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「ラルディア!」
フットボールの仲間が俺の隣にいるラルを呼ぶ。
「一段と綺麗になったじゃないか?そんなに綺麗になるんなら、俺が恋人に立候補すれば良かったよ!」
「冗談じゃない、ラルは誰にも渡さん!」
大声の中、俺もつい大声になっている。
卒業式のダンスパーティが終わり、クラブのパーティが場所を変えて始まっている。
いつも仲間と集まる学院内の店だ。
「おお、ネルソンが怒ったぞ」
「当り前だ、お前らはいつもそうやって茶化してだな…、」
「悪い悪い」
「そうだよ、まぁ、ラルディアが綺麗になったのはお前が、そうしたんだろう」
「そうそう」
そう言われると満更でもない。
ラルは笑っている。
いつの間にかラルは俺の仲間達に馴染んでいた。
不思議だった。
けど仲間に聞いたら、ラルの知り合いのお陰だったって分かった。
彼女には感謝してもしきれない。
ラルが楽しそうに笑ってる。
「皆さん、お世辞が上手ですから、ね。私も乗せられそうです」
「お世辞じゃないぞ?」
「じゃ、そういう事にします」
「ハハハ!」
笑い声が響く。
そこに仲間が女性を連れて現われた。
彼女が俺達の恩人なんだ。
「ラルディア!」
「ベニー!」
仲間の恋人の1人がテニスクラブでの知り合いだった。
「久し振りです」
「ええ、元気そうで安心したわ」
「だって、全部ベニーのお陰ですから…」
「ラルディア、私は何もしてないもの」
「いいえ、こうして私が皆さんと溶け込めるのは、ベニーが色々と根回しをしてくれたからだって知ってます」
そう、このベニーがフットボールの仲間にラルの事を色眼鏡で見るのは止めて欲しいと言ってくれた。
まだ俺達がどうなるか分からない時からだ。
だから、俺がラルと付き合うことになったって言い出した時、皆は「やっとかよ」って言って祝福してくれた。
ただ、俺の捻くれた目で冷静に見れば、違った見方になる。
奴らだって、ラルに恩を売っておきたいんだ。
なにしろラルは城の剣術指南が親代わりみたいなものだし、いずれ大公を名乗るルミーアの友人で王子とも顔見知りだ。
顔を覚えてもらった方が得に決まっている。
捻くれているかもしれないが、そんなものだろう。
それでも、こいつ等が彼女を俺の恋人として接してくれれば嬉しい。
ラルが危険な目に合う確率が減るからだ。
「でも、本当に幸せそうで安心したわ」
「ありがとうございます、」
ラルは俺を見る。
その笑顔は嬉しくなるような笑顔だ。
だから俺は心からの感謝を言葉にする。
「ベニーさん、色々とラルを守ってくれてありがとう。俺達はベニーさんに感謝してばかりですよ」
「まぁ、ネルソン先輩にそんなこと言われたら、まぁ、どうしよう…」
「おい、ネルソン。ベニーに手を出すな?」
「お前は馬鹿か?ラルがいるのに、そんなことするか!」
「おいおい、惚気か?」
「違う!」
俺の声に皆が笑う。
適当に酒が入り、食事も美味しくて、気分も最高なんだ。
幸せだな。
別の日に。
俺はまたエドマイア先輩にご馳走になっている。
先輩はケンフリットを卒業して直ぐに城に入った。
宰相であるザルファー様の補佐になってシャルディの為に動いているそうだ。
学生気分は抜けてすっかり大人の顔になった気がする。
「どうだい、この店は?」
「俺なんかが入っていいんですかね?」
「いいんだよ。いや、入るべきだね。この様な場にも慣れる事がネルソンには必要だ」
ケンフリットではなくベルーガにある店に誘われている。
今日は王都でも1番の店と言われている場所だ。
俺なんか入れることが奇跡だろう。
「とにかくだ、先日の君は格好良かったよ?」
あのレストルーム前での出来事を言っているんだよ。
「そうですか?」
「そうだとも、君にああ言った手前もあったからね。君達が上手く行ってくれることを願っていたんだ、私は」
「それは、うん、ありがとうございます」
「ラルディア嬢はいい女性だろう?」
「ええ、気配りは出来るし、お淑やかだし、知ってますか?料理も上手なんですよ?」
「それは知らなかったな」
「俺もです。けど、彼女の家に行く度に手料理を振舞ってくれてるんです。ネルダーのオイルを使ってラルのオリジナルの料理なんですけど、本当に美味しくて…。俺、幸せ者だなぁって…あ、」
先輩がニヤニヤして見ている…。
参ったな。
「どうしたんだい?続けてくれていいんだよ?」
「いえ、まぁ、ラルの料理が美味しいってことです」
「そう、と言うことは君は頻繁に城に来ているんだ?」
「まぁ、そうなりますね。ラルはジルバートさんと一緒に城の側に住んでますから」
「ほう…」
「な、なんですか?」
「いやね、今までの君を見てきたからね。今の君を想像することが難しい気持ちもあるんだよ」
「そうでしょうね、自分が1番分かりませんから」
「そんなものかい?」
そりゃ、そうだろう。
「はい、実際のところ、ルミーアのことを忘れているのかって聞かれると返事出来ないんです」
「今でも?」
「ラルの方が好きだって言えるんですけどね、忘れるって難しいです」
「そうかも知れないね」
「でも、ラルはそれで良いって言ってくれるんですよ。良い女でしょ?」
「ああ、とってもいい女だ」
「これからの時間を2人で積み上げて行けば、きっとその先に答えが出てくるんじゃないかって言ってくれるんです」
「ラルディア嬢らしいな」
「ええ、俺はラルの手を離すつもりはありませんから」
「それは、ネルソン、君らしい」
「そうですか?」
「ああ、」
先輩は楽しそうに話を続ける。
「君の決めたら振り返らないところが、私は好きだな。君との食事はいつも楽しい」
「そう思って頂けると嬉しいです」
「これからも時々会ってくれるだろうか?」
「もちろんですよ」
「良かったな、私は君のファンだから嬉しいよ」
俺も、嬉しい。
「あ、そうだった。春に私達の結婚式を行うんだ」
「それはおめでとうございます」
「君とラルディア嬢にも出席してもらいたい、いいね?」
「ラルは当然でしょうけど、俺は…、いいんですか?」
「いいよ。ただ、その時は正装になるな」
「正装ですか…、」
「あ、そうだ。最近、殿下がお召しになっている准正装があるんだよ」
あ、なんだか見た気がする。
貴族達の中で時々見かけるな。
「そのスーツを仕立てよう」
「え?」
「うん、ついでにラルディア嬢のドレスもだ」
「いいですよ、先輩にそこまでしていただく理由がありませんから」
「大丈夫、あるんだよ」
「え?」
「マドレーヌが側室ではなくなって自由に生きているからね」
「そうでしたね」
そんなこともあったな。
俺はラルから聞いただけだけど、不思議な縁だな。
「最近は男性との外出も増えているみたいだ」
「ラルから聞いてます」
「君達みたいに仲の良い関係になれる男性が見つかるといいんだけどね」
「大丈夫ですよ」
先輩は俺の言葉に安心したように笑った。




