≪帰りの電車内での女子高校生の会話≫
疲れていても電車の中では寝られない。
約40分の乗車時間で運よく席に座れても、電車では短い睡眠さえとることができない。
きっと、生理的にそういう体なのだろう。
だから、そんなときは大抵iPhodで音楽やラジオを聞いて時間を潰す。
ただ、今日はイヤホンを家に忘れて来てしまった。
小さい頃、それこそ初めて電車に乗ったときはきっともう初々しいくらいに浮かれていたはずなんだろうけれど、乗り飽きてしまった電車の中でただただ機械的な環境音だけに身を落として長時間揺られているのは非常に不快である。
唯一の癒しといえば、電車が停まってドアが開いた時に少しではあるけれど空気の入れ替えが行われること。
「閉まるドアにご注意くださいー」
人の熱気と空調の空気が混合した匂いが外に排出され、気休めばかりの新鮮な初夏の夕闇色の気体が車内に搬入された。
と、私の前に同じ制服を着た女子高生二人組が現れた。
通学かばんとは別に大きめのバッグを背負っている。
ぱっと見た感じ運動部だと思われた。
各々アイフォンをスワイプしている。
『やばい。キラキラパワーにやられてしまう。』
女子高生を前に私は危機感を覚えた。
残念ながら私は色々と失敗者である。
特に青春時代に対してとてつもない心の闇がある。
だから、現在進行形で青春を謳歌している子たちを目撃すると過去と現在に対して【病んでるモード】に突入してしまうのだ。
だから、イヤホンがないといけない。
キラキラ女子高生トークは胸が痛い。
私もあんな風になりたかったなんて。
年下の子たちを前に羨望するような恥ずかしいことはできるだけしたくないもの。
しかし、残念ながら今回の急行列車に私はイヤホンを持ち込んでいない。
だから、目の前の子たちのお話が鼓膜に響いてしまう。
電車では眠れない性質が災いである。
「そういえばさー」
ほら。始まった。
10'sガールズトーク怖い。
ポニーテイルの子がアイフォンを仕舞って、ショートカットの子の方を向いた。短い髪の女子高生も携帯電話から目を離す。
「なに?」
「明日、美紀(仮名)と武村くん(仮名)二人で遊びに行くんだってさー。初デートらしいよ」
「へえ。どこ行くって?」
「そこまでは聞いてないけど」
「あっそ」
「あれ、この話あんま興味ない感じ?」
「そういうわけじゃないけどさ」
短髪の子が吊革に体重を預けた。少し私に近くなる。
目が合わないように顔を見てみた。
やはり、肌艶が違う。
これが若さか。
「良く分からないんだよね。結婚もしない相手と付き合うってことが」
「するかもしれないよ?」
「しないでしょ。どうせ卒業までに別れるよ。もしかしたら、2か月後とかかも」
「そうかなあー」
「そうそう。私、結婚したいって思った相手じゃないと付き合わないって決めてるから」
純情。清純。
「えーマジで? 好きな人とかいないの?」
「いないよ。馬鹿ばっかじゃん、男子」
「そう?」
「そだよ。子どもすぎる」
と、私の横の女性がくすりと笑った気がした。
この人も女子高生トークで暇つぶししているらしい。
「なんていうんだろう。初めて好きになった人と結婚したいってわけじゃないんだけど」
「だけど?」
「きっと、初めて好きになった人と結婚すると思うんだよ」
「はあ」
ポニーテイルの子が苦笑いする。
どうやら価値観の相違があるようだ。
「ていうか、結婚もしない相手と一緒にいる時間って無駄じゃない?」
「そうでもないと思うけど。思い出になるじゃん」
「別れるのに?」
「いや、別れちゃったらその……あれだけど」
「でしょー」
まあ、そのピュアな感じはわからないでもないけれど。
うん。
大体高校生カップルは別れますよね。
「そもそもこっちが好きでもあっちはヤリタイだけかもしれないよ」
「ちょっ」
「年頃の男子ならあり得るって」
「いや、そういうことではなく」
そんなことを人に聞こえるようなボリュームで言うなってことですね。
「結婚もしないような相手と付き合うなんて時間の無駄無駄。
それに体の相手するのもだるいし。
ウチは今は彼氏とかいらないかなー」
「まあ、あんたはずっとそうだよね」
「まあねー」
と、話しの区切りがちょうどついたところで女子高生二人組は電車を降りていった。
降りていく彼女たちに心の中でエールを鳴らして見送った。
横の女性がニヤニヤしている。
きっと、制服着てた頃を思い出しているのだろう。
かく言う私も少しニヤけていた。
これから彼女たちは成長していく。
酸いも甘いも噛み締めて。
できることなら、
私みたいにはならないで、
私の憧れるキラキラを纏っておくれ。