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昭和事変篇 序章 予兆

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 みなさん、お待たせいたしまして、申し訳ございません。昭和事変篇のスタートです。

 かなり長いのでご了承ください。

 1940年(昭和15年)12月31日、大晦日。


 森樹(もりいつき)巡査部長と荻宮(おぎみや)佳織(かおり)巡査部長は東京のとある町を散策していた。


「なんて言うか、この町の風景を見ていると、懐かしく感じるな?」


 森は町の風景をみながら、つぶやいた。


「本当ね。写真でしか見たことがないのに、なんだか、懐かしく感じるわ」


「俺たちが日本人である証拠だな。たとえ時代が違っても、ここは日本であることは変わらない」


 森はこの時代を生きる国民たちを見ながら、つぶやいた。


「おや?」


 その時、森はある光景が目に止まった。


「中国、満州からの撤退!三国同盟の破棄は日本の権益を低下させ、アジアの王者である大日本帝国を崩壊させることである!」


 1人の中年の男が木箱に乗り、数10人ぐらいの群衆の前で演説している。


「これらの政策を決めた近衛、及川、東条以下閣僚、陸海軍将官たちに即刻辞職することを求める!」


「そうだ、そうだ!」


「日本の権益を守れ!」


「売国政治家、上級将校たちは辞職しろ!」


 木箱に立っている中年の男が再び叫ぶ。


「陸海軍の青年将校たちよ、陸海軍の親独派の将校たちよ!今の政治家、陸海軍の将官たちは天皇陛下をたぶらかしている。今こそクーデターを起こすべきなのだ!」


「「「そうだ!そうだ!」」」


 群衆が叫ぶ。


「おいおい」


 森は危ない方向に行っている国民に小声で突っ込んだ。


「あの人たち、自分が何を言っているのか、わかっているのかしら?」


 荻宮も小声でつぶやく。


「これは警察に連絡した方がよさそうだな」


 森はそう思った。


 2人も警察官ではあるが、あれだけの数を2人だけで抑えるのは不可能だ。


 近隣の交番か駐在所に通報して、応援を要請すべきだ。


「そうね。その方がよさそうね」


 森と荻宮が小走りで、その場を後にしようとしたら、背後から声をかけられた。


新谷(しんたに)花木(はなき)。その必要はない」


 背後からした声に2人が振り返った。2人の偽名を言ったのだから、何者かは見当がつく。


「笹川さん」


 そこには私服姿の笹川こと宮島(みやじま)(かつ)(よし)警部が立っていた。


「あの程度のことは放っておいて大丈夫だ」


「え?しかし」


「こんなことにまで、警察が出動していては警察官たちの数が不足する。見たところ主張するだけで、何もしていないじゃあないか。これは放っといて大丈夫だ」


 宮島は顔には似合わない笑みを浮かべて、言った。


「それにだ。彼らにもある程度は言わせてやれ。満州からの撤退、台湾と朝鮮の独立準備により、仕事を失った日本人がたくさんいるんだ。彼らの不満を言論で発散させるのは治安が悪化しない利点もあるんだ」


「そ、そうですか」


 森は上司に言われ、渋々と納得した。


「花木。君もいいかね?」


 宮島は荻宮に視線を向けた。


「はい」


 荻宮はうなずいた。


「それじゃあ、お2人さん。昼飯は済んだか?」


「いえ、まだです」


 森が答えた。


「なら、いい定食屋があるんだ。良かったら、一緒に行かないか?」


 宮島が誘う。


 森と荻宮は顔を見合わせて、1回うなずくと、宮島に顔を向けた。


「はい。お願いします」


「そうか、じゃあ、行こう」


 宮島は2人をオススメの定食屋に案内する。


「ここだ」


 10分ほど歩いて、到着した定食屋に宮島が指を指す。


「つどた?変わった名前ですね」


 森が店の名前を言うと、宮島と荻宮が噴き出した。


「新谷。たどつ、と右から読むんだ」


「新谷君。この時代だと横書きの文字は逆に読むのよ」


 宮島と荻宮に訂正され、森は、あ、そうか、とつぶやいた。


 昭和事変篇 序章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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