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昭和事変篇 第13章 離島奪還作戦 2

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 第5護衛隊群が四国沖に到着した頃、護衛艦の対空レーダーがこちらに接近する機影を探知した。


 ただちに[ひゅうが]は接近中の航空機に通信した。接近中の航空機はニューワールド連合軍に所属するアメリカ空軍のCV-22B[オスプレイ]であった。


 もちろん、事前に報告は受けていたため、すぐに着艦許可を出した。


 CV-22Bが[ひゅうが]の飛行甲板に着艦すると、機内からスーツ姿の男女が降りて来た。


 彼らはすぐに士官室に案内され、詳細な報告をする事になった。


 士官室には本庄、鐘牧、陸海軍の先任士官たちがいた。


「私、ニューワールド連合軍に所属しています。NSA(アメリカ国家安全保障局)機密情報部のニール・マイヤーズと申します。海軍中佐です」


 ベージュ色のスーツを着た金髪で眼鏡をかけた神経質そうな男はそう名乗った。彼の目はとても何を考えているかわからない目をしている。


「我々のことは知っているな?」


 本庄が代表して、言った。


「ええ、貴方がたのことはCIA(アメリカ中央情報局)やDIA(国防情報局)から伺っています」


 マイヤーズは人の良さそうな笑みを浮かべながら、言った。しかし、目はまったく笑っていない。


「では、我々の自己紹介は省く。報告を頼む」


 本庄が言うと、マイヤーズは椅子に腰掛け、眼鏡を持ち上げ、報告した。


「我々が掴んだ情報によればY島に上陸しているアメリカ軍のコマンド部隊は非正規作戦の実行部隊であるということです。Y島近海に浮上した潜水艦からの暗号通信は当時の海軍が使う正規の暗号通信ではありませんでした。大統領特別命令時のみに使用される暗号電文です」


 マイヤーズの説明を聞いて本庄はある疑問の1つが解消された。


 新世界連合軍は、日米戦争中の正規作戦には一切日本側及び菊水総隊に軍事支援はしない、と協定に明記した。だが、今回のこれは非正規作戦である。よって新世界連合軍が協力してくれるのは協定違反ではない。


 もっとも、特別な状況に限り、新世界連合軍と共に同行しているアメリカ合衆国閣僚3人(前)の判断で新世界連合軍に軍事行動が認められている。


「それでアメリカ軍・・・新世界連合軍からの支援は?」


 本庄が問うと、マイヤーズは眼鏡を反射させた。


「あくまでも我々は情報提供のみです。それ以外はそちらでお願いします」


「そうだろうな・・・」


 本庄は腕を組んだ。


「ちょっと待て、マイヤーズ中佐。貴方の言葉を聞いていると、Y島の詳しい情報も提供してくれるということか?」


 海軍先任士官が聞いた。


「そうです」


 マイヤーズはうなずいた。


「しかし、いくら偵察機が優秀でも限界がある。最後に必要な情報は人間の目で確かめる必要がある」


 海軍先任士官の言葉にマイヤーズは顔の前で腕を組んだ。


「Y島が占拠される前、我々はこの当時の海軍の暗号通信を傍受しました。菊水総隊にも知らせず、極秘裏にC-17輸送機をY島上空に向かわせて、ある部隊を空挺降下させました」


 マイヤーズはそこで言葉を止めて、本庄たちを見回した。


「ニューワールド連合軍多国籍特殊作戦軍ネイビーシールズ・チームX(エクスレイ)部隊名[ブラックウルフ]A(アルファ)小隊です」


 マイヤーズの言葉を聞いて帝国陸海軍の先任士官たちは顔を見合わせた。


「手回しのいいことだ」


 本庄は吐き捨てるようにつぶやいた。





 Y島が武装勢力に占拠されてから数時間後。


 新世界連合軍連合空軍アメリカ空軍C-17輸送機はY島上空に接近していた。


「降下10分前。マスクを装着せよ」


 C-17輸送機の航空士がニューワールド連合軍多国籍特殊作戦軍ネイビーシールズ・チームX(エクスレイ)[ブラックウルフ]A(アルファ)小隊の隊員たちに告げた。


 アメリカ海軍特殊戦コマンド・ネイビーシールズ・チームX(エクスレイ)[ブラックウルフ]はネイビーシールズ内で編成されている極秘部隊である。


 ネイビーシールズとは独立した対テロ部隊であるDEVGROUが存在するが、この部隊は[ブラックウルフ]の存在を完全に隠蔽するための部隊だ。[ブラックウルフ]はネイビーシールズに所属している海軍軍人から選抜され、編成されている。


 主な任務は破壊工作から対テロ対策まですべての特殊作戦を行う。だが、彼らが参加した作戦が表に出ることはない。すべて非合法作戦である。


「マスク装着」


 A(アルファ)小隊長のハリー・イワン・ピーターソン大尉が手で合図をしながら、マスクを装着する。


「マスク装着」


 A(アルファ)小隊の先任下士官リック・パウエル上級上等兵曹がピーターソンに続いて部下たちに命じる。


 16人のシールズ隊員たちはマスクとゴーグルを装着し、降下準備に入る。


「降下5分前。後部ランプ開きます」


 航空士がそう言うと、後部ランプの開閉操作するスイッチを押す。


 後部ランプが開き、外気が入って来る。


「後15分で日の出だ」


 C-17の機長から、機内放送が入る。


「すべて正常。オールグリーン」


 赤いランプから緑のランプが点灯する。


「目標上空。降下を開始せよ」


 航空士が告げると、16名のA(アルファ)小隊の隊員たちは駆け出す。


「幸運を祈る」


 機長の声がした。


 C-17輸送機からシールズ隊員たちが飛び降り、そのまま落下する。


 パラシュート開傘高度に達すると、シールズ隊員たちはパラシュート開傘した。


 一気に落下速度が落ち、安全に着地できる速度になる。


 A(アルファ)小隊の隊員たちは同じ地点に着地し、装備を整える。


「欠員者はいないな?」


 ピーターソンの言葉にパウエルはうなずいた。


「大尉と自分を除き、他14名。全員います」


「よし、司令部に連絡する。全周警戒」


 ピーターソンがそう指示すると、無線担当の隊員を呼び、司令部に連絡する。





 トラック諸島。


 トラック泊地に停泊しているニューワールド連合軍旗艦、艦隊指揮艦[ロッキー]の情報室でマイヤーズは部下からの報告を受けた。


「ブラックウルフ1。目的地に到着。作戦開始の許可待ちです」


 NSAの女性スタッフが報告する。


「日本軍及び菊水総隊に気付かれている様子は?」


 マイヤーズの問いに女性スタッフの隣に座る男性スタッフが報告する。


「日本軍、菊水総隊の無線、通信を傍受していますが、我々の存在は気付かれていません」


 その報告にマイヤーズは眼鏡を上げた。


「良かった。この状況で気付かれていたら、私は解任されていたよ」


 マイヤーズはY島上空を飛行しているF-22[ラプター]から送信されている島の映像を映し出しているモニターを眺めた。


「いいか我々は協定に従って、アメリカ軍、日本軍との戦闘にどちらの味方もしてはならない。あくまでも我々は傍観だ。武器の使用は極力避けるように、ただし、我々は今のところここに存在しないはずの部隊だ。万が一我々の存在が日本軍、菊水総隊に伝えるまでに目撃された場合は、目撃者はすべて殺せ。ブラックウルフ1作戦開始」


 マイヤーズの指示にモニター映し出されている16人の人間の姿が動き出した。


「ブラックウルフ1。行動開始」


 女性スタッフが報告する。


「Y島飛行場の菊水総隊陸上自衛隊の通信隊からの通信を傍受。Y島飛行場は1個中隊クラスの武装勢力に包囲されているようです」


 男性スタッフが報告する。


 ちなみに言っておくが、NSAのスタッフは軍人である。





 宮古島にある陸海軍共同運用の飛行場に日の丸のマークが付いたC-17輸送機が数機着陸した。


 後部ランプが開き、機内から目出し帽を被った陸上自衛隊員が完全武装で宮古島の地面に降りた。


 彼らは陸上自衛隊の特殊部隊である特殊作戦群第2中隊だ。


 第1中隊は南方作戦に参加しているため、第2中隊は予備部隊として日本本土に待機していた。


 第2中隊は彼らに貸し与えられている建物にすばやく移動した。


 到着早々に第2中隊は作戦会議が開かれた。


「全員席についたか?」


 特殊作戦群第2中隊長である深見(ふかみ)3等陸佐が部下たちに言った。


「「「はい!」」」


 部下たちが声を揃えて返事をする。


「君たちも知っての通り、Y島は武装勢力とアメリカ陸軍と海兵隊の混成コマンド部隊に占領された。占領目的は不明だが、我々は陽炎団指揮官である本庄警視監の指揮下で同島を奪還する。自衛隊が警察の指揮下で行動するのは異例だが、今回の場合は事情が異なる。そのことは承知しているな?」


 深見が部下たちを見回す。


 部下たちはうなずく。


「我々が把握している段階の説明をする」


 深見はそう言って、C-17輸送機から持ってきたスクリーンに振り返る。


 スクリーンにはY島の地図が映し出され、人質の位置、敵勢力の配置が詳しく表示されている。


「Y島の島民は海側の小学校の講堂に監禁されている。小学校には1個中隊クラスの武装勢力が配置されている。Y島飛行場周辺にもやはり1個中隊クラスの武装勢力が配置され、飛行場の自衛隊、海軍設営隊等を威嚇している。島の中央部に1個中隊クラスの武装勢力とアメリカ陸軍と海兵隊の混成コマンド部隊がいる。恐らくここが敵の指揮所だろう」


 深見の説明に第2中隊の隊員たちは顔を見合わせた。


「中隊長。1つ質問していいですか?」


 特戦群第2中隊に所属している3等陸尉が手を挙げた。


「なんだ?」


 深見がその3尉に顔を向ける。


「どうやってこれ程の詳しい情報を入手したのですか?偵察機を飛ばしてもこれ程詳しくはわからないはずです」


 3尉の言葉に深見は困った顔をした。それはどう説明したらいいか、わからない顔だった。


「その質問には答えられない」


 深見は正直に言った。


 新世界連合軍の存在は菊水総隊でも極秘扱いで陸上自衛隊に限った話では中隊長以上の幹部にしか伝えられていない。


「そ、そうですか」


 3尉は深見の心情を理解し、納得したようにうなずいた。


「我々は本日の深夜にSBU(特別警備隊)、SAT、特殊任務隊と共にY島にHALO(高々度降下低高度開傘)を行う。Y島着地後、我々は隠密偵察を開始する。与えられた情報が正しいかどうか、それと敵の能力等を詳しく調査する」


 深見の言葉に部下たちの表情が変わった。


 陸上自衛隊の精鋭部隊である彼らは第1中隊に主役の座を譲り、自分たちは予備部隊として日本本土に残された。


 SATやSST(特殊警備隊)はこの1年間活躍しているにも関わらず、彼らには出番が回ってこない。その不満は高かった。


「では、作戦開始まで時間はある。それまでゆっくり休んでくれ。以上。解散」


 深見がそう言うと第2中隊の隊員たちは一斉に立ち上がり10度の敬礼をした。





[ひゅうが]の司令室では、鐘牧はNSAから与えられた情報に目を通していた。


 さすがにアメリカと言った完璧すぎる情報収集と情報分析だ。


 報告書を読んでいると、司令室のドアからノック音がした。


「入りたまえ」


 鐘牧が許可すると本庄とその補佐を任されている若い警視正が入って来た。


「失礼します」


 本庄は頭を下げた。


「どうされました?」


 鐘牧は本庄に尋ねた。


「先ほど宮古島に到着した自衛隊から連絡が入りましたが、空挺降下資格を有するSATの隊員が到着しました。我々もいつでも自衛隊の特殊部隊と共にHALOが行えます。そう指揮権は自分にありますが、自衛隊での作戦開始命令は貴方が出していただいた方がいいかと思いまして」


 本庄の言葉に鐘牧はうなずいた。


「貴方は自衛隊には批判的だと聞いていましたが、きちんと組織への配慮ができるのですね」


 鐘牧は感心したように言ったが、その表情から本庄の考えはある程度予想出来ているようだ。


(さすがに60年以上の人生経験を持っている。老人は勘が鋭いのは疑う余地がないな)


 本庄は頭を掻く。


「自分も公務員です。確かに組織の縄張り意識もあれば、組織の面子も優先します。しかし、定年退職した人物への尊敬と尊重は忘れていないつもりです」


 本庄は尊敬する口調で鐘牧に告げた。


「ふむ。定年退職したのは事実だが、儂はまだ現役の者には負けていないつもりなのだがな。若造どもにはこの時代の日本の未来は任せられん」


 鐘牧は顎を撫でながら、言った。


 彼がそう言い終えた後、再び司令室のドアからノック音がした。


 鐘牧が許可すると、1人の長身の中年男が入室した。


「失礼します」


 入室した男はとても自衛官とは思えない風貌の人物だった。後から聞いた話ではあるが、彼は第5護衛隊群に配属されるまでは海上自衛隊幹部候補生学校の教官をしていたそうだ。


 彼は第5護衛隊群首席幕僚の(たき)(うめ)久志(ひさし)1等海佐だ。


「群司令。NSAから提出された報告書はお読みになりましたか?」


 滝梅が尋ねた。


「ああ、報告書にはすべて目を通した。まったく、文句のつけどころのない完璧な報告書だ。つくづくアメリカの情報収集能力の高さに感心する」


 鐘牧は老眼鏡を外しながら、言った。


「しかし、その新世界連合軍が我々に協力してくれるのはありがたいことです。この当時のアメリカ軍がY島に上陸したと聞いて、どうなることか思っていましたが、アメリカ軍も自分たちの恥を正すのですね」


 それまで黙っていた若い警視正がつぶやいた。


 その言葉に本庄、鐘牧、滝梅は首を振った。


 新世界連合軍が何を考えて協力してくれたのか、少し頭を使えばわかることだ。


「お前は若いな」


 鐘牧が小声でつぶやいた。


 その言葉に警視正は、少しむっとした表情になった。


「警視正。新世界連合軍は、我々に協力してくれた訳ではない」


 本庄が言った。


「え?」


 警視正は目を丸くした。


「アメリカ軍は我々に警告しに来たんだ。我々はずっとお前たちを見張っている。だから、協定を遵守しろ、とな」


「・・・・・・」


 本庄の言葉に警視正は首を傾げた。

 昭和事変篇 第13章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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