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四神伝奇 新春特別短編 楽有苦有  盤上の上の人生?

作者: ATK

 ええ、更新ストップしていて、申し訳ありません。

 というわけで、四神伝奇新春小説です。

 突貫工事の上、内容もほぼ自分の頭の中頼み、やりたいことやりたい放題のめちゃくちゃ内容ですが、楽しんでもらえたら幸いです。

東郷家を始め、この町の陰陽師家には、曰く付きの品が持ち込まれてくる。

人形等の小さい物から、家具等の大きな物まで、以前の持ち主が不遇な最後を遂げたとか、持ち主が次々と悲惨な死を遂げたとか。 そうした物品の徐霊、処分等も、この町では陰陽師の仕事なのである。

そして、誰もが新年を祝う正月の日に、阿鼻叫喚の地獄を作るのも、そんな曰くつきの品物である。


「で、これが今回の徐霊依頼の品なんだけど……」


 龍清が部屋へと持ってきたのは、平たい長方形の箱だ。

 その箱を開けてみると、出てきた中身は……


「双六よね?」


「双六だよな?」


「双六ですね」


「双六だね」


 龍清の手元の物を見て、西麗、潤、霜谷、小雪の四人が異口同音に答えるそれは、日本人の正月の定番の遊戯の一つに数えられる、双六に相違なかった。

 二折りに畳まれたマス目の描かれた盤、五つの人の形をした駒、そして賽子とあるが、勿論、ただの双六というわけではない。

 龍清がいうには、遊んだものに嬉しいやら、悲しいやら、恥ずかしいやらな事を齎すと言われている。

 なんでそんなものがここにあるかというと、除霊依頼で舞い込んできたこれを、例によって祖父、龍泉に押し付けられてしまったのである。


「あんたはまた……ちょっとは言い返す気概もないわけ? そんなんだからヘタレなんじゃない」


「うっ……」


「まあまあ、龍清君も大変なんだよ。龍清君もそんなに落ち込まないで」


 少し顔を暗くする龍清だったが、小雪の励ましで少し持ち直す。

 それに、この怪しい双六をどうにかしないといけないこともある。


「で、どうするんですかこれ?」


「ん~……一番手っ取り早いのは、この双六を実際にやって、どういう霊がついてるのか知ることができればだけど……」


「こんなあからさまに怪しいもんをやるの?」


 西麗の言わんとしてることが解るのか、龍清も気乗りしない様子で首を縦に振る。


「だよね。時間かかるけど、やっぱり普通の除霊方法で……」


 処理しようと思った矢先、龍清達に取って予想通りの人物が声を上げる。


「いいじゃん。せっかくだから全員でやってみようぜ!」


 潤の言葉に、西麗以外の三人は揃ってため息を吐く。

 そして真っ先に龍清が待ったをかける。


「いやいやいや、駄目だよ潤。何が起こるか解らないのに、最悪霊に憑かれる事だって……」


「こんな面白そうなのをスルーしろって無理だろ? 龍清だって大丈夫だと思ったからここに持ってきたんだろ? 出なきゃ俺たちの前に持ってこないもんな?」


「うっ、それは……」


 確かに持ってくるとき、軽く調べてみたが、それほど強い感じはしなかった。精々、やや強めの残留思念といった印象だった。

 なので多分、全員でやっても特別大きな害にはならないと思うが、龍清はなぜか、変な悪寒を感じずにはいられないのだ。


「でも……」


「まあこんだけ人がいることだし、何とかなるんじゃね? 三人寄れば文殊の知恵、赤信号みんなで渡れば怖くないっていうしな!」


「皆でも一人でも、赤信号は渡っちゃだめだよ……」


 結局、潤の勢いに押される形で、この双六をやることになってしまうのだった。











「ってことで、やるぞー!」


「「「「おぉ~……」」」」


 一人やる気満々な潤と違い、ほかの四人は「もうなるようになれ」といった雰囲気である。

 ちなみに五人によるくじ引きの結果、双六の賽子順は次のようになった。


 一番手:潤


 二番手:小雪


 三番手:龍清


 四番手:霜谷


 五番手:西麗


 というわけで、最初の賽子は潤が振るっている。


「というわけで一番手! おりゃ!」


 早速勢いよく振ったものの、数回転がって出た賽子の目は二だった。


「ちぇ、いまいちだったな。ま、いっか」


 そして駒を進めるが、ここで霜谷があることに気付く。


「そういえばこの双六、マス目に何も書いていませんね?」


「えっ? あっ……」


 言われてみると、この双六の盤のマスには、何も書かれていなかった。

 普通は最低でも「2マス進む」や「一回休み」と行ったことが書かれている筈なのに、この双六にはそういったものが書かれていないのだ。


「これって、そのままゴールまで進めていくだけ?」


「う~ん、でも、それじゃ龍清君の言ってたことは?」


 全員が首を傾げ始めた、その時……






 空から千円札が落ちてくる、2マス進む






「……今の、誰が言った?」


「あたしじゃないわよ?」


「僕でもないよ?」


 突然聞こえてきた謎の声、その直後、潤の前から何かがひらひらと落ちてくる。

 それを潤が掴み、見たとたんに歓喜の声を上げる。


「おっ、千円札! ラッキー♪」


「あっ、潤君の駒が」


 さらに小雪が指さしたほうを見ると、潤の駒が独りでに2マス動いたのだ。

 この様子に、4人は困惑を隠せない。


「どうなってんのこれ?」


「さっきの声が聞こえた事が、現実になるってこと?」


「まさか……次は小雪ですね」


「あっ、うん」


 半信半疑といった様子で、小雪が賽子を振り、出た目は三。

 そして駒を三つ先のマスに進めると……






 窃盗犯を捕まえ表彰される、1マス進む。






 その声と共に、小雪の手元には表彰が出現し、彼の駒もさっきと同様、独りでに一マス分進んだ。


「これって……」


「間違いないですね。さっきの声の内容が、実現するようですね」


「でも、これならそんな危険もなさそうじゃねえか。ほい、次は龍清だぞ」


「うん、でも何だろう。この背筋を駆け抜ける悪寒は……」


 嫌な予感を拭いきれないが、自分が振らなきゃ進まないので、賽子を振って出た目は四。


「おっ、俺たちと並んだじゃねえか」


「うーん、でも、なんか悪い目に当たりそうで……」


 そういいながら目的地の四マス目に到着すると……






 モデル事務所にスカウトされ、綺麗に着飾る。






「……えっ?」


 直後、龍清を謎の煙が包み込んだ。


「うわっ! ちょっ、何っ!?」


「りゅ、龍清君! だいじょ……」


 やがて煙が晴れると、そこにいたのは……


「けほっ! けほっ! な、何とか大丈……えっ?」


 綺麗なドレス衣装を身にまとい、女と見紛う格好になっている龍清の姿があった。


「えっ、えぇえええええっ!?!? 何この格好!?」


「お~お~、こりゃまた綺麗に化けたなあ」


「いつもながら龍清君、生まれてくる性別を間違えたんじゃないかと思いますよね。こういう格好してるのを見ると」


「幾度も見たことあるけど、何度見ても味わうこの敗北感は……」


「自分の容姿なんて気にしないけど、何この言いようのない気持ちは……」


 龍清の恰好を冷静に見渡す男子と表しようのない負のオーラをまとう女子、そしてそんな二組の反応に困惑と羞恥心を隠せない龍清。


「そ、それより早く進めよう! 早く終わらせよう!」


「……そうですね。次は僕ですね」


 霜谷が賽子振って出た目は五、マス目に到達すると聞こえてきたのは。






 世紀の大発見で世界の話題をさらう、六マス進む。






「おや?」


「「ず、ずるい……」」


 賽子の出目とマス目を合わせて十一マスも進んだ霜谷に、思わず潤と小雪が呟く。

 そんな二人とは裏腹に、早く終わってほしい龍清は催促する。


「さ、次は西麗だよ。さっさと終わらせよう、みんなと僕の精神衛生の為に!」


「……そうね、いつまでもその恰好見てたら、あたしの中で何か良くないものが芽生えそう」


 西麗が賽子を振って出た二の目の数進むが……






 道端で滑って転んで足を骨折する、一回休み






「ひぎゃー!?!?」


 突如足を抑えて転げ回る西麗。

 その様子に、残りの四人は戦慄を隠せない。


「わ、悪いことが起こるとああなるんですね……」


「りゅ、龍清君はまだましだったんだね……」


「これがマシ!? マシって言えるの!!?」


「よ、よ~し、これで一巡したな! じゃ、気を付けて行こう!」


「ねえ、スルー!? スルーなの! ねえ!?」


 その後も、五人は賽子を振るたびに、様々な出来事に見舞われるのだった。






 痴漢と間違われ、誤認逮捕される。一回休み






「えっ! 手錠!? ちょっ、これどうすりゃいいんだよ!!?」


「一回休みですから、終われば外れるんじゃないんですか?」






 風で帽子が飛ばされる。二マス戻る






「なんで部屋の中で風が起こるの~!!」


「双六始めたあたりから、この部屋全体が結界の所為で一種の隔絶空間になってるからね」


「そういうのは早く言いなさいよ! 痛っ! 痛たた……」






 女装コンテストで堂々の一位。四マス進む






「よかったじゃねえか。まともなマスに当たって」


「嬉しくなーい!!」(ひらひらドレス衣装)






 試験当日、体調を崩し志望校を落ちる、一回休み






「あらら……」


「なあ、別の意味でずるくないか?」


「うん、ずるいよ……」






 一回休み






「痛い痛い! ねえ、これいつまで続くの!?」


「次の西麗の順番までじゃないかな?」


「えっ? じゃあ俺も次の次まで手錠かよ!?」






 と、そんなこんなで進んでいく双六だが、現在、トップは潤と霜谷の二人なのだが……


「……なあ、これってどういうことだと思う?」


「何か別の条件があるってことでしょうか?」


 二人は他より大きめのマスから先へ進んでいない。否、進めないのだ。

 現在止まってるマス先、何故かゴールへの道筋がないのだ。


「仕方ないから、私たちも二人の所に早く行こうか。はい、次龍清君の……」


 賽子を渡そうと振り向いたら、そこには生気の抜けかけている龍清(セーラー服+ニーソ)がそこにいた。

 目などすでに死んだ魚のようになっており、何があったかはその恰好からうかがい知れる。


「ほら、あんたの番でしょ。うじうじしてないでさっさと振る!」


「うん……」


 もはやただ言われたことをやるだけの人形のように、龍清は賽子を手にして振る。

 出た目は三、そして駒がマス目に到着すると……






 自分の人生に悩み、思い切って性転換手術を受ける。






「もう嫌ーーーーー!!」






 龍清の叫びも空しく、煙に包まれ晴れた先には、衣装はそのままに髪が伸び、女性特有の膨らみを得た自分の姿がそこにあるのだった。

 そしてとうとう、龍清はその場に崩れ、泣き始めてしまう。


「ぐすん……どうして僕ばっかりこんな目に……」


 だが、それもその一時だけで、すぐに自分に向けられる不穏な視線に気づく。

 見上げてみると、そこには自分の胸元を両手で抑えながらこっちを睨む様に見てくる小雪と西麗がいた。


「龍清君は男、男の子の筈なのに……」


「自分の体つきなんてそんな気にしたことないけど……」


 ふるふると震え出す二人、そしてついに、西麗が爆発する。


「何で……何であんたはーーーーー!!」


「えっ!? ちょっと西……ひゃんっ!?」


 突然龍清へと飛びかかった西麗は、そのまま感情(怒り)の赴くままに龍清の豊かなふくらみを揉みにかかる。

 傍から見れば、女同士でヤヴァイ事してるように見えなくもないが、当の被害者としては、心中大荒れ模様である。


「普段ならまだいいわよ、ヘタレってイメージが強いから! でも女になって、しかもあたしたちより女らしいって、あたし達の立場どうなんのよー!!」


「んっ! ちょっ、やめっ! だ、誰か助けて!!」


 必死に助けを求めるが、潤は「眼福眼福」といった感じでにやけ顔でガン見し、小雪は顔を手で覆っているが、その隙間からこっちを覗き見ている。

 霜谷に至っては、何故か明後日の方を向いている。


「ちょっ! 見てないで助けてよ!!」


「いやー、いつかこういう日が来るんじゃないかと思ってたぜ。って霜谷、お前どこ見てんだ?」


「いえ、向こうに何か見え……」


 そういって霜谷が指さす方向に、何かが揺らめくように存在している。しかも半透明という、あからさまな見た目で。


「あの、あれがこの双六に憑りついてる霊という奴じゃ……」


「まじっ!? おぉおっ、見える! ついに俺にも霊感が開花したか!!?」


「いや、そんなわけないから。ってか西麗、いい加減やめて! このままだと除霊もできないから!」


「……ねえ、あの幽霊、なんかおかしくない?」


 言われてみれば、霊はこちらに気概を加えるでもなく、ただじっと見ている。

 しかも何やら、不健全な声まで聞こえてくる。


「……あの、まさかとは思いますが、龍清君のこれまでの出来事は、全部この霊の仕業って事は?」


「あー、なんかあり得そう」


 二人のそれは、何ら根拠のないものであったが、その一言に……


「へ~、そうか、やっぱり、そうなんだ……」


「へっ? ちょっと、龍清?」


 突然の雰囲気の変化に気づき、西麗も思わず彼の上から退く。


「おかしいと思ったんだよね。ほかのみんなは程よく関連性のないことなのに、なんで僕だけこんなピンポイントで当たるのかなあって……」


 肩を微弱に震わせ、セーラー服の懐から取り出し宙に放り出したは数枚の札。

 そして宙に舞い散ったそれは青白い光を灯し、徐々に大きくなっていく。


「あっ、やばっ!」


「まずいね……」


「皆さん、一斉に……」


「伏せろーーーーー!!」


「急々如律令!!」


 怒りに染まった龍清の一言と共に、呪符から青白い閃光が一気に幽霊の方に放たれるのだった。











 こうして、龍清の怒りの一撃で無事(?)に除霊は完了したのであった。


「なあ、別にあのままでもよかったんじゃね? 別に人に害があるわけでもなかったし、面白かったから来年あたりもう一度……」


「二度とやりません!!」


「クキュ~……」


 龍清の怒声が響く中、屋根の上であくびをする春清が、いたとか、いなかったとか……

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