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震災と動乱篇 第3章 山陰大震災 1

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 山陰地方で大規模地震が発生したと報告されてから数10分後、大日本帝国本土の防衛、警備等の中央指令所として設置されている統合防衛総監部がある松本航空基地(陸自は松本駐屯地、海自は松本基地)の滑走路で迷彩塗装された2機のRF-4Eが災害派遣行動に規定されている被害状況の把握等を目的として地震が発生した地域への偵察飛行のため、松本航空基地をスクランブルした。


 1974年から調達が開始され、50年ぐらい航空自衛隊の偵察機として主力を担っていたRF-4Eは同じく偵察機として配備されたRF-4EJもあるが、機体寿命を迎える機が現れたため、退役が始まったが、一部の機体はまだまだ使用可能状態であるし、いずれはそれらの機も退役し、処分される。


 だったら、最後に大きな仕事を与えて、退場させるのもいいだろう、という判断でRF-4EとRF-4EJの中でもっとも機体寿命が長い機を選び、この時代にタイムスリップさせた。





 日本共和区災害対策防災局庁舎の地下に設置されている中央指令所では災害対策防災局長官の須藤芳郎(すどうよしろう)は山陰地方での地震災害の報告を受けた。


「本日14時に山陰地方で余震が発生!最大震度は6です」


「中国地方、四国地方で震度3の地震が観測されました」


 報告書を持った情報官が報告する。


「山陰地方各地の被害は甚大です」


「長官。山陰地方の通信網が全面的にダウンです」


 災害対策防災局情報官が報告する。


「大日本帝国政府はどのように対応している?」


 須藤が中央指令所にいる指令要員たちに聞くと、大日本帝国政府と連絡担当の局員が口を開いた。


「近衛首相が先ほど閣僚を招集し、緊急閣僚会議を開きました。山陰地方の陸軍、警察、消防施設も地震の被害を受け、出動が困難です」


 連絡担当の局員の報告に須藤はうなずいた。


「わかった。大日本帝国災害緊急事態特別措置法により、自衛隊の災害派遣出動要請と陽炎団と水神団が編成している緊急災害派遣隊の出動を要請せよ」


「はい!ただちに、統合大臣、総務庁長官、防衛局長官、保安局長官に出動要請します」


 局員の1人がそう言うと、ただちに大日本帝国災害緊急事態特別措置法の手順に従い、関係各局に連絡し、地震発生地域への要救助者の捜索と救助、負傷者の手当、支援物資の調達と輸送等、被災地域に必要な処置をすべてとる。


「長官。防衛局経由で地震災害地域の映像が送信されました」


 スタッフが報告する。


「スクリーンに出せ」


 誰かが指示をする。


 メインスクリーンに被災地域の映像が映る。


 被災地域のほとんどの建物は倒壊、半壊しており、至る所で火災が発生している。


 だが、須藤を含めてその映像を見ている局員たちは誰1人として表情を変える者はいない。


 彼らは全員、戦後の日本が経験した大規模災害で被災した経験のある者たちだ。


 つまり、ここで被害状況に驚く暇等ない。大勢の人が救助と援助を待っている。


 彼ら全員を救助し、援助するのが自分たちの仕事であり、自分たちの存在価値だ。


 ここで対応を間違えれば自分が経験した災害で亡くなった身内や友人に合わせる顔が無い、災害対策防災局に所属する職員は末端の職員までもが、それを理解している。


「長官。統合大臣より、各長官は統合省危機管理会議室に集合との指示です」


 長官官房長が報告する。





 東京府横田市にある大日本帝国海軍航空隊基地に設置されている陽炎団、水神団、菊水総隊の警察、消防、自衛隊で合同設置された災害時広域救援本部の会議室に陽炎団団長である本庄は警備部長の湯川(ゆかわ)(あき)()警視長と警備部災害対策課の宇多川(うだがわ)信一(のぶいち)警視正を連れて、会議室の通路を進んでいた。


 そこへ、菊水総隊司令部から派遣された、陸上自衛隊の幕僚長である飯崎稀之(いいざきまれのすけ)助陸将補と数人の随行員と鉢合わせになった。


「なぜ、もっと早く災害救助に出動できない」


 本庄は迷彩服3型を着た陸上自衛官たちと自分の随行員たちと通路を早歩きしながら、つぶやいた。


「大日本帝国本土防衛と警備を目的とした戦術、戦略輸送機の緊急展開態勢がまだ完了していません。大日本帝国本土の最北端から最南端のどこでも離着陸できる滑走路を含む航空基地の各種工事等が全然進んでいないのです」


 飯崎の随行員である20代後半の1等陸尉が答える。


「まだ、態勢が整っていない状況下での災害なので、災害マニュアルの作成も不完全な状態です」


 本庄はその説明を受けると吐き捨てるようにその主張を切り捨てた。


「災害マニュアルなど、以前に起こった災害を元にして作成されているに過ぎない。参考にはなるが、それだけだ。知恵を絞って、災害地域に警察、消防、自衛隊を展開できるよう緊急マニュアルを考えろ。そのために頭があるのだからな。今求められるのは、必要な時に必要に応じて行動する事だ」


 そのまま会議室のドアを開け、会議室に入った。


 すでに水神団と陽炎団の災害対策を専門にしている警察、消防の幹部が集まっている。


 統合省災害対策防災局から連絡官たちもいる。


 水神団団長の小野寺の席の隣が本庄の席である。


「小野寺団長。状況は?」


 本庄はすぐに本題に入った。


「まず、災害地域の被害状況の把握を急いでいます。空自の偵察機からの映像は届いていますが、防衛局経由ですので、どうしても遅れが出ています。災害対策防災局、消防、警察の観測機を緊急出動しました。すぐに被害状況を把握できます」


 小野寺が報告した。


(情報が統合されないのは、我々の国の伝統のようなものか)


 本庄は心中でつぶやいた。


 自衛隊の偵察機が偵察地域の航空偵察をした場合、その偵察結果は偵察航空隊司令部がある松本航空基地に送信し、同隊の中にある情報収集と分析を担当する自衛官、防衛技官たちが被害状況を把握する。


 その際、防衛局と統合幕僚本部にも届く。そこから、各局等に情報が送られる。


 そのため、どうしても被害状況等の詳しい情報が届くのに遅れが出るのだ。


「本庄団長。被災地域の天候も最悪です」


 宇多川が災害地域の天候について詳細に報告された気象情報を伝える。


「最初の試練・・・と言うべきか」


 本庄は小声でつぶやいた。


「幸か不幸か、災害地域の治安の悪化は深刻なものではありません。しかし、対応が遅れますと暴動、略奪が発生する可能性もあります。災害救助と災害警備を目的とした即応部隊をすぐに出動させるべきです」


 湯川が進言した。


「台風が上陸した九州地方に台風災害に備えて陽炎団からレスキュー隊等が派遣されているが、そちらの状況は?」


 本庄が聞く。


「陸自の第8機動師団と大日本帝国陸軍西部軍、海軍佐世保鎮守府等が災害地域の救助活動をしています。現地にいる陽炎団、水神団のレスキュー隊だけでもなんとか救助活動は可能です」


 小野寺が報告すると本庄はうなずいた。


「わかった。九州地方に増援部隊として派遣した、救助援助隊を山陰地方に出動させる。機動隊、機動予備隊の隊員たちで編成した緊急災害警備隊も現地に緊急出動させろ」


「はい」


 湯川がうなずくと、災害派遣隊の即応部隊を災害地域に出動させる指示を出した。


「飯崎陸将補。自衛隊の出動は?」


 小野寺が飯崎に尋ねると、飯崎はすぐに答えた。


「統合防衛総監部の陸上総監を指揮官とした統合運用部隊を創設し、その第1陣として第12機動旅団の演習を中止し、空中機動能力を駆使した機動力で災害地域に普通科連隊と施設隊を派遣します」


 幸か不幸か、第12機動旅団は大日本帝国陸軍の南方派遣軍に所属する予定の師団と実戦を想定した共同演習を山陰地方の近くで行っていた。


そのため、すぐに被災地域に出動できる。





 国家治安維持局の捜査官である森樹(もりいつき)巡査部長と荻宮(おぎみや)佳織(かおり)巡査部長の2人は直属の上司である宮島(みやじま)(かつ)(よし)警部と共に山陰地方に派遣される事になった。


 被災地域に派遣される理由は震災の混乱に乗じて不満分子たちが被災者を扇動したり、各種破壊活動等を防止、場合においては潜入捜査を行い未然に重大犯罪又はテロ等を防ぐ事にある。


 すでに統合省厚生労働局麻薬取締部の麻薬捜査官たちは被災地域等で発生する薬物等の違法売買の防止、摘発のために出動した。


 被災地域での被災者の捜索、救助も大事だが、震災直後に発生する各種犯罪を取り締まるのも同じぐらい重要だ。


 これをどう見るかは人によって異なるが、日本を含めすべての国で大規模災害が発生した時、その混乱に乗じてあらゆる犯罪やデマが蔓延するのはどこも同じだ(ただし、日本は災害時に犯罪やデマが蔓延する事は、世界の水準から見れば低い方だ)。


 被災地域の治安の悪化は避難生活をしている避難民にとてつもない不安と恐怖を与える。


 震災によって、友人、家族を失った避難民やその安否を心配しているすべての者たちは、それだけでも心を潰されそうな心の傷を負っているのにこの上、さらに彼らに追い打ちをかけるのはもっとも危険な事だ。


 森や荻宮の服装は災害派遣される警察官たちのような出動服や救助服では無く、普通の庶民の服だ。


 宮島はいつものスーツ姿だ。


 これはこの3人に限った話ではない。


 麻薬取締官たちの服装は完全に溶け込めるように庶民服を独自仕様に改良している。


 派遣される捜査官たちは森を含めた3人だけでは無い。他にも刑事部、組織犯罪対策部、公安部等からも捜査官が派遣されている。


 大日本帝国の法執行機関からも各種犯罪捜査の捜査官も派遣される。


 森と荻宮は陽炎団の固定翼機の飛行場として使用されている横田基地に到着すると、装備の点検を行った。


 腰に装備している拳銃、特殊警棒、デイザー、拳銃用予備弾倉、手錠をそれぞれ念入りに点検する。


 森は腰のホルスターからベレッタM92の弾倉を抜いて、薬室に弾が無いか、それを確認する。


 問題ない事を確認したら、弾倉を戻し、引き金にゴムパットが装着されている事も確認し、ホルスターに戻す。


 その上に薄手の上着を着て、可能な限り、捜査官に見えないように工夫する。


 荻宮も自分の拳銃であるP228を点検する。


 拳銃の点検と言っても、2人は自衛官では無く、警察官だ。あくまでも手順を踏まなければ発砲できない事を点検している。


 国家治安維持局の警察官たちが装備する拳銃は基本的には9ミリ弾を使用する自動拳銃が主であるが、拳銃の種類はバラバラだ。


 森がM92ベレッタ、荻宮はP228であり、ほとんど捜査官の希望で支給される。


 ちなみに宮島は国家治安維持局に所属する前の前職で愛用していたグロッグ17である。


「新谷、花木、山陰地方に台風13号が接近している。そのため、俺たちが乗る飛行機は大阪に着陸する。その後は陸路だ」


 宮島が連絡事項を言った。


「笹川さん。山陰地方の被災地域は本震と余震の影響で道路は完全に塞がれています。捜査官が使用する車両では進めませんが?」


 荻宮が疑問に思った事を尋ねる。


「その事については問題ない。先ほど、自衛隊の災害派遣出動で8輌の74式戦車が投入される。74式戦車が道路を塞ぐ瓦礫の撤去と道路の安全確認を行うそうだ」


 宮島が荻宮の疑問に答えた。


「それなら、安心ですね」


 森がうなずいた。





 菊水総隊陸上自衛隊陸上予備団戦車予備群第1戦車中隊に所属する2個小隊の74式戦車に排土板を装着作業と前後して、2人の小隊長と6人の車長はミーティングを行っていた。


 小隊陸曹である古村(ふるむら)(じゅん)()1等陸曹はテーブルの上に広げられた山陰地方の地図と第12機動旅団司令部情報隊と陸上予備団司令部情報隊から出された被害状況等が記入された精密地図を照らし合わせながら、打ち合わせを行った。


 打ち合わせが終わると、ただちに古村が所属する戦車小隊の隊員たちはドーザ付き74式戦車に乗り込んだ。


 74式戦車は10式戦車と16式機動戦闘車の登場により、退役が一気に進むと思われたが、日本国の防衛計画が再び見直され、防衛予算の増額と自衛隊の定員の増員が行われた。


 その際、海空自衛隊が装備、艦艇、航空機の調達、開発、研究が優先され、10式戦車と16式機動戦闘車の調達数は増えるどころか減ってしまった。そのため、74式戦車はまだまだ現役のポジションを確保している。


 それだけでは無く、退役した74式戦車の中にはまだまだ使える状況であるため、そのまま処分されず、各方面隊の予備装備の中に74式戦車があり、現役戦車部隊の中で故障した74式戦車と交換する対応がとられた。


 菊水総隊陸上自衛隊陸上予備団は主に経験は浅いが強い希望で志願した新隊員や、任期を終えて退職した自衛官の中で再入隊を希望する隊員、定年退職したが、体力に自信のある隊員等を集めた菊水総隊陸上自衛隊の予備部隊である。


 これは同じく菊水総隊海上自衛隊の予備艦隊である第5護衛隊群と同じ扱いである。


 将来的には陸上予備団に大日本帝国出身の若者を自衛隊の身分として採用する事も決まっているが、日本共和区の学校を卒業しなければ受験資格を与えないと防衛局と文部科学局の協議で決定したため、まだ、受け入れていない。


「この時代にタイムスリップして、こいつの最初の任務は元の時代と同じ、災害派遣ですか、人命救助の手助けができますから、こいつも嬉しいでしょうね」


 装填手の陸曹が言った。


「ああ。こいつらは90式戦車や10式戦車が登場するまで日本の国土を守り、そして不戦の戦車だ。こいつらを戦場に出すのは心が痛む」


 古村がヘッドセットでつぶやく。


 不戦の戦車と言う事は、その名の通り、一度も戦わず、一度も人の命を奪わなかった戦車だ。


 それは平和の象徴的戦車でもある。


 他の者たちはどう思っているかは知りたくもないが、古村は陸上自衛隊に入隊し、25年間を戦車乗りとして74式戦車と共に自衛隊生活を過ごした。


 彼にとっては74式戦車にとても情がある。だから、74式戦車が戦場に行くのはかなり辛い。


 だが、彼の心境を知ってか知らずか、天は74式戦車を戦場に送る。


 そして皮肉な事に10式戦車、90式戦車を差し置いて、74式戦車が初陣する事になるのは1942年2月の事である。


 戦場はニューブリテン島。


 ハワイ奪還の序章とも言えるアメリカ海兵隊、オーストラリア軍、ニュージーランド軍の連合部隊がニューブリテン島に強襲上陸する。


 震災と動乱篇 第3章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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