27
あっという間だったんだ。
瞬く間に半年が過ぎた。
ケンフリットに来て半年。
普通に時間が過ぎていく。
私は勉強に追われていたけど、マドレーヌとラルが面倒見てくれるお陰で何とか授業に付いて行ってる。
「いつも、ごめん」
「いいんです、こうやってルミーアに教えてると自分の復習になりますから」
ラルは優しい、あ、マドレーヌもね。
だから2人と同じ授業はなんとかなる。
違う授業は…、頑張ってる。
なんでこんなに頑張ってるんだろうね。
頑張る必要、ないと思うんだ。
だって、ケンフリットに入った目的はシャルなんだもの。
だから、私、入学する為に頑張ったけど、シャルディ殿下には会えないまま。
あの入学式の時だけだ。
私って本当に馬鹿だなぁ。
ここに来れば、何もしなくても会えるって信じてた。
きっとシャルが見つけてくれて、抱きしめてくれて、昔みたいに。
だけど、そんな都合のいい事、起きなかった。
なんだろう、思い込んでいたんだ。
ダニエル兄様の言う通りだったわ。
私は子供で何も分かっていなかったんだ。
シャルはシャルで生きていかないといけないから、忘れるからって言ったのにね。
私は自分の都合の良い事だけを信じ込んで、ここに来たんだね。
諦める、しかないんだろうな。
だって忘れ去られているんだものね。
シャルの馬鹿。
勉強、しようっと。
ところで、です!
そうそう、そうなのですよ、私は冬を体験したのです!
ここで初めての冬を迎えたのです。
ネルダーの冬は雪なんか降らないし暖かい。
なのに、ベルーガでは雪が降る。
そうなんだ、ここでは雪が、雪が降ったんです。
私は初めて雪を見て、触って、少し食べたんです!
そんな冬の日々。
私はお正月前の小連休をマドレーヌとラルと寮で過ごした。
「雪って、冷たいね!」
「そうですわね…」
「真っ白だよ?」
「そうだね…」
マドレーヌもラルも雪は見飽きてるみたいで、冷たい…。
ついでに、新年はケイト姉様の家でネルソンも一緒に過ごした。
「雪だ!外に行ってくる!」
「いい加減にしろ、勉強はどうするんだ?」
「あ、…」
「子供じゃあるまいし、もう慣れたらどうなの?」
「…、ごめんなさい」
「まぁ、いいじゃないか。ルミーアちゃんは雪が珍しいんだから」
雪だ雪だと騒ぐ私をみんなは生暖かい目で見守ってくれた。
あはは…。
ネルソンは相変わらず保護者代理として25寮にやってくる。
勉強も見てくれる。
特に冬の間は練習がそんなにないから余裕で現われた。
そうそう、私はネルダーの奇跡なんだから頑張らないといけないもんね。
で、雪は1月末まで降った。
「あぁ、また雪だね…」
「ようやくルミーアが雪に飽きてくれましたわ」
「本当に、ルミーアって凝り性なのね…」
「ごめん…」
ラルも雪でクラブがお休み状態だから寮にいる時間が増えた。
3人で過ごす時間が増えたんだ。
だから、私とマドレーヌはラルの指導の下、簡単な準備運動から始めた。
それがいつの間にか護身術へと移って行きどっぷりと嵌ってしまった。
マドレーヌなんかは何故か真剣なんだ。
「相手の手を勢いを利用して、こう、捻るのです」
「すごい!非力でも大丈夫ですね!」
「そうなんですよ」
「もう一度、やります!、えい!」
マドレーヌ?なんか目が違うよ。
ケンフリットで有数の美女が我を忘れてラルを投げている…。
その情景が凄すぎた。
「その程度でいいんじゃない?」
「いいえ!まだです!」
そんな運動の後はお喋りをしながらナターシャの料理を頂く。
時々ミリタス先輩も加わるんだけれど、「賑やかね?」って必ず言う。
私達って喋り過ぎなのかしら?
まぁ、それなりにケンフリットでの生活が落ち着いている証拠。
そういう事でいいと思う。
それとです。
えーと、色々と噂も流れてきます。
この国の王子の噂がね。
無愛想でガサツで睨まれると凍りつくんだって。
気に入らないと二度とお目に掛かることも叶わないんだって。
婚約者がいるのに、毎日側室と出掛けてるんだって。
そうらしい。
そんでもって、王子には2人も側室がいて、2人はやっぱり仲が悪いんだって。
なんでも、最近じゃお互いに罵り合っているそうだ。
そこに第3の側室の登場なんだって…、そうなんだって…。
いったい誰なんだろうか?
2人の事も知らないんだから、3人目の事も知らなくてもいいよね?
側室が3人、か。
王子は違うな、堂々と連れて歩いてるなんて、違うわ。
けど、いいんだ。
私の中には私だけが知ってるシャルがいるから。
それで、いいんだ。
春になって、ラルはテニスクラブでの活動が本格的に動き出していた。
毎日練習で遅くなって、一緒に晩御飯を食べるのは週に1度くらいだ。
それでも夏には試合デビューするかもしれないって。
私とマドレーヌは絶対に行くって決めてる。
そうそう、マドレーヌは時々ミリタス先輩と出かける。
凄く仲が良いんだ、まるで姉妹みたいだって思う。
けど、なんだ。
マドレーヌはそのお出かけから帰ってくると落ち込んでいるのが分かる時がある。
そんな時は1人で部屋に篭って出てこない。
どうしたらいいのか分からなくてミリタス先輩に聞いてみたんだけど、「そっとしてあげて?」と言われる。
マドレーヌは私達には分からない苦労があるんだって思うしかできない。
だから、せめて私達と一緒の時は笑い合えるような関係でいようって思う。
だって友人だもの。
ラルもマドレーヌは春になって忙しいみたい。
だから、マドレーヌもラルもいない時が多くなった。
そんな時、私はナターシャさんにお菓子の作り方を教わることにした。
手作りのお菓子は私の大好物だから。
お母様は上手でいつも美味しいお菓子を作ってくれた。
お母様のお菓子はシャルも大好きで、私達いつも取り合いしたけど、最後にはシャルが分けてくれた。
たまにはシャルが私の口の中に入れてくれたりした。
食いしん坊め、って笑いながらね。
うん、…。
とにかく、美味しいお菓子を作れるようになりたい。
ネルダーに帰ったらお母様を驚かそうと思うから。
そうそう、エドマイア先輩も時々姿を見せる。
そんな時はみんなで25寮で食事をしたり話したりしてる。
笑い声が絶えないんだ。
私、この寮でよかった。
殺伐とした雰囲気の寮もあるって聞いてる。
ここのみんなが大好きだから、良かった。
それから、この半年で新しい友達もできたんだ。
同じ学年の友達が。
「ルミーア、こちらですよ?」
今日も会ってる。
同じ授業を受けてる彼はいつも席を取ってくれてる。
親切なんだ。
「ヴァン、ありがとう!」
「いいんですよ、する事がないんで早く来てしまうんですからね」
私たちは歴史の授業を受けている。
好きな時代が同じだから、話が弾んで楽しいんだ。
「けど、いつもだから悪いもの。で、これを」
そう言って私はクッキーを渡した。
前から約束してたんだ。
いつかお礼したいからって。
せめてものお礼。
ナターシャのお陰でお店で買うようなクオリティになっている。
それに皆も美味しいって言ってくれてる。
「良かったら、食べてね?」
ラッピングも綺麗した。
その内にケイト姉様の所に売り込みにいこうかな?
「これは、伺っていたクッキーですか?」
ヴァンとはたわいない話をしている。
彼は楽しそうに聞いてくれるから、話甲斐があるもの。
お菓子作りに凝ってるって話してたら、いつか食べてみたいですね、って言ってくれてた。
だから焼いてみた。
「そう。ヴァンにはお世話になりっぱなしだからね。焼いてみたのよ」
「ルミーアは本当にお菓子を作ったりするんですね?」
「ちゃんと作ったわ」
「凄いです、職人が作ったようですね」
「あ、…、けど、ね、本当は寮のキーパーさんに教えてもらいながら作ったの。1人で作ったみたいに言ってゴメンなさいね?けど、だから本当に美味しいのよ…、安心した?」
いつもの静かな笑みだ。
「大丈夫です、嬉しいですね。けど、今はお腹が一杯なので、後で頂きますね?」
ヴァンは食べることなくカバンに片付けた。
ちょっとショックだ…。
「私が作ったって、心配?」
「いいえ、そうじゃないんです。ここで頂くには勿体無いですからね」
「そう、なら良いんだけど…」
まだ納得が言ってない私。
けど、ヴァンは話を変えた。
「ところで今度の試験ですが、この辺りが出そうですよ?」
ヴァン特製ノートが差し出される。
嬉しい!
「今、書き写すから!待ってて?」
「はい」
静かな微笑みはちょっと心がときめく。
ヴァンのノートは分かりやすい、写してるだけで頭に入ってくるんだ。
これで試験も安泰だ。
これがきっと、充実してる学院生活、なんだろう。
毎日がこんな風に過ぎていくんだ。
だからかも知れない。
シャルの事は、大切な思い出は思い出として仕舞おうとしてる。
きっと素敵な友達や先輩がいるから、強くなったのかもしれない。
ううん、現実を見れるようになったんだ、きっと。
何年かして、新しい恋もするのかな?
その人にはシャルのことを懐かしい思い出として話すのかも知れないな。
今は無理でも、いつか、は…。
でも、今は無理でもいいよね?
だって、時々、想いが込み上げてくるんだ。
こんなに好きなのに、ってね。
けど、きっと、その内に、そんなこともなくなるんだろうからね、きっと。
ああ、無心になるのにお菓子作りは最高の時間だわ!
だから、私はまたクッキーを焼いた。
その日の25寮。
「あら、ルミーア、また焼いたんですか?」
「そうなの、良かったら、」
「ちょっと遠慮します」
ミリタス先輩が笑ってる。
「ルミーアは真っ直ぐね、思い込んだら一直線」
「ミリタス先輩、凝り性にも程がありますわ」
「まぁそうだけども、性分は直らないものよ」
「ごめんね…」
「もう、仕方ありませんね。ルミーア、いつもみたいに小分けにして下さい。知り合いに配ります」
「ありがとう!」
ありがとう、マドレーヌ!
本当に感謝してるんだ!




