韓半島独立篇 後編 第4章 仕組まれたデモ 2
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
京畿道市街に、3万人を超えるデモ参加者が集まっていた。
そこには、奇二求の姿もある。
彼だけでは無く、彼と同じ年ぐらいの青年たちも、数多くが参加している。
デモに参加しているのは、男だけでは無い。
女性の姿もある。
参加者の多くは、大日本帝国が韓半島の統治権を大韓市国に引き渡し、その傀儡国家として大韓共和国が建国された際に、大日本帝国中小企業の撤退で、そこで働いていた労働者や大日本帝国本土で仕事に付いていた者や、仕事が決まり、本土に送られるはずだった者たちである。
つまり、失業者たちである。
「「「失業者たちの、社会保障制度を見直せ!!」」」
「「「大韓共和国政府は、撤退した大日本帝国企業を呼び戻せ!!」」」
「「「診療費、治療費の免除制度を容認せよ!!!」
等々、失業者や賃金が少ない労働者たちが、社会保障制度の見直しを叫んでいた。
大規模デモであるため、大韓共和国派遣警察庁第2機動団第2機動隊だけでは対処できず、戦闘警察隊鎮圧部隊も投入された。
デモ参加者の数が多いため、参加者の熱が上昇するのに、さほど時間はかからなかった。
デモ参加者の叫び声が、次第に政府や、デモ規制に出動している治安部隊への罵声に変わりだした。
1人が叫べば、熱が高まった群衆は、自分自身の制止も止まらず、録音盤のように後に続いてしまう。
そして、ついに1人のデモ参加者が、石を治安部隊の隊員に投げつけた。
それが引き金となり、前列にいたデモ参加者が暴徒化し、第2機動隊と正面からぶつかった。
中には火炎瓶を隠し持っていたデモ参加者がいたため、火炎瓶に火をつけて、第2機動隊や戦闘警察隊治安警備隊に投げつける。
機動隊と鎮圧部隊は、実力行使に変更し、暴徒化したデモ隊前列に対処した。
デモ隊の中には、潜入捜査官たちを潜入させているが、暴徒化のスピードの方が圧倒的に早かった。
どうやら、最初から政府に対し、暴力で訴える事を計画していたようだ。
1万人規模が、一斉に暴徒化した。
第2機動隊や戦闘警察隊鎮圧部隊も、万単位の暴徒化に対しては、警棒や盾では対処できない。
いかに、厳しい訓練を受けた鎮圧部隊でも、1人を警棒や盾で無力化しても、その後ろから5人以上の暴徒たちに襲いかかられる。
機動隊員や戦闘警察隊員が、暴徒化した群衆に集団的に暴行され、次々と倒されていく。
集団に襲われる鎮圧部隊員を、仲間たちが救出に向かうが、彼らの妨害により思うように救出できない。
暴徒化は、まるでウイルスのようにデモ隊参加者に蔓延し、わずか1時間程で3万人が暴徒化した。
火炎瓶や石等が彼らの最初の武器であったが、時間が経過するにつれ暴徒たちの武器は、箒等の棒のような物が、使用されるようになった。
第2機動隊と戦闘警察隊は、もはや近接検挙は困難として、周辺住民の生活、生命、財産等の防護と、隊員たちの生命を守るために、放水車及び催涙弾の使用を許可した。
同時に、非殺傷装備として、ゴム弾が装填された空気銃も投入された。
だが、彼らは怯まず、ますます過激な行動をとるようになった。
市街地であるため、大韓共和国政府が行う都市開発政策で、建設中の商店街を襲撃し、略奪や各種破壊活動まで行われた。
さらに放送局の1つが反政府勢力により占拠され、暴動を扇動する内容が、ラジオ放送された。
近隣地域でも、政府に不信や不満がある住民は多く、ラジオ放送を聞いた彼らが、暴動に加勢する事態に発展した。
京畿道郊外で発生した暴動事件は、暴動発生から30分後に大韓市国首都の国務最高委員長官邸に報告が上がった。
「邦最高委員長!」
国務最高委員長である邦夏英に、秘書が緊急報告した。
「それで被害は?」
彼女は、報告書を握りつぶしながら聞いた。
「暴動は、沈静化どころか深刻になるばかりです。戦闘警察隊員、及び機動団機動隊に、100名以上の死傷者が出ています」
「・・・・・・」
邦は、言葉を失ったが、それは一瞬だけだった。
「すぐに、行政自治委員長と国防委員長を呼んで」
「はい、ただちに」
秘書は駈け出し、2人を官邸に呼んだ。
大韓市国国務最高委員会国防委員会朱蒙軍統合特殊作戦軍司令本部陸軍特殊戦司令部第201空輸特殊作戦旅団(国内担当の空挺部隊)は、朱蒙軍空軍のC-130Jに乗り込み出撃した。
京畿道郊外で暴動発生から、3時間後であった。
「中隊長。第201特輸司令部からです」
中隊長付下士官である元士が、第201空輸特殊作戦旅団司令部から届けられた報告書を受け取った。
「暴動事件に軍が治安出動とは・・・まるで、韓国軍事政権末期を再現するような事態だな・・・」
中隊長である少領が、つぶやく。
「そうですね。この展開は、あの悲惨な事件を再現するような命令ですね」
「国境方面で、ソ連と中国に不穏な動きがある事が報告されている。大韓共和国政府からは、両大国に軍事的圧力をかけないようにするため、両国を刺激するような事態だけは、回避するように言われている」
元士からの言葉に、少領が現在の情勢を話す。
大韓共和国国境方面に、訓練を受けた保安軍国境警備隊が配備され、前回のように簡単には、国境を突破される事は無い。
だが、小火器と機関銃程度の武装では、軽戦車軍団の侵攻にも対処できないだろう。
一応ではあるが、大韓共和国国防部では、新設された陸軍歩兵1個大隊と戦車中隊、砲兵中隊等で編成した、独立諸兵科連隊を国境線手前に配置しているが、気休めにもならない。
戦車と言っても、大日本帝国陸軍から供与された軽戦車や自分たちが供与した旧式の軽戦車を韓共和国軍需工場で生産された軽戦車である。
ソ連軍が侵攻して来たら、とても阻止できない。
「今回の暴動とソ連軍と中国軍の不穏な動きに、上の連中は、怪しんでいるのだろう。だから、暴動に対し、陸軍の精鋭部隊である俺たちが投入される訳だ」
そこまで言った後、少領が元士に振り返った。
「1つ、気がかりなのは、下級士官、下士官、兵たちだ。下士官や兵も、どんなに学力が低くても高校は卒業している。当然俺たちが、これから何をするのか、理解しているのか?」
「その事については、心配する必要は無いと考えます。全員、朱蒙軍に志願した時から、こうなる覚悟は出来ているはずです」
元士は、決意ある口調で断言した。
彼は中隊長付下士官であるため、中隊に所属する下級将校から下士官、兵までの相談相手になっている。
時には厳しく、時には優しく、接するため、中隊内では頼れる父親的存在だ。
特に、若手の兵や士官学校を卒業したばかりの下級将校からは、「アボジ(父さん)」と呼ばれている。
中隊長である彼も、最も信頼する腹心の部下でもある。
「ああ、そうだな。つまらん事を気にしてしまった」
京畿道市街地で発生した大規模暴動により、鎮圧部隊は後退し、町を封鎖する形で防御陣地を構築した。
暴徒化したデモ隊には、どこから持ってきたのか、三八式手動装填式小銃、二十二年式村田連発銃、三十年式手動装填式小銃といった大日本帝国制の手動装填式小銃や、イギリス製手動装填式小銃[リ・メトフォード]、アメリカ製手動装填式小銃M1903[スプリング・フィールド]等のさまざまな手動装填式小銃が、トラックの荷台から出されて、供与された。
「我々は国賊では無い!!正義を行うために武器を手に取り、本来あるべき形に韓国を建国するのだ!!」
別の小型トラックの荷台から、1人の男が叫び声を上げる。
「正義のために銃を取るのだ!!同胞たちよ!!」
「「「おお!!!」
彼らに賛同する者たちが、叫び声を上げる。
ただ単に場の空気の流れで、暴動に手を貸してしまったデモ参加者たちも、自分たちが単に彼らによって利用されていたのでは無いか、と思う者たちも現れたが、誰も口にしない。
この状況下で、それを指摘しても何の解決にもならない。
すでに、治安部隊は後退し、防御陣地を構築している。
この状況下で、投降する事を主張すれば、彼らに謀殺されるだろう。
それだけでは無く、投降しても結果は同じ・・・治安部隊に殺害されるか、それとも拘束されて、騒乱罪等の重犯罪で重い刑罰を与えられるだけだ。
ここまで来てしまったら、逃げずに戦って死ぬか、戦って政府を打倒する、2つの選択肢しか存在しない。
(こんなはずじゃ、無かったのに・・・)
奇は、後悔しても仕切れない事に頭を抱えながら、三八式手動装填式小銃を受け取った。
実包は、装填済みであるが、予備弾が渡されなかった。
デモ参加者の数が多いために、全員に小銃が渡されなかった。
小銃を持たない者には、予備の弾が渡されただけで、後は木製の棒が渡されるだけであった。
(義姉さんの忠告に、従っていれば・・・)
奇は、周りの者たちに気付かれないように、心中で後悔した。
彼の友人(奇をデモに誘った友人である)は、鎮圧部隊による鎮圧活動で、頭をやられて即死した(催涙弾が頭部に直撃した)。
「おい!手の空いている奴は、バリケード構築に手を貸せ!!」
回転式拳銃を持った男が叫ぶ。
奇は、三八式手動装填式小銃を肩にかけて、バリケード構築を手伝った。
暴徒たちは、市街地にある市役所を占拠すると、同市役所を中心に防御陣地を構築した。
市役所周辺には、旧式の重機関銃である保式機関砲や、マキシム機関銃が設置され、機関銃陣地が構築された。
他の防御陣地にも、1挺の旧式重機関銃が設置されている。
「敵機だ!!」
奇たちが防御陣地を構築していると、大韓共和国空軍のマークをつけた飛行機が現れた。
「伏せろ!!」
誰かが、叫ぶ。
「安心しろ。あれは俺たちを見捨てた、大日本帝国陸軍が供与した九七式司令部偵察機だ。空軍では、主に友軍との連絡のために使用される」
1人の男が、上空に現れた敵機を観察しながら告げた。
彼の言う通り、上空に現れた機は攻撃する事は無く、空中から大量のビラを巻いた。
奇は、1枚のビラを手にとる。
ビラには、こう書かれていた。
『デモ参加者の皆さまが、今回の暴動に無関係である事実を大韓共和国政府は理解しています。今なら、まだ、間に合います。武器を捨てて投降してくだざい。4時間の猶予を与えます。6時間後の16時30分までに投降しなかった場合、騒乱罪叉は国家反逆罪の容疑で容疑者たちを鎮圧します。皆さまの良心的決断をお願いします』
16時30分を迎えるが、鎮圧部隊から攻撃はおろか、動きすらなかった。
「欺瞞だったのか?」
銀色の鉄製盾を持った、鎮圧部隊を正面から確認できる位置に、家具等を使って、防御陣地を構築した彼らは、三八式手動装填式小銃やM1903等の引き金に指をかけて、いつでも一斉射撃ができる態勢を取っていた。
そこには、奇の姿もある。
「待って!動きがあるぞ!!」
1人が、叫んだ。
鎮圧部隊が使用する、鉄で固められたトラックのような車輌の上に、1人の男が立った。
「愛国精神の下で、デモに参加した皆さま。大韓共和国政府は、貴方がたの熱意ある硬い意志を尊重し、貴方がたとの会談を求めます。30分後、決定権を有し、愛国者を扇動した勇気ある者たち全員の意見を、大韓共和国国王陛下及び大統領閣下は、直接聞く事を臨んでいます」
1人の男が、デモ参加者たちに拡声器で伝えた。
その時、デモに参加した者たちは、歓声の声を上げた。
代表者たちの選定は、事前に決められていたため、まったく時間がかからなかった。
1000人程度の扇動者たちが、バリケードを抜けて、鎮圧部隊が展開している手前まで移動する。
ただし、彼らは全員、武装解除はしていない。
武器を降ろすのは、政府が自分たちの要求を聞き入れ、それを実現した時だ。
「後、10秒だ!9、8、7、6、5、4、3、2、1、17時丁度!!」
1人の男が、懐中時計の針を見ながら、叫んだ。
「封鎖解除!!」
鎮圧部隊の指示が飛ぶ。
その指示に従い、鎮圧部隊は封鎖を解く。
「「「!?」」」
前列にいた男女たちが、足を止める。
鎮圧部隊が開けた道には、背広姿の男たちの姿はなかった。
彼らの目の前には迷彩服を着込み、同じ柄の鉄帽を被った兵士たちが、二列横隊で配置についていた。
「まさか!?」
誰かが気付き、警告を発しようとしたが・・・
「構え!!」
隊長らしき男の声が響き、二列横隊の兵士たちが持っている、見慣れない小銃を構えた。
「撃て!!」
その号令と共に、見慣れない小銃の銃口が火を噴き、凄まじい連発音が響いた。
前列にいた代表者たちは、次々と胸部等の身体の胴体に被弾し、血を噴き出しながら、道路上に倒れる。
手動装填式小銃を持った者もいるが、突然の攻撃で、パニックを起こした群衆が前にいて、うまく射撃ができない。
何とか射撃位置を確保して、発砲しようとした時、頭部を何かが貫く苦痛を感じた。
その後、遅れて銃声が微かに耳に入った。
「逃げろ!逃げるんだ!!」
手動装填式小銃を持った男が発砲しながら、叫ぶ。
だが、一瞬のうちに彼も、頭部から血を噴き出しながら、倒れた。
彼らに攻撃を仕掛けたのは、大韓市国最高国務委員会国防委員会朱蒙軍統合特殊戦司令本部陸軍特殊戦司令部第201空輸特殊作戦旅団第201大隊第1中隊である。
第201大隊第1中隊は、K2小銃を構えて連発射撃で国家反逆者たちに撃ち込む。
手動装填式小銃を持つ者に対しては、撃たれる前に半自動式狙撃銃であるMSG90を装備した大隊本部麾下の狙撃小隊の狙撃手が、観測手の指示下で排除する。
ある程度、連発射撃を行うと第201大隊第1中隊は、小隊単位で暴徒たち占拠した占拠エリアに突入する。
韓半島独立篇後編 第4章をお読みいただきありがとうございます。
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