01話 帝国の騎士
時は遡り、私の話になる。
その日は雨の日だった。強い雨は、屋根に打ち付けられて強い音を響かせ続ける。
時折鳴る雷に、その場にいる何人かは身を震わせていた。
私はというと、そんなの気にならなかった。いや、気にする余裕がなかった。
部屋の中にいる十数人、ここにいる全員が同じ道を目指し、この中の何人かが、その道を進むことになるのだ。
一人一人名前を呼ばれ部屋から出ていく。あ、今ので六人目。
何時自分の名前が呼ばれるかと、緊張して汗が出てきてしまう。
……おちつけ、やれることはやって来た…筈、大丈夫、私はできる子…といった具合に自分の心臓を落ち着かせて早1時間、まだましになったがいまだにガタガタ震えている気がする…。
「次、83番、此方へ」
呼ばれた!
「ひぁい!」
……返事をした瞬間、周りからクスクスと笑い声が聞こえた気がした。私自身、そんなことを気にしている余裕などなかったのだろう。そんなもの聞こえなかったし、自分が盛大に噛んだことなんて気付きもしなかった。
部屋を出て、案内されるままに別の部屋に入ると、そこには三人の大人が資料を片手に此方を見てきた。
「では、まず名前と出身地を」
彼等と向かい合う形で置いてあった椅子に座ると、真ん中の眼鏡の男性が資料に目をやりながらそう投げ掛けた。
ワンテンポ遅れて、私はフリーズ仕掛けていた頭でその言葉をなんとか理解し、口を開く。
「あ、アルファ、アルファ・ジールです!出身は北西にあるシト村です!」
なんとか、噛まずに言えた。
「……ではジールさん。とりあえず落ち着いて、楽にしてください」
左側に座っていた女性が、あまりにカタコトだったのかみかねてそう言ってくれた。
だがそんなこと言われて落ち着けるヤツなんて私は知らない。ありがとうございますとだけ言ったが、たぶんガチガチだろう。
「はぁ…では面接を始めます。ジールさん。
この面接は私、ハジメとマヤ、デルデラの三人で行います」
そう面接。今私は、このリョム帝国の国を守る騎士になるための学校、騎士学校の入学試験を受けているのだ。
騎士は危険と隣り合わせであるが、収入が良いからか希望者が多かった。故にだろうか、騎士学校に入るのはかなり難しかったのだ。
緊張するだろう、私の兼ねてからの夢を叶えるための学校。これを逃せば、夢を叶えるどころか立ち直れるかも怪しい。
「嬢ちゃん、可愛いね。町娘として暮らせば幸せなのに、何で騎士なんぞ目指すんだい?」
そう聞いてきたのは右側に座っていた男性。
彼はニヤニヤしながら此方を見ている。多分だが、彼は他二人が見ていた手元の資料を手にとってすらいない。
直感が走った。私、この人苦手だ。
「わ、私は、昔帝国騎士の方に助けられまして、かの方のように国を守りたいと思い、騎士を目指しました」
その男性がいて助かった。苦手なヤツに弱いところを見せたくないという私の意地が緊張を押さえてくれた。
私の話が効果的だったのか、他二人はうんうんと頷いていた。
…あ、いま右側の男性が蹴られた。
「コホン、ではジールさん、次の質問です」
その後、いくつか質問に答えると、面接は終わった。
面接室から出ると、へなへなとその場に座り込んでしまった。
なんだこれ、筆記試験より大変じゃないか!
こうして、私は騎士学校の試験を合格という結果で乗り切った。