15
私達3人は自己紹介を終えて居間で寛いでいた。
上から声がした。
誰かいたんだ…、あ、3年生の方だ。
「なに、五月蝿いわね?」
2階からゆっくりと降りてくる。
わぁ!綺麗な人。
腰まで伸ばした真っ直ぐの黒髪、瞳は緑。
貫禄が違う、オーラが違う、空気が違う。
降りきってから私たちを見渡した。
「貴女達、新入生?」
「「「はい」」」
「そう、元気がいいわね」
慣れた感じで椅子に腰掛ける。
「ナターシャ、お茶を」
「はい、ミリタス様」
私達に向って優雅に微笑んだ。
「ようこそ、ケンフリットへ。ここには貴女達の好奇心を満たすものが沢山あるわ。楽しみなさいね?」
「「「はい」」」
いや、本当に貫禄あり過ぎ。
圧倒されるように私達はそれぞれ自己紹介をした。
けどミリタス先輩とマドレーヌは知り合いみたい。
はっきりとは言わないけど、顔見知りに違いない。
だって、全然物怖じしてなかったもの。
そしてナターシャさんがみんなの分もお茶を入れてくれたので、私達は優雅にお茶する事になった。
けど後ろでは、マドレーヌさんの荷物がドンドン運ばれていくんだけどね。
マドレーヌさんの部屋はどれだけ大きいんだろうか…。
「ケンフリットは概ね自由な学風よ、けどね…」
ミリタスさんは諸注意を教えてくれた。
やる気がないような振りをして細やかな気配りが出来る人。
本当に凄い。
私達も真剣に聞いた。
「だいたい、そんなところね。あ、後ね、ちゃんと勉強はしてる?」
「もちろんですわ。この後の試験が本番みたいなものですもの」
え?なに?
マドレーヌさんの答えが分からなかった。
「そうよ。ケンフリットは厳しいからね、頑張って?」
「はい、抜かりはありませんので」
ラルディアさんも、しっかりと返事した。
なんだか拙い。
私だけ分かってない…。
そこへだ。
「ルミーア様、ご友人の方がお見えです」
ナターシャさんにいわれて、慌てて玄関に向かう。
なんと、保護者代理が立っていた。
「ネルソン?どうしたの?」
「おいおい、どうしたはないだろう?これ持ってきたから使え?」
それはネルソンのノートだった。
「ノート?何に使うの?」
「ルミーアのことだから忘れてるだろうと思ってたけど、本当に忘れてるなんてな…」
「忘れる?」
「入学後の恒例試験」
あ、なんか書いてあった気が…。
私の顔色が変わったのでネルソンは苦笑いになる。
「そんなことだろうと思ったよ。ほら、これ」
そのソートを渡してくれる。
「去年の俺が使った奴だけど、傾向と対策は出来るだろうからな」
「あ、ありがとう!でも、ネルソン。その試験って簡単なんでしょ?全然書けなくても大丈夫なんでしょ?」
ネルソンのため息が聞こえる。
「ルミーア…。そんなに簡単なら苦労はしないんだぞ?」
え、そうなの…。
分かりやすく慌てる、私って…。
「仕方ないなぁ。なんだったら今から勉強を見てやるぞ?」
「いいの?」
「なんたって俺は、お前の保護者代理だからな」
「うん、お願い!」
ネルソンが神様に見えた。
迷い子の私を救って下さい、お願いします…。
苦笑いしてるけど頷いてくれる。
「それじゃ、図書館に行って勉強するか?」
やっぱり保護者代理は優しい。
これからもズッと保護者代理でお願いしたい。
珍しくそんな気になった私。
「うん、お願いします。準備してくるね」
そこに何故だかミリタス先輩がやってきた。
「あら、ネルソンじゃないの。無愛想な貴方が珍しい…」
そう言って本当に驚いている。
普段のネルソンって?私の知ってるネルソンと違うのかな?
「先輩…、」
「この子、あなたの知り合いなの?」
「ミリタス先輩、なんでこの寮に?」
「今年からここに住むの。だけど、貴方の知り合いと同じ寮だなんて、奇遇ね?」
「知り合い、っていうか、同郷ですよ」
「同郷?そうなの…。けど、貴方が図書館で2人きりで勉強なんかしたら大変じゃない?」
なにが大変なんだろう?
それよりもなんでミリタス先輩がネルソンのことを知っている?
どんな知り合いなんだろう?
?が頭の中を飛び交ってしまう。
「大したことないですよ、勉強しにいくだけですから」
ミリタス先輩はネルソンを眺めて、そして、ため息をついた。
「本当にあなたって自己評価が低いと言うか、自分を取り巻いている事実に疎いのね」
「先輩…」
気を引き締めて言葉続けられる。
「勉強はここでやった方いいわ、ぜひとも、そうしなさい」
何故か玄関にやってきた2人も言葉をそろえるんだ。
「賛成です。先輩、是非教えて下さい!」
「私もですわ。よろしくお願い致します」
満更でもないネルソン。
なんかむかつく。
「分かりました、俺でよければ」
だから4人で居間で勉強が始まった。
ミリタス先輩はお茶を楽しみながら私達を眺めているだけ。
ネルソンは重々しく話し出す。
「この問題の注意点は、この部分から解き始めることだ」
思わずうなずく。
「なるほど、」
私の返事にラルディアさんとマドレーヌさんが苦笑いになる。
「え?なんで?」
「ルミーアって、もしかして勉強苦手?」
「ラルディアさん、そんな直球でこなくても…」
マドレーヌさんまで、そんな顔で笑わないで、お願い。
「ネルソン先輩って面倒見がいいんですね?」
「俺の苦労をわかってくれるか?」
頷く2人。
そんなに迷惑掛けてない、と思うんだよ?
そんな中でミリタス先輩が発言する。
「ネルソンが女に見向きもしない理由ならわかったわ。貴方達、そうだったのね?」
そうって、なに?
意味有り気なみんなの顔が…、違う、違うよ?
ネルソンは私の保護者代理なだけです!
思わず大きな声が出る。
「ミリタス先輩!」
「あら、そんな仲じゃないの?」
どんな仲だと?
ここは思いっきり否定しないと拙い。
「ミリタス先輩、ネルソンとは幼馴染なだけです!」
「まぁはっきりと」
「はっきり言います。ネルソンは私の保護者代理ですもの。そうだよね、ネルソン?」
ね?と力を込めてネルソンを見た。
「ええ、まぁ…」
「あら、そうなの?ネルソンは、それでいいの?」
などどネルソンに聞いてくる。
「いいも何も、ネルソン、そうでしょ?」
「あ、ああ、そうだ」
「ね、ミリタス先輩。ネルソンもこう言ってます!」
そして妖艶に笑う。
もう、ね、その迫力が怖い。
「けれども、ネルソンの事をそこまで拒むって、ルミーアには想い人でもいるのかしら?」
思わず私達は顔を見合わせた。
ミリタス先輩って、怖い。
なんでわかるんだろう?
ラルディアさんとマドレーヌさんがミリタス先輩に尋ねる。
「ミリタス先輩、なんの話でしょうか?」
「そうですよ、私達にも分かるように教えて下さい」
「そう?」
先輩、その微笑は妖艶過ぎます…。
「いいのよ、そのウチにわかるから。その方がね人生は楽しいのよ。じゃ私は用事があるから」
それだけ言うと、ミリタス先輩は外出してしまった。
変な余韻が残っている。
ネルソンが声を出した。
「これ以上の詮索は無用。さあ、続きだ」
いきなり熱血先生に変身したネルソンのお陰で私達の頭は煮えくり返るほどにクタクタになった。
疲れて寝てしまったんだよ。
この授業は試験日の前日まで続いた。
ケンフリットって、大変だ。
けど、ネルソンとミリタス先輩って、なんで知り合いなんだろうか?