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昭和事変篇 第8章 第2次226事件 3

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れさまです。

 雪が降る中、陸軍の駐屯地の広場で兵士たちが整列していた。


 5年前に起きた226事件もこんな夜だったのだろう。


 第2次226作戦実行日だ。


 上野はここに集まった200人の陸軍下級将校、下士官、兵たちを見て、誇りに思った。


 彼らの表情には何の迷いもない。


 上野は彼らの前で演説をした。


「国民の大多数がどれほど今の政府、陸海軍の上層部に失望したか!天皇陛下を洗脳し、我が国の権威を土足で踏みにじっている!きっと、天皇陛下はこのような事態を決してお望みではない!」


 上野はいったん言葉を止め、彼らを見回した。


「攻撃目標は首相官邸、首相私宅、陸軍省、海軍省、警視庁、外務大臣私宅、内務大臣私宅・・・」


 上野は自分が率いる部隊とその他の部隊が攻撃する目標を伝えた。


 今頃は他の駐屯地でも第2次226作戦に参加する部隊長が部下たちに演説している頃だ。


「我々の攻撃の目標は首相官邸と首相私宅及び、一部の大臣の私宅を攻撃する!」


 上野の攻撃目標を聞いて、下士官や兵たちの表情がわずかに変わった。無理もない。これは立派なクーデターなのだから、それがどういうことかわからない者たちではない。


「実弾を大量に携行するため、小隊長以上の命令がない限り、実弾を装填するな!それと必要を越えた殺傷は厳に禁ずる。この時間帯に民間人が活動している可能性は低いが、もし、彼らから妨害にあっても、殺害、暴行等は絶対に許可しない。常に帝国陸軍軍人として恥じぬ行動をしろ!」


 上野が言い終えると、1人の陸軍下士官が異義を唱えた。


「上野大尉殿の意見に異義があります!先ほど大尉は民間人に対し暴行、殺害を禁ずる、とおっしゃいましたが、我々帝国陸軍の下士官や兵は誇り高き大和魂を持った武人です。そのような外道な行いをする者はここにはいません!その言葉、取り消して頂きたい!」


 下士官の異義を聞いて上野はうなずいた。


「先ほどの主張を聞いて、私は安心した。そして、そんな誇り高き下士官や兵たちにそのような発言をしたことを恥じている。すまなかった」


 上野は素直に謝罪をした。


「そこの下士官。貴官の名は?」


 上野は先ほど異義を唱えた下士官に聞いた。


「はっ!帝国陸軍、大溝(おおみぞ)健光(たけみつ)曹長!」


「では、大溝曹長。貴官の奮戦に期待する」


「はっ!期待にそぐえるよう全力を尽くします!」


 大溝は挙手の敬礼をする。


「他の者たちにも奮戦に期待する!」


「「「はっ!」」」


 下級将校、下士官、兵たちが叫んだ。


「最後に聞く、この質問に不愉快に思う者たちもいるだろうが、このクーデターを実行する前に迷いがある者はいないか?今なら、まだ間に合う。ここに集まったことは忘れて、部隊に戻れ。無論、我々が成功し、新たな政権になってもここで離脱した者の罪は問わない。離脱者はいるか?」


 上野は200人の陸軍兵たちの顔を見た。


 誰も手を挙げない。


「よし、貴様等の命は俺が預かった。これより、首相官邸に向かって前進する!皇国の興廃はこの一戦にあり!!」


 上野はそう言い終えると、自分の位置についた。


「出発!」


 上野の号令で彼に従う部隊は行進し、駐屯地の正門を出た。


 兵士たちは強い意思を持って、1歩1歩足を地面に叩きつけている。





 1941年2月26日。天皇と近衛内閣が行った政策に反対する軍の一斉蜂起の最初で最後の蜂起であった。





「クーデター勢力が行動を開始」


 内務省警視庁に設置された陽炎団指令室でスタッフが報告した。


 本庄と湯村はスタッフが使用するパソコンを見た。


 夜間であるため、赤外線暗視装置で行軍するクーデター勢力が確認できる。


 この映像を送っている警視庁が所有するドローンだ。


 消音能力と索敵能力が高いこのドローンは恐らく地上にいるクーデター勢力からはまったく見えていないだろう。


「どこに向かっている?」


 本庄が聞くとスタッフたちがクーデター勢力の目的地を推測する。


「この方角からクーデター勢力は首相官邸に向かっています」


 スタッフからの報告に本庄はうなずいた。


「こちらのドローンもクーデター勢力の行軍を確認」


「こちらもです」


 ドローンを操作するスタッフたちが次々と報告が入る。


「警備部長。配置についている全機動隊員に命令。クーデター勢力を制圧せよ」


「はっ!」


 湯村は本庄から許可を得ると、スタッフに各隊に指示を出すように指示した。





 立川飛行場では、テロ対策機、ベル412がエンジンを始動させ、ローターが回転していく。


「総員搭乗!」


 強襲チームの指揮官の号令でチームに所属するSAT隊員たちがヘリに搭乗する。


 完全装備であるから目出し帽を被っているため隊員たちの顔はわからない。


 彼らの手にはM4A1が握られていた。


「森山。死ぬんじゃないぞ」


 高荷が友人に言った。


「お前が俺たちを援護してくれるから、死ぬことはないさ」


 森山は高荷に向いて、言った。表情がわからないから、どんな顔をしているかわからないが、きっと、笑みを浮かべている。


「じゃあ、戦場で会おう!」


 高荷が拳を突き出す。


「ああ」


 森山がその拳に自分の拳をぶつける。


 2人は別れて、ヘリに搭乗した。


 森山を含む強襲チームはクーデター勢力から銃撃が予想されるため、防弾仕様のテロ対策機に搭乗する。


 彼らの援護を担当する狙撃手の高荷と観測手の田和村は普通のベル412に搭乗する。


 高荷の狙撃銃はPSG-1ではない。ボルトアクションライフルのM1500である。なぜ、PSG-1ではないかと言うと、PSG-1は、性能はいいのだが、重いため取り回しが難しい。


近接戦闘が予想される今回の戦いではM1500の方がいいのだ。


「搭乗したな?」


 ベル412の機長が振り返り、高荷たちに聞いた。


 高荷たちは親指を上げ、OK、の合図を出した。


「よし、離陸する!」


 機長がそう言うと、メインロータの出力を上げて、ヘリを浮き上がらせる。


 立川飛行場から、ヘリが次々と離陸していく。





「立川飛行場から、SATの急襲チームを乗せたテロ対策機が出動しました」


 スタッフが報告する。


「車輛で接近中のSATは?」


 湯村がスタッフに聞いた。


「すでに配置についています。いつでも作戦を開始できます」


 スタッフが報告する。


「さて、矢は放たれた。どんな結果になるか?」


 本庄は小声でつぶやいた。


 恐らくこれは警察史上に残る最大の戦闘になるだろう。


 現代でも警察は、自衛隊のクーデターを想定し、その対抗策を議論していた。


 実際に自衛隊がクーデターを実行していないから、対抗策を作成するのにとどまっている。


 もともと自衛隊の監視は公安警察が行っている。あくまでも建前上は、だが。


 今回の戦闘はSAT創設以来最大の戦闘になるだろう。どれくらいの隊員が命を落とすか、本庄はそう思うのであった。





「総員配置につけ!」


 首相官邸の警備についている第6機動隊隊長は部下たちに命じた。


 第6機動隊の隊員たちは防弾シールドを手に防弾の壁を築いた。


「急げ!敵は強敵だ。絶対に手を抜くな!敵は思わぬところから攻撃して来るぞ!」


 隊長の隊員たちに喝を入れる。


 防弾シールドを持った隊員たちはM37[エアウェイト]、M360Jをホルスターから抜き、射撃ができる態勢をとる。


「いいか、撃たれるまでは撃つんじゃあないぞ!俺たちは警察だからな。先制攻撃はできない!」


 第6機動隊の小隊長の1人がM3913をホルスターから抜きながら、小隊員たちに言った。


 防弾シールドを持っていない第6機動隊員たちは89式5.56ミリ小銃を持って、防弾シールドを持った隊員の後ろにつく。


 第6機動隊は銃器対策部隊を保有している。彼らは重要防護施設の警戒警備を担当している。


 警察ではSAT等を含めてテロ対処部隊に位置づけられている。


 銃器対策部隊には短機関銃であるMP5FないしMP5Jが導入されているが、陽炎団に所属している銃器対策部隊には短機関銃だけではなく、89式5.56ミリ小銃が導入されている。


「狙撃班は配置についたか?」


 隊長が部下に聞くと、部下は無線で確認した。


「全員配置につきました」


 部下からの報告に隊長はうなずいた。


 第6機動隊が配置についてから、数10分後、軍靴の音が響いてきた。


 隊長も防弾シールドの覗き窓から様子を見る。


「1個中隊はいそうだな・・・」


 隊長がそうつぶやくと、陸軍のクーデター勢力が正門を破壊し、突入してきた。


 首相官邸内の敷地内に入ったと同時にクーデター勢力は三八式歩兵銃を発砲して来た。


それと同時に九九式機関銃等の携帯式機関銃を乱射してきた。


 防弾シールドが小銃弾、機関銃弾を防ぐ。もちろん、1枚だけでは軍用の小銃弾や機関銃弾を防げるわけがない。


そのため、防弾シールドを3枚重ねて使用している。彼らの任務は首相官邸を守ることであるから、動く必要がない、だから、防弾シールドを3枚重ねする案が使われたのだ。


 これは別にこれが最初という訳ではない。警察史上でも1970年代に起きた山荘での人質立て籠もり事件でも同じことがされた(あの時は2枚重ねであったが)。


「狙撃班に連絡。機関銃兵と日本刀を持った兵士を狙え!」


 隊長がそう指示を出すと、部下が無線で指示を出す。


 数秒後、M1500狙撃銃の銃声が響く。


 敵に狙撃手がいることに気付いたクーデター勢力は一瞬だけ怯んだ。


「撃て!撃て!撃ち返せ!」


 隊長の命令で89式5.56ミリ小銃を持った隊員たちが一斉に立ち上がり、射撃を開始した。


 89式5.56ミリ小銃の連発音と共に前衛に出ていたクーデター勢力が次々と血を噴き出し、倒れていった。


 しかし、相手は銃弾が飛び交う戦場を経験した歴戦の兵士たちだ。このぐらいの抵抗では怯まず、持っている小銃や機関銃、拳銃等で応戦して来た。中には手榴弾を投擲する兵士もいた。


 手榴弾が炸裂し、機動隊員たちが吹き飛ばされる。


 隊員たちの悲鳴が雪の降る闇の世界に響く。


「SATはまだ来ないのか?」


 隊長が叫ぶ。


「はい、確認します!」


 部下が叫んだと同時に上空からヘリのローター音が響いた。


「やっと来たか」


 隊長は笑みを浮かべて、暗い空を見上げた。





 高荷と田和村を乗せたベル412はドアを解放し、クーデター勢力の背後で側面を見せている。


「風は微風。距離500メートル・・・」


 田和村は観測用の双眼鏡を覗きながら、相棒に指示を出す。


 高荷はその指示に従い、M1500狙撃銃を調整していく。


「奴ら、全員驚いているな」


 高荷は唇を舐めながら、つぶやいた。


「それはそうだろう。いくら話を聞いていても、実際に目にすればそうなるさ」


 田和村はそう答えると本部に連絡した。


「こちらマツ、キクへ」


「こちらキク、マツへどうぞ」


 本部からの無線が入る。


 マツは高荷と田和村のコールサインであり、キクは本部のコールサインだ。


「狙撃準備完了。射撃許可を」


「キクより、マツへ、射撃を許可する」


 本部からの許可を受けると、高荷は少し息を吸って、止める。完全に手ぶれを止め、静止する。


「射撃許可確認。撃て」


 田和村の合図で高荷はM1500の引き金を引く。


 M1500から火が噴き、ライフル弾が撃ち出される。


 狙われた将校の腹部に着弾する。


「命中」


 田和村が確認する。


 高荷はM1500のボルトハンドルを引き、空薬莢を徘出し、次弾を装填する。


「キクより、マツへ、これより、制圧部隊がファーストロープ降下する。彼らを援護せよ」


「マツより、キクへ、了解」


 田和村が返答する。


 高荷はM1500で次々と将校、上級下士官を射殺していく。


「高荷。敵にも狙撃手がいるぞ!」


 田和村が観測用の双眼鏡を覗きながら、叫んだ。


「見えている!」


 高荷はそう答えながら、三八式狙撃銃を持った狙撃兵を1名仕留める。


 だが、敵も馬鹿ではない。クーデター勢力の兵士たちがヘリに向けて、発砲する。


「このヘリには防弾性能はないから、上空を旋回する。悪いがそれで狙ってくれ!」


 機長が叫ぶ。


「了解」


 田和村がうなずく。





 テロ対策機で接近するSAT隊員たちは指揮官からの指示でM4A1の安全装置を解除した。


「いいか、我々は首相官邸の守りについている第6機動隊と連携して、敵の背後を襲撃する。機動隊員に当たらないよう発砲する時は十分に注意せよ」


 SATの部隊長から指示を受け、SATの隊員たちはうなずく。


「降下ポイント」


 機長から報告が入る。


「降下準備!」


 部隊長の指示で左右ドアが解放される。


 クーデター勢力から銃撃を受ける。しかし、テロ対策機であるため、銃弾程度の攻撃は問題ない。


 しかし、機内にいるSAT隊員は別だ。


 1名の隊員が足に銃弾を受けた。


「くそぉ!」


「1名負傷!」


「怯むな!ロープを降ろせ!」


 部隊長の指示でSATの隊員たちがロープを降ろす。


「降下!降下!」


 部隊長の指示でSATの隊員たちが次々と降下していく。


 もちろん、クーデター勢力から銃撃を受けるが、狙撃手からの援護と後続のテロ対策機に搭乗するSAT隊員たちが援護射撃を行う。





 地上に降り立った森山はM4A1を発砲しながら、展開した。


「他の隊員が降下できるよう援護射撃を行え!」


 森山が同僚たちに指示すると、正確な照準でクーデター勢力に銃弾を浴びせる。


 クーデター勢力は手榴弾を投擲して来た。


「手榴弾!」


「伏せろ!」


 SATの隊員たちは冷たい地面に飛び込み、爆発から身を守った。


 テロ対策機からSATの隊員たちが全員降下し終えると、援護射撃から制圧射撃に変更し、クーデター勢力を追い詰める。




 クーデター勢力が怯んだ一瞬の隙をついて、第6機動隊隊長が号令を出した。


「検挙!」


 バリケードとして使われていた3枚重ねの防弾シールドが除けられ、防弾シールドを持った機動隊員たちがクーデター勢力に突撃した。


 もちろん、その背後から89式5.56ミリ小銃を持った銃器対策部隊の隊員たちが射撃を行いながら、突入する。




 クーデター勢力は6割近い損害を出したが、上野は投降せず、最後まで戦うよう指示した。


 彼に従った陸軍の下士官や兵たちはそれに従い、徹底交戦した。


 しかし、もはや戦況を打開する方法はなく、次々と兵士たちは絶命もしくは検挙された。





「作戦終了」


 首相官邸に派遣された強襲チームの先任指揮官がクーデター勢力の抵抗がなくなったことで、そう言った。


 彼の目の前には帝国陸軍兵士の死体の山が築かれていた。





 その死体の中から1人の兵士が虫の息でありながら、顔を上げた。


 上空を旋回しながら、こちらを見下ろす航空機が目に入った。


 2人の黒服を着た兵士(SAT隊員)が見えた。


 その兵士は最後の力を振り絞り、三八式狙撃銃を構えた。


 狙撃眼鏡を覗き、1人の兵士に照準を合わせる。


「思い知れ・・・天皇陛下万歳!」


 虫の息にしてはありえない声を上げ、その兵士は引き金を引いた。


 弾丸が発射され、その弾は1人の兵士に命中した。


「ふん・・・」


 その兵士はそのまま息を引き取った。





 作戦が終了した矢先に思いもよらない銃撃を受け、高荷は驚いた。


「まだ、戦える奴がいたのか!?」


 高荷はそう叫びながら、田和村に振り返った。


「おい、マジかよ・・・」


 田和村はそうつぶやきなら、倒れた。


「おい、どうした!?」


 高荷が田和村の身体を見る。


 すると、防弾チョッキの隙間にライフル弾が着弾していた。


「1名。負傷!」


 高荷は無線で叫んだ。


「すぐに飛行場に戻る!」


 機長はそう叫びながら、ヘリを旋回させる。


「頑張れ!すぐに飛行場だ」


 高荷は相棒に声をかける。


「もう無理だ。俺は助からない・・・」


「何を弱気なことを言っている!」


 高荷がそう叫ぶが、田和村は目を閉じ、絶命した。

 昭和事変篇 第8章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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