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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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女王と占い師2


「……アルカナ、せっかくだ。久しぶりに私の魔法を見ていかないか? そこまで、会う機会もそうないだろうし」


 マリリカの提案に数秒思案した後、一つ頷きを打って、返答する。


「……それもそうだ。マリリカの提案に乗るとしよう」


 マリリカはそれを聞き次第、テーブルにあるティーセットを片付け始める。そして、紫のテーブルクロスの(しわ)を伸ばして、別の場所に映していた水晶玉をもう一度机の上に置き直す。


「……では、始めよう」


 マリリカの一声にアルカナも頷いて、儀式もとい魔法の発動が始まる。


「【我は欲する。世界の運命(さだめ)を】」


 始まった『詠唱(アリア)』と共に、水晶玉を囲むように光の粒が輝き始め、立ち上がる。


「【(ゆえ)(なんじ)らに力を求む。彼の者の一柱。その名は過去(ウルズ)。時代を遺し、史を紡ぐ者。彼の者の一柱。その名は現在(ヴェルザンディ)。我らが生き、我らが住まう今、この時を創りし者。彼の者の一柱。その名は未来(スクルド)。安寧を(ある)いは災禍を見据え、伝え説く者】」


 集まった光の粒はやがて水晶玉の周りを三角に囲み、紅蓮の炎のような強い赤、雲一つない蒼天のような青、森林のように深く濃い緑の三つの色をした魔法陣を一つずつ形成する。


「【汝らが集い、三つの柱となりて、この世の行く末を伝え(たま)え。聖女らの声をお聞かせ願う】」


 魔法陣を踊るオラクルが垂直に高く昇り、魔法陣と同系色をした三つの柱を形成する。三つの柱の輝きに照らされた水晶玉は、光の三原色の法則のように白く輝きを放つ。


「【ノルン・ファタリテート】」


 刹那、白光が部屋全体に(ほとばし)った。


 数秒後、白光は水晶玉に収斂(しゅうれん)していき、やがて白い水晶からその真上に色のついた映像を映し出す。


 普段、ローブを纏い、顔を隠して、名前を隠して、王宮に住まうマリリカが、ここに住むことのできる理由。それは、この魔法が使えるからだと言っても、過言ではない。

 幾万、幾億という民が暮らす大国において最も大切なのは国の平和と永久の発展、その二つに他ならない。しかし、その重要な課題の実現とは裏腹に、あらゆる事象、人々の思惑、感情の揺らめき、身分格差などから平和を保つことができなくなることが大いにある。


 だから、大国の統率者達は先詠みの力を欲した。未来に起こりかねない騒乱や災害、危険因子などの出現など、国の平和と発展を脅かす存在に対する全力かつ的確な対策を行うために。


 マリリカはその役目を担っている。サン・カレッド王国の安全を日夜守るため、親友たる女王アルカナを守るため、マリリカは国の後ろ盾を受けながら、炭鉱のカナリアとして王宮に暮らしている。


 そして、朝昼晩の三回、毎日のように行われる魔法による確定的な予測によって、サン・カレッド王国を裏から下から支え続けてきた。


 定番化されたそれをアルカナの前で披露し、いつものように水晶の真上に浮かぶ未来の投影図(スクリーン)を覗き見る。


「精霊の託宣も出ている。成功だ。……契約に従い、占いの儀を執り行う」


 その言葉にアルカナは頷く。表情を窺って、マリリカは続ける。


「…………何だ……この惨状は……?」


 投影図(スクリーン)を覗くマリリカの声は途端に曇る。様子のおかしい親友にアルカナも怪訝な表情に変わる。


「……アルカナ、よく聞いてほしい。近日、必ず起こることだ」

「……あぁ。何が起こる?」


 ()を一拍。一度、溜まっていた唾をゴクリと飲み込み、マリリカが見ている光景と精霊からの言葉を契約に従って、アルカナにおずおずと伝える。


「……サン・カレッド王国が地図から消える……かもしれない」

「地図から消える? それはどういう……?」


 マリリカは恐ろしいものを見るようなそんな皺を寄せた顔で、ゆっくりと口を開く。


「言葉通り、大いなる災厄によって都市が壊滅し、人々が何人も死に絶え、地図から消え失せる。つまり、凄まじい災いが近日中に起こるということだ」

「大いなる災い……。託宣にはどう出ている?」


 アルカナは女王としての顔立ちに戻り、真剣に耳を傾ける。


「……甚大な力を持った敬虔(けいけん)な信徒が星の使者を連れて、蹂躙(じゅうりん)を繰り返す。信徒には獅子の怒りが宿り、その暴力は抗いようのないものとなる。……災厄に抗う可能性、それは一人の少年と一人の少女。どちらかが欠けても、サン・カレッドは終わるだろう」

「抗いの可能性……それが出ているだけでも助かるが、その詳細はないのか?」

「……少女はこの国の者であり、平和を祈る者。ただ、もう一人は詳しくわからない。もしかすると、この国の者ではないかもしれない。……すまない、曖昧で」

「いや、それだけでも教えてくれただけ助かるというものだ。……ありがとう」


 そう礼をするアルカナの顔には不安が拭い切れていない表情が浮かんでいた。それは、実際に光景を見ていたマリリカもそうであって、外れることのないこの魔法が今回だけは外れてほしいと心の中で懇願していた。


 マリリカが見ていた映像。それは、見ているだけで吐き気を催し、女子供が見れば卒倒してしまうのではないかと感じさせるほど、凄惨(せいさん)極まる光景だった。

 サン・カレッド全域に降り注ぐ暴力の弾雨。石造りの家々が粉塵を上げながら崩壊し、抗いようのない惨劇に身を焼かれて、声を(かす)らせながら人々が裂帛(れっぱく)を上げる。二次被害で起こった火災に逃げ惑う幼き子供達。子供を、崩落し降ってきた瓦礫から身を挺して守り、無益に血を流す大人達。

 それを地獄絵図と言わずして、何をそう言えばいいのかという形容しがたい凄惨な光景。その光景は目に焼き付いて、離れることはなかった。


 アルカナとマリリカは何も言わず、部屋の窓から夜のサン・カレッドを眺めた。夜の街を照らしているのは連続して並ぶ蝋燭製(ろうそくせい)の街灯とゆっくりと動く誰かが持ったランタンの明かり。そして、天高くから見下ろす金色の月光だけだ。


 その平穏無事な景色を二人は数秒眺めて、何も言わず、アイコンタクトだけをして、アルカナは部屋を後にした。


 自室に急いで戻ったアルカナは、テーブルに置かれたインクに羽ペンの先をつける。羊皮紙を手にし、つらつらと文章を書き並べる。育ちの良さを思わせるような美しい字で、アルカナは書き続けた。


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