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本土防衛戦の始まり篇 第6章 救出

 みなさん、おはようございます、こんにちは、こんばんは、お疲れ様です。

 陸海空自衛隊と日本帝国陸海軍航空予備軍による共同での迎撃によって、大日本帝国本土に侵入した連合国軍の戦略爆撃機部隊を壊滅させた。


 B-17[フライングフォートレス]の搭乗員たちは、ほとんどが脱出した。


 現在は、彼らの救助活動を行っている。


 統合省保安局海上保安本部に所属する巡視船[いず]は、速力12ノットで、海上の捜索を行っている。


「遭難者の捜索だけでは無く、対潜警戒も厳にせよ」


「船長。警戒要員を、増員しますか?」


 船長の言葉に、1等航海士が具申する。


「そうだな。本船が撃沈されたら、目も当てられない。そのようにしてくれ」


 巡視船[いず]は、災害対応機能を有する巡視船であり、大規模災害時には、被災者や救援要員を収容出来る。


 医療設備も充実しており、手術室も設けられている。


 ただし、海上自衛隊の護衛艦のように、大規模手術が出来る設備を有していない。


 あくまでも、応急手術に対応出来るだけだ。


 今回の任務では、急遽捕虜輸送船としてフィリピンから大日本帝国本土に向かっていた最中に、連合国軍による戦略爆撃が行われたため、海上保安本部から救助活動に従事するよう指示された。


 本船には捕虜として60人が収容されており、捕虜の看守として国家憲兵隊から国家憲兵が20人乗船している。


「船長」


 船橋に、国家憲兵の腕章をつけた国家憲兵が、上がってきた。


「捕虜たちの様子は、どうだ?」


「最初、突然の計画変更により、多少の混乱がありましたが、現在では落ち着いています。それから、遭難者の捜索救助に限り、協力していいと捕虜の責任者が、申しております」


「何だと?」


 船長が、振り返った。


「撃墜したB-17が、イギリス軍機である事を知っているのか?」


「いえ、そのような情報は開示していませんが、同じ連合国軍の将兵を救助するのならば、自分たちも、協力を惜しまないと・・・」


 国家憲兵の言葉に、船長は考えた。


「信用出来るのか?」


「はい、ここでの生活だけでは無く、フィリピンでの捕虜収容所での生活は充実していたものですから、彼らが反乱を起こす可能性は低いと思われます」


 国家憲兵の言葉に、船長はうなずいた。


 捕虜の待遇については、史実とは異なるレベルである。


 わかりやすく例えると、板東俘虜収容所のようなものである。


 捕虜に対して公正で、人道的かつ寛大で友好的な、処置を行っている。


 そのため、捕虜たちの不満も少なく、暴動等の破壊工作が行われる事が、ほとんど無い。


「どう思う?」


 自分だけで判断するものでは無いと考えた船長は、船橋にいる幹部たちに声をかけた。


「よろしいのではありませんか。彼らも捕虜として待遇の良さから、何もしないというのは罪悪感があるのでしょう。遭難者の捜索救助だけなら、任せてもいいでしょう」


「ですが、人手が多すぎると、かえって邪魔になります。模範的な捕虜のみを選抜し、遭難者の救助と捜索を、お願いしてはいかがでしょう?」


 幹部たちは、彼らの協力の申し入れを、好意的に受け入れている。


 幸いにも捕虜たちは、イギリス海軍に籍を置く者たちであるため、海上での捜索、救助も可能である。


「では、そうしよう」


 船長は、頷いた。


「少佐。捕虜から信用出来る者、10名を選抜してくれ。選抜が出来たら、彼らを甲板に出してくれ」


「わかりました」


 国家憲兵が、挙手の敬礼をした。


「双眼鏡の準備をしてくれ」


「はい」


 船長の指示に、幹部の1人が返答した。





「遭難者発見!」


 巡視船[いず]の乗組員が、叫んだ。


 甲板で、遭難者を捜索している乗組員や捕虜たちが集まる。


 飛行服を着た、2人のイギリス兵が、海の上で浮いている。


 巡視船[いず]が停船し、作業艇が下ろされた。


 作業艇には操舵要員1人、救難要員2人と警戒要員として特別警備隊の隊員が2人、乗艇している。


 特別警備隊の隊員を乗艇させている理由は、現在は戦時下であり、遭難者であるイギリス空軍の兵士は武装している可能性があるからだ。


 作業艇が接近すると、イギリス兵2人は抵抗する事も無く、作業艇に乗り込んだ。


 素早く特別警備隊の隊員が、イギリス兵の武装解除を行う。


 救難員は、救助したイギリス兵に外傷が無いか、確認する。


「近くに他の仲間は、いないか?」


 救難員が、英語でイギリス兵2人に聞く。


「いない。俺たちだけだ」


 イギリス兵2人の身体に、バスタオルがかけられる。


 遭難者に、他の遭難者がいないかどうかを聞くのは、船からの捜索だけでは光の反射等によって発見出来ない場合があるからだ。


 作業艇は救助した遭難者を乗せて巡視船[いず]に戻ると、ヘリコプター甲板に用意した、椅子に座らせて、食堂で調理したサンドイッチと、温かい紅茶を手渡した。


「毒は入っていないから、安心しろ」


 そう言って、幹部の1人がサンドイッチを1つ取り、彼らの目の前で食べ、紅茶を飲む。


 それで安心したのか、イギリス兵2人は、皿に盛られていたサンドイッチを手に取り、食べた。


 どのくらいの時間を海の上でいたのか・・・どんなに屈強な兵士でも、その時間は不安や恐怖に、心を支配されていただろう。


 海水は、飲み水としては不向きである。


 史実では、ドイツ科学者が少数民族等を捕らえて、人体実験を行った。


 それは、海に墜落したドイツ空軍のパイロットが、海でも生き残れる可能性があるかどうかのための、実験だった。


 囚われた者たちは、まずはドイツ空軍兵と同じ条件下の食生活を行い、ドイツ空軍兵と同じ条件下になるようにした。


 囚われた者たちが、ドイツ空軍兵と同じ条件下になった段階で、実験が行われた。


 第1実験では、海水を、ただひたすら飲ませる事だ。


 実験体になった者たちは、1日も持たず全員が死んだ。


 その原因として、海水には大量の塩分がある。


 その塩分を体外に排出するには、大量の水分が必要なのだ。


 そのため、海水を飲んだ者たちは、大量の水分が体内で必要になるため、それを得られず、渇き死にをするのだ。


 第2実験では、海水では無く、普通の飲料水を実験体に与えた。


 すると、水だけで2ヵ月ぐらい生き残ったのだ。


 水だけで、それだけの生命維持が出来るのであれば、ドイツ空軍兵士1人1人に海水をろ過し、飲料水を作る機械を携帯させればいいという考えになったのだが、当時のドイツ空軍上層部は、そこまで予算をかけてドイツ空軍兵の命を救う必要は無いと、結論付けた。


 そこで、実験は再び振り出しに戻った。


 第3実験では、海水を飲ますのでは無く、飲料水を飲ますでは無く、まったく水を与えないようにしたのだ。


 この実験では、実験体となった者たちは2日程度しか持たず、3日目から次々と死んでいったのだ。


 3度の人体実験で、結局わかった事は、人間は、水を飲まなければ生きていけない事と、海水では代用が出来ない事であった。


 遭難したイギリス兵たちも、南の海の暑さに耐えながら、渇きに耐えていたのである。


 それが、どのくらい苦痛なのか、想像出来る。





 ヴゥゥン!ヴゥゥン!


 消防車が、サイレン音が響かせながら、火災現場に急行する。


 イギリス空軍の戦略爆撃機部隊の一部が、九州地方南部にある工場地帯を空爆し、大火災が発生している。


「火災現場に到着!これより消火活動に入る!」


 特別消火中隊の中隊長が、無線機のマイクを掴んで、報告した。


 すでに、現場には地元の国家地方消防局と自治体消防局の消防車が到着しているだけでは無く、水神団のポンプ隊も到着している。


「だから!消防車が足りないんだ!!」


「消火活動が終わらなければ、要救助者の救助活動を行わせる訳にはいかない!!」


 水神団のポンプ隊隊長たちの、怒号が響く。


「我々の存在意義はこの時のために存在している!ここで、転んでしまったら、我々の存在意義が危うくなる!覚悟して職務に当たれ!」


 特別消火中隊に所属している水槽付ポンプ車から、ホースが延ばされた。


 特別消火中隊は、ポンプ隊では消火が困難な火災現場で対応するために結成された、消火活動に特化した消火中隊である。


 金色の防火帽に、黒色の防火服を着込んだ特別消火中隊の隊員たちが、消火用のホースを持って、火災が発生している工場に放水を開始する。


 放水を開始したと同時に、工場が小規模な爆発を起こした。


「爆発だ!!!」


 金属片等が、降り注ぐ。


「伏せろ!!!」


 連続して、小規模な爆発が連発する。


「さすがに、戦車の工場だけあって、爆発も一味違うな・・・」


 B-17が爆撃した工場は、陸軍の歩兵科運用の戦車を量産している工場であるため、大量の燃料等が工場内に存在する。


それらに誘爆してしまったら、とんでもない爆発が発生する。


「火の勢いが収まって来たぞ!」


「突入!」


 特別消火中隊の隊員たちが、工場内に突入する。


 工場内は、酷い有様だった。


 炎の大きさは10メートル越え、壁や天井にも炎が這いずり回っている。


「あの戦車に、水をかけろ!」


 完成していると思われる戦車に向かって、放水するよう指示する。


 完成している戦車は、試験走行等のために燃料が入っている可能性がある。


 つまり、爆発する可能性が高いのだ。


「先ほどからの小規模な爆発は、戦車が原因だったのですね」


 特別消火中隊に所属する若い隊員が、つぶやく。


「恐らく、そうだろうな。戦車は戦争のために造られているのに、脆いな・・・」


 若い隊員の先輩隊員が、答える。


 別の戦車が、爆発した。


 戦車の金属片等が、周囲に飛び散る。


「伏せろ!」


 特別消火中隊の隊員たちが、床に伏せる。


 支えが無くなったため、消火用ホースが空中を蛇の様に舞う。


「負傷者発生!」


 他の隊から、叫び声が響いた。


「退避!」


 負傷者が発生した他の隊は、負傷者を搬送しながら、工場の出口に移動した。


「我々は、消火活動を続けるぞ!」


 特別消火中隊の中隊長が、叫んだ。


「待って下さい!」


 部下が、叫ぶ。


「燃料庫に火が!」


「何ィ!」


 特別消火中隊の中隊長が、燃料庫に視線を向ける。


 燃料庫に、炎が迫って来た。


「退避!」


 特別消火中隊の中隊長が、叫び声を上げる。


 隊員たちは、消火用のホースを残して、工場の出口に向かって駆け出した。


「爆発するぞ!皆!伏せろ!」


 特別消火中隊の中隊長が、外に出たと同時に叫んだ。


 他の隊員たちが地面に伏せると、工場内からもの凄い轟音と共に、大爆発が起きた。





 水神団、消防(ハイ)救助(パー)機動(レス)部隊(キュー)救助隊に所属する青島辰巳消防副士長は、南九州地方ある某山岳地方に同僚たちと共に、集まっていた。


 青島たち消防関係者だけでは無い。警察関係者や自衛隊関係者も集まっていた。


「本当に、この山に籠っているのか?」


 青島は地図が見ながら、つぶやく。


「地元の目撃者の話では、そのようだ」


 同僚が、答える。


 彼らが集まっている理由は、南九州に接近したイギリス空軍の戦略爆撃機であるB-17[フライングフォートレス]から脱出した搭乗員たちが、山に逃げ込んだという情報を受けたからだ。


『イギリス空軍の爆撃機搭乗員の諸君。我々は、君たちに危害を加えるつもりは無い。諸君等の身の安全は、国際法に従い保障する。速やかに武装を解除し、山を下山してください。もう一度、繰り返します・・・』


 陽炎団機動隊のスピーカー付警察車両から英語で、山に籠っているイギリス兵たちに投降を呼びかけている。


「しかし、俺たちが武装する時代が来るとはな・・・」


 青島が、拳銃嚢に手をかけた。


「確かに人命救助する消防機関が拳銃を武装するなんて話は、違和感があるな。だが・・・いつか、こんな時代が来ると、思っていた」


 同僚が、つぶやく。


「放送効果無し!これより、捜索を開始する!」


 消防、自衛隊、警察の統合指揮を行っている指揮官が、叫んだ。


「まあ、そうだろうな・・・」


 青島が、つぶやく。


 本土空襲を行う爆撃機は、地元民から、かなり憎まれる。


 歴史が疎い青島でも、学校の平和と戦争についての授業で、空襲を経験した人から、空襲の恐ろしさと戦争をする事の愚かさについての、話を聞いた事がある。


 その戦争経験者は、空襲警報が発令された時の恐怖や、防空壕で身を屈めている時の不安感、空襲に現れたB-29の搭乗員に対する憎悪の感情について、涙ながらに語った。


 特にB-29の搭乗員に対する憎悪については、とても熱く語った。


 青島の脳裏に、その時の言葉が過る。





「空襲は、財産や思い出等をすべて奪って行きます。それだけでは無く、人の命も奪います。住み慣れた町や家が、一瞬のうちに火の海に包まれて全てが焼き尽くされていく。そのような酷い事を、どうしてアメリカ人は出来るのか?当時の私は、そう思っていました。戦争は、あらゆる物を奪っていく。そのような悲しみや嘆きしか生まない悲惨な事を、二度と起こしてはいけない」





「捜索を開始する」


 青島が所属する隊の、指揮官が号令を出す。


 消防、警察、自衛隊総勢1000人規模の人員が、山の中に入った。


 救助犬、警備犬も同行している。


『イギリス空軍の爆撃機搭乗員の諸君。我々は君たちに危害を加えるつもりは無い。諸君等の身の安全は、国際法に従い保障する。速やかに武装を解除し、山を下山してください。もう一度、繰り返します・・・』


 上空で捜索している警察ヘリからも、放送が流されていた。


 青島が所属する隊の指揮官も、拡声器を持って、B-17の搭乗員たちが投降するように、呼びかけている。


「ワン!ワン!」


 救助犬のジャーマンシェパードが、吠える。


 青島が、岩陰に近付く。


「そこにいるのか?」


 青島は、日本語で声をかける。


 すると、イギリス空軍の飛行服を着た青年が両手を挙げながら、現れた。


 青島は、懐から塩お握りを出した。


 イギリス兵は警戒した顔つきで、塩お握りを受け取ろうとしない。


「・・・そうだよな」


 青島は、お握りを半分に割って、2つにした。


 そのうちの1つを、彼の前で食べた。


「大丈夫だろう?」


 青島は、塩お握りを差し出す。


 イギリス兵は、塩お握りを受け取った。


 彼は、それを食べた。


 その後、彼の武装解除を行い、国家憲兵に引き渡した。

 本土防衛戦の始まり篇 第6章をお読みいただきありがとうございます。

 誤字脱字があったと思いますが、ご了承ください。

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