韓半島独立篇 前編 第8章 光無き戦場
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
榴璃軍陸軍地上防衛軍前方展開師団第1機械化歩兵旅団第1軽歩兵連隊は、ソウル防衛司令部経由で、朱蒙軍統合軍作戦司令部から敵勢力からの後退の兆し無しと、報告を受けた。
榴璃軍陸軍は、陸軍軍令を担当する総監部の傘下に、地上防衛軍と後方支援軍の2つが存在し、地上防衛軍前方展開師団と、予備兵力として後方待機師団が編成されている。
それぞれ2個歩兵旅団と、1個空挺混成団という編成である。
後方支援軍は、その名の通り、兵站部隊である。
軽歩兵連隊と言っても、装甲車両は存在する。
東側諸国陸軍の主力歩兵戦闘車として位置位置付けられている、BMP-1部隊を先導にその後方に輸送トラックや、ジープ等に搭乗した歩兵部隊が出撃する。
朝鮮人民軍で、ライセンス生産された68式小銃(AKM)叉は、西側保管庫から供与されたAKMで武装した彼らは、朱蒙軍陸軍の歩兵部隊と共同で対処する。
各小隊に、RPG-7を武装した対戦車兵が、分隊単位で配置されている。
軽歩兵連隊という部隊編成を名称だけで判断すれば、普通の歩兵連隊よりも規模が小さいと思われるが、人民軍での軽歩兵とはそういう意味では無い。
軽歩兵とは、身軽な軍装で戦うという事であり、それは人海戦術を駆使した戦法である。
そのため、陸上自衛隊等の諸外国陸軍の軽歩兵連隊のように、正規歩兵連隊よりも規模が小さい訳では無い。
どちらかと言うと、兵員の数は極めて多い。
民主主義国家のように余裕が無く、大量の資材を生産する体制では無い共産主義国家では、少ない資材で必死にやりくりしながら戦う戦略や戦術であるため、どうしてもこのような人道軽視(西側から見た勝手な解釈)の戦法や政策を行わなくてはならない。
単純に言えば、物を大事にする等の信念を持つ日本人も、口では民主主義を唱えながらやっている事は、ある意味では共産主義思想に近いところがあると言えるかも知れない。
最も、現代日本の主義は民主主義であるから、別に問題は無い(物を大切に使う精神は、悪いことでは無い、民主主義に共産主義の良いところを取り入れるのも、思想の自由を保障している民主主義国家だから、可能という一面もあるだろう)。
「突撃地点に到着した。同志諸君!突撃戦用意!」
連隊長の号令で、軽歩兵連隊に所属する歩兵たちが車輌から下車し、68式小銃に銃剣に取り付け、突撃の姿勢をとる。
朱蒙軍陸軍第2軍からの砲兵部隊による砲撃により、残された退路に退避し、部隊の再編成を行うであろう、共産党軍を待ち伏せした彼らは、突撃のタイミングを計る。
「目標を確認。兵力1000名以上。隊列はバラバラである」
偵察部隊からの報告に、第1軽歩兵連隊の連隊長は、突撃の合図を出す準備をする。
「敵勢力、突撃ポイントを通過!」
「突撃!」
偵察兵からの報告に、連隊長である上佐(大佐)が叫んだ。
「「「朝鮮独立万歳!!」」」
「「「クタバレ中華思想者!!」」」
「「「自分の国へ帰れ!!盗賊ども!!!」」」
等と彼らは叫び、AKMを撃ちまくりながら、突撃する。
その間、突撃援護のため、スナイパーや対戦車兵が、確実に敵の指揮官や敵勢力に混乱を与えられるポイントに攻撃する。
朝鮮人民軍陸軍が使用する、武器や兵器が劣ると考えたら大間違いだ。
実際、彼らの戦法は、中国史及び日本史に登場する騎馬戦術に近い奇襲突撃戦法を好む。
つまり、ゲリラ戦と嫌がらせ程度の威力偵察と突撃戦法を併せ持つ、厄介な戦法である。
そのため、攻撃を受ける側は命令系統や指揮系統を混乱され、さらに部隊単位の連絡態勢も混乱させられた状態で突撃する。
そのため、命令違反常習犯や、作戦遂行等にまったく興味が無いような問題児指揮官でも無い限り対処するのは困難だ。
彼らが半世紀の間、西側諸国軍の力を研究しながら学んだ戦術と言えよう・・・
榴璃軍陸軍地上防衛軍に所属する戦闘部隊が、半島に侵攻した共産党軍(すでに軍と呼べるような規模では無いが・・・)に伏撃戦を開始した事が、米井指揮下の小隊にも伝えられた。
「小隊長。本部より、侵攻した共産党軍と榴璃軍陸軍が戦闘を開始しました」
車輌警戒班として、警戒配置についていた班長である陸曹が報告した。
「報告されなくても、ここからでも見えるよ」
米井が少し高い場所から、かすかに聞こえる爆音がする方向に手をかざしながら、つぶやいた。
「落ち着いていますね。距離からすれば、ここにも来られる位置ですよ」
陸曹の指摘に、米井は振り向かずに続けた。
「戦闘状態になる、という事は予め聞かされていたからね。それに、ここで慌てふためいても状況は何も変わらない」
そうつぶやいた後、米井は陸曹に振り返った。
「それと班長。そんな緊張状態だと、避難民や君の部下たちに余計な不安を与えるよ」
米井は、防弾チョッキ3型に取り付けている小隊内無線機で小隊陸曹に伝えた。
「小隊陸曹。この近くで戦闘状態になっているから、避難民が不安がらないように対応してくれ」
「了解しました」
米井は、念のために注意を促す。
米井小隊に属する3個小銃班は避難誘導班と車輌警戒班に別れて、それぞれの任務を行っていた。
他の小隊も到着し、それぞれの輸送隊から派遣された3トン半トラックや、1トン半トラックに避難民を誘導している。
3トン半トラックは、完全装備の隊員22人を乗せる事ができるが、避難民を乗せるだけならこれ以上に乗せる事も可能だ。
しかし、避難民には荷物があるため、その分も考慮しなくてはならない。
だが避難民の数が多く、時間が予想以上にかかっている。
中国共産党軍が国境を突破した時に、国境警備部隊に糧食や飲料水の輸送を委託していた近くの村の村人が、彼らを目撃し近隣の村にも伝えてしまった。
そのため、朱蒙軍陸軍や榴璃軍陸軍が事前に用意した、避難民の避難計画がスムーズにできず、日本人居住区にも押し寄せていた。
朱蒙軍陸軍から輸送部隊の一部を派遣してもらい対処しているが、予定時間よりも避難作業は進んでいない。
「半島有事の際に認められている、日韓米共同ミサイル等防衛協定には在韓邦人の自衛隊、アメリカ軍、韓国軍による救出計画にもこのような事態は想定されていたけど・・・実際、共同での救出訓練は元の時代でも数回しか行っていないからな・・・」
米井はつぶやきながら、避難状況等の確認をしていた。
日韓米共同ミサイル等防衛協定が締結されてから、3ヶ国は合同演習を重ねていたが、その合同演習はイージス艦による弾道ミサイル捕捉から迎撃が優先されている。
弾頭ミサイル捕捉と迎撃機能を有する3ヶ国海軍と海上自衛隊のイージス艦と汎用護衛艦(艦隊対潜水艦戦闘と艦隊対空戦闘)や駆逐艦やフリゲートが、BMDモード時のイージス艦を護衛するといった演習だ。
それに対して、戦場になった地区からの避難民の救助や、避難誘導等の演習や訓練は不十分だった。
連携がうまく取れず、様々なトラブルが続出している。
それが、悪い方向に向かっている。
「米井小隊長!」
小隊無線機に、小隊指導陸曹から緊急連絡が入った。
「どうした?」
「難解な問題が発生しました。隊長が小隊長たちに、集合をかけました」
「わかった。すぐに行く」
中国と韓半島の国境線地区で榴璃軍、朱蒙軍、中国共産党軍の激戦が行われている区域で、逃げ遅れた集落があった。
集落は人口150人程度の小さな村だが、日本人の疎開活動の手伝いや、撤退する駐留陸海軍と警察が、管理していた武器、弾薬等の軍事物資を韓人たちへ提供したため、それらの運送等で、体力のある男手がほとんど出払っていたため、集落には体力が無い老人や、女性、子供がしかいなかった。
避難誘導と避難民の輸送のために、大日本帝国陸軍朝鮮駐留軍から派遣された輸送部隊と警護として歩兵科部隊から1個分隊が現地にいた。
輸送隊の指揮官から、兵站司令部に応援部隊の派遣要請が出されたのだ。
「輸送用トラックの数が足りない!大至急、村人を運べる輸送車両の手配を要請する!」
輸送隊の指揮官である下級将校が、無線で本部に連絡する。
「こちら兵站司令部。現在、我が陸軍及び海軍で稼働可能な輸送車両は、すべて使用している。余剰車輌は存在しない。現有装備でどうにか対処せよ」
兵站司令部から、要請却下の返答が入る。
「そんな事はわかっています!だから、出せる車輌を各部隊から、できる限り回してください!」
輸送隊指揮官は叫ぶ。
「国境付近に接近中の、中国共産党軍の増援部隊が確認されている。そちらの対処にも、部隊を出さなくてはならない。大本営も大韓市国政府も、国境での武力衝突で外交的解決を望んでいる。輸送部隊と、一つの小集落のために、戦火拡大の可能性を高める事はできない」
兵站司令部。
つまり、戦局を広い目線で見る事ができる上級将校クラスなら、その判断は理に適っている。
単純に、これは陸続き国家同士で、珍しく無い武力衝突である。
これは国交が友好状態、緊張状態、緊迫状態等は関係なく発生する。
そもそも、某大陸の大国と、その陸続きで国境線のある内政不安定な国でも、両国の友好関係は維持されているが、双方の国境警備隊が何らかのトラブルで武力衝突(大袈裟な表現だが、単に自動小銃や悪くて携帯式対戦車兵器が使用する程度だ)を起こしている。
国境線で発生した軍事衝突なら、国境を侵入し、国家主権の及ぶ範囲内での武力行使なら、紛争叉は宣戦布告無き戦争に発展する事は極めて希なケースだ。
だから、輸送隊の下級将校等ではわからないが、ここが極めてきわどい決断と細かな現場判断が求められる。
単に、武力衝突として終わらせるか、宣戦布告無き戦争にするか、それは国境線が突破されてから約24時間以内に決まる(この基準はかなり曖昧であり、両国の関係で大きく異なるが、だいたいは24時間以内に武力攻撃で対処すれば、滅多な事で国交に支障はでない)。
ここで、他の問題に対処する余裕は無い。
「わかりました!現有装備でどうにか対処します。しかし、輸送車両が足りませんから、私の判断で非道な決断も視野にいれますから、そのつもりで!」
と、叫んで無線機の受話器を叩き付けた。
「どうなりましたか。中尉殿?」
輸送隊の小隊指揮官である中尉に、警護部隊である歩兵科軍曹が尋ねた。
「応援部隊は却下された。どうにか、今の戦力で対処しなくてはならない」
中尉の言葉に、軍曹は腕を組んだ。
「幸いにもこの集落は狩猟もやっていますから、老人の中には、銃の腕に自信がある者もいます。彼ら共に防御戦を構築しています」
国境に侵入した中国共産党軍を、朱蒙軍と榴璃軍が合同で中国側の国境線まで押し返すが、同志を見捨てるな、というそんな気があるのか疑いたくなるような、共産党軍首脳部から逸脱した勢力が、国境越えて再度攻撃を仕掛けてきた。
最初に国境に侵入した共産党軍3000人の部隊は、航空攻撃と野砲砲撃により、指揮系統が混乱し、一部勢力がバラバラに退却した。
その一部勢力が老人や女性、子供しかいない集落に迫ってきていた。
バラバラになったが、100人程度の兵力であり、日中戦争時では日本陸軍と戦った経験がある猛者揃いだ。
「やはり来たか」
友軍部隊に危機が迫っている、という師団司令部からの命令を受けて、自身が率いる騎兵小隊と共に集落に到着した大日本帝国陸軍騎兵少尉である石垣達美騎兵小隊長は、馬上から共産党軍の軍装をまとった100人程度の兵力を確認した。
「小隊長殿!」
小隊軍曹が馬を走らせながら、石垣の傍らに立った。
「敵兵力は我々の数倍です。これでは騎兵戦法の突撃戦は、隊を全滅させるようなものです!」
「誰が、騎兵戦法をすると言った?全兵士は馬を降りて徒歩兵となって、防御戦を行う!歩兵分隊及び各騎兵分隊は、一斉射撃を行い、村人の中で銃が扱える者は、ただ撃ちまくればいい」
陸軍士官学校を卒業して数年とは言え、陸軍下級将校である。
それに、すぐに関東軍に配属されて、幾多の戦場を経験している。
戦い方は、ある程度に把握している。
「行くぞ!」
20代の若さではあるが、さすがに大和魂を持った陸軍将校である。
その声には若輩者を感じさせない、強さがある。
集落で使えなくなった馬車や人力車等を集めて、簡易の防御陣地を構築した防御陣地に愛馬で駆け付けた石垣は、軍刀を抜刀した。
「小隊長殿!敵はまもなく距離1000を切ります!」
歩兵分隊の軍曹が、報告する。
「構え!」
石垣は、軍刀を掲げた。
歩兵、騎兵、村人たちが、三八式手動装填式小銃や三八式手動装填式騎兵銃、二十二年式村田連発銃(村人のみ)を構える。
しっかりと距離を測り、石垣は軍刀を振り下ろし、叫んだ。
「撃て!」
その号令と共に、彼らは一斉に引き金を引いた。
一斉に小銃の銃口が、火を噴いた。
一斉射撃音・・・それは彼らが韓半島に侵攻した際に、韓人(主に失業者)たちで編成された、まともな射撃訓練も受けていない国境警備隊の兵士たちとは大きく異なる物だった。
まったく、その射撃にはブレが無く、射撃音にも遅れが無い。
防御陣地からの一斉の射撃は、もはや軍隊としての組織的行動力が欠如した部隊には、極めて効果的ダメージを与えた。
それも、肉体的打撃だけでは無く、心理的打撃も効果絶大だった。
しかし、彼らにはどこに逃げるか宛が無い。
来た道を戻れば、想像絶する軍隊の待ち伏せを受けるだけでは無く、このままでは寒さと疲労で凍死叉は疲労死する。
そんな状況下で見つけた人工物である。
彼らの中に安心感が生まれ、このまま引くわけには行かない、という感情に支配された。
残存兵たちは、そのまま走りながら手動装填式小銃を撃ち続ける。
走りながらであるため、その弾丸はまったく命中しないが、精密射撃をする兵士たちにしてみれば目障りである。
だが、中国共産党軍の残存兵たちに、救いの手は降りなかった。
突如、上空から聞き慣れないエンジン音が響き、それを見上げると石垣が初めて目にする回転翼機が現れた。
「あれは・・・?」
石垣がつぶやくと、その回転翼機の左右に搭載されているガトリング砲らしき物が、火を噴き、集落を襲撃しようと来た中国共産党軍残存兵たちの頭上に、猛烈な機銃掃射を行った。
一瞬にして、5、60人の中国兵たちが地面に倒れた。
石垣が目撃した回転翼機は、韓半島南部に派遣された新世界連合軍多国籍特殊作戦軍アメリカ陸軍特殊作戦航空群第1攻撃大隊第1軽攻撃中隊に所属する、AH-6J[リトルバード]の12.7ミリ連装機関銃である、GAU-19による機銃掃射だ。
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