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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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始まりの魔法技師《マジックメイカー》5


 ——翌日、昼過ぎ。


 昼食を済ませて、昼からの講義に向かうため、王宮の廊下を歩いていると、とある小さな部屋から声が響いてきた。聞き耳を立てていると、ドアの向こうから、男女の声が聞こえる。


「……お兄様? 何をしているのですか?」


 ドアに耳を当てる不審な俺に、歩いてきたアナがそう言う。


「しっ! ……中に聞こえる。少し、黙っていてくれないか?」


 俺は声を荒らげることなく、そう返答した。アナは忠実に従って、声を潜める。


「……どうして、あなたがあいつと話をしていたのっ!」


 中から響くのは(いきどお)りを吐露(とろ)する聞いたこともない母の声と——。


「お前には関係のないことだ。……それに、彼はこの国の未来のために必要なのだ」


 冷たく、辛くあしらうのは父親の声。父親はどこまでも冷静で、怜悧(れいり)で、鋭く痛烈に切り返す。皇帝としてのその風格(アウラ)はその言葉の一音一音に纏われている。


「……あいつは、あいつらはこの国どころかフロンティア全体に災禍をもたらすかもしれない。そんな奴らに大国の皇帝たるあなたが加担して、混乱するのは目に見えている。……あなたのその魔法と精霊に執着することは確かに大切かもしれないけれど、民とそして家族に危害が及ぶかもしれないのに、どうしてそんなことを……」


 感情を吐露する母の声音は激高を表していて、その奥には悲しさが内包されているような気がした。だが、父は母の言葉を吐き捨てるように冷たく答える。


「……お前が危惧することはわかるが、国の発展のためには魔法の力が必要だ。どうあっても、深く知らねばならない。彼らはそれに適している。デメリットよりも協力関係を築くことでメリットが増える。それを否定する理由がどこにある?」


 淡々と(たしな)めるように返答する父親の言葉にはどこか説得力があるが、それ以上に己の希望が絶対であるから、民の、家族の犠牲を(いと)わない感があった。


「……あなたは利益と魔法だけのために見殺しにするの? あなたの家族なのよ! 私の存在そのものが、メルクやアナに危害を及ぼすかもしれないのに、守るべきあなたがそれを壊してどうするの?」


 激高する母の訴えはどこか懇願のように思えて、だが、その願いすらも……。


「……フロンティアにおいて、絶対は主と魔法だ。それ以上でも以下でもない」


 儚く、(むご)く、散った。


「……諦めるのだ。この国のため、フロンティアのため、未来のために」


 諭すように、父は母に詰問する。中の状況は見ていないからわからないけれど、すべからくその答えは決定しているように思えた。


「……えぇ。わかった、私はもう何も言わないわ。……けれど、これだけは言わせてもらう。くだらぬことに囚われて、家族すらも見失ってしまうあなたを私は心から軽蔑するわ。……私は……」


 それ以上聞くことはできなかった。ドアから耳を離す。傍らで耳を立てていたアナの表情も今まで見たことがないほど、暗い。


 ゆっくりと扉に近づく母の靴音を背に俺はアナを連れて、身を隠す。扉を開けて、現れた母の頬を伝う涙の筋が僅かに俺の目に映った。


「お兄様、先ほどの話……いえ、なんでも……ありません」


 傍らから響くアナの呼び声が耳朶(じだ)に触れる。……けど、何かを悟っているかのように言葉を途切らせて、黙った。


 俺は呆然として、そして知らぬ間に、涙を一つ零していた。


——数日後。例の会話を盗聴して間もなくのことだった。


 グラン・テッラ帝国全域に広まった噂は、全国民を震撼させるニュースとなって、駆け巡った。——人々に愛された、親しみやすい皇后が、グラン・テッラ帝国から姿を消し、行方不明になった、と。


 それが全域に知れる頃には人々の悲しみに暮れる声が三日三晩、街にこだまし続けた。


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