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私はシャルの髪が好き。

いつも優しかった深蒼の瞳も好き。


幼い頃から家族同然に暮らしていたから、これからも一緒だって思ってた。

それでいい、良かったの。

シャルのお嫁さんになる、それが私の夢だもの。

変わらない、変えられないから。



だけど…。



シャルは馬鹿だと思う。

あんな言葉残していなくなるなんてね、馬鹿。


「僕を憎んで欲しい」


そう言われて、はいそうですかと憎めるとでも思ったの?

本当に、シャルは馬鹿。

絶対に間違いない。


だって、そうだから。




あの時、あの時だってね、いきなり部屋にやってきて私を抱きしめたくせに。

覚えてるの?


そうだったよね?

『シャルが好き』って私がいったのを聞いてたよね?

シャルだって『ミアが好きだ』っていったじゃない?

それに、それに、初めてのキス、したよね?


子供の約束だから、無くなっても叶わなくてもいいの?


私のこと好きなくせに。

私のこと、大好きなくせに…。



それなのに、あんなことをいって私の前から消えてしまった。



「僕を憎んで欲しい」だなんて、どうしてそんな言葉を残すの?

私がシャルを憎むなんて出来ないこと、知ってるくせに。


だって、大好きなのよ? 

いつも一緒って言ってたよね?

なのに、そんな言葉を残されたら忘れられる訳ない。

かえって、私の心に残ってしまうでしょ?

絶対に消えない面影が残っちゃったのに…。


わかってたくせに。

そう、シャルはわかっていた。

みんな、わかっててシャルは消えた。




シャルは私を置いて王都に行ってしまった。




あのキスは子供のキスだった。

結婚しようねって、それは子供同士の約束だった。

けど、私達は真剣だった。

そうだよね?



なにも連絡がないまま、5年が過ぎた。

噂はあまり聞こえない。

だって、距離がありすぎて届かない。



もう5年も前のことだから、忘れなさいって言われてる。

子供の頃の約束なんて守られるはずがない、とも言われた。

わかってる。

それでもなの。

だって約束したから。

私はシャルが大好きなままなんだから。



だから、確かめに行ってもいいでしょ?



シャルが私のことを忘れたならそれでいい。

自分の目で確かめたいの。





だから今の私はそれを実行しようとしてる。




「だがな、ルミーア…」


お父様が途方にくれた顔をしている。


「けどね、ルミーア?」


お母様は言葉を探している。


「お前なぁ、行ってどうするつもりなんだ?」


ダニエル兄様が1番現実を見てるみたいだ。

だけど、家族の前で私は宣言したの。


「決まってるわ。ケンフリットで勉強するのよ」


「確かに、」とお母様は言葉を見つけたみたいだ。

「ルミーアと約束したわ。あなたがケンフリットの入学試験に合格したら王都へ行っても良いってね」

「そうよね、お母様?」

「だけど、私は娘がここを離れるのが嫌なのよ?それに、ルミーアも本当に良いの?」


その念押しが怖い。


「うん、いい」

「色んな事、分かってるの?」

「多分…」


兄様が冷静を装って言葉を挟む。


「母上、ルミーアは分かってない。まだ子供だ」

「兄様!酷いわ、私だってちゃんと理解してるのよ?」

「あそこに行けば良い事でもあるのか?」


何も言えなかった。

そんな保証はない、分かっている。


「なぁ、ルミーア?」


お父様が優しい瞳で私を見る。

心がざわつく。


「お前は、まだシャルディ殿下のことが忘れられないのか?」


私はコクンと頷く。

お母様がため息をついた。


「どうしてこんなに頑固なのかしら…、」


きっとケイト姉様に似たんだと思う、お母様…。

ごめんなさい。


「ケイトといい、ルミーアといい、家の娘は…どうしてなのかしら…」

「まぁ、確かにダニエルよりも娘達の方が強引だな」

「父上、それはそれで私が傷つきますよ?」

「そうだな、すまん。けどなぁ…」


ごめんなさい、お父様。


「けど、約束でしょ?試験に受かったらケンフリットで勉強してもいいって」

「そうだけど…」


みんなが受かるはずないって思ってた。

それは私も含めて、かもしれない。

けど受かった。

学校の先生も喜んでいた。

泣いてたっけ。


私は出来の良い生徒じゃなかったから、ネルダーの奇跡っていわれた。



沈黙が流れる。

そこに遅れてたケイト姉様が現れる。


「遅くなってごめんなさい」

「デンターム殿、すっかり遅くなった」


ケイト姉様と夫のラッザリオさんも来た。


この2人の結婚の時も揉めた。

姉様が19、ラッザリオさんは30だった。

お父様は最後まで渋ってた。

けど、ラッザリオさんは根気強く説得して粘り勝ちした。

今では姉様の夫というだけじゃなくて、何でも相談する友人の様な関係になってる。


ラッザリオさんも、なんで今日呼ばれたか分かってる。

ケンフリットの試験に受かったのに皆して思いとどまらせようとするためだ。

約束が違うんだ。


「ラッザリオ、良く来てくれた」

「可愛い義妹のことですからね」


なんて熊みたいな風体で言う。

姉様は、可愛いのよって惚気る。

ちょっと羨ましい。


ケイト姉様は迫力のある目で私を見る。


「で、ルミーアの決心は変わらないの?」

「変わらない」

「だけど、きっと傷つくわ?」

「…、」

「だって、あの子には婚約者がいるのよ?」


そうなんだ。

シャルは半年前に聖ゼファクト皇国の姫様と婚約したって発表があった。

ただそれは本決まりになっただけで、ずっと以前から決まっていたこと。

だって私はシャルが消えた時から知っていたもの。

シャルには結婚する相手がいる。

けど、それでもシャルに会いたい気持ちは抑えられなかった。


「それでも会いたいの。我が儘でごめんなさい」


私はちゃんと言葉にした。

みんなにわかってもらって、納得してもらって、それでケンフリットに行きたいから。


「多分、私のこの気持ちは報われないってわかってる。だってシャルはもう遠い人で、会いに行っても会えないってわかってるの。会いたいからって会える人じゃないことも、わかってる。けど、だから傷ついて諦めたいの。そしたら諦められるわ。だから、お願いします、行かせてください」


頭を下げた。

その頭を撫でられた。

その手はお母様の手だった。


「ルミーア、泣きたい時は泣くのよ?無理に我慢はしないでね?」

「うん、」

「いつでも帰って来て良いからね?」

「うん」


お父様は諦めたようだ。


「せっかくケンフリットに入学出来たんだ。しっかり勉強してくるんだぞ?その経験がこれからのお前を支えてくれるからな」

「はい」

「ラッザリオ、王都ではルミーアのこと頼んだ」

「ええ、デンターム殿。幸いにもケンフリットとは近いです。何かあれば直ぐにケイトも駆けつけますから」

「すまない」


ラッザリオさんは王都で商会を経営してる。

ここネルダーと王都を船で行き来して色々なモノを流通させているんだ。

ケイト姉様は時々ラッザリオさんについて航海する。

だからお父様は心配してる。

けど、今回は姉様達について私も船で王都へ行く。


だって、ネルダーは島だからね。


「ルミーア、」

「兄様?」

「お前は昔からそそっかしいんだ。充分に慎重に行動するんだぞ?」

「わかってるわ」

「なら良いんだがな…」


苦笑いになる兄様とお父様だ。

もう少し信用してくれてもいいのに…。


「まぁその向こう見ずなところがルミーアの長所でもあるけどね」


姉様、それは姉様も同じです…。


ようやく家族の許しを得て、私は王都へ、ケンフリットへ行くことになった。




バルトン王国の中心、王都ベルーガに。

そこには城があって王様と家族が住んでいる。



そう、シャルディ・ファスト・デ・ランドール殿下がいるんだ。

私の愛しい深蒼の瞳の持ち主がいる。






本日から連載開始です。

よろしくお願い致します。

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