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桂かすが短篇集

太陽フレアと復活の魔王

作者: 桂かすが

 その日、数々の古の予言に語られる、世界を滅ぼす恐怖の魔王がついに復活した。

「復活したばかりで世界を滅ぼすにはまるで力が足らぬ。まずは人間どもを混乱させ、恐怖を糧に力を得ん」

 地上に出た魔王は空から人の営みをじっくりと観察した。

「ずいぶんと発展しておるな。これは……雷精の力で遠話まで行っておるのか。ではまずはこれを破壊してくれようぞ」

 最も出来る魔族であるがゆえにすべての魔族を統べる王となった魔王は、即座にこの文明の弱点を見抜いたのだ!

 魔王からの魔力の放出で、広範囲に通信障害が発生した。

「ククク。混乱しておるな」

 人間の発する恐怖は魔王に力を与える。魔物を召喚してもよかったのだが、この人間の数と文明の発達具合からすると、生半可な兵力ではすぐに鎮圧されると考えた魔王は、絡め手で攻めることにしたのだ。

 恐怖する人が多ければ、これでも十分な力が得られるとの計算である。

 思った通り徐々に魔王に力が……

「む? 恐怖の波動が減っていく?」

『過去最大規模の太陽フレアの影響で通信障害が各所で起きておりますが、迅速に復旧作業が――』

『太陽フレアの影響は数日続くと思われます。事態が沈静化するまで国民の皆様はなるべく外出を控え――』

「【太陽フレア】とはなんだ?」

 電波すら傍受する魔王であったが、さすがに復活したばかりでは言語は理解できなかった。

「ちと回りくどかったか。では次だ――人間どもめ、我が力を知れ。我が呪いによって苦しみ、恐怖せよ!」

 魔王の発する呪いは広範囲に及び、人々に頭痛やめまい、体調不良を引き起こした。

「ククク、原因不明の苦しみだ。さぞかし恐怖を……む、意外に怖がっておらんな? 何故だ……」

『太陽フレアの磁気嵐により敏感な人は頭痛や体調不良を引き起こすこともあり、政府は――』

「クッ。では次だ。今度こそ我の存在を――」

 魔王の力により夜空に禍々しいオーロラが現出した。普通ではあり得ない、壮麗で邪悪な、魔王の姿を模したオーロラである。

「うはははは! これならば我が闇の力に恐怖せずにはいられまい!」

『混乱が続く中ですが、御覧ください。夜空にはとても美しいオーロラのショーが――』

「なんということだ。力が増えるどころか失われていくだと……ええい、まどろっこしい真似は終わりだ! 我の究極の魔法でこの地を破壊しつくしてくれようぞ!」

 殺してしまえば恐怖は一瞬。得られる力は小さくなるが、あの目の前にある壮麗な塔の数々を打ち倒してしまえば、人間どもは魔王の力に打ち震える日々を送ることであろう!

 魔王から発せられた強大な魔力は大地を波打たせ大きく震わせた!

 

「うっわ、今の結構揺れたね。震度6はあったんじゃね? これも太陽フレア?」

「んー、関連性あるって人もいるねえ」

「スマホも通じないし、明日は会社休みかな?」

「そんなわけないだろ。オーロラ見物ももういいだろ。帰って寝るぞ」


「馬鹿な馬鹿な……あれほどの高さ塔がただの一つも倒れてないだと!? 力が……力が失われていく……」

 日本の誇る耐震設計の建築群は、震度7にすら耐えるのだ!


「そういえばネットで今日世界が滅びるって予言がかなり前から流れてたよね。それが今回の太陽フレアに被ったんでちょっと期待してたんだけど、大したことねーのな」

「被ったのはたまたまだろ。それにお前は会社をさぼりたいだけだろーが」

「あー、働きたくない。働きたくないないでござる」


 こうして復活した魔王はまた人知れず再び眠りについたのであった。終わり。








「あれ? 眠れぬ」

 なんと力を失いすぎた魔王は再びの眠りにつくことすら出来なくなっていたのだ!

「しかもなんだ、この体は!?」

 豊満な胸はぺったんこに。長身でスレンダーなボディはちんちくりんに!

「力を失いすぎたせいか? ……まあよかろう」

 幼稚園児に並に体が縮んでしまった魔王ちゃんは、すぐに気を取り直すと、街の明かりに向けて意気揚々と歩き出した。

「ククク。待っておれ、人間どもめ。この我がみじゅから出向き、きしゃまらを恐怖のどん底に叩き込んでくれようぞ!」

 深夜の繁華街へと足を踏み入れ、幼女を保護しようとした警察に追いかけ回されることになるのはこのほんの十数分後のことである。


 魔王ちゃんの明日はどっちだ!?  (たぶん続かない)

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― 新着の感想 ―
[一言] いいフットワークですね. さくっとした文と展開. オチも可愛くて好きです.
[気になる点] まおうちゃんを保護しようとする紳士/淑女(へんたい)が、いない……だと
[一言] 魔王も時代の流れには勝てなかったよ
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