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俺はエドマイア先輩と同じ乗り物に乗っている。

そして、目的地に到着したらしい…。



こんな場所に連れてこられて、どなるんだろうか?


「さあさあ、遠慮は禁物だ。ドビー!来てくれ」


エドマイア先輩は屋敷に入るなり侍従を呼んで準備を始めた。



参ったよ。



俺はいきなりオルタンス宰相の別宅に連れ込まれた。

学院の側あるこの別宅は、往復に30分も掛からないらしい。

しかもだ。

馬車なんかじゃない、最近見かける自動車って奴での移動だ。

金持ちって違うな。

最近じゃ街中を自動車ってモノが走るようになった。

けれどそれは簡単な鉄組みで布の雨よけが申し訳程度についているような代物だ。

オルタンス家の自動車とは違う。

貴族が乗っている自動車は窓にはガラスが填められていて、まるで専用の馬車がそのまま自動車になった様だ。

乗っていても外の空気に晒されることがない。

その窓ガラスも換気出来る様になっているから凄い。


その位にオルタンス家は貴族の中でも名門だ。

王都に来て1年しか経っていない俺でもオルタンス家の名前は知っている。

バルトン王国の宰相で切れ味抜群の頭脳の持ち主。

王の右腕として辣腕を奮っていると噂の人物。


その跡取りが目の前にいるエドマイア・オルタンスだ。

妹のマドレーヌと良く似た顔つき。

もちろん金髪に緑色の瞳だ。


俺の1つ上に当たる先輩。

けどだ、当然なかなか直にお目にかかることなどない人だ。

それが何をどうしたら、こうなるんだ?

どうして目の前に彼がいて、俺は彼の侍従の手によって着替えさせられているんだ?


そんな俺の戸惑いすら楽しんでいる様子のエドマイア先輩だ。


「君と知り合えて嬉しいよ、ネルソン・ルクレーオ」

「俺なんかと?」

「俺なんか?何を言ってるんだ、ネルソン?来月のミールとの試合、勝つんだろう?」

「それはもちろんです!」


その為にキツイ練習をやっているんだ。

負ける訳にはいかない。


「そうでなくっちゃ。私はねミールにだけは勝ってもらいたいんだ。あのミールには…」


応援してくれる人間達はそれぞれに熱くなる理由を持っている。

エドマイア先輩はミールに負けたくないんだな。

どんな理由なんだろうか?


目の前に水色の上下が用意されてきた。

うわ、ベルトは赤か?

おいおい…。


「さてさて、可愛い妹の願いだ。君を貴公子に仕立てないとね」

「ですが…」


正装は2,3度したことがあるけど窮屈で慣れない。

俺の戸惑いなんて無視されて支度が整っていく。


「これはサイズが合っているね、よかったよ」

「はい、ネルソン様に似合っておいでです」

「様って、そんなのいいです」

「まぁ、気にしないことだ」

「はぁ…」

「ルミーア嬢と釣り合う格好にならないと、ダンスは踊れないよ?」

「まぁ、そうですが、」


だいたいだ、ルミーアがパーティ用のドレスを着てたなんて。


そうだよ、ネルダーにいた時ですら着たことないじゃないか。

ネルダーは島国でそれを良い事にお館様は自治を強化している。

その気質が溢れているんだ、気取った服装なんてしない。


だからダンスパーティだからってキラキラしたドレスなんて着ない。


去年の俺はいつもの服装よりも少しマシな服装で参加したんだ。

それでも何とかなった。

ダンスなんか踊らなかったし…。


まぁ確かにそんな人間は少数だったけど…。


ルミーアのことだからさ、いつもワンピースで出かけるのもいいなって思ったんだ。

それでも可愛いから、それでいいよな、って思ってた。

のに、なんで、ドレスを着てるなんて…。



綺麗だったけど。



俺を覗き込むようにエドマイア先輩の声がした。


「あの子は君の恋人かい?」


この人はなんでこんな事いうのかなぁ。


「ちが、違います!」

「ふーん、じゃ君が好きなだけ?」

「そ、そんな…」


なんで俺の気持ちは直ぐに誰にでもわかってしまうんだろう?


「否定しなくてもいいよ。あの姿を見ていた君の顔を見れば分かるからね」

「あ、そうですか?」

「ああ、心配で堪らないだろう?」


当たってはいない、けど、外れてもいない。

心配なら、いつもだ。

ドレスを見たときだけじゃないんだ。

ルミーアといる時はいつも心配だ、ルミーアは何を考えているんだろうってね。


「仕方ないな、けれどネルソンが心配するのもわかるなぁ」


この人は何処まで分かっているんだろうか?

今日会ったばかりの俺達の事を、わかるものだろうか?

俺達3人のことをだ。


「心配、ですか?」

「そうだよ、ルミーア嬢は綺麗だからな。彼女の今日の仕上がりは、そうだな、5割って所だろう。それであの美しさなら男は放っておかない」

「そんな…」

「ルミーア嬢を誰か他の男に取られてしまうかも知れないね?」


ルミーアに他の男?

シャルディ以外の男が、か?

ありえない。

絶対にありえない。

俺は自信を持って答えた。


「それは大丈夫です」

「なんだろう、その自信…」

「ルミーアが他の男に惚れるはずがないからです」

「それは、君以外のってこと?」

「いえ…」


そんな筈あるはずがない。

だけど、そっから先は言っちゃいけない。


「いえ、なんでもないですから」


そう、と先輩は俺から視線を外した。

しばらく沈黙が続いた。

再び俺を見た先輩は、ゆっくりと話し出す。


「なんだか奥のありそうな話だね?」

「奥なんかないです」

「そう?まぁ、今日はそういう事にしておこう。だけど君は、そんなにも彼女を好きなんだ?」

「…」


悪いか?


「そうです、俺は今のルミーアが好きです。悪いですか?」

「いや、悪くないよ」

「はぁ…」


なんか疲れる。


「けどだ、私がルミーア嬢を好きになっても構わないかい?」

「え?」


なんだよ?なんだよ?

さっきからの苛立ちのせいか、俺は睨んでしまった。


相手は苦笑いしてる。


「ゴメン、ゴメン」

「い、いえ…」

「君を敵に回すほど、私は馬鹿じゃないから」

「敵って、そんな…」

「そうかい?だって、今の顔、怖かったよ」

「あ、すみません」


靴を用意された。

水色の靴かよ?

ピエロだな。


「エドマイア様、終りました」

「うん、ネルソン君、いいねぇ。これでルミーア嬢の隣にいても大丈夫だ」

「そうですか?」

「ああ、堂々としろ?これで彼女も少しは意識してくれるさ」

「だといいんですが…」

「この私が保証するよ」


なんだろう、なんの保証もない筈なのに、安心する。

そして期待するんだ。


ルミーアの瞳が俺を見てくれることを。



「さぁ、行こうか?」

「はい」




そして、俺達はパーティ会場へと急いだ。





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