昭和事変篇 第12章 離島奪還作戦 1
みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。
Y島で異変が起きたのは日の出前のことだった。
Y島の駐在所が武装集団に襲撃され、駐在警官はその家族ごと殺害された。
集落地域に100人の武装集団が1件1件住宅に突入し、住人たちを拘束した。
住人たちは彼らの顔をはっきりと確認した。
朝鮮人である。
抵抗する島民は銃床等で殴られ、または射殺される者もいた。
Y島の村長は島民たちに抵抗しないように言った。
朝鮮人に連行された島民は島にある学校に集められた。
そして、1人の朝鮮人は朝鮮訛りの日本語で島民たちに言った。
「Y島の島民たちに告ぐ。我々の目的はお前たちを処刑することではない。我々の目的は朝鮮を見捨てようとする大日本帝国政府への抗議だ。確かに朝鮮人のほとんどは朝鮮の独立を喜んでいる。しかし、これは我々朝鮮人を嬲り殺すために周到に準備されたものだ。我々は同胞たちを救うために立ち上がったのだ」
随分と身勝手すぎる主張ではるが、女や子供、老人がいる中では力自慢の男たち、兵役を終了した男たちは逆らうことはできない。
Y島は日本軍が南方作戦を開始するために必要な重要な補給路だ。そのため、島内では陸上自衛隊の施設隊と海軍設営隊による飛行場建設が行われている。
史実では1943年に800メートルの滑走路を持つ日本軍飛行場が建設されたが、この時代では急ピッチで建設が進んでいる。
もちろん、飛行場以外に通信施設も建設されている。
朝鮮人の武装蜂起が始まってから、Y島飛行場の警備部隊の隊員たちが叩き起こされた。
陸上自衛隊のY島警備小隊は89式5.56ミリ小銃より1世代前の64式7.62ミリ小銃を装備して、匍匐姿勢のまま朝鮮人の武装グループを監視している。
なぜ、彼らが64式7.62ミリ小銃を装備しているかと言うと、彼らはもともと常備自衛官ではない。予備自衛官なのだ。
菊水総隊には常備自衛官とは別に1万2000人以上の即応予備自衛官、予備自衛官が招集された。
即応予備自衛官は招集後、実戦部隊に配属されたが、予備自衛官は主に後方の警備等に配置された。
「完全に包囲されたな・・・」
Y島飛行場の警備小隊長である白川實3等陸尉(予備自衛官)は匍匐姿勢のまま、双眼鏡を覗きながら、朝鮮人の武装グループたちを確認した。
「1個中隊クラスはいるな」
「小隊長。どうします。敵は我々よりも多いですけど・・・」
同警備小隊に所属している三山環陸士長(予備自衛官)が声をかけた。
「心配するな。ここを占拠するには数が足りない。とても1個中隊でこの飛行場にいる陸自、海軍部隊は倒せない」
「じゃあ、なんであいつらは我々を包囲しているんですか?」
白川の言葉に三山は質問する。
「それは簡単だ。俺たちがおかしなことをしないようにするための威嚇だ」
「なるほど」
三山はうなずいた。
白川は無線員を呼び、飛行場司令部に連絡した。司令部には北部方面施設隊第12施設群長の平田滝蔵1等陸佐と海軍設営隊長の徳本伝介中佐がいる。
「こちら警備小隊。敵武装勢力は1個中隊クラスで武装は小銃から機関銃がある模様です。どう対処しますか?」
白川が尋ねると、司令部からすぐに返答があった。
「平田だ。飛行場と隊員の安全を我々は守らなければならない。発砲を許可する。ただし、武装グループはY島島民を人質にとっている。こちらから絶対に仕掛けてはならん。あくまでも発砲は武装勢力からの攻撃を受けた場合のみに限定する」
「了解」
白川はうなずいた。
「敵の動きがあったら逐次報告を」
平田がそう言うと無線を切った。
「長い日になりそうだ・・・」
白川は小さくつぶやいた。
Y島飛行場司令部では、陸自の幹部と海軍設営隊の士官がぶつかっていた。
「謀反人どもに好き勝手させていいのか!我々は誇り高き帝国海軍軍人だ!」
「海軍設営隊と海軍陸戦隊から派遣されている1個小隊を合わせれば武装した謀反人ども等恐れるに足らん!」
「戦いもせず飛行場に籠城していれば陸軍どもに笑い者にされる!」
「我々なら島を取り戻せます!」
海軍設営隊の士官たちの主張に徳本は彼らを見回した。
「お前たちは1つ勘違いしている。私はここの設営隊の指揮官ではあるが、あくまでも設営隊の指揮官だ。ここの指揮は幽霊総隊の平田大佐にある。お前たちも軍人ならば上官の命令に従わんか」
「「「・・・・・・」」」
設営隊の士官たちは互いに顔を見合わせた。その後、士官たちは平田に顔を向けた。
平田はずっと目を閉じ、彼らの怒鳴り声を聞いていた。
自分の意見を求めていることに気付いた彼はゆっくりと目を開けた。
「銃撃戦だけが島を守ることではない。情報によればその謀反人どもはこの島の島民たちを人質にとっている。ここで我々が武力行使すれば島民の命はないだろう。軍人の役目は国民の生命と財産を守ることにある。それを我々が脅かすことはできない」
平田は副群長に視線を向けた。
「だが、万が一のことを考えて、攻撃準備だけはしておけ、それと通信機、機密文書等を含む極秘に関するものはいつでも処分できるようにしておけ」
「はっ!」
副群長は叫び、内線電話に手をかけ、必要な指示を出した。
「平田大佐」
徳本が声をかけた。
「どのくらい我慢をすればいいのですか?」
徳本の質問に平田は少し考えた。
「2、3日ぐらいだろうな。すでに菊水総隊司令部と陸海軍省に緊急連絡した。今頃はY島奪還作戦を検討しているだろう」
平田の回答を聞き、徳本はうなずいた。
「了解しました」
徳本は自分の部下たちに顔を向けた。
「聞いたな。本土から来る奪還部隊のためにこの飛行場は死守するぞ。この飛行場を奪われたら、それこそ海軍の恥だ!飛行場死守に微力を尽くせ!」
徳本の言葉に彼の部下たちは姿勢を正した。
「「「了解しました!」」」
とりあえず、海軍の暴走を止めることはできた。そのことについて平田は心中で胸を撫で下ろした。
「施設群、通信隊等の各隊に連絡。全員防弾装備着用の上に銃火器を装備。実弾を配れ」
「はっ!」
副群長が叫ぶ。
「海軍設営隊も小銃を装備!実弾を配れ。ただし、発砲は司令部からの命令がない限り、発砲してはならない。以下の命令を下士官や兵に徹底しろ!」
「はっ!」
徳本の指示に先任将校が叫び、伝令を走らせる。
その時、司令部のドアからノック音がした。
「入れ」
平田が許可すると、陸自の通信隊の陸士と海軍通信隊の兵卒が入室した。
「菊水総隊から緊急連絡です!」
「軍令部から入電です!」
両通信隊の陸士と兵卒は通信文を平田と徳本に手渡した。
2人は通信文に目を通す。
どちらも同じことが書いていた。
現在、Y島奪還作戦を準備中、Y島飛行場にいる全部隊は奪還作戦開始まで飛行場を死守せよ、である。
「通信員。指揮官に連絡。菊水総隊司令部との通信回線はずっと開いていろ」
「はい!」
平田の指示に通信隊の陸士が挙手の敬礼をした。
Y島が占拠されたことは菊水総隊司令部から陽炎団に届いた。
官舎で休んでいた本庄は陽炎団指令室からの電話で起こされ、説明された。
「わかった。すぐに行く」
本庄はそう言って、受話器を置くと、ベッドから起き上がり、すぐに着替えた。
官舎を出ると2人のSPが彼を出迎えた。
「こちらに」
SPに警護され、陽炎団の公用車に乗り込み、内務省警視庁本庁に急いだ。
本庁に到着すると、陽炎団の幕僚たちが出迎えてくれた。
「お休みのところ申し訳ありません」
竜島が頭を下げた。
「そんなことより、状況は?」
本庄は歩きながら、詳細な報告を聞いた。
「菊水総隊からの報告では、Y島を占拠した武装グループは300人ないし400人と推定されます。その全員が機関銃から小銃を装備しているそうです。島民は小学校の講堂に監禁されているもようです」
「なぜ、そこまでわかった?」
本庄が聞くと峯靄が答えた。
「Y島に飛行場に駐屯している陸上自衛隊の部隊からの通報で菊水総隊は九州に配備している偵察機を発進させて、偵察したそうです。後・・・」
「まだ、他にあるのか?」
峯靄が一瞬言葉を詰まらせたことを本庄は聞き出す。
「新世界連合軍から緊急の報告です。どうやらY島の占拠はアメリカ軍が関与している可能性があるそうです」
「なんだと!」
すでに警視庁本庁の廊下を急ぎ足で進んでいたから、本庄の驚きの声は廊下内に響いた。
「新世界連合軍の旗艦[ロッキー]がY島近海で発信されたと思われる、アメリカ海軍の旧暗号通信を傍受しました」
峯靄の報告に本庄はさらに急ぎ足のスピードを上げた。
「わかった。その後のことは会議室で聞く。それと、FBIのサンチャス捜査官を呼べ」
「すでに呼んでいます」
竜島が言った。
本庄以下陽炎団の幕僚たちが会議室に到着してから、すぐにFBI捜査官たちが会議室に入室した。
「早速ですまないが、サンチャス捜査官。詳細な報告を頼む」
本庄が聞くと、サンチャスは陽炎団の幕僚たちに報告した。
「Y島近海で発信されたと思われる旧暗号通信を解読したところ、Y島にはアメリカ陸軍と海兵隊の混成コマンド部隊が上陸したそうです。その兵力は不明ですが、彼らが武装グループを指揮していると思われます」
サンチャスの報告に陽炎団の幕僚たちは顔を見合わせた。
「陸軍と海軍の動きは?」
本庄が峯靄に聞いた。
「はい、陸軍は宮古島に駐留している1個師団に警戒態勢とY島奪還作戦の準備を命じています。海軍も本土防衛を担当する第5航空戦隊に出動準備を命じました。しかし、陸海軍共に島の奪還に頭を使い、島民の奪還は議論されていないようです」
峯靄の報告に本庄は頭を抱えた。
「まったく、人質を全員救出しなければ島を奪還しても意味がない・・・」
本庄はそうつぶやくと、竜島に言った。
「近衛首相に連絡。Y島奪還は我々が指揮する。人質となっている島民の命を優先して、島を奪還する、とな」
「はい」
竜島は立ち上がり、会議室を出て行った。
「団長」
湯村が口を開いた。
本庄が湯村に顔を向ける。
「我々だけでは、島民も島も完全に奪還できません。海上保安庁と自衛隊に奪還作戦に参加するよう要請してください」
湯村の進言に本庄は眉を上げた。
「自分も同じ考えです」
峯靄が同調した。
「団長。貴方が自衛隊を快く思っていないのはよくわかります。しかし、この状況は仕方ありません」
湯村の主張に本庄は目を閉じ、考えた。だが、それはわずかな時間だった。すぐに決断し、幕僚たちに告げた。
「わかった。Y島奪還作戦は陽炎団指揮のもと、自衛隊、海上保安庁、旧軍で行う」
これが本庄の能力である。
横須賀軍港を出港した空母[龍驤]は艦載機をすべて陸に移し、変わりに陽炎団航空隊のテロ対策機を含むヘリが着艦していた。
もちろん、テロ対策機にはSATの隊員が搭乗している。
テロ対策機に搭乗しているSAT隊員は実戦部隊でそれ以外のヘリに搭乗しているのは支援要員と指揮要員である。
「[龍驤]艦長の町田文夫大佐だ。まさか、このような事態で正規空母に警察の人間が乗艦するとは小官の知る限り、初めてだ」
町田はSAT隊長の千早に挙手の敬礼をした。
「お世話になります。本来であれば海上自衛隊の護衛艦[ひゅうが]に乗艦するはずだったのですが、[ひゅうが]には陸上自衛隊の部隊が乗艦することになりました」
千早は挙手の敬礼をした。
町田は千早の言葉に[龍驤]と共に航行する第5護衛隊群の護衛艦に視線を向けた。
「では、こちらに」
町田は千早たちSATの隊員たちを案内した。
空母[龍驤]と共に出港した第5護衛隊群は一部の艦を除き、全艦が出港した。
第5護衛隊群旗艦であるヘリ搭載護衛艦[ひゅうが]には陸自部隊を乗せて、Y島に針路を向けた。
[ひゅうが]には本庄以下一部の幕僚たちが乗艦し、Y島奪還の指揮をとる。
本庄は[ひゅうが]の多目的室で自衛隊の幹部、帝国陸海軍の士官たちと会議を開いた。
「おほん、全員が揃ったところで会議を始める」
咳払いをしながら、そう言ったのは第5護衛隊群司令の鐘牧英一海将補だ。
Y島奪還作戦での陸海空自衛隊の先任指揮官である。
第5護衛隊群は新造護衛艦と旧式護衛艦で編成された予備艦隊であり、主に主力を務める第1護衛隊群と第2護衛隊群の後方支援と予備部隊という位置付けだ。
そのため、群司令である鐘牧は定年退職した海上自衛官だ。
菊水総隊が編成された時、司令官の山縣の希望で現役に復帰した。
「では、本庄警視監。詳細の説明をお願いします」
「はい」
鐘牧に指名されて、本庄は立ち上がった。
本庄は現在陽炎団が収集した情報と菊水総隊が収集した情報を総合し、説明した。
もちろん、ニューワールド連合軍から提供された情報も説明した。
「そこでお聞きしたいのだが、自衛隊の状況はどうなっていますか?」
本庄は、鐘牧に尋ねた。
階級上では警視監である本庄が上だが、鐘牧は定年退職した人物だ。いくら自衛隊に否定的でも第2の人生を歩んでいる人物は深く尊敬する。本庄が敬語を使うのはそのためだ。
鐘牧は立ち上がり、自衛隊の状況を説明した。
「海自、空自のほとんどの部隊は日本本土を離れていますが、陸自部隊の大半は日本に残っています。しかし、離島奪還の部隊ではないため、今回の作戦には使えません。使えるのは一部の部隊です。特殊作戦群の1個中隊が空自の輸送機で宮古島に向かっています。奪還の主力を担う中央即応連隊所属の1個中隊が本艦に乗艦しています」
鐘牧が説明を終えると、本庄に、以上です。と言った。
「海上保安庁の状況は?」
本庄が鐘牧に尋ねた。
「すでに日本海からY島近海に急行しています」
鐘牧は即答した。
「わかりました。次に帝国陸軍の状況は?」
本庄が陸軍の大佐に聞くと、大佐は立ち上がり、陸軍の状況を説明した。
陸軍が終えると海軍に説明を求めた。
菊水総隊、帝国陸海軍のY島奪還作戦は極秘裏に行われるのであった。
昭和事変篇 第12章をお読みいただきありがとうございます。
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