4:赤猫の鈴
7/8日.日刊32位ありがとうございます。
これからもご愛読いただけたらと思います!よろしくお願いします。
P.s 前話の一部設定の変更.加筆修正をしてある箇所があります。またゲーム内での時間速度を再考いたしました。
広場に出て、右奥の道に――その先にはさらに街の奥へと続く、細い通路があった。まだ間昼間だというのに薄暗いその路地に……一瞬、私たちはたじろいでしまうが意を決して、歩き始めた。
……しばらく歩いているとぼんやりと赤い看板が見えてくる。
はっきりと見えるようになると、看板に書いてある文字が読めるようになっていて
そこには、宿屋≪赤猫の鈴≫と書いてあった。
『ここだね!!』と二人で顔を見合わせ、ドアを開ける。
屋内のドアノブには鈴がついていたようで、ドアを押した事によって透き通るような音が流れる。
……その音が流れてから、数秒もしないうちに一人の男性がゆっくりと姿を見せ、お辞儀をする。
「赤猫の鈴へようこそ。宿泊でしょうか?お食事でしょうか?」
顔を上げた後には、爽やかな笑顔で私たちに問いかけてきた。
元々、いい時間になっておりログアウト前提に話を考えていた私たちは、声を揃えて答える「「一泊、お願いします!」」
それを聞いた男性は「承知しました……一泊100Lになります。……それから、お部屋は相部屋でよろしいでしょうか?それとも一部屋ずつにしますか?」と問う。
――一瞬、相部屋もいいかなと考えるが、明日のログイン時間が重なるとは限らない為、二人で相談した結果一部屋ずつ部屋を分けると決め、お金を支払った、
「かしこまりました、は早速ご案内します。こちらへどうぞ」と、私たちを先導するように歩き始めた。
……部屋へと行く最中に男性は自己紹介と、宿屋の説明をを始める。
「申し遅れました、お客様。私はこの宿屋の3代目亭主のレリックと申します。何か御用の際はお部屋にあります呼玉をお使いください。私か、家族の者がうかがいますので」
と詳しい説明をしてくれた。
「「ありがとうございます!」」と二人で答える。
そして私たちもレリックさんに自己紹介をしておく。
……どうやらこの宿屋≪赤猫の鈴≫は、私が知っている現実世界のホテルとは違い、家族で切り盛りをしているらしい。
奥さんと2人のお子さんがいるとのこと。
料理は奥さんが担当しており腕は家族びいきをひいてもピカイチとのことだった。
またお子さんも宿屋のお仕事の中の簡単なことをお手伝いしているらしい。
レリックさんが嬉しそうにお子さんの事や奥さんの事を語る。
その話を聞いて、きっと暖かい家族なんだろうなと思うのだった。
……そんな話をしているうちに、目的地に着いたのかレリックさんは私たちに部屋の鍵を渡しいう。
「お二人のお部屋は隣り合ったお部屋にさせていただきました。お食事は原則、食堂で行っています。昼食はなく朝食と夕食のみ提供しています。朝食は7時~10時、夕食は16~20時までとなっていますのでご注意を」
それから、時間外でもお金を払えば料理はおつくりしますよ。
さすがに夜中は寝ているので無理ですが……
そう説明をして、レリックさんは食堂があるほうへと歩いて行った。
部屋に入る前に廊下にかかっていた時計を確認する。
この辺は現実世界をそのまま反映させてあるのか一日24時間表示は変わらずであった。
そして今の時間は13時。丁度ゲーム内ではお昼後であった。
現実世界では真夜中なのだが。
まだ遊んでたいけど、さすがに寝よう……そうしーちゃんと話をして、この日はログアウトした。
……ちなみに私たちはログインしたらいつログインしたのかがわかるように
ログインコールの機能をONにした。(ゲームにINすると通知が届くようになる)
ログアウトボタンを押し、現実世界に戻った私は静かにUCを外す。
ゲーム内で話をしたNPCの感情豊かな表情を、友達や家族と話をしている様な感覚を思い出し
(このゲーム……違う世界に私が飛んだみたい……)そう思っているうちに、私の意識は微睡んでいった。
♦
――ログイン2日目
前日のゲームの世界に興奮していたせいもあってか、いつもよりもやや早く目覚めた私はWFWから一通の更新情報に気づく。
それは公式のページから現在のPlay人口とスキル取得人数が検索できるようになりました
との旨の通知だった。
早速気になったプレイ人数を調べてみると.稼働初日には、約5万人がログインしていたことがわかる。
また精霊術および召喚術のスキルを取った人がどれぐらいいるかを確かめる。
……精霊術 40/50000 召喚術 60/50000
思っていたよりもはるかに少ない数字に驚く。
「こんなに少ないんだ……なんでだろ」単純に疑問を感じた私は、現行の掲示板から情報を探す。
ネットに上がっていたWFWの攻略掲示板には、すでに数多くのスレッドが存在していた。
その中から、精霊術と召喚術に対するコメントや記事を読み漁った。
そこに書かれていたことは、おそらく現在も召喚術と精霊術を取っているだろうという人の
『とてもかわいい!』『一人一人性格も個性も違うんだ!』といった好意的なコメント。それとは逆に、否定的なコメントを書いている人達も少なくはなかった。
……その人たちは、ゲームの攻略や効率を考えている人たちなのか
『精霊術のデメリットがでかすぎる。初期の段階でのMPの消費としては割にありわない。』
ということや……
『元々友達数人で初めてPTを組んでいたが。召喚術のせいでPT枠圧迫して作り直せと言われた。だからキャラ作り直したわ』といったようなコメントが溢れている。
CβTではソロプレイヤーが多く、元々情報が少なかった為なのだろうか。
WFW発売から始めた人たちで、スキルを取った人たちは『……考えていたのと遥かに違う』の思いゆえにキャラを削除し再作成している人が多くいるとのコメントが流れていた。
……少しモヤモヤをした感情を抱え。掲示板の閉じるボタンを押した私は
しばらく呆然とした時間を過ごす。
ゲームの楽しみ方なんて、人それぞれ……
そう割り切れたら楽なんだけどなぁとため息をこぼす。
それから、数十分を費やしある考えにたどり着く。
『楽しそうだから取得してみようかな。可愛いからあの人と話をしてみようかなって思われるようになったら私のこのモヤモヤは消えるのかな?』
……だったら、私も1プレイヤーとして、精霊術と召喚術の良さをゲーム内に広げればいいんじゃないか!
私の行動で!!
その考えに至ったとき、私の胸のもやもやは少し軽くなり
同時に、何をすればいいのかを考えさせる。
「……あっ、まずは契約だね……」まだスキルを使ってすらいない事を思い出す。
私がこの世界を楽しく過ごす内に、私の姿を見た一人でも多くの人たちが、精霊術と召喚術に興味を持ってくれるといいな。
その思いを胸に私はUCを装着しゲームを起動した。
♦
……ログインするとゲームの世界はお昼だった。すぐに、呼玉を押してレリックさんを呼んだ。
「いかがしましたか?」呼んでから、数分も間をおかずレリックさんが部屋へ訪れる。
「図書館には、どういくんでしょうか?」とドアを開けて尋ねる。
「……図書館……ですか。何かお調べ物でも?」何か別の事を聞かれると思っていたのかレリックさんは一瞬間をおいて答える。
スキルを使えば、きっとすぐに契約できるだろうと考えたが、あえて私は図書館へと行くことを選択する。
ゲームをやっていたプレイヤーからだけの情報だけではなく
きっとあるであろうこの世界での精霊術と召喚術の情報を求めて。
「ええ……精霊術と召喚術について少し――できれば精霊や召喚獣との契約方法も知りたいですし。」
それに、この世界での本がどうなっているのか少し興味がありますし…
「そうでしたか、失礼しました。お客様は冒険者の方でしたか」
それならば、昨日の夕方から姿が見えなかったのにも納得です。
そういった顔でこちらを見ているレリックさんは、それでしたらと図書館までの道順を
部屋に置いてあったメモ用紙のような物に書き込んでいく。
「……まずは、ここに来るまでに通った噴水のある広場まで行ってください。」
詳しくは、その紙に書いてありますので迷わないかと、そう、はにかみながら爽やかにレリックさんは図書館までの道順を教えてくれた。
「ありがとうございます!!」道順をわざわざ紙に書いてくれた事に、感謝する。
それから、すぐにでも図書館に行きたい気持ちを抑える。
ステータス画面のお金を確認。900L……
余裕はあるのかな?と考え「今日も一泊お願いしていいでしょうか?」とお願いをする。
「かしこまりました。現在使っているお部屋を本日も一泊ですね。」
と再びはにかみながらレリックは答えた。
それから図書館へと向かう為、宿屋を後にしようとするとレリックが声をかけてくる。
「……そういえば、昨日から何もお召し上がりになってませんね。原則は食堂へいらしていただく事になっているのですが、ミア様は忙しそうですので……」
と何かのお肉と卵が挟まれているサンドイッチのようなものを手渡された。
「……些細なものですが、ご用意させていただきました。これでも妻が腕によりをかけていますからおいしいはずです」よかったら食べてください――レリックははにかみながらそう言った。
「ありがとうございます!道中で食べさせてもらいますね」感謝を述べ宿屋をあとにする。
噴水のある広場までの道を戻りなら考え事にふける。
プレイヤーの間では不遇スキルだなと、レッテルを張られていた精霊術と召喚術について。
この世界では、どんな位置づけになっているのだろうか。
少なくても、その知識を得てから契約をしても絶対遅くない。
もしかしたら、図書館の本の中には召喚術と精霊術に対して有益な情報があるかもしれないし。
そう胸を躍らせながら、足早に通路を歩いていく。
掲示板で見て不快に感じた物を忘れたかのように。