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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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始まりの魔法技師《マジックメイカー》2


 扉を開いた先にはグラン・テッラを見渡すことのできる巨大なガラス窓が数十。無駄に広いこの部屋の中心にはまた無駄に長い長机が並べられていて、いくら集めれば気が済むと言いたいほど、椅子が並んでいる。


 縦長の部屋の奥、ちょうど俺達が入った扉から一番遠い位置に他とは異なる高価な椅子が一つあって、最も奥にある巨大な絵画の前にあるその椅子に座る威厳のありそうな人物こそ、俺の父親、ヘンリー・ロッド8世その人である。


 そして、その傍らで淑やかに待つのは母親であるセリアである。


「……早く座りなさい。せっかくの朝食が冷めてしまう」


 父親がそう言う。男にしては珍しい長く伸びた少し紺が混じったような黒髪のストレート。皇帝と呼ぶにはまだ少し若い、しかし、そんな些末なことを気にさせないほどの威厳と風格(アウラ)を誇る、グラン・テッラ帝国の象徴だ。


 俺とアナは小さく頷き、父と母が待つ席の近くに向かい合うように座る。


「……さあ、頂こう」


 父親の号令でいつもの食事が始まる。けれど、目の前にある馳走をすぐには頂けない。


「……主に、精霊様に感謝を込めて。今日も、このような豊穣の恵みを感謝します。民達に、そして、大地に大いなるその御力をお与え頂き、感謝します。……いつまでも、この念を忘れることなく、主に感謝し続けることを誓います。では、感謝を込めて、頂きます」


 父親がその言葉を言い終えるまで、残された俺達家族、使用人に至るまで瞳を閉じ、手を合わせ、精霊に感謝の念を伝えなくてはならない。それらが全て終わるまで、誰一人として食事に手をつけてはいけないという、家訓で決められたルールだ。


「「「……頂きます」」」


 礼をして、食事が始まる。いつもながらに、豪華な馳走だ。朝からこの量があっても、食べきるのは確実に不可能だ。一口、食べる。当然のこと、味はうまいけれど、毎日これはなかなかきつい。


 食事が終われば、勉学に勤しむことになる。父親の(しつけ)という名のそれは毎日のように行われて、魔法や精霊に関する知識を毎日のように叩きこまれる。その教育が終われば、王族としての威厳と礼儀を守るための訓練が行われる。例えば、乗馬や食事マナーの講習、人間として知っておかなければならない程度の常識を学ぶこと。


 毎日それらの繰り返し。確かに充実しているし、立場上やらなければならないことではあるが、メリハリもなければ、面白みにも欠ける。最初のうちは、それなりに楽しいと思えたけれど、もう基本的なことはできるようになってしまったし、国の中でもそれなりに魔法を習得した。そうなってしまっては……退屈でならない。


「……お兄様、後で魔法についてお教え頂けませんか?」


 静寂が包む食卓にアナの声が鳴る。神聖な行為であるとされる食事の場において、あまり喋ることは適してはいないが、少しくらいは認められている。


「……あぁ、それくらいならいいけど、俺でいいのか? 父さん……父上の方がよほど魔法に優れていると思うけど」

「……はい。ですが、お父様はお忙しいと思うので、お願い致します」


 少し面倒だけれど、退屈な毎日に少しはスパイスが振りかけることができるだろうと頷いた。


「……ありがとうございます」


 と、食卓に並ぶ皿が半分ほど減ったところで、皆満腹のようだと食事の席は終わりを告げる。残った料理達は使用人達の胃袋に消えるように決められているから無駄はないけれど、少しは減らしてもいいのではないかとはつくづく思う。


「……では、皆今日の仕事に就くように」


 父親の一声で、皆席を立ち、動き始める。これが、日常で変わることのない日々だ。


「……お兄様、行きましょう。楽しみですね!」


 まだ、魔法にあまり慣れていないアナはそれなりに楽しそうだ。とはいえ、この若さで初級魔法は完璧に使いこなしているから、国の中でも平均以上の強さの可能性を秘めている。


 俺はと言えば、既に上級魔法を幾らか使役できるほどになっていて、先日習った魔力受容体(レセプタ)もそれなりにあると確認できた。


 魔力受容体(レセプタ)を実際に知ることは叶わない。なぜなら、知る方法が確立されていないからだ。可能であるとすれば、魔法を一度試してみて、そのくらいのレベルの魔法が発動できるか否かを実際に試してみる。それしかないのだ。


 しかし、発動できない魔法を何度も何度も繰り返すのは、あまりよろしくない。それはよく知られたことだ。なぜなら、その魔力受容体(レセプタ)に見合わないエネルギーが溢れるほどに充填(じゅうてん)され、後にキャパオーバーを起こしてしまう。そうなってしまえば、安全なはずの魔法によって、体に害をきたしてしまうのだ。だから、基本的にレベルの低い魔法から順に使用していき、段階を踏んで、高位魔法に行きついていくように教え方が設定されている。


 つまり、俺はそのやり方で順に魔法をマスターしていき、今に至るわけで……それもこれも父親の躾によるところが大きいのが事実だ。


 魔法や精霊を愛し——というより執着していると言った方が適しているだろうか——精霊に愛される父親の徹底的な教育は俺達兄妹とグラン・テッラ帝国を成長させた。それは、全く間違っていないのだけれど、やはりつまらないのだ。


 ……俺はつまらなくて仕方がない。


 父親のやり方を否定することは毛頭(もうとう)ない。けれど、教育も、魔法も、食事も、何にから何まで、与えられて、与えられるべくして成長して。そして、決められた線路の元に、後を継ぐことになるだろうと傲慢極まる悩みを抱えているのだ。


 今の俺の胸中を支配しているのはこの虚しさとつまらなさ、寂しさのみだ。そんなことを俺の妹が知る訳もないし、知ってほしくもない。それは、わかっているのに……どうも風当たりが強くなってしまう時がある。兄としては……失格だ。


「……では、二人共、今日の講義を始めます」


 いつも通り、兄妹二人並んだ少し小さな教室の中で、父が選んだ高位魔法の使い手たる先生に教えを乞う。俺は前回の復習で、アナは中級魔法のチャレンジだ。

 教科書は原典(オリジナル)魔法書(グリモア)。もちろん、その権限は皇帝である父親によるものであるから、感謝しなくてはならない。


 教えてもらうと言っても、結局は膨大な魔法書(グリモア)の中身の暗記でしかない。教諭が教えるのはあくまで、精霊の歴史、先人が関わりあってきた歴史、魔法による建国の歴史など、実際に魔法に関することは教えてくれない。……というより、教えることができない。


詠唱(アリア)』と『呪文(スペル)』があり、それなりの魔力受容体(レセプタ)を己の体に有していれば、魔法は簡単に発現できる。その過程に魔法書(グリモア)があるかどうかによって習得のスピードが変わるけれど、魔法を覚えるという結果にそれ以上も以下もない。


 故に、俺はやることがない。いつまでも、手に入れようとすれば手に入り、自分のものにできる。確かにそれは理想的だけれど、面白くはない。


 それは、今日も変わらない。たまに俺にアナが寄り付いて来る以外は今日もいつもと同じだ。


「では、今日の講義を終えます。では……」


 数時間という長く感じるそれも慣れてしまえば、ほんの一瞬のように感じられてしまう。今日も、昼を過ぎてしまった。


 ……年をとるほど、時間の経過が早くなるというけれど、俺はまだ十歳なのにその悩みに悩まされている気がする。俺は生まれる場所を間違ったのだろうか?


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