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それぞれの策

 砂漠を渡る準備に色々と買い物する中で、店主や客など色んな人間に遺跡について聞いたが、皆、保存食の店の店主と同じ様な事を言った。

 ドラゴンを飼っている盗賊。彼らが遺跡を根城にしていて、その遺跡は砂嵐で守られているといった内容だ。

 ただ、1つだけ興味深い情報を得ることが出来た。それは、盗賊が襲撃するのは、軍の輸送物資だけということであった。


 メリッサ達が今いるアヂーナには、軍の駐屯地が隣接している。この駐屯地には、定期的かつ頻繁に行う役目があった。それは、砂漠の向こうへ物資の補給をすることであった。

 砂漠を北に超えると、国境があり、国境沿いに要塞都市ガダイがある。アヂーナ村の駐屯軍は、補給物資をそのガダイへ砂漠を越えて輸送するのである。


「軍の輸送物資のみが狙われるか。それで喫茶店にいた兵士たちは怯えていたわけか」


 ランプの下、美味しそうな食事を前に、メリッサが顎に手を当てて行った。

 聞き込みしながらの買い物が終わる頃には、夕方になり、遺跡への出立は明日にすることにした。買い物に時間がかかってしまったのは、お城育ちのナフィーサが何でも物珍しがって、あれやこれやと見て回ったことが大きい。

 今は、夕飯は取る為、大衆食堂で食卓を囲んでいる。


「しかし、ドラゴンに砂嵐の壁とは、遺跡に入れねぇじゃねぇですか。あ、お姉さん、いつお店終わる? 良かったら閉店後、二人で星を見ながら1杯――痛て!」

「ふん! 確かにお兄ちゃんの言う通り、難しいですね」


 料理を摘まむのと同じ様に自然に、ウェイトレスをナンパするアルレッキーノ。その彼の横腹を、ロゼッタが机の下でつねった。


「サイード、貴方の魔法障壁を展開しながら進むのはどうですか?」

「申し訳ありません、ナフィーサ様。私の魔法障壁では、砂嵐を抜け切る前に魔力が尽きてしまいます。それに、その状態ではドラゴンと戦うこともできません」

「そうですか……」


 皆の料理を食べる手が止まり、難しい顔をして考え込んだ。そんな中、クロードがおもむろにメリッサに向かって口を開いた。


「おい、村の人間に聞いた情報の中に、ドラゴンが輸送用のコンテナを奪っていくとあったな、いや、ありましたな?」


 いつもの依頼人の前での猫かぶりを思い出し、妙な敬語になってしまった。


「ああ、輸送用のコンテナをドラゴンが掴んで奪ってゆくらしい。盗賊たちが車でやって来て、兵士たちを無力化し、ドラゴンでコンテナごと奪うとか。ゴーレムなどの重兵器が警護に当たっている場合は、ドラゴンも戦闘に――」

「あ、それ以上は長そうなんで、もういいです」

「なっ!? お前が聞いたんだろ!」


 憤慨するメリッサを無視して、クロードが話始めた。


「遺跡への侵入はなんとかなりそうです。入れないなら、入れてもらえばいいんですよ」

「入れてもらう……ですか?」


 ナフィーサが聞き返した。


「はい。コンテナを丸ごと持って行くなら、そこに紛れ込むのです。ちょうど明日、物資の輸送があるようですしね。そして、ドラゴンに砂嵐の向こうに運んでもらい、隙を見て遺跡に入って装置を止めましょう」

「盗賊に見つかったらどうするんだ? それに帰りはどうする?」


 むすっとした顔で、メリッサが指摘した。まだ怒りが収まらない。


「その時は戦います。我々が戦っているうちに、ナフィーサ様に装置を止めてもらいます。帰りは、盗賊の頭を人質にでもして、砂嵐を止めさせるか、ドラゴンを使って運ばせるかすれば済みますよ」

「ナフィーサ様をそんな危険な目に――」

「やりましょう。他に策がないんですし」


 今度はナフィーサに言葉を遮られ、唖然とするメリッサ。彼女の反対も虚しく、鶴の一声で作戦は決まった。

 策が決まったことで士気を上げ、再び料理を食べ進める。そんな彼女たちを、梁に張り付く1匹のトカゲが、その特徴的な青い目でじっと見つめていた。



 ♦  ♦  ♦ 



「なるほど……こちらも策は決まった」


 そう呟く男の首筋には1匹のトカゲがとまっていた。辺りを伺っているのか、青い目をギョロギョロと動かしている。

 男は、全身黒い服に身を包み、同色のマフラーを撒いて口元を隠し、ターバンを巻いている。この国では、一般的な正装だが、黒ずくめのそれは、異様な雰囲気を放っていた。

 露出する目は、切れ長で、見る者に威圧感を感じさせるほどに鋭い。


「お頭?」


 男の背後には、彼と同じ様に黒ずくめの男が2人いた。ひょろりと長身の男と背の小さい男だった。 

 長身の方が、トカゲの這う男に問いかけた。


「うむ。ギドよ、プランはDでゆくぞ。ディンもよいな?」

「かしこまりました」

「はっ」


 お頭と呼ばれた男とギド、ディンは、今、アヂーナ村の軍駐屯地の門前に来ていた。


「おい! 貴様ら、この先は軍の駐屯地だ。関係者以外進入禁止だ」


 強い口調で門番が3人を制止する。それに対してディンが一歩前に出て門番に手帳を見せた。

 その黒革の手帳には、金色に山羊の顏の紋章が描かれていた。それを見た瞬間、門番の顔色が一気に変わる。


「し、失礼しました! どうぞお通りください!」


 無言で3人は、門を潜り、駐屯地司令官のいる基地へと向かった。


「これはこれは、ゴートの皆様、はるばるよくいらしてくださいました。えっと……皆様はどういったご用件でこちらに?」


 司令官は、ペコペコとへりくだって黒ずくめ3人のご機嫌を伺う。

 ゴートというのは、サーディール国の秘密警察兼諜報組織の通称で、山羊の紋章からそう呼ばれる。ゴートは国の治安を守るための組織であり、警察機構だけでなく軍に対しても、その権力を及ぼす。


「ふふ、アリー司令官、そう身構えなくてもいいですよ。この度は、あなた方駐屯軍が手を焼いている

 ドラゴンの討伐に協力するために来たのですから」


 お頭が自ら、司令官に話しかけた。


「へ? ドラゴンですか? そ、それは願ったりですが……また、どうしてゴートが?」

「ドラゴンの存在が国の為にならないと、当局により判断されたからです。それ以上は……あなたは知らなくていい」

「は、はい! 分かりました! それで、私達駐屯軍は何をすれば?」

「話が早くて助かります。それでは――」


 マフラーとターバンの間から見える彼の目が、ギラリと光った。まるで、彼の肩に乗るトカゲの様に、鋭く冷たい目に、アリー司令官は、背筋が寒くなるのを感じた。

 ゴートの策謀をはらみつつ、アヂーナ村の夜は更けてゆく。


登場人物が増えてきましたね。

人物紹介その2を立てようと思います。


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