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動乱裏話 第2章 尋問

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 近畿地方某地にある国家治安維持局の秘密施設。


 同施設には、先の潜入捜査で国家治安維持局がマークしていた容疑者の逮捕が成功し、容疑者たちを収容している。


 森と荻宮の2人は早速、取調室に入り、容疑者の取調を行う。


「おはよう」


 荻宮が普通の相手に接するように話しかけた。


「・・・・・・」


 取調室に座らされている男は何も喋らず、2人を睨むだけだ。


「貴方はなかなか、いい勘をしていようね。海上保安本部の巡視船から追跡と精密射撃で逃げ切れる事も、戦う事もできないと判断し、停船した。そして、予めに用意していた隠れ場所に身を潜め、隙をついて逃げ出すつもりだった。でも、捜索犬の捜索能力には及ばなかった」


 荻宮が席に着き、ファイルを開きながらつぶやく。


「さて、どうして、そんな事をしたのか、教えてくれないかしら?」


 荻宮が聞く。


「さあな。動揺していて、何も覚えていない」


 男は、あざ笑うかのように告げた。


「1つ、いい事を教えてやる。この施設は特別高等警察の施設と隣接した位置にある。我々はいつでも彼らに引き渡す準備ができている。彼らがお前に対し、どのような事をするか、頭の良いお前なら理解できるだろう」


 森が、厳つい口調で告げる。


「ふん!いくら拷問されても、知らない事は何も話せない」


 男は屈しない。


「どうかな、お前のように警察に捕まるようなドジを踏むような奴を、お前の仲間が黙っている訳が無い。お前は仲間に命を狙われるぞ」


「ふん!」


 男は、鼻を鳴らしただけだ。


「新谷捜査官。そのくらいにして置いて」


 荻宮が手をかざし、止める。


「そんなに威張っていたら、72時間は持たないわ。私たちは、72時間以上は貴方を拘束しないし、取調も行わないわ」


「花木捜査官!」


「あ」


 荻宮が、手を口に当てた。


「おほん!」


 気を取り直して、荻宮が咳払いをする。


「貴方のボスはどこにいるの?中国、朝鮮、それとも日本?」


「さあな、知らん」


 男は、何も話さない。


「まあ、そうだろうな」


 突然、森が口を開く。


「お前のような、すぐに警察に捕まるようなドジ野郎に、組織の幹部が重要な情報を教える訳が無い。俺が、お前がいる組織の幹部なら、情報が警察に漏れる可能性のある奴に、絶対に情報を教えない」


 森の挑発的な口調に、男がカチンと来たのか、大声で怒鳴った。


「ふざけるな!俺は知っている!俺たちの雇い主はこの国にいる!」


「ありがとう」


 荻宮が、にっこりと笑みを浮かべた。


 その瞬間、男はしまった、と言った顔をした。


 彼女の表情を見て、男は彼女がうっかり喋った事が、自分を油断させるための罠だった事に気がついた。


 まんまと彼らが用意したレールに乗せられてしまったのだ。


「これで、お前は組織を裏切った。どうする?」


 森が質問する。


「どうする、とは?」


 男が問う。


「簡単だ。俺たちが必要な情報をすべて話せ、そうしたら、上に手を回して、安全で快適な生活を約束してもいい。国家おいて国家権力を超える権力は無いからな」


 森の説明に男は黙る。


「時間が必要か?なら、与えてやる。ゆっくり考えろ」


 森がそう言うと、荻宮を連れて取調室を出た。


 別室から、これまでの事をすべて見ていた宮島が出てきた。


「笹川さん。うまくいきますかね?」


 森が質問すると、宮島は腕を組んだ。


「あの程度の男なら、うまく行くだろう。しかし、あの程度の演技で騙されるとは思わなかった。あんなの俺たちの時代なら、万引きの常習で捕まる中学生でもわかるぞ」


 宮島は少し呆れた口調になり、つぶやいた。





 1時間程の時間を与えると、宮島が森と荻宮の2人を連れて取調室に入った。


「決心はついたか?」


 男に宮島が質問する。


「ああ。そこのお嬢さんに、まんまと騙された。少し頭を使えば、今までの会話は俺を油断させ、さらに冷静な判断能力を削る事だった。この程度の事で組織がこの国に拠点を置いてある事を話した等と知られたら、俺の命は無いし、家族の命も無いだろう」


 男がつぶやくと、宮島は荻宮が持っているファイルを受け取り、それを男の目の前に置いた。


「黄巾党の連中は、党と軍の運営資金確保と背後で自分たちに手を貸しているアメリカ、ソ連からの援助を続けて貰うために、両国の命令で日本と休戦協定を締結した共産党と国民党を抜けるように指示した。そして、この国で党と軍の運営資金を確保するために、日本に拠点を置き、麻薬の売買を行っている。しかし、これはカムフラージュのための工作だろう?本当は何が目的だ?」


 宮島が、男に顔を近づけて質問する。


「それを俺から知りたいのなら、条件が1つある」


 男の言葉に、森と荻宮の表情が変わる。


「なんだ?」


「家族の保護を要求する。家内と息子を無事にお前たちが保護してくれれば、何でも話す」


 男の要求に、宮島はうなずいた。


「いいだろう。ただし、必ず洗いざらい話して貰うぞ」


「ああ」


 宮島は森に指示し、黒革の鞄から1枚の書類を出した。


「まずはここに署名しろ。これは法務局長官の名で作成された書類だ。我々に情報を与える代わりに、お前を日本共和区内で自由に行動させる契約書だ。しかし、罪状が罪状だから警察と検察の監察叉は監視対象になるが、ほとんど自由に暮らせる。そして、ここに署名すればお前の要求も叶えられる」


 宮島が言った。


「わかった」


 男は書類を手に取り、ペンを持った。


 彼はペンを書類に走らせながら、署名した。


「サインしたな。なら、お前の家族の居場所や必要な情報を教えてくれ」


 国家治安維持局が担当する案件は、このような事が多い。


 日本国内で、テロ等の重大事件や国境を越えた麻薬犯罪、詐欺犯罪も担当する国家治安維持局は、まず、容疑者たちを都道府県警察本部公安部、刑事部、警備部等よりも先に重要な容疑者を割り出し、その容疑者を確保する。


 この時に重要なのは、容疑者が自分たちの味方になるか、ならないからだ。


 組織の事を知っているのは、組織に属する人間だけだ。


 協力者を確保できれば、その後の捜査はスムーズに運べるし、潜入捜査官を潜入させやくできる。


 協力者確保は、先ほどの穏便な方法から過激な方法まで複数存在するが、基本的には穏便な方法で協力者を確保する事に心がけている。


 その後は司法取引で罪を免除し、生活の安全等を約束する。


 もっとも、これにはかなりの裏が存在するが・・・


 刑事ドラマや警察の物語のように、すべての罪を犯した者に罪を認識させるのでは無く、見逃す罪と見逃さない罪に別けて、テロを含む重大事件から国民の生命、財産を守る。


 それが、彼ら国家治安維持局だ。


「1人の罪人の罪を見逃さなかったために100人の国民の命が消える・・・それなら、1人の罪人の罪を見逃し100人の命を救う方がいい」


 国家治安維持局に入局した警察官は、かなり長い年月をかけてその事についての研修を叩き込まれる。


 それが、重大テロや大規模麻薬犯罪から、国民を安全に守れる唯一の方法だ。





 山陰地方地震災害地域に隣接する港に、ドイツ第3帝国とイタリア王国から派遣された被災者支援の支援物資と医療スタッフを乗せた船団が入港し、被災者たちへの診断と救護活動等を行っていた。


 ドイツ第3帝国とイタリア王国の輸送船団が入港した港と、周辺海域には海上保安本部に所属する巡視艇と特別警備隊が、護衛と警護のために派遣されている。


 特別警備隊は、海上保安庁の機動隊に相当する警備警察部隊であり、海上自衛隊特別警備隊(SBU)とは異なる。


 海上や湾港において、交通規制やデモ規制で暴徒化や重大事故の防止を任務とする、警備警察任務が主だ。


 しかし、海上や湾港といった特別な条件下での警備警察任務であるため、暴動や凶悪犯罪に対処能力は銃器対策部隊に相当している。


 制圧術、逮捕術の格闘術から自動拳銃、自動小銃、散弾銃を駆使した射撃操作術は警察、自衛隊よりも上だろう。


 ドイツ第3帝国から派遣された、支援船団の団長であるグスタフ・ボルシュは、自らが乗艦する[ヴィルヘルム・グストロフ]の船橋から、自分たちの安全を守っている黒色の戦闘服を着た日本人たちと、周辺の海上を警備している白い船を双眼鏡で確認した。


 黒色の戦闘服らしき服装姿の彼らは、大日本帝国政府から公式発表では特務警察の水上警備警察部隊と教えられている。


 だが、ボルシュは少し違和感を覚えた。


 スエズ運河通過後、大日本帝国海軍から駆逐艦2隻が船団護衛のために派遣され、日本までエスコートされた。


 しかし、大日本帝国の主権海域に近づくと、今まで見た事が無い奇妙な艦影を確認するようになった。


 見慣れない空母や巡洋艦クラスの戦闘艦等である。


 これまで大日本帝国海軍保有艦艇に該当しない艦艇が確認された。


 そして今、彼の目の前を航行している白い警備艇。


「君はあの警備艇をどう見る?」


 ボルシュは、腹心の航海士に尋ねた。


「あの警備艇は、日本帝国海軍の警備艇とは明らかに異なります。我がドイツの造船技術でもあのような高速艇は造れません」


「さすがに良く見ているな。私が君を選抜したのは間違いでは無かった」


 ボルシュと腹心の航海士は民間人では無い。ドイツ第3帝国海軍の軍人であり、ボルシュは海軍大佐、腹心の航海士は海軍司令部の情報将校である大尉だ。


「一見しただけでは、単なる貧弱な警備艇だが、旋回能力、速力を考えれば我が海軍にも存在しない高速警備艇だ」


「アメリカのオカルト新聞社が書いた記事は、単にオカルト話では無く、事実だった・・・という事ですかね?」


 情報大尉の言葉に、ボルシュは首を振った。


「いや、それはわからない・・・しかし、総統閣下の腹心の予知能力は想像以上かもな」


 ボルシュは、先ほど情報将校が持ってきた写真を見た。


 黒色の戦闘服を着た日本の水上警察官たちの後ろ姿・・・背中には、JCGと白い英文字が書かれており、その下には海上保安庁とある。


「本国に戻れば、すぐに報告せねば」


 ボルシュはそうつぶやいたが、彼が提出した日本に関する情報が、ヒトラーや側近たちの手に渡ったのはこれから1年後の事である。


 彼らが帰国後、ドイツ第3帝国国防軍は太平洋での出来事にかまけている余裕がなかったからだ。





[ふめぎく]型巡視艇[はざくら]の艇長である伍堂(ごどう)(とう)()3等海上保安正は、操舵室から双眼鏡を覗き、海上を見張る。


[ふめぎく]型巡視艇は、[すずかぜ]型巡視艇と呼称されていたが、[ふめぎく]と改名された。


 同型巡視艇は、海上保安庁では150隻以上も建造された沿海対応型の巡視艇だが、近海での航行も可能。


 全長20メートル、排水量19トンという小型船舶ではあるが、防弾性能、居住性は高く、海上警備行動時でも、それなりの海上警備行動は可能。


 夜間監視能力も高く、操舵室には夜間監視モニターがあり、不審船が接近すればすぐに探知できる。


 伍堂は海上保安大学出身の3等海上保安正では無く、3等海上保安士から叩き上げられた、人物である。


「レーダー員。レーダーに異常は無いか?」


「はい、まったく、反応ありません」


 海上保安士の報告に、伍堂は双眼鏡を降ろした。


「このまま何もなければいいのだがな」


 数日前、海上保安本部巡視船が陽炎団組織犯罪対策部の麻薬捜査官と共同で麻薬の密売を阻止し、大量の麻薬等を押収した。


 しかし、その時、1隻の偽装船が逃走した際に、巡視船が威嚇射撃無しで船体危害射撃を行う異例の事態が発生した。


 海上保安庁法で規定されている武器使用に関する条文では、まったく問題無い。


 それにコンピューター制御により、精密射撃が可能である。


 つまり、船員に巡視船が発射した機関砲弾が、危害を加える可能性は低い。


 すでに大日本帝国も、日本周辺海域及び統治下等の周辺海域における法秩序の維持と海上の治安維持、海上交通路の安全確保を専門的な任務とする独立した海上部隊の創設が決定した。


 人員の募集が行われており、主に海軍の予備役士官や下士官を主戦力として採用し、18歳以上の男女の採用も行った。


 史実の大日本帝国は、このような海上での司法警察活動は、海軍が行っていた。


 しかし、史実の結果や戦局の拡大を考えれば、海軍だけにすべての任務を任せるのは負担が大きすぎる。


 そこで、海上での司法警察活動と、準軍事行動が行える海上部隊の創設が決定された。


(警察予備隊と海上警備隊とは、戦前の日本と戦後の日本が融合したようなものだな。まあ、それも仕方無い)


 伍堂もうなずく。


「しかし・・・」


 彼は、そうつぶやきながら、ドイツ第3帝国の国旗を掲げている大型船の船影を見上げた。


「あれが[ヴィルヘルム・グストロフ]・・・史実では1945年傷病兵や難民4000人以上(実際にはどのくらいの難民を乗せたかは不明である)を乗せて、ソ連の潜水艦からの雷撃で撃沈された船か・・・」


[ヴィルヘルム・グストロフ]は、ソ連軍の猛攻によって傷病兵や民間人の生命が危険にさらされたため、その人々の脱出のために客船、貨物船、軍艦という艦船が投入された際に、その中の1隻として、[ヴィルヘルム・グストロフ]も投入された。


[ヴィルヘルム・グストロフ]は当初、駆逐艦の護衛の下で脱出するはずだったが、いくつかのトラブルが重なり、断念された。


 ソ連軍潜水艦が近海にうようよしている情報があり、海軍乗船者は潜水艦の航行が制限される浅瀬を無灯火で航行する事を具申したが、収容定員を大幅に上回る難民を乗せた状態では、浅瀬を航行した場合に座礁する危険がある事から却下された。


 航路情報を収集していた航海士たちは、天候が悪化する航路を選んだ。


 その航路は水深がかなり深く、潜水艦が航行するにはまったく支障が無い航路だった。


 だが、視界不良は潜水艦もそうだが、[ヴィルヘルム・グストロフ]も同じだ。


 そんな中で自軍の掃海艇部隊が機雷掃海を行っている情報が入る。


[ヴィルヘルム・グストロフ]船長は衝突回避のために船の位置を教える航海灯を点灯させた。


 その結果、ソ連軍潜水艦に発見され、魚雷攻撃を受けて沈没した。


 難民、傷病兵、乗船軍人、乗船民間人6000名(一説には1万人乗船していた話もある)の中、救助されたのは1000人未満だった。


 これについてはいくつも論争があり、[ヴィルヘルム・グストロフ]の撃沈は戦争犯罪という主張もあるが、生存者の証言では[ヴィルヘルム・グストロフ]は海軍籍の船として利用され、多くの海軍軍人(戦闘要員)が乗船しており、さらに自船防衛にしては過剰すぎる武装がある事もわかっており、[ヴィルヘルム・グストロフ]は軍艦であり、正当な攻撃目標であると結論付けられ、戦争犯罪に該当しないとも伝えられている。

 動乱裏話 第2章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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