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「着きましたわ」


新しく私の侍女になったデイジーがドアを開けてくれた。


「ありがとう」


私はバキャリーの店の前に降りる。


「ルミーア様!」


店の前で店主のバキャリーとマイトが待っていてくれた。

約束の時間に間に合ってホッとしてる。

次期大公なんて肩書きが付いてしまってから人と会うのに時間は絶対に厳守になってしまった。


今までだって遅刻することはなかったけど、でも、心配になる。

だって、こうして訪れる先で人が待っていてくれるからね。


「お運び頂きましてありがとうございます」


バキャリーが礼をした。


「素敵なドレスが仕上がったって聞きました。楽しみにしてるのよ?」

「それはもう、必ずお気に召していただけると確信しております」


そんな会話をしつつ店の中に入る。


2階の特別室。

何度か訪れたから寛げるようにはなったかな。

でも、視線があるからシャンとするように心がける。


どれもこれも素敵なドレスが3着、全て私の為に作られたもの。

でも私が細かく指示したりはしないの。

私は自分の着たい物のイメージを言葉で言えばいいだけ。

当日はミリタス先輩が主役だから白は駄目、だからといって暗い色も嫌なの、なんて我が儘を言っておいたら素敵なドレスが出来上がっていた。


「いかがでしょうか?」


満足です。


「どれも素敵だわ!」

「ありがとうございます」


マイトが誇らしげな顔をしてる。


「ルミーア様は私共を信頼して下さっていますので腕の振るい甲斐があります」


いえいえ、言うだけ言って丸投げしてるんです。

私の側にいるデイジーが頷いている。

そう言えばデイジーはバキャリーの特別室に入るのが初めてなのに落ち着いているわ。

さすが、その働きを買われて私の侍女に請われてやってきただけのことはある。


「ルミーアさま。さすがにバキャリーですわ。この様に豪華なドレスは見た事がありません」

「デイジー、そうでしょ?」

「はい、これらはルミーア様のことを心得ているから出来るデザインだと思います」


マイトが嬉しそうに喋る。


「その通りなのです、ルミーア様の美しさを如何に引き出せるか、私が苦心するところです」


照れます、正直に照れます。

でもね、任せた方が良いに決まってるもの。

自分の外見は自分では良く見えなかったりするものね。


「嬉しいわ。こうして皆に支えられて、美しいドレスを作って貰えて、私って幸せだわ。ありがとう」


心からの言葉だ。

目まぐるしい環境の変化に、なんとかついていってる私だから支える人がいないと倒れちゃうもの。


「私達は、そう、ルミーア様だから全力を注ぎたいと思うのです。そうではありませんか?」なんてバキャリーが言ってくれた。

その言葉に皆が頷いてくれる。

今、ここには幸せが溢れている、間違いないわ。


「ありがとう、こんな幸せな気持ちでこのドレスを纏うことが出来るなんて嬉しいわ」

「けれども、3着同時にはお召しいただけませんね…」

「そうね…」

「心苦しいですが、1着に絞りましょう?」

「ええ」


そして、当日のドレスが決まった。

ミントブルーのドレス、リボンは濃いブルー。

本当はディープブルーの色にしたかったらしいけど、出なかったそう。

でも、大丈夫。とっても素敵だから。


だから、3着とも購入する事にした。

着る場所はある、はずだもの。

きっとシャルも許してくれる、はず。

ドレス達に似合う靴と帽子とアクセサリーが増えてもね、きっと。






バキャリーでの用事が済んでから、私は近くにある姉様の店を訪れた。

デイジーとタリには店の中にあるカフェで待っていてもらうことにした。

意外に乙女なタリと綺麗なものが好きなデイジーは気が合うらしく時間を気にしないで姉様と話してきてもいいって言ってくれるから嬉しい。


私は姉様に案内されて店の2階にある部屋へ行く。

バキャリーの特別室にも劣らない豪華な部屋だ。

いつの間に作ったんだろう?


「こんなに豪華な部屋、あった?」

「部屋自体はあったの。でも殺風景だったからね、模様替えしたのよ」

「そうなんだ」

「次期大公殿下をお迎えしたり、オルタンス公爵夫人になられる方をお迎えするんだもの。そのくらいの部屋がないとね」

「ま、まぁそうだね」

「ラッザリオがね、ベルーガで一番豪華な部屋を作ろうって言ってくれたのよ」

「相変わらず、姉様には甘いわ」

「当然でしょう?」


姉様は相変わらずだった。


「ラッザリオほど素敵な男性はいないわ」

「ご馳走様です」

「あら、棒読みね?」

「いいじゃない、気にしないで。それより、これなの?」


部屋の中央に置かれたモノに釘付けになった。


「どう?」

「素晴らしいわ」

「そうでしょう?」


それは大きな花瓶だった。

白磁の色は白くて、でも冷たくないの。

まるで白馬のように温かみを持った白。

そこに群青色と紺青色が波のように配色されて、鮮やかな紅色の鳥の文様が五月蝿くないようにバランスよく配置されていた。

私の胸くらいまである大きな花瓶だ。


季節の花々を生ければ緑と花の色を引き立てるに違いない。

私とシャルはこの大きな花瓶をオルタンス家の大きな内玄関に置いてもらおうと思ってるの。

盛りの花を沢山飾れるようにってね。

きっと華やかで訪れる人達を迎えれくれるに違いない。


「ご満足いただけましたか?次期大公殿下?」

「ええ、大いに満足しております」


私達は噴出してしまった。


「姉様、止めて?」

「そうね、止めましょう」

「良かった!」

「もう、直ぐに地が出てるわよ?」

「いいの」


姉様を前にして地が出ない方がおかしい。


「でも、よく間に合ったわ」

「職人が頑張ってくれたの」

「凄いわよね…」


これはベルーガでも有名な工房で作ってもらったもの。

一点ものなんだ。

姉様が交渉を担当してくれた。


「厳しい姉様を満足させたんだもの、素晴らしい方々だわ」

「そうね、これから良い付き合いが出来そうよ」

「私も作ってもらいたいなぁ」

「そうね、きっとね、これを見たベルーガ中の貴族が欲しがると思うわ」

「間違いないわ」

「フフフ」


商人の目になった姉様が笑う…。

かなりの勝算があるんだね、きっと。


「ねぇ、シャルが良いっていってからだけど、私にも作って?」

「いいわよ、でもね、この話はルミーアのお陰なの。だから、私とラッザリオから贈らせてもらうわ」

「いいの?」

「勿論よ」

「嬉しい!」


私は姉様に甘えることにした。

これも大事なことだと思うの。


「城の庭に沢山の花を植えないといけないわ!」

「そうね」

「ありがとう、姉様。ラッザリオさんにもお礼を言っておいてね?」

「わかったわよ」


そして、私達はソファに腰を下ろした。


「ケイト姉様、背伸びしてもいい?」

「いいわよ」


思いっきり背伸びして、ついでに欠伸もしちゃった。

行儀悪くて、すみません。


「どう、城は?慣れたかしら?」

「わからないわ」

「まぁ、そうね」

「でもシャルが守ってくれるから、大丈夫なの」

「ちゃんと惚気て…、シャルディは頑張ってるのね」


姉様が珍しくシャルを褒める。


「そうそう、ルミーアは幸せにしてるってお父様たちに伝えたわ」

「ホント?シャルが聞いたら喜ぶわ!」

「そう?私なんかが怒ろうが褒めようがシャルディには関係ないのに」

「それは違うもの、物凄く気にするのよ?」

「子供の頃の習慣って消えないのね」

「かもしれない」


姉様は花瓶のことを見る。


「それじゃ、これをオルタンスの屋敷に届けておくわね」

「お願いします」

「お任せください」


完璧なお辞儀と笑みで姉様が挨拶する。

様になってる、姉様には叶わない。


随分と長い間お喋りしたわ。

けど、楽しかった。

そろそろ時間かなって思ったから「そろそろ行くね?」と伝えた。

そしたらなんだけど、姉様は思い出した様に話し出した。


「引き止めてゴメンなさいね。そういえば、なんだけど」

「なに?」

「マドレーヌがね、この間、急に遊びに来たのよ」

「マドレーヌが?」

「そう、なんだろう、元気が無いみたいでね。貴女、何か聞いてる?」

「ううん」

「そう…」

「そんなに変だった?」

「そうね、少しね」


それは私も気になっていたこと。


「私もね、気になっていたの」

「ルミーアも?」

「そう、意固地というか、奥歯に物が挟まったというか」

「そうね…、おそらくは」

「おそらく?」

「好きな人がいる」

「ええええ!」


驚く、でも、驚いてから納得してしまった。


「でも、そうかも」

「そしてマドレーヌの片想いかも」

「それって、今お食事してる方達のどちらかで、どうしたらいいか迷っているとか?」

「どうかしら…、でも、私の勘は違うって告げてるわ」

「なら、間違いないわ」

「あら、信じてくれるの?」




勿論、です。









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