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キャーーオーーー!キャキャキャーーー!


海鳥の鳴き声だ。

潮の香りもする。

この島々は私のお父様が治めている場所。

ネルダー諸島って呼ばれている。

バルトン王国の中でも南に位置している島々。

南国だからネルダーの景色は色彩に溢れている。

今も空は輝いている。



私は島の港にいる。

この港からは、あの木が良く見える。

幼い私達を見守ってくれた木が見えるんだ。


いつも手を繋いであの木の麓で遊んから。

シャルが隣にいる、それだけで幸せだった。




想いをかき乱すように声がした。


「ルミーア!おーい!」


私の名前が呼ばれてる。


「ルミーア!聞こえてるのか!」


これはネルソンの声だ。

けど、私は振り返らない。


「早くしろよ!その木はな、船からだって見えるんだぞー!」


わかってるよ。

だけどね、私は今見てたかったのよ。

だって、あの木に誓いたかったからなの。

どんな事が起きても後悔しないから、ってね、心の中で誓うの。


木々の葉がサラサラと囁いた音が聞こえた気がした。


なんだか木が笑って送り出してくれる様に感じる。

気のせい?そうかも知れない。

こんな遠くまで聞こえるはず無いもの。

でも、それでもいいや。

ちゃんと挨拶ができたから。




だから、私は振り返って船を見上げた。

ケイト姉様の夫、ラッザリオさんの船だ。

王都での商売の為に荷物を積み込んだ船はなんだか重そう。


「ルミーア!来いよ!」


もう!さっきからネルソンがうるさい。


「わかったから!いま、いくわー!」


ネルソンはケンフリット学院の2年で、私の一つ上になる。

私は今年から入学するからネルソンは先輩だ。


私は船に向って走り出した。

船から港に下ろされた階段を駆け上がる。

息が切れそうになっても構わない。

勢い良く走りきった。


そんな時ネルソンの手が見えた。


「ほら!」


私は迷いもしないでその手を掴んだ。


「ありがとう!」


ネルソンの瞳は深い鳶色で、黒髪が揺れる。

幼い頃から私とシャルの側にいた。

時々3人で遊んだこともあったっけ。


そんなネルソンから、ちょっと先輩風を吹かした様な返事が返ってきた。


「しっかりしろよ?」


先輩なんだぜ、って自慢げな顔で私にいってくれたよ。

なんなんだろう?

大人になったとでも言うんだろうか?

性分ってそんなに簡単に直らないよ?

意地悪な癖はね、きっと。



それに、こっれって保護者面?

お父様に代わって私の保護者代理になったからなの?

だとしたら、なんだか面倒臭いなぁ。




あれは3日前のこと。


お父様に呼ばれて居間に行ってみたらネルソンがいた。

1年前に王都ベルーガに見送ったきりで久し振りに会う。

背が少し伸びて、なんだか逞しくなったみたいだ。


「よう」

「あ、ネルソンだ、元気?」

「もちろんだよ」


日に焼けて、うん、いい男になったみたい。

だけど、私は子供の頃に意地悪された記憶があるから、無条件で懐けない。


「なんか、ネルソン、大きくなった」

「そりゃそうだよ。なんせ、フットボールで毎日鍛えられているからな」


お父様が嬉しそうな顔になる。


「ネルソンの噂はネルダーにも届いているぞ?凄い活躍なんだってな?」

「ありがとうございます」

「ネルソンの活躍がここまで届くなんて凄いことだ。どうだ、そのままフットボールを続けてみたら?そのままベルーガに残ってその道に行くのもありだぞ?」


ネルソンのお父さんはお父様の下で長い間仕事してくれてる。

だから本来なら、その後を継ぐんだ。

本人もそのつもりだったと思うけどお父様がベルーガに残ってもいいなんていう。

いつの間にフットボールなんて始めたんだろう?


フットボールは広い競技場でボールを蹴ってゴールに入れるって球技。

古くから行われている競技だからプレイする人間も試合を見に行くファンも多い。

私もネルダーで見ることがあるけど、王都で行われるのは規模が違うんだって。


「お館様、それは卒業するまで考えてみます」

「そうだな。それもいい事だ。けれども、頑張るんだぞ?」

「ありがとうございます」


あ、呼ばれた用事ってなんだろう?


「ところで、あのお父様、用事って?」

「ああ、お前がケンフリットに行くからな、ネルソンに保護者代理をを頼んだ」

「えー!ネルソンが保護者?!」

「なんだよ?」


ちょっと不機嫌になったのには理由がある。

だって、ネルソンは意地悪だから。

昔から意地の悪いことを言うから嫌なんだ。


「どうした、ルミーア。不満そうだな?」

「だってお父様、ネルソンは意地悪だもの」

「おい、酷いな」

「だってそうじゃない?いつも意地悪してたくせに…」


私達3人の思い出にはそんな思い出しかない。

いつもネルソンが私を苛めてシャルが慰めてくれた。


「子供じゃなんだ。もうそんな事しない」

「本当かなぁ」

「ルミーア、お前はいつまで子供時代を引き摺っているんだ?ネルソンはな、もう立派な大人だ。この私が信頼してお前を託すんだ」

「…、けど」

「ルミーア、私が決めた事が不服か?」

「そうじゃないわ、お父様が決めたなら、それでいい…」

「じゃ決まりだ。ネルソンのいう事を聞くんだぞ?」


満足そうにするお父様。

仕方ない、ケンフリットに行かせてくれるんだもの。

大人しくいう事をきく。


「ルミーア、」


ネルソンだ、真面目な顔してる。


「ケンフリットは甘くない。真剣に勉強しないと置いてかれるぞ。覚悟は出来てるか?」


目がいつもになく真剣。

そんなネルソンを見たことがなかった。


「うん、わかった」

「けど心配要らない、俺がついてるから」

「うん」

「なんでも聞けよ?」

「ありがとう」

「お館様、ルミーアの保護者代理として面倒を看ますんで安心してください」

「頼んだぞ?くれぐれも、だ」

「はい」


くれぐれってなんだろう?






船の上だ。

ボーっとしていた私の目の前にネルソンがいる。


「どうした、?」

「大丈夫だよ?」

「無理するな、ほら、」


ネルソンが私を見ている。

真っ直ぐに入り込んでくるみたい。


なんだか優しい、気のせいかな?

やっぱり保護者代理になると態度が変わるんだろうか?

ちょっと調子が狂うな、優しいネルソンなんて不思議だもの。


私は視線を逸らした。


そんなネルソンの肩越しに…。

水平線だ!水平線が見える。

あの向こうが王都ベルーガなんだ。



私の心臓が破裂しそうなる。

だって、シャルがいるんだもの。


ベルーガには初めて行く訳じゃない。

ケンフリットの試験に行ったんだから、2度目だ。

だけどね、試験の時には試験の事で頭がいっぱいで余裕がなかった。

頭の中から覚えたことが零れていきそうだったからね。

記憶したことを落とさないように必死だったの。

なんたって『ネルダーの奇跡』と呼ばれた女だもの。

今回みたいにシャルのことを考えている余裕はなかった。


けど、今は想いに浸りたい。


だって、あの向こうにシャルがいるんだ。

私の中に住んでいる幼い頃のシャルの面影が笑った。




あの優しかった深蒼の瞳の持ち主が。





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