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小説の湧き出る小川

ある不思議な夜

作者: レモン

BGM: Don’t stop me now (Queen)


(ポリーとバーブラは食堂の机で座っている。バーブラは手のひらに顎をのせている。)

バーブラ:彼はいつ来るの?

ポリー:きっともうすぐよ。彼、驚くかしら?

バーブラ:仕事では私たちから指令しか受けないから憂鬱でしょうね。でも、今日は彼の誕生日だからみんなで楽しもうね。

ポリー:3人しかパーティーにいないのは残念ね。もっと人がいればよかったのに。

バーブラ:そんなこと言わないで。もっと人がいたら、カラオケの順番があまり回ってこないわ。

(誰かがドアを鳴らす。それと同時に電話が鳴る。)

ポリー:バーブラはドアにでて。私は電話にでるから。

(バーブラはドアへ走り、ドアを開ける。誰もいない。風の音がする。)

ポリー:(電話にでながら)もしもし?…もしもし?どなたかいらっしゃいますか?

(沈黙)

ポリー:もしかしてジョージ?なんでまだ来ないの?あ、ボスから電話をもらった?そう、わかったわ。うん、さようなら。(電話を切る。)バーブラ、悪いニュースよ。彼、来れないって。バーブラ?

(ポリーは玄関のドアに向かいながら、呼び続ける。応接間のドアを閉じる。応接間のドアの反対側に影が映る。)

ポリー:(バーブラがいない。)どこにいるの、バーブラ?(返事がない。)バー―

(ポリーの後ろからポリーに向かって手が伸びる。ポリーはそれを感じ、後ろを振り向く。)

ポリー:ピエールおじさん!私、びっくりしちゃった。一体なぜここにいるの?


BGM:Little Susie (Michael Jackson)

ピエール氏:私の小さい女の子がどこにいるか知っているか聞きたくて。

ポリー:娘がいるなんて知らなかったわ。

ピエール氏:彼女は私の娘ではない。誰も彼女のこと知らない。彼女は幽霊だ。

(一瞬、青い目が映り、シンバルが鳴る。)

ポリー:えっ!

ピエール氏:(心配そうに)夜遅くに彼女はよくこの辺の道を歩いている。いつも私を心配させる。外に出てもいいかい?

ポリー:え、ええ。(ポリーは玄関の扉を開ける。)

ピエール氏:(悲しく微笑みながら)おやすみなさい。

(ドアが閉じる。ポリーはドアの鍵をかける。そしてしゃがみこみ、下を見る。)

ポリー:(小さく囁く)どこに行ったの、バーブラ…?


(バーブラとピエール夫人はピエール夫人の部屋にいる。明かりは薄暗い。)

バーブラ:(ゆっくり話す)じゃあ今日が彼女の一周忌なのね。

ピエール夫人:コーヒーを飲みによくうちに来ていたの。4歳の頃からコーヒーを飲んでいたのよ。

バーブラ:年上のお兄さんがいたんでしょ。

ピエール夫人:そうよ。

バーブラ:私は彼のこと知っているわ。職場で私と私の妹の秘書として働いているの。私たちとても仲がいいの。彼にそんな暗い過去があるなんて知らなかったけど、彼に昔妹がいたのは何となく知っていた。今日は彼の誕生日なの。

ピエール夫人:それは知っているかも。私が聞いた話によると、その女の子はお兄さんの誕生日パーティーの時、けんかを止めようとして亡くなったみたいよ。彼女の頭がステレオの角に当たったの。彼女はとても若くて明るかったわ。

(長い悲しい沈黙)

バーブラ:それなら、彼女のお兄さんはあまり誕生日パーティーが好きじゃないかもしれない…

ピエール夫人:私の夫もそうよ。パーティーのような音が聞こえてくると、彼は許可なくその家に入って、けんかが起きていないか確認しに行くの。泥棒かと思われて警察に通報されたことがあるわ。不法侵入で逮捕されたこともあるの。

バーブラ:さっき話していた男の子のジョージもパーティーには行かない。これだけ苦労しているのに、私や妹のことをこんなにいつも笑わせられるなんて奇跡だわ。

ピエール夫人:きっと精神的に強いのね。

バーブラ:わからない。時々やたらと静かで真面目なこともある。二つの人格を持っているの。時々おかしくなることもある。一度、職場での予算の言い争いで、ひどく興奮したことがあったわ。ただの小さな言い争いなのに、耐えられなかったみたい。

(また沈黙)

ピエール夫人:私の夫もおかしくなることがあるわ。二人ともその女の子のことが大好きだったんでしょうね。一人の命は他の人の人生に大きな影響を与えることがあるから。

バーブラ:ジョージやピエールおじさんを助けるにはどうしたらいいかしら。

ピエール夫人:彼らの気持ちを明るくさせましょう。一番やりたいことをやらせてあげましょう。それで今夜を乗り切るのよ。

バーブラ:ジョージはカラオケが好きだわ。

ピエール夫人:私の夫は囲碁が好き。毎日インターネットでやっているのよ。

バーブラ:私たちの家に行きましょう。ピエールおじさんも呼びましょう。ジョージはきっとポリーと一緒だわ。私なしであんまり先に、楽しいことをたくさんしていないといいな。

(ピエール夫人は微笑む)


(ポリーは床を見つめて震えながら、小声で「バーブラ、どこに行ったの?」とつぶやいている。ドアのベルが鳴る。ポリーは震えながら顔を上げ、ドアを見る。ドアのベルがまた鳴るが、でるのがこわくて動けない。)

(バーブラが外から「ねぇ!ベルが鳴っているの聞こえないの?」と叫ぶ。)

ポリー:(弱っているが嬉しそうな小声で)バーブラ!

(ポリーはドアを開ける。)

ポリー:(怒ったように腰に手を当てる)どこに行ってたの?

バーブラ:隣のピエールおばさんと一緒にいたわ。ドアに出たんだけど、誰もいなくて外に出たの。ピエールおばさんがその時私たちの家の前を通って、ピエールおじさんのことを探していたの。すごく心配そうだったから、少し一緒にいたの。ごめんね、言わなくて。話すのに夢中になって、ちょっと、あなたのこと忘れてしまったの。

ポリー:なんてひどい。

バーブラ:ピエールおばさんも一緒よ。とても悲しい話をしてくれたの。

ピエール夫人:こんにちは、ポリー。

ポリー:あら、ピエールおばさん!さっきまでピエールおじさんがいたよ。

ピエール夫人:本当に?私、探していたの!ここをチェックすれば良かったわ。

ポリー:まぁ、そんなに長くはいなかったけど。それにドアを鳴らしたわけでもなく、私たちの家の中にいたの。私、とってもとってもびっくりして、心臓が止まりそうになったの。

ピエール夫人:ごめんなさいね。でも、彼を許してあげて。彼には彼なりの理由があったの。きっとあなたの安全を確かめたかったのよ。いつも若い女の子のこと心配しているから。

ポリー:(安心したように)あ、そうだったの。でも彼はもういないわ。彼は誰かを探しに…[ポリーとピエール氏の会話のシーンが音なしで映る](ポリーは先ほどのピエール氏との怖い会話を思い出して凍りつく。)彼は彼の小さい女の子がどこに行ったか知りたがっていたわ。

(三人とも怯えた表情。小さな沈黙。)

ポリー:彼は彼女が…えっと、幽霊だと言っていた。

バーブラ:(真剣な口調で)ジョージは?

ポリー:彼はボスから電話を受けたから来れないって言ってたわ。悲しそうだった。

バーブラ:ポリー、ジョージの妹は一年前にジョージの誕生日パーティーで亡くなったの。その女の子はピエールおじさんと仲が良かったの。

ポリー:えっ!

バーブラ:あの優しくて思いやりのあるボスが、ジョージに夜に電話するなんておかしくない?特に誕生日なのに。ちょっとボスに電話してみましょう。

(三人は電話に向かう。)

バーブラ:もし可能であれば、ジョージとピエールおじさんを私たちの家に呼んで、元気づけてあげましょう。

ポリー:それはいい考えね。可哀そうなジョージ。今日は彼の誕生日で嬉しいはずなのに、死んじゃった妹のことしか考えられないのね。

(バーブラは電話をとり、電話番号を入力する。)

バーブラ:こんばんは、バーブラ・ルーズベルトです。もし可能であれば、ジョージとお話をしたいのですが―えっ?ジョージはそちらにいない?さっき私の妹にボスから電話をもらったと言っていたのですが。…あ、電話されていないですか?それはおかしいわね。ごめんなさい、お騒がせしました。さようなら。(電話を切る。)

ポリー:彼の家を探しましょう。

バーブラ:そこに彼はいるでしょうね。

ポリー:うん、きっといるはずよね。


(ジョージの家のドアを鳴らす。ジョージの母が出てくる。)

ポリー:ジョージはどこ?

ジョージの母:彼はポリー達の家に今夜はいるって言っていたわよ。

ポリーとバーブラ:えっ!

ジョージの母:(恐怖でいっぱいの表情で)そちらにいないの?

ポリー:いないです。

(ジョージの母は車へ走る。)

ジョージの母:彼のこと探しに行くわ。

ポリー:待ってください!この辺を夜に盲目的に探して彼が見つかる可能性は低いですよ。

ジョージの母:(叫びながら言う)他にどうすればいいの?

ポリー:彼が居そうなところをまず考えてみましょう。30分前に私に電話をくれて、ボスと一緒だって嘘ついたの。きっと違うところに行ったんだわ。もしかしたらピエールおじさんと一緒かもしれない。

バーブラ:ジョージとピエールおじさん…一緒…ねぇ、もしかしたら分かったかも。彼らがどこにいるか。

バーブラ以外の全員:どこ?

バーブラ:女の子のお墓よ。

(長い沈黙)

ジョージの母:彼女は正式なお墓がないの。私の夫と私は彼女を林の中に埋めた。(泣きながら)どうしても…そうするしかなかった…

バーブラ:そしたらそちらに行きましょう。念のため。もしそこで見つからなかったら、警察を呼びましょう。


BGM: The Stranger (Billy Joel)


ポリー:(懐中電灯を持ちながら):この蚊の奴め!大嫌い、大嫌い、大嫌い!

ピエール夫人:こんな時に面白くいられるポリーはすごいわね。

ポリー:ごめんなさい。でも本当に嫌いなの。

ピエール夫人:いえいえ、面白いのは悪いことではないわ。うらやましいくらいよ。

バーブラ:(目を大きくして突然叫び出す)キャーーー!

ジョージの母:(心配そうに)何?

バーブラ:あ、ごめんなさい、ただの蛙でした。

ポリー:(バカにするように目を回しながら)アホだな!

バーブラ:(怒った口調で)ポリーだってこんな大きな気持ち悪くて醜い蛙が突然足元に飛んできたらびっくりするわよ―


(小さな鼻をすする音。ジョージはしゃがみ込んでいる。彼の隣に大きな石がある。「キャシー・ワカバヤシ」と小さな字で刻んである。)

ジョージの母:(驚いて)ジョージ!あなた裸足で泥がたくさんついてるじゃない!

ポリー:(走ってジョージの母に追いつきながら)ピエールおじさんってどこにいるか知っている?

ジョージ:ピエールおじさんって誰?

ピエール夫人:彼はキャシーの友達よ。

ジョージ:ああ、もしかしたら彼を追い払っちゃったかも。なんか急に男が近寄ってきて、怖かったから、「誰だ、お前!」って叫んだら、その人走って逃げて行っちゃった。

ピエール夫人:大変!彼きっとどこかをさまよっているわ、頭おかしくなって―

ピエール氏:(カッコよく木の後ろから出てきて)ここにいますよ。全く正常ですけど。

ピエール夫人:まぁあなた!あなたは世界一頭のおかしい人よ!こんなに何度も勝手に消えるんだったら、もうあなたのために夜ごはん作ってあげませんから―

バーブラ:ピエールおばさん、ちょっと気持ちをおさえた方がいいんじゃないですか。

ピエール氏:(バーブラに笑顔を送る)全くその通りだよ、お嬢さん。

ピエール夫人:あなたとってもむかつくの。いつも私を困惑させる―

ピエール氏:(ズル賢そうに)ハンサムだから?

ピエール夫人:(驚いて)そんなわけないでしょ。バカでアホでくさくて…

ピエール氏:そしてハンサムだから。

(ジョージも含め、みんな笑いだす。)

(バーブラとポリーはジョージの手を握る。)

バーブラ:あなたの妹さんのこと聞いたわ。とてもつらかったでしょう。

ポリー:私たち、ジョージのことを元気にしてあげたいの。

ジョージ:僕、そんなに簡単には元気になれないかもしれない。

ポリー:でも、やってみましょうよ。たくさん人がいるからきっと楽しいわよ。完全には元気になれなくても、一人で喪に服しているよりはきっと気分が良くなるわ。今日があなたの20歳の誕生日なんだから。

ジョージ:うん、でもパーティーは楽しめる自信ないな。

ポリー:パーティーじゃないわ!ただの…集まりよ。愛と平和に満ちた人の集まり。あなたの素敵な歌声を聴くための集まり。

ジョージ:僕の素敵な歌声?そうだね、それならまぁ。いや―

(ポリーとバーブラは一瞬残念な顔をする。)

ジョージ:いや、絶対だよ!絶対行く!

ポリーとバーブラ:やった!

(一同は動き始めるが、ピエール氏は顔をしかめている。)

ピエール夫人:(脅すような大声で)ちょっと、クレイジーさん!早く来なさいよ!じゃないと、もうあなたのくさい靴下洗ってあげないから―

ピエール氏:(早口で)今行きますよ。(小声で)あなたの方がよっぽどクレイジーだよ。


BGM: History (Michael Jackson)


(ジョージは歌っている。ピエール夫婦は囲碁をしている。ジョージの母は紅茶を飲んでいる。シャンデリアがついている。)

ピエール夫人:(ピエール氏にむかって)ズルしたでしょ。

ピエール氏:していないよ。

ポリー:(バーブラに)ねぇ、バーブ、ドゥエットしない?

バーバラ:ドゥエット?

ポリー:そう。知ってるでしょ、二人の人が同時に同じ歌を歌うやつよ。

バーブラ:それぐらい知ってるわよ。私はしたくない!

ポリー:(腕を組んで)なんて失礼な!

ジョージの母:あなたたち子供っぽいわね。

ポリー:彼女は子供っぽいけど、私は違うわ。

バーブラ:いいえ―

ジョージ:ねえ誰も僕の歌聞いてないの?

ポリー:(構わず言う)あなたに言いたいことがあるの、バーブラ。

バーブラ:(眉毛を上げる)何?

ポリー:(笑顔になる)大好きよ!ここにいるみんなにも言いたいの。みんなのこと大好きよ!

バーブラ:(ジョージに向かって)これが愛に包まれた空間よ。いつも平和ではないかもしれないけど、絶対に安全だから。

ジョージ:気に入った。

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