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騒乱を呼ぶライブ(3)

 敵の包囲を抜けたヘルマンは、メリッサたちの方が片付く前に闘技場の1階から客席に上り終えていた。

 背負っている愛用の大剣を留めているベルトを外すと、ズンっと重たい音を立てて、彼の背中から滑り落ちた得物が地面に突き刺さった。


 ヘルマンはその柄を掴んだ。

 使い慣れた愛剣が手に吸い付く様に良く馴染むのを確認すると、客席を疾走した。

 デスマスクに向かって行く途中、そのコンテナから出てきた兵士がヘルマンに気付いて襲い掛かろうとするが、ヴァルの狙撃がそれを排除していく。

 兵士たちの短い悲鳴を聞きながら、遮られることのない道を一気に直進した。


「敵、歩兵、数1! 急速に接近してきます!」

「こちらの兵士はどうした!?」

「全員、狙撃で排除されています!」

「なに!? 対人火器で迎撃しろ!」


 デスマスクの中では、思いがけない状況にあわただしく指揮官が(げき)を飛ばす。

 王女を守っている騎士に対して今まさに火を吹いている機銃とは別の機銃が、ヘルマンに照準を彼に合わせた。

 照準器の十字が、駆けるヘルマンを捉える。

 敵の兵士が機銃の引き金を引こうとした瞬間、ダンッと機体に衝撃が走り、機銃が引き金に反応しなくなった。


「機銃、被弾! 損壊しました!」


 ロゼッタの対ゴーレム用ライフルが、ヘルマンに向いていた機銃を撃ち抜いていたのである。機銃は爆発し、黒焦げたスクラップに変わった。

 その後も、ヴァル、ロゼッタの2人に、次々と撃ち抜かれてゆく兵士とデスマスクの対人武装。

 ヘルマンは、開かれた道を走り抜けた。


「はあぁぁ!」


 咆哮するヘルマン。

 振りかざした大剣に埋め込まれたクリスタルが、彼の魔力を吸って光を放つと、刃がキーンという高周波の鳴き声を上げ、超高速の振動を始めた。


「おらぁ!」


 雄叫びを上げて思い切り振り抜いた。


 ギギギギギギーギギギギギー!


 デスマスクの前肢――グレネードランチャーが、火花を上げて真っ2つになった。

 鬼神の如き怪力と鋼鉄も切り裂く剛剣。

 その2つが揃い、重装甲ですら軽々と切断してゆく。

 蟹のハサミの様に2つあったグレネードランチャーの1丁を切り、すぐ様、もう1丁も真っ二つにした。


「デスマスクの重装甲を切断しているだと!?」


 金属が切断される騒音が、パイロットたちの驚愕と悲鳴の声に重なる。

 そのまま、ヘルマンは間髪入れずに、横薙ぎで大剣を振るい、デスマスクの脚を1本、2本と切断してゆく。

 脚を失ったデスマスクが、ズンッと崩れ落ちた。もはや、武装も歩行機能も失い、大きな金属の塊と化したのだった。


「ふう……」


 振動を止めた大剣を地面に突き刺し、ヘルマンは息を吐いた。

 シアを襲う一団は、メリッサが鎮圧したのも見えたし、コンテナに乗せてき歩兵もヴァルの狙撃によって全て無力化したのも分かった。


 ……どうやら終わったな。


 ヘルマンだけでなく、その場の皆がこの襲撃事件の終わりを感じていた。

 その空気が伝わってか、障壁を張って王女を守っていた騎士も、今は障壁を解いて、王女の安否を確認している。

 しかし実際には、まだ事件は終局を迎えてはいなかったのである。


 ――ガクンッ


 突如、静止していたデスマスクが、残った脚も切り離し、腹の部分に仕込んだ車輪で無理やり走行し出したのだ。

 無人の客席を押し潰しながら、猛烈なスピードで王女たちの方へ疾駆する。


『やべぇ! あいつ自爆するつもりだ!』


 無線でアルレッキーノが叫ぶ。

 あわや、王女まであと数メートルかというところで、1人の咆哮が木霊した。


「風よ、吹け!」


 中級以上の魔法に使う固有の詠唱ではない。それは、基本魔法発現の際に言う只の掛け声だった。

 しかし現れたのは、激烈な風が逆巻く巨大な竜巻だった。

 竜巻は、デスマスクを呑みこみ、それを圧倒的な風力で上空高く吹き飛ばした。


 数秒後――


 閃光を放ち、デスマスクが上空で自爆した。

 爆炎の炎がライブの照明並みに辺りを照らしたと同時に、耳をつんざく音の塊がメリッサ達の全身に叩きつけられた。


 音なのか衝撃波なのか、もはや分からないが、会場全体が大きく揺さぶられたほどだ。

 地上で爆発していたら、皆、無事で済まなかっただろう。

 クロードに抱き寄せられながらメリッサはその恐るべき破壊力に肝を冷やした。


「くっ……」


 クロードが、焼け爛れた右手をだらりと垂らした。


「大丈夫か!? クロード!」

「喚くな。しかし、詰めが甘いぞ、愚図めが」

「ああ、すまない。指揮する者として油断があったな。助かったよ」

「……ふん」


 素直に自分の非を認めるメリッサに、クロードは肩透かしを食らったようで、逆に自分の方がばつが悪くなり顔を逸らした。


「ごほん。もう離れてもいいのでは?」


 後ろから不機嫌のそうなマリアが、咳払いをして声を掛けた。


「え? あ、ああ そうだな!」 


 メリッサは飛び退くようにクロードから離れると、あたふたと話出した。


「よし、王女のもとに一端、全員集合しよう。王女も保護しないといけないし、この分だと楽屋の方も安全か分からないしな。シア、それでいいですか?」

「うん、いいよ。しっかし……メリッサとクロードって……へぇ、そうなのねぇ」

「早く行きますよ!」


 にやけた視線を向けるシアを振り切る様に、メリッサは1人足早に王女たちのもとに歩き出した。

 完全に敵勢力の鎮圧したのを確認し、誰もいなくなった客席の一画に集まることにした。


「危ないところを助けて頂き感謝する」


 騎士がヘルムを取って、にこやかにメリッサたちに礼を述べた。素顔の騎士は、キリッとした太い眉と掘りの深さが特徴的な男だった。30歳半ばといったくらいだろうか。


「いえ、むしろ我々が襲われているのに巻き込んでしまった様で、申し訳ありません」


 メリッサは頭を垂れた。


「え? いや、あれは殿下を狙っての犯行で……」

「え?」


 メリッサと騎士の話が食い違い、妙な空気を生む。

 そんな2人の間に儚げな透き通った声が割って入った。


「恐らく、私とそちらの方、両方が狙われたのでしょう」


 その美しい声の主は、王女であった。


「サイード、私は決めました。例の件は、この方々に頼むことにします」

「しかし、あの様な重要なことを……」

「もう決めたのです。それにこの方々の実力はあなたも見たでしょう?」

「……はっ、御心のままに」


 どうやらこの騎士はサイードと言うらしい。王女とサイードは、なにやら話し合っていたが、すぐに切り上げると、サイードが再びメリッサの方を向いて話し出した。


「あなた方の実力を見込んで、頼みたいことがある。実は、王女は極秘かつ重要な使命を負っていらっしゃる。そこで、この使命を果たすまでの間、王女の護衛をしてくれないだろうか?」

「えっと……」


 突然のことに、メリッサをはじめ全員が面食らって戸惑ってしまったが、それに構わずサイードは話を続けた。


「なに、報酬はたっぷり払おう。しかも、王族の護衛だ。使命が果たされれば、依頼のことも公にしてもらっていいぞ。そうすれば、君たちは英雄になるだろうし、警備会社としても王族護衛という拍が付く。きっと依頼は引く手あまただろう、はははは」


 白い歯を見せてにかっと笑うサイードに、メリッサは肩をがっしり掴まれ、ぽかんとした表情のまま話を聞かされるだけだった。

 しかし、そこに少女の大声が割って入った。


「ちょっと待ったぁ!」


 それはシアであった。シアは、メリッサを引っ張るように、サイードから引き離すと、彼の前に立ちはだかった。


「メリッサたちとは、わたしが先にボディーガードの契約をしているの! 勝手に引き抜きしないでくれる?」

「む? なんだ貴様、話の邪魔をするな。こちらはサーディール国第三王女――」

「うっさい! 王女だからどうした! ていうか、あんた、さっきからこのお付きにばっか喋らせて、何様? 助けられた礼くらい自分の口で言いなさいよ。しかも、ベールまで着けちゃって、王族だからって、庶民には顔すら見せられませんっていうの?」

「貴様、殿下に向かってなんと無礼な!」


 吠えるシアに、サイードが掴み掛かろうとするが、「おやめなさい、サイード。そちらのお方が言うとおりです」と言って、王女がこれを制止した。

 そして皆が見つめる中、優雅な所作でベールを取ったのだが、その顔にシアもメリッサたちも驚きのあまり言葉を失ったのだった。



やっと戦闘終わりました~

次回はお話が進みます!

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