。その装置の円の一角に、遺跡からの遠隔操作を受けて、砂嵐の出力や動きを管理するメイン装置がある。今、アルレッキーノ達が向かっているのは、そのメイン装置である。


 車でなら1分と掛からない距離ではあるが、メイン装置は遺跡の外にあり、また、砂に埋もれた地下に続く扉を開ける必要があった。

 その点に、アルレッキーノがカシムに言いかけた心配ごとがあった。なぜなら、悪路だけなく、そとに出ればアポリオスの襲撃もあるからだった。


 彼の懸念通り、走り始めた装甲車に向かってアポリオスたちが襲い掛かってきた。しかし、数は10匹程度と多くない。

 同乗していた盗賊の1人が、車のサンルーフから身を乗り出して、屋根に搭載されている機関銃で撃ち落としてゆく。

 さっきまで老人のカシムは大丈夫だろうかと案じていたつもりだったが、今、車内で半泣きで叫んでいるのはアルレッキーノの方だった。


 ガンッ!


「ひっ!」


 横の窓ガラスにアポリオスが衝突し、アルレッキーノが悲鳴を上げた。

 装甲車はグシャグシャと嫌な音をたて、衝突して地面に落ちたアポリオスをひき殺して走り続けた。


 少しして、車が止まった。


「着いたぞ、急げ!」


 乗っていた男たちが、ドアを開けて一気に外に出た。一人が先行して地下に続く扉を開けに行き、残りでアポリオスを食い止める。アルレッキーノとカシムは、車内で待機していたが、すぐに声が掛かった。


「カシム爺さん、乗ってくれ。あと、あんたもついて来い」


 ドアの近くで背中を向けて屈んでいる盗賊の1人に、カシムが負ぶさると、彼を背負った男は地下の入り口へと急いだ。

 アルレッキーノも、背負われるカシムの後に続いて走った。後ろからは、けたたましい銃声と気味悪い羽音が聴こえ、生きた心地がしなかった。


 彼らが地下に入ってすぐ、食い止めていた男たちも入り、扉を閉める。

 分厚い金属の扉には、外からアポリオスが何度もぶつかり、その後ガリガリと噛みつく音が聞こえ、気味が悪く、恐ろしい。


「この分厚い扉でも、1時間もすれば食い破られてしまうだろう。急ごう」


 負ぶわれたままのカシムが壁に手を触れると、地下への階段に明かりがついた。

 アルレッキーノは、扉に響く音にぞっとしつつ、カシム達について地下への階段を下った。


頑張れお兄ちゃん!

負けるなお兄ちゃん!


でも、次回はお兄ちゃんの活躍ではなく、忘れられてる王女様のお話です。

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