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旅の準備

 後ろの席の兵士たちの会話からドラゴンという興味深い単語が聞こえ、メリッサ達は聞き耳を立てていたが、その後は職場の愚痴や上司の悪口などで、これといった特別な話を聞くことはできなかった。

 その後、兵士たちは30分ほど、飲み食いしつつ駄弁ってから店を出て行った。


「はぁ、ドラゴンかぁ、遭遇したくねぇな」


 アルレッキーノがやれやれといった具合に、肩をすくめて言った。


「そうだな。謎の多い生き物だが、どの記録でも、凄まじい力を持っていることは共通しているからな。遭遇して戦闘など避けたいものだ」

「ふっ、ドラゴンか、我は会ってみたいものだがな」


 アルレッキーノに同意するメリッサの隣では、腕組みをするクロードが自信ありげに鼻を鳴らした。


「まぁ、装置の場所がドラゴンの巣ってわけじゃないんですから、今回はドラゴンのことは別に考えておきましょう、お嬢様」

「ロゼッタの言う通りだな。ところで、えっと……ナフィーサ様、地脈の装置の場所を分かっているようですが、何か手がかりでもあるんですか? 闘技場の地下で『文献通りだ』と仰っていたのを聞きましたが」


 メリッサは、まだ王女を名前で呼ぶことに抵抗があり、ぎこちなく語り掛けた。


「ふふ、呼び捨てでもいいのですよ」


 ナフィーサは小さく笑った。その後、きょろきょろと周りに人がいないことを確認してから、古びた一冊の手帳を鞄から取り出し、机上に置いた。ページを捲って中身を皆に見せる。

 そこにはびっしりと文字や図が書いてあった。


「これは、古代兵器ダガフについて書いた文献の写しです。文献の原本はサイードの一族が秘蔵していたものです」


 ナフィーサの言葉に、サイードが口を開く。


「私は、この国に古くからある一族の末裔なのだ。

 ナフィーサ様が大臣の計画を知ってしまい、それを阻止したい相談された時は驚いたが、ダガフの存在については一族の文献で読んだことがあったからな。あんなものを大臣に使わすわけにはいかないと思い、ナフィーサ様にご協力することに決めたんだ。そして、文献を手帳に写し、ナフィーサ様に献上した次第だ」

「そういうことだったんですか。それで、手帳によると、次の装置の場所は?」


 メリッサは頷くと、ナフィーサの手帳に目を移した。ナフィーサは手帳ではなく、地図を取り出し、指さして言った。


「マハラ砂漠の西、えっと……この辺りですね」

「今いるアヂーナ村がここだろ……うわぁ、きっついなぁ! かなり遠くじゃん!」

「はい! ですので、食料などの準備も万全にして、砂漠にいきましょう」


 渋い顔をするアルレッキーノとは対照的に、ナフィーサはやる気満々の表情で、両手でぐっと拳を通って見せた。がっくり肩を落とすアルレッキーノを尻目に、皆ぞろぞろと席を立ち、喫茶店を後にした。



 初めに訪れたのは、干し肉や缶詰など保存食を扱う店だった。その店は比較的こじんまりした店で、内装もお世辞にも綺麗とは言えなかったが、地元の人間によれば、この店は保存食専門店の老舗で、質、味ともに村一番なのだという。


「……いらっしゃい」


 カウンターの向こう側に座る老人がしわがれた声で迎えてくれた。愛想は良くない。

 皺だらけの顔に、目だけがギョロっとしていて、長い髭を蓄えた翁だった。いかにも老舗の主人といった感じだ。

 サイードが店内をぐるりと見回して言った。


「じいさん、なかなかいい品が揃っているな。このミドリイワキジの肉をちゃんと燻製にできる職人がまだいたとは」


 野戦や砂漠での従軍の経験豊富な彼は、保存食の作り方にも精通していて、その良し悪しもよく分かった。

 サイードが率先してあれこれと主人に注文を出してゆき、時折、保存食の職人の技が光る部分を褒めてゆく。


「お前さん、若いのになかなか知ってるな。ちょっと待ってな、上物のホブの実の塩漬けがあるから、それももってけ」


 職人としての技術の高さを分かってもらえたのが嬉しかったのか、無愛想だった主人は、最後には上機嫌でおまけまで付けてくれた。

 買った保存食を纏めてもらっている間、サイードが主人に世間話を持ち掛ける。


「じいさんよ、あんたこの村は長いんだろ? ちょっと砂漠のことで聞きたいんだけどよ。砂漠の西の方に遺跡みたいな古い建築物はないかい?」

「西か、そうさな……いくつかあるな。なんせこの辺は遺跡巡りの観光地だからな」

「この辺なんだけどよ」


 サイードがカウンターに地図を広げ、指差した。


「ここって……お前さん、ここには行かない方がいいぞ」


 主人は驚いた様に、サイードの顔を見て言った。


「それはまた何でだい?」

「いや、正確には行けないって言う方が正しいな。確かに、この辺りには岩山をくり抜いて作った立派な遺跡があるんだがね、数年前から盗賊の根城になっちまってるんだよ」

「盗賊? 軍は何やっているんだよ。そんな奴らすぐ排除できるだろうに」

「それがな、その盗賊は、なんとドラゴンを従えているんだよ」


 再びドラゴンという単語に、近くで主人の話に耳を傾けていたメリッサ達の表情が曇った。


「そいつのせいで軍も返り討ちさ。奴らは、ドラゴンを使って砂漠を渡る物資を奪っていくんだ。しかも、根城の遺跡の周りには、強力な砂嵐がずっと吹き荒れていやがるから、攻め込むこともできねぇのよ。俺が思うに、ドラゴンのとんでもない力で、根城を守る為の砂嵐を作り出しているんだぜ、きっと」


 軍人ではない主人は他人事なのか、何とも楽しそうに語る。


「じいさん、なんか楽しそうだな」

「へへ、そうかい? まぁ、ドラゴンってのが出ると、昔から勇者気取りのドラゴンを討伐したい奴がわんさか沸くんだよ。そのおかげで、俺たち商人は儲かるからな、楽しそうにもなるかもな」


 主人はしわくちゃな顔を、更にしわくちゃにして笑った。話が終わるとカウンターに纏めた荷物を置いて、サイードに引き渡し、そして付け加える様に言った。


「ただ、あんたらはドラゴン目当てでもないんだろ? 遺跡巡りが目的なら、あそこには近づかない方がいいぞ」

「そうかい、面白い話も聞けたし、ありがとうよ」


 サイードは荷物を受け取り、店を出た。メリッサ達も彼の後に続いた。

 他の店に向かって通りを歩く中、サイードの隣を歩くナフィーサが、彼を見上げて言った。


「サイードもあんな風に、市井の者と同じ様な喋り方が出来るんですね」

「いやはや、お恥ずかしい。ああいった場所では、市井の者と同じ喋り方の方が隔たりなく、色々と話してくれるんですよ。場合にもよりますが、値引き交渉などの際にも有用ですね」

「なるほど。では、次の店では私が店主と話してみましょう」

「あ、いや、買い物は私にお任せください」

「なぜですか? 私には荷が重いと?」


 ナフィーサから、じっとっとした目を向けられたサイードは、目を泳がせ一所懸命それらしい理由を考えた。


「えっと、そういうわけではないのですが……」

「では、なぜですか?」

「あ、いけない! 買い忘れがありました! 私は戻って買ってきますので、ナフィーサ様たちは、この先の医療品の店に向かっていてください」


 サイードはわざとらしく声を上げると、ナフィーサの返事も待たずに、そそくさと人混みをかき分けて行ってしまった。

 ナフィーサは納得いかない表情で嘆息すると、医療品店に向かって歩き出し、他も彼女に続いた。

 ただその時、皆が前を向いて歩き出す中で、メリッサだけは人混みの隙間から妙なものを見てしまった。


 それは、フードを深く被った人物に誘われ、サイードが先ほどの店の方向とは違う路地に曲がっていくところだった。

 売り込みに勧誘でもされたのだろうか。

 メリッサはその行動が気になり、彼が消えた路地をしばし見つめていたが、アルレッキーノの呼ぶ声に応えて歩き出すと、今見たサイードのことも頭の中から消えていた。


さてさて、サイードさんは何をしてるのやら

次回をお楽しみに~

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