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王女の歌

「……え? ちょっと待って……わたしがもう1人?」


 シアが目を丸くしてパチパチと瞬きしながら、王女を指差して言った。

 同じような反応を周りにいるメリッサ達もしてしまう。

 それほどに皆が驚くのも無理もなかった。

 シアと王女は髪型が違うだけで、全く瓜二つだったからである。


「ふふ、やはり驚かれますよね。私もあなたの写真を見たときは、とても驚きました」


 王女はクスクスと口に手を当て、上品に笑った。


「ただ、今は時間が惜しいので、話を進めさせて頂きます。まずは、助けていただいたこと感謝致します。そして、その上で、どうか私にご助力のほどお願い致します」


 そう言うと、一度、息を吸ってから声の調子を落として言葉を続けた。


「この国の命運が係っているのです」

「殿下!? その様な大事を見ず知らずの者たちに――」

「よいのです。この方々ほどの実力者はそうはおりますまい。私は決めたのです」


 ぴしゃりとサイードを遮ると、王女は「お願い致します」と言って、先ほど観客たちが彼女に捧げたのと同じ、最敬礼をメリッサたちに送った。

 その行動に、サイードをはじめ、メリッサたちも恐れ多くて慌てていると、また1人、割り込んでくる人間が現れた。


「待ってくださあぁぁい!」


 大声の主は、シアのマネージャーであるリーサだった。

 彼女は、戦闘が終わり、誰もいなくなった闘技場が安全と分かると、舞台袖からシアを追いかけて客席を走ってきた。

 メリッサたちの手前で派手に転んだが、なんとかこちらまでやって来て、ぜぇはぁと息をしながら言葉を発する。


「はぁはぁ……なんか……はぁ、契約がどうこうって話が聞こえたんですけど……ぜぇ、はぁ……契約関係は、マネージャーの私を通してださい!」


 息も絶え絶えの状態であったが、その後シアから事の概要を聞くと、急にシャキッとなり、敏腕マネージャーの本領発揮とばかりに、サイードとの交渉に応じると言い出したのだった。

 どうやら、シア側にもこの交渉によっては、旨味があるらしい。シアは納得いかない様だったが、まずは王女側の詳しい話を聞くこととなった。


「先ほど、この国の命運が係っていると申しましたが、これは国の支配を目論む悪しき人間がいるからなのです」

「支配ですか。その人物とは?」


 メリッサが質問した。


「それは、私の叔父、大臣のアクバルです」

「大臣が?」

「はい。アクバルは、近々クーデターを起こし、王の座を奪う計画を立てています。そして、計画の邪魔になる私を……消すつもりです」


 王女の声が微かに震え、緊張と恐怖を帯びていたが、それでも気丈に話を続けた。


「……ライブの際、VIP席が爆発しましたね? あれは、VIP席の警護に当たっていた兵士の1人が爆弾を使って自爆したためです。その兵士もアクバルの手の者で間違いありません。その後の大きなゴーレムも大臣が差し向けたのです」

「もしかして、わたしの命が狙われてるのも、その大臣に関係あったり?」


 黙って聞いていたシアが口を開いた。その時出た言葉は、彼女が何げなく思ったことだった。

 シアは理由も分からず狙われていたが、ライブ会場で自分と同時に王女も狙われた状況に、自分が狙われる理由も彼女と関係があるのではと、ふと思ったのである。


「わかりません。でも、私もあなたも同時に狙われるなんて、タイミングとしては出来過ぎています。ですから、もしかすると、あなたもアクバルの計画に邪魔な存在なのかもしれません……」

「何よ、それ!」


 シアは怒りで顔をしかめた。


「シアが狙われる理由は分かりませんが、殿下が狙われるのは、クーデターの計画を知っているからというだけではなさそうですね。先ほど使命があるとおっしゃっていましたが」


 メリッサが質問すると、王女の表情はより神妙なものとなり、こくりと頷いた。


「はい、理由はそれだけではありません。これから、その使命の一部を果たしに行きますので、着いてきてください。実際にみてもらった方が信用して頂けると思いますから」


 そう言う王女の後について、観客席にから階段を下り、地下階の控え室などが並ぶ廊下に至った。

 王女に誘われるままについてきたメリッサ達は、何故こんなところへ? という疑問が湧く。確かに古い闘技場だ。王女の使命に関係ある何かがあることは想像に難くない。

 しかし、いったい何を自分達に見せようというのか。


 「ここですね……」


 王女は、その廊下の真ん中で止まると、複雑な模様で飾られた壁の一ヶ所に手をかざした。

 すると、ゴゴゴと音を立てて壁の一角が後ろにさがったかと思ったら、引き戸の様に独りでに横に動いて、その奥に下階に続く階段が現れたのである。なんとも仰々しい仕掛けだ。


「こちらです」


 王女に誘われ、古い石の階段を降りていく。その途中、王女がおもむろに話を始めた。


「大臣のアクバルは、封印された禁断の存在、“ダガフ”を甦らせ、その力でこの国を自分の思うままに支配するつもりでいるのです」

「ダガフ!? 神話に出てくる、あの魔物になった暴君ですか!?」


 メリッサは、驚いてやや声が上ずってしまった。


「いえ、神話のダガフではございません。あれは、いわばおとぎ話、実在しませんよ。でも、関係はございますね。

 私が申したダガフとは、古い兵器の名前なのです。

 この兵器が作られたのは、この国がソロモン王に征服される少し前のことです。当時の王、シャルマン8世は、自分に逆らう部族や都市の人間に対して、精神に干渉し、王に絶体服従させる兵器を作らせました。

 その兵器は、まるで民を服従させる暴君。それ故“ダガフ”と呼ばれたのです」


 石で囲まれた狭い階段に、王女の声は小さくともよく響いた。


「その後、ダガフは、ソロモン王がこの国を征服する際に、ソロモン王自身によって封印されました。しかし、大臣のアクバルは、それを再び目覚めさせようとしているのです。

 封印されたダガフの本体は、霊峰イリギエ山に眠っており、今もアクバルが秘密裏に発掘させています。全て発掘し終わるのも時間の問題でしょう。

 ダガフの起動を止められるのは、私しかいないのです」

「それは、殿下でなければ出来ないということですか?」

「その通りです。私にだけ、ダガフを止める“力”が備わっているのです。ですから、ダガフの起動阻止は、私の使命なのです。そして、これからその“力”をお見せします」


 隣で階段を下りながら、メリッサが王女を見るとその眼差しは力強く、覚悟と使命感が伺えた。

 この少女は途方もなく壮大な使命を抱えているようだ。たった今会ったばかりだが、嘘は言っていないと分かる。

 ソロモン王が自ら封印したという古代兵器、それは白銀はくぎん腕出かいなでとして動かなければならない案件だろう。しかし、それ以上にこの少女を助けてあげたい。

 メリッサの中で、持ち前の正義感が首をもたげた。


 ほどなくして階段が終わり、石でできた荘厳な扉の前に着いた。この扉も王女が手をかざすと、重い音を立てて、独りでにゆっくりと開いた。

 扉の中は、床も天井も石を組んで作られたドーム状の不思議な空間が広がっており、メリッサ達全員が入っても余裕のある広さである。

 そのドーム状の部屋の中心に、目を引く巨大なものがあった。


「おお! なんか綺麗だ!」

「ほんとだ!」


 はしゃぐシアとヴァルの視線の先、暗い部屋の中央に、淡い光を放つ巨大な柱がそびえていた。そして、その柱を中心に、床には大規模な魔方陣らしき模様が描かれており、柱に呼応する様に、それも光を放っている。

 柱と魔方陣の光で部屋は照らされ、幻想的な雰囲気を放っていた。

 メリッサ達が、部屋の雰囲気に圧倒され、キョロキョロと辺りを見回していると、王女が1人、先に歩みを進めた。


「文献の通りだわ……」


 メリッサの耳に王女の呟きが聞こえたが、その言葉に反応する前に、王女が振り返り、今度は皆に聞こえる様に言った。


「魔力の素がマナであり、そのマナの大きな流れを地脈と呼びますが、この柱は、その地脈の流れを強引に変えてダガフに向けて流す装置です。

 今は、ダガフ本体は封印されているので、この装置が動いていても意味を成しません。しかし、ダガフが起動すれば、この装置を使ってマナを地脈からマナを吸い、精神干渉魔法を発動させるでしょう」


 再び王女は、柱の方に向いて言葉を続けた。


「アクバルは、この装置の存在も、私だけがこの装置を止めることが出来ることも知っています。ただ、装置の場所までは知りません。ですから、今のうちに装置を止め、地脈とダガフの繋がりを断ち、アクバルの計画を挫くのです」


 そう言うと、王女は目を瞑り、大きく深呼吸した。

 これから彼女が持つ“力”を使うのだろう。雰囲気から、皆がそれを悟り、固唾を飲んで見守った。


 少しの静寂があってから王女は目を開くと、光る柱を見据え、口を開き、そこから美しい声で歌を紡いだ。

 

 誰も知らない言葉による歌だった。

 歌う本人にすら歌詞の意味は分からない。

 しかし、その美しい歌は、聞く者の体をすり抜け、魂を掴んで揺する、そう表現するのが適格と思えるような不思議な力と魅力を感じるものだった。

 この歌こそが、ナフィーサ・ファド・サーディールに備わる“力”だった。


 十数小節、時間にして30秒にも満たない歌が終わった。

 メリッサ達は、歌が終わったことも気付かないほど、聞き入っていた。

 そんな余韻に浸っている最中、突然、柱と床の魔法陣の光が消えると、天井の石の一部が光り出し、ほの暗かった部屋全体が一気に明るくなった。その突然の変化で初めて、メリッサ達は我に返った。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 今度は大きな音を立てて、光を失った柱が真ん中から2つに割れた。

 そして、その割れた柱の間から、キラリと光る小さな何かが飛び出したのである。

 物体は、すぅっと空中を滑り、王女の頭上で止まると、彼女の差し出した手の上にゆっくりと降りてきた。

 親指の先ほどの青く透き通った球体だった。王女はそれを袋にしまうと、メリッサ達の方に向き直って言った。


「これで、この装置は停止できました。あと4つ装置はあります。1つでも残れば、ダガフの起動は阻止できません。

 どうか、この国を守る為、私にお力をお貸してください」


 再び、最上の敬意を示す王女。

 彼女の話を聞いた後では、この礼は尽くした態度が、極めて切実な状況にあることの表れだと感じられた。

 王女が頭を下げてまで助けを求める程の一国の危機、そして、ソロモン王が封じたという古代兵器。

 もはや、白銀の腕手の第4回収班が動くべき案件であることは、他の人間にも明らかだ。

 こうして、メリッサたちは異国の地で、魔道遺産を巡る大きな事件に巻き込まれていくのだった。


やっとあらすじの内容を全部回収しました。

さぁ、冒険だぁ!

と行きたいところですが、次回は別サイドのお話です。

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