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魔法技師《マジックメイカー》の精霊銃  作者: 松風京四郎
第一章 商人と王女のサン・カレッド
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アナとワープゲート


 まだ朝早く王宮近くのこの通りも人の数は(まば)らだ。


 サン・カレッドらしい石畳のその通りの上で佇む俺と一匹はクレアの姿が見えなくなった後、声を出した。


「……アナ、見ているんだろう?」

「【クレアーレ】!」


 少し前に聞いた聞き覚えのある『呪文(スペル)』がこだまする。


「はぁ……【古き命に別れあれ】」


 対抗し、詠唱する。大きなレンガ造りの建物の影から白き魔法陣の光が煌めいて、先ほどの縄のついた手錠が飛翔し、こちらに近づく。的確に接近するそれを俺は対抗した『呪文(スペル)』を唱える。


「【エタンドル】」


 手には黒き魔法陣が一つ。飛んできた手錠にその魔法陣を重ねれば瞬間的に手錠は消え失せる。


「……はっ!? ぐぬぬ……」


 建物の影から悔しそうな声が響く。


「……アナ、大丈夫。もう逃げないから、こっちに来い。それか、俺がそちらへ行こうか?」

「…………。いえ、私が向かいます」


 こつこつと人通りが少ないから、彼女の履くブーツのような靴の音が鳴り渡る。影から現れたのは桃色の長いクルクルと巻いた髪。その下にある純真そうなパチリとした目と神と同系色の瞳、柔らかそうな唇と頬は彼女の身長の低さとふわふわ、ひらひらとした衣装と相まって、本物の人形のようである。


「お久しぶりです、お兄様。……ご健勝のようで、何よりです」


 アナはスカートの裾を左右の手で握り、少したくし上げながら一礼する。


「そんな俺を手錠で逮捕しようとしていたのは実の妹のアナ、お前だけどな?」


 冗談気味に軽く笑いながらそう答えると、アナは口を尖らせて、顔を(しか)める。頬を赤らめて、恥ずかしそうだ。


「……それは、お兄様がまたいなくなると思って……」


 とても小さな声で答えるアナ。なんだか懐かしい。


「……にしても、どうしてサン・カレッドに? 家はどうした?」


 再会の話はここまでにして、大事な話に戻す。すると、アナは少し言い淀みながらも口を開く。


「お父様に許可をもらいまして、人探しという名目でここに。あと、鍛錬という言い訳もしております」

「よく許してもらったな。あの頑固親父に」


 俺が覚えている限りはよほどのことがない限り父親が家から出してくれることはなかったはずだ。故郷でもトップクラスの厳格な人だったから。


「えぇ。私も驚きなのですが、今はどうやら研究にご執心のようでして、先ほどの条件付きということで許可を頂けました」


 少し思うところもあるが、アナが言うならそうなのだろう。


「で、ここには一人で? どうやって、俺の居場所を知った?」


 風に揺れる桃色の髪をちらりと眺めて、問いかける。


「大国間直接移動、『ワープゲート』を使ってきました。四国間を何度も移動したので、かなりお金と体力を使いました」

「だろうな。俺だったら、絶対に使わない」


 俺の顔が険しくなるのは数度利用したことのある大国間直接移動、通称『ワープゲート』の名を聞いたからである。『ワープゲート』というだけあって、確かに遠く離れた四国の間を一瞬のスピードで移動できる便利な移動手段ではあるのだが、まずその賃金がとにかく高いのである。


 ある一定の収入がある家庭が年一度の旅行で貯金を切り崩して一往復できるか否かというぐらい、庶民には厳しい価格設定だ。そして、その移動手段そのものにも問題がある。確かに移動は早いのが得ではあるのだが、実際に瞬間移動しているのではなくてマッハに近い超高速で飛ばされているのである。だから、この移動に慣れていない人はとてつもない圧力に猛烈に酔って、失神する人も少なくないのだ。


 この移動には魔法が使われているのだが、魔法でなぜ酔ってしまうような移動手段になってしまうのかと言えば、魔法の制約に関係する。精霊の力をエネルギーとする魔法では絶対に自然の理に反することは不可能なのだ。空間を飛び越えて、別の空間に移動するという非自然的なことはこの制約に引っかかってしまい、極限の速度で実際に移動するという形で魔法が発動されるのだ。


 本当に魔法とは万能ではあっても、使いづらいところがある。


 (ちな)みに、この魔法の『詠唱(アリア)』と『呪文(スペル)』は各国で完全に秘匿にするという決まりになっており、大国間直接移動に携わるごく限られた人にしか知られていないトップシークレットであって、民間人がこれを使うことはできない。


「各国を駆けずり回って、お兄様を探して、移動して、を繰り返して、そして、今日の早朝サン・カレッドに着いて、通りを歩いていた時にたまたまお兄様を見つけることができて、思わず魔法を使ってしまったのです」


 弁明するアナは恥ずかしいのか頬を赤らめて、視線を俺の目に合わせてくれない。身長差も相まって、俺がアナを(いじ)めているような構図ができてしまうから、やめてほしい。


「まぁ、いいさ。……で、俺を本国へ連れ帰ろうとしているのか?」


 一番大切なことだ。少し低く、重く問いかける。すると、俯いていたアナはゆっくりとその桜色の双眸を俺の視線に合わせて、目を少しばかり(すが)めて、真面目に返答する。


「……本当はそうしたいですね。お父様も他の使用人達も、お兄様の御帰還を切望しておりますので。……ですが、お兄様がノーとおっしゃるのなら、私が止める理由はございません」


 そう答えるアナは寂寥感(せきりょうかん)を感じさせる表情でそう答えた。まるで、俺がなんと答えるのかわかっているかのように。


「……すまないが、俺はあの国に帰る気はない。お前が俺を無理やり引っ張り込もうとしても、本国の親衛隊が俺を攻撃しようと、俺は全力で抵抗するし、全力で反撃する。……俺はこの道で生きると決めたんだ」


 アナはふとクスリと口元に微笑を浮かべ、「ふふふ」と笑った。


「……わかっておりました。お兄様がそう答えると。今の私がどう策略を練って襲おうと懇願しようと抵抗され、否定されるとそう確信しておりました。……ですが、わかっていても少し寂しいものではありますね」


 微笑はアナの顔の震えと共に少しずつ崩れ、寂し気に、悲し気に帰ったクレアのように暗くなった。だが、すぐさまそれは元に戻って、再びアナは口を開く。


「なので、私もお兄様にしばらくついていくことに決めました」


 着せ人形のようなひらひらとしたドレスを風に(なび)かせ、揺れるスカート部分から延びた足をホップさせて、可愛らしく、明るくそう答えた。


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