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震災と動乱篇 第5章 治安出動命令発動

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 統合省危機管理会議室では、統合大臣である加藤(かとう)(しげる)を議長とする危機管理会議を開いていた。


 各局長官と長官官房長が出席し、配布された資料に目を通していた。


「大臣。お渡した報告書通り、山陰地方の治安は極めて悪化し、現地にいる大日本帝国の警察、陽炎団から派遣された災害派遣隊だけでは治安を維持する事は困難です。自衛隊の治安出動を要請します」


 保安局長官の白河(しらかわ)(つとむ)が進言した。


「大臣。命令が出れば自衛隊はすぐに治安維持のために部隊を展開する事ができます。災害派遣部隊と並行して治安維持行動が可能です」


 防衛局長官の村主(すぐり)葉子(ようこ)が主張した。


「大臣。山陰地方は大規模災害により、極めて混乱しています。現在、台風の接近により、水神団の増援部隊を即応出動させる事はできません。治安出動になれば災害派遣されている警察、消防、自衛隊による避難誘導は困難です。大日本帝国も指揮系統の混乱が若干ではありますが、発生しています。最悪の場合、無関係の大日本帝国国民を殺傷する可能性があります」


 総務庁長官の香山省(かやましょう)()が懸念を口にした。


「・・・・・・」


 加藤は目を閉じて3人の庁長官と局長官の主張を聞いていた。


「大臣。状況が状況です。この場合は大日本帝国国民の生命及び財産、安全等を守るためにはやむを得ないと判断します」


 法務局長官である(かし)(うめ)(きち)が告げる。


「白井副大臣、小関長官。大日本帝国政府は自衛隊の治安出動を了解しているのか?」


 加藤は統合副大臣である白井(しらい)由美子(ゆみこ)と外務局長官の小関(こせき)信男(のぶお)に聞いた。


 白井と小関は顔を見合わせると、白井が答えた。


「近衛内閣は先ほど緊急の御前会議を開き、陛下のご意思を確認していますが、大日本帝国国民を、震災に乗じて混乱させようとするテロリストの暴挙から生命財産の安全を保障するなら、自衛隊の治安出動をやむを得ず、承認すると」


 白井の回答に加藤はうなずいた。


「わかった」


 加藤は各局長官たちの顔を見回すと、決断した。


「山陰地方での治安の悪化は一刻の猶予も無く、大日本帝国と日本共和区の危機と判断し、自衛隊に治安出動を命じる。この中で反対意見がある者はこの場で言ってくれ。もし、いなければ全員が承認したと判断する」


 加藤が反対意見を言う長官がいないか、念入りに確認しながら、うなずいた。


「それでは、治安出動を決定する」


 加藤がそう言うと、樫が振り返り、外務局長官官房長に言った。


「すぐに大日本帝国政府と各省に通達」


「はい」


 外務局長官官房長がうなずき、席を立った。


 防衛局長官の村主は長官官房長に指示した。


「統幕本部に緊急連絡。それと統幕本部長も危機管理会議室に出頭するよう指示して」


「わかりました」


 各局長官たちは各長官官房長たちに指示を出し、自衛隊の治安出動に対する各局の対応策を議論する。


 防衛局と保安局は治安維持に対する緊急行動計画を議論し、行動計画書を作成する。


 その際、投入する装備や規模等も念入りに打ち合わせをされる。


 もちろん、統合幕僚本部と大日本帝国本土の防衛、警備等の中央指揮所である統合防衛総監部でも部隊と装備等が議論され、菊水総隊司令部がその治安維持に関する行動計画書を大日本帝国陸海軍とその他の軍等の高級士官たちと打ち合わせを行い。細かな微調整を菊水総隊司令官である山縣幹也(やまがたみきや)海将とその幕僚たちが担当する。





 松本駐屯地の地下にある統合防衛総監部中央会議室では、陸海空総監とその幕僚と防衛局事務官たちが席につき、統合大臣からの治安出動命令を受けて、治安出動についての行動計画について議論していた。


 すでに、菊水総隊司令部から大日本帝国内で大規模な騒乱又は反乱が発生した際に陸海空自衛隊の行動計画が作成されており、それをそのまま採用する方向で菊水総隊司令部から統合防衛総監部に送られてきた。


 本来は統幕本部で検討した上で採用されるか否かが判断されるが、非常事態であるため、山縣の責任で統幕本部と防衛局の承認を待たず、送られたのである。


 ちなみにこの治安維持の行動計画書を作成したのは総隊司令官付き特務作戦チーム副主任である石垣(いしがき)達也(たつや)2等海尉である。


 石垣は一時的に陽炎団第4機動隊を主力とする機動隊が対処に当たった宮城前暴動事件を観戦し、その後、菊水総隊司令部と直属の上官に万一の事態に備えて自衛隊が大日本帝国内で治安維持が必要になった時の行動計画を作成すべきと主張した。


 主張はもっともな事だが、自衛隊が大日本帝国内で治安維持行動をするのは政治的兼ね合いから厳しいだろうと判断され、菊水総隊司令部はあくまでも大日本帝国が諸外国からの武力侵攻又は武力攻撃に備えた防衛と警備、その際の大日本帝国国民の生命、財産の保護を目的とした計画は積極的に作成したが、治安維持に関しては研究にとどめた。


 そのため、治安維持についての行動計画は存在せず、石垣がシミュレーション上で研究した治安出動命令下の治安維持行動がそのまま菊水総隊司令部に提出され、山縣の独自判断でこの計画書が使用される事になった。


 統合防衛総監部で陸海空自衛隊のそれぞれの総監は山陰地方での大震災に対して災害救助と支援等についての行動計画と被災地域の情報収集と分析を行っていた最中に治安出動命令と治安維持の行動計画書が届き、その議論を行っていた。


「第12機動旅団と共に大日本帝国陸軍の即応先遣隊と即応展開の合同訓練を行っていた第14機動旅団第15即応機動連隊と同旅団内の他の部隊で編成した即応先遣隊が舞鶴軍港に入港していた海自の輸送艦[おおすみ]と[しもきた]にそれぞれ人員と車両、装備等を載せていましたので、この命令を受け、即応展開訓練を中止、出動させました」


 統合防衛総監部陸上総監部幕僚副長(防衛担当)の陸将補が説明した。


「防衛局長官からは16式機動戦闘車も投入せよ、との命令だ」


 陸上総監の御蔵(みくら)(りゅう)陸将が言った。


「はい、その事につきましては第14機動旅団即応先遣隊に4輌の16式機動戦闘車がありますから、96式装輪装甲車に分乗した第2普通科中隊と共に現地に出動させられます」


 陸上総監部防衛部長の1等陸佐が言った。


「台風の影響で対地攻撃能力を持つ戦闘機は出動できない。天候が回復しだい爆装させて出動させる」


 蛍光灯の明かりに眼鏡を反射させながら航空総監の小川(おがわ)(しゅん)空将が言った。


「反乱勢力の鎮圧も重要だが、被災地域での被災者の捜索、救助、支援もそれ以上に必要だ。菊水総隊陸海空自衛隊は大日本帝国陸海軍がハワイ諸島と南方地域への奇襲と強襲上陸による電撃的占領を確実に行うためにほとんどの護衛艦、輸送艦、補給艦が海軍の空母、戦艦、巡洋艦、駆逐艦、輸送艦等と外洋に出て、大規模な軍事演習を行っている。大型台風の接近で一部の演習を中止し、護衛艦、輸送艦、補給艦を呼び戻したが、災害派遣を目的とした災害派遣隊を乗せるのか、それとも治安維持を目的とした鎮圧部隊を乗せるのか、そのどちらかを選ぶかで今後の結果は変わる」


 苛立ったように海上総監の(しの)()真人(まこと)海将が言った。


「そうだな。これほどの大惨事がいくつも発生したのだ。ここは慎重に決断しなくてはならない」


 御蔵が肘を机の上に立てて、腕を組みながら悲痛の表情で言った。


「そもそもこの計画を考えたのが、石垣2尉だと言う事だ。確かに治安維持に対してはまだ研究段階だったから、仕方ないとしてもこの計画はなんだ?」


 篠野が行動計画書を見下ろしながら、吐き捨てた。


「石垣2尉は防大と幹候で何を習ったのだ。この行動計画は単にシミュレーション結果でいい結果が出たものを合わせただけだろう」


「確かにその通りです」


 その時、中央会議室で破軍集団司令官である國仙(こくせん)正春(まさはる)陸将の腹心である40代前の男がよく通る声で言った。


 その顔立ちは石垣達也に似ているが彼とは異なり、厳しそうな顔立ちをしている。


 彼は石垣達也の兄である石垣達彦(いしがきたつひこ)1等陸佐だ。


 石垣1佐は國仙の命令でここに派遣された。彼が國仙の目であり、耳でもある。


「あの馬鹿はコンピューターと格闘しており、机上の空論や楽観的考えで、物事を考えているから、こういう結果が生まれる」


「「「・・・・・・」」」


 3人の総監たちは自分の弟の肩を、まったく持たない兄の口調に言葉を失った。


「馬鹿弟の案をそのまま採用するのはあまりよろしく無いでしょう。本職は違いますが、私に案があります」


 石垣1佐の言葉に御蔵が顔を向けた。


「聞こう」





 第14機動旅団第15即応機動連隊即応先遣隊は当初予定されていた演習を中止し、山陰地方での治安出動命令を受け、その準備をしていた。


 第2普通科中隊の普通科隊員たちに実弾が配られ、89式5.56ミリ小銃、5.56ミリ機関銃MINIMIの点検を行っていた。


 第2普通科中隊の装備である96式装輪装甲車には96式40ミリ自動擲弾銃の左側に弾倉を装着する。


 96式装輪装甲車は武装として96式40ミリ自動擲弾銃を装備する車両と12.7ミリ重機関銃を装備する車両の2タイプがある。


「本当に実戦なのですね」


 第2普通科中隊に所属する小隊の陸士がつぶやく。


 89式5.56ミリ小銃に89式小銃用照準補助具を装着し、脱落しないか、念入りに点検している。


 彼は陸上自衛隊に入隊して1年半を超えた。


「心配するな。訓練通りにやればいい」


 陸士が所属する班の班長である2等陸曹は実弾が入った30発弾倉を防弾チョッキ3型に装着されている弾倉入れに入れていく。


「班長。自分たちが受けた訓練に日本人に銃口を向ける訓練はしていません。治安出動での訓練は警察が対処できないテロ対策です」


「馬鹿!テロ対策訓練の中には国家転覆を企む過激な思想を考える日本人への対処も想定されている」


 2曹は陸士を窘める。


「お前はいくつだ?」


 2曹はため息をついて、聞いてみた。


「はい、19歳です」


 2曹は少し計算した。


「そうか。2000年代の生まれでは、わからないだろうが、お前が生まれる10年前ぐらいに日本国内で世界初の化学兵器テロが発生した。話ぐらいなら聞いた事はあるだろうが、俺はその時、小学校高学年だったが、テロ発生現場のすぐ近くにいた。今、思えば背筋に嫌な汗が流れる」


 この2曹は40代前半であり、関東出身である。


 当時の2曹は問題児でまともに学校に行った事は無い。小学生にしては悪知恵が働く少年だった。


 その日も学校を脱走し、都内をぶらつき、いつものように過ごしていた。しかし、その時はいつもと違った。


 大勢の人が悲鳴を上げながら、駆け回り、ある者は地面にうずくまり、助けを求める声が響いていた。


 その日に何が起きたのか、それがわかったのは後の話だが、その時から彼は変わった。


 これまで勉強机に見向きもしなかった彼が突然勉強し、学校もまじめに通いだした。そして、彼は、将来の夢を聞かれると、人々を悲しみから守れる仕事をしたい、と答える。


 だが、彼の教師も両親も彼が勉強に目覚め、学校にまじめに通う事を褒める事ができなかった。


 真面目になったきっかけがあまりにも悲惨な事件であるから、とても口にできなかった。


 2曹はそんな事を思い出しながら、決意を固める。


(世の中の混乱に紛れて、秩序を乱す、そんな奴らを許してたまるか!)





 山陰地方の某山に造られた地下陣地。


 この地下陣地はかつて幕末の時代に長州、薩摩等に手を貸した一部の藩が幕府軍から身を隠し、幕府側についた藩に各種工作準備や指揮等を行ったとされる。


 嘘か本当かはわからないが、奇兵隊の一時的な拠点、又は偵察の拠点だったと噂がある。


 それはどうでもいいとして、現在は山陰地方の震災に乗じて一部の過激勢力(軍人、主戦論派、軍人会等)の拠点になっている。


 その数は2000人程度であり、第2次226事件や東京府等で発生した大日本帝国政府の政策に銃等の殺傷力のある凶器で反対活動をした団体よりも多い。


 地下陣地はかなり広く構築され、1個聯隊レベルの兵員なら完全武装でも収容できる巨大な地下陣地だ。


 地下陣地で演説目的に造られたのか、かなり広い地下広場で1人の口髭を蓄えた50代前半の男が演説していた。


「同志諸君!皇室、軍部、政府はすでに国を混乱に導く民主勢力に洗脳された。このままでは、我が祖先たちが創った神国である大日本帝国の栄光や権威が滅ぼされてしまう!このような事を許してはならない。幸いにも天は地震と言う天罰を下された。これは我々が大日本帝国を奪還する事を促す天の指示なのだ!」


 男の演説に広場に彼の同志たちが歓迎の声を上げた。


 だが、その群衆の中には国家治安維持局の捜査官である森と陽炎団警備部警備1課危機管理室に所属する潜入捜査官を務める藤浦拓(ふじうらたく)巡査部長の2人が潜入していた。


「藤浦さん。この革命勢力の総帥は宮城前暴動事件でデモ団体に暴徒化させるよう扇動した連中に指示を出した大日本帝国陸軍関東軍に所属の師団の師団長だった新郷隆元(しんごうたかもと)中将ですよね」


 森が革命勢力総帥の演説が始まる前に藤浦に小声で聞いた。


「ああ、国家治安維持局と特高警察との共同捜査で彼を突き止め、第2次226事件が発生したと同時に国家治安維持局の捜査官と特高警察の捜査官が憲兵にも伝えず、彼の公用車を襲撃し、彼を逮捕した」


 藤浦が説明する。


 その後、第2次226事件は陽炎団のSATと銃器対策部隊等のテロ対策部隊の活躍により、鎮圧された。


 逮捕された陸軍軍人たちは、これまでの過激反対勢力と同様に減刑され、予備役に編入された。


 新郷も陸軍中将から少将に降格し、予備役に編入され、憲兵隊による保護観察を受け、監視された。


 そこまでの事は森も知っているが、その後の彼についての話を聞かされていない。


「警備部警備1課警備情報第1係からの報告では、一月前から行方不明になったそうだ」


 藤浦が言った。


 その説明を聞いて森は、やれやれ、と肩をすくめた。


 震災と動乱篇 第5章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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