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弱虫勇者の日常  作者: ダメ人間
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弱虫勇者の日常3

彼女に同行することを申し出た。


川の潺の音を聞きながら、暫し休息していた時のことだった。


「貴方にはそのような義務ありませんよ?これは私の問題です。もし、これを手柄に朝廷から褒美を得ようと考えているのなら、おやめください」


彼女は少し申し訳なさそうに、そう言った。


「確かに手柄はほしいです。でも、貴女が世間に公表してほしくないと思っているのなら、僕はそうはしません」


彼女は不思議そうに小首を傾げて言う。

「ならば何故、貴方は私に協力するといって下さるのですか?」


勇は格好つけようと思った。これから命を懸けた戦いなのだ。

精一杯格好をつけよう。

「困っている女の子を置いてはいけないですよ」


 勝気そうな少し釣り目がちな瞳。

鼻の周りに残るそばかすが可愛らしい少女だった。


彼女は今目の前で少し不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。

「私を女だからと見くびって御出でで?」


勇は面倒くさいなと思いつつ、確かに良くない返答であったと反省した。

「いえ、そのようなことは。ただ、国内にオーガがいるというのは僕にも関係のある事。ぜひとも今回のオーガ狩り参加させていただきたいと思っております」


守はゆっくり頷き、右手を差し出してきた。

「昨今珍しい、戦士の気概を持つお方だと拝見いたしました。ならば、こちらこそお頼みいたします」

頷き、彼女の手を握った。


 勇たちは歩き始めた。勇が先頭に立ち、守が後ろ。

得物を叩き折られた彼女には、勇の短刀を貸していた。


武芸者として、得物を他人に貸すことは良くないことだが今は仕方ない。


二人は、狼の様に駆けた。

牙を研いだ、たった二人の群れ。

しかし、この森で現在最強なのは紛れもない彼らだった。


「オーガの足跡を辿って行きましょう。足が遅いから追い付けるはずです」


守が言う。

勇は頷いて、地面に目を凝らして疾走する。


オーガは足跡の事など気にしていないようだった。そんな知能等ないのだろう。


オーガどもは、川岸から離れて行っていた。倒木や、下草に阻まれながらもそれを乗り越え、進む。


「勇さんは、オーガを何体倒せますか?」

守の問いに、感情のまま答える。

「いるだけ、全てを」


オーガは、屈辱を味わわされた相手であり、永遠の仇敵だった。


「無茶な事をいいますね。先程もあれほど、息切れしていたではないですか」


守は少し苦笑しているようだった。

「舐めないでもらおう。あの程度、一瞬で方をつける」


勇はそう言って更に加速した。オーガは近い。

足跡がどんどん鮮明になってきている。


「生き残りのオーガは残り四体。二人で掛かればさほど苦戦はしないでしょう。早く倒してしまいましょう」

守はそう言って抜刀したようだった。ようだった、というのは短刀を鞘から出す音が聞こえたからである。勇は、まだ抜かない。


オーガの足跡が酷く蛇行するかのように、ネジ曲がり初めていた。

そこは落ち葉が豊富で、クッション状になっていた。足場が悪い。


彼らは、構わず走った。

勇は自分たちがハンターでオーガは羊であると思った。奴等に逃げる術などない。


一本の巨木を通り過ぎようとした時、側面から棍棒が降り下ろされた。

勇たちが通過するのを狙っていたようだった。


勇は咄嗟に、後ろに跳んで避けようとしたが、落ち葉に邪魔され、仰向けに転がった。


終わったと思った。取れる手段は両手をガードに回すしかない。それすら、間に合わない。

勇が今生との別れを済ませようとした間際に、守は短刀を投擲していた。


放たれた短刀は、オーガの首に突き刺さった。見事な投擲術だった。

その隙に起き上がり、抜刀する。オーガの心臓を貫いた。


「危ないところをどうも。助かりました」

勇は、オーガから短刀を引き抜きつつ、彼女に礼を言った。


「いえいえ、お互い様ですよ。それより、私たち油断しましたね」

彼女は顔をしかめて言った。


「私たちではなく、僕だよ。だって、先頭は僕だったからね」

勇は、少し自虐的に言った。

刀身を持ち守に短刀を差し出す。

「素晴らしい投擲術でした。本当に」


「気を付けて行こうか」

そうして、彼らはまた走り始めた。オーガを目指して。


彼らは疾走する。

風と同じくらい速く。

稲妻の如く。

勇は抜刀し、目の前の若木を斬り倒しながら進む。


「そんな、扱い方をして、刀は大丈夫なのですか?」

守は僕にそう心配そうに言ってきた。

無論大丈夫な訳がない。

しかし、早く追い詰めねばという、感情が彼の中で膨れ上がっていて、どうしようもなかったのだ。


そうしているうちに、目の前に三体のオーガが見えた。

必死に走っている。おそらく、先程のオーガが時間稼ぐ算段だったのだろう。


勇は、更に加速した。

守の事など頭から吹き飛んだ。勇はオーガを倒したいと思った。


彼はオーガの後ろから、斬りかかった。

初撃で、一頭は首をはねられて絶命した。


オーガたちは恐慌状態に陥った。慌てて、お互い違う方向に逃げ出そうとする。

勇は腰に下げた短刀を投擲しようとして、短刀がないことに気づいた。


仕方ないので、手近な方の一体の首をはねて、僕はもう一体を追った。

しかし、既に最後のオーガは息絶えていた。


「全く、速いですね。驚きましたよ。どれ程鍛練をお積みになられたのか、想像もできません」

そう言って朗らかに、肩の荷が降りたかのように笑っていた。


「終わりましたね」

そう勇が彼女に言うと、彼女は「はい!」と素敵な笑顔で返してくれた。


勇はオーガの血糊を拭き取り、鞘に納めた。

戦いは終わったのだ。


終わったのか?本当に?

勇は分からなかった。だから、少しだけ気を抜かなかった。

守は微笑んで今後のことを話し始める。


「私はこれから、叶野町まで報告にいくつもりです。もう何人か伝令は出したので、彼らと合流し国境警備隊に帰還しようと考えています」


そういう彼女はとても嬉しそうで、羨ましかった。

勇は頷いて、握手を求めた。

「お疲れさまでした。僕はこの後もここで修練を続けるつもりです。お元気で」


守は顔を曇らせた。どうしたのだろうか。

「共に行きましょう?貴方は今回の功労者ですもの。きっと幾らかは報奨金が貰えますよ」

「今回の事は公にはできないのでは?」

守は、ええ、と頷いてから


「確かに国民が全て知る所にはならないでしょう。オーガ共が国境線を超えて侵入したなど、国民が知れば恐慌状態になるでしょうから。しかし、国の治安を預かる人々は今回の事は知っておかねばなりません。その際に、貴方のことも報告することになりましょう。ならば、貴方にも褒美くらいはあるでしょうし、一緒に参りませんか?」


悪くない話だと思った。

いや、いい話だ。

確かに全ての汚名が晴れるわけでもないが、一部の人間だけであっても、勇の勇気が分かって貰えるかもしれない。


勇は頷いた。

「共に行きましょう。叶野町まで」

守は可愛らしい笑顔で頷いてくれた。

戦っている姿は凛々しいけれど、可愛らしい娘だなと勇は思った。


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